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3章 歪みゆくリオン

85話 隠しきれない歪み

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 敵達の中心で演説していたのはエギルだった。
 つまり、今回メルキオール学園を襲った主犯はエギルということになる。
 どうしてマリオに続いて。いや、考えている場合じゃない。今ここにも敵は大勢いる。そいつらの人数を減らすところからだ。

 俺はエンドオブティアーズの剣を伸ばして斬りかかる。そしてシルクも合わせてくれた。
 おかげで、雑兵らしき人間のほとんどを一気に殺せた。これでエギルと向き合うことができる。
 いったいなぜ、人を癒やしたいと言っていたエギルが学園を襲撃などしたのか。俺は知りたい。

「エギル! なぜこんな事をした! いったい誰が喜ぶというんだ!」

「マリオ君を殺した裏切り者が、俺の名を呼ばないでください! お前さえいなければ、マリオ君は生きていられたんだ!」

 つまり、マリオが死んだから? だから、今みたいなことを? バカげている。何の意味があるというんだ。
 何をしたところで死人は喜びはしない。そうでなくとも、メルキオール学園を襲うことと、マリオの喜びに何の関係もない。

 俺がエギルの気を引いている間に、シルクとルミリエが敵を削っていってくれている。ありがたいことだ。
 やはり、いつも一緒にいるみんなとはうまく連携が取れるものだな。
 だから、俺は安心してエギルとの問答に向き合うことができる。

「クーデターを起こした時点で、あいつの運命は決まっていただろうよ! 民のことを顧みない王を、誰が支持するんだ!」

「そうやってマリオ君のことも否定したんですか!? マリオ君はお前を大切な友達だと何度も言っていたのに!」

 マリオが俺のことを。やはり、マリオ達と過ごした時間は楽しかったよな。
 クーデターなんて起きなければ、今でも楽しく過ごせていただろうに。だが、もうあの時間は戻っては来ない。
 エギルだって、もうおしまいだろう。ミナが居る限り、俺の勝敗に関係なくエギルは逃れられない。

 きっと原作での攻略対象だったマリオやエギルを死なせることになって、俺はどうしたらいいんだろうな。
 だが、もう後戻りはできない。今進んでいる道を、そのまま進み続けるしかないんだ。
 俺はディヴァリア達と共に生きる。もはや、原作を再現する道などどこにもない。

「友達だからといって、悪事を見逃せとでも!? そんなものは友情ではない!」

 ディヴァリアに対して何もできていない俺が言うと、滑稽こっけいだな。
 それでも、今の言葉を訂正するつもりはない。マリオは手段を間違えたんだ。
 俺に相談でもしてくれれば、もっと別の道もあったかもしれないのに。
 結局、エギルも道を誤ることになったのだから。マリオの罪は重い。

「だったらマリオ君を殺すのが友情だったとでも言うんですか!? もう許しはしない! 顕著あらわせ――ディナイオブドゥーム!」

 エギルの右手の先に短い杖が現れる。間違いなくエギルの心奏具だ。
 そのまま杖はこちらへ向けられ、刃のようなものが放たれた。エンドオブティアーズの盾で受けると、強い衝撃が襲いかかってくる。
 間違いなく、直接食らったら危険だな。さて、どうしたものか。

 エギルはどの程度の数の刃を放てるのだろうか。その情報が知りたいな。
 とりあえず、盾を構えたまま攻撃するか。シルクに刃を打たれたら困るから、こちらに意識を向けさせたい。

「許しなど必要ない! 俺は俺の道を進むだけだ! エギル、お前を殺してでも!」

「そうやって切り捨てるんですか!? お前にとって、友達はその程度のものなのか!? 人間のクズが! さっさと死んでください!」

 エギルからは勢いよく複数の刃が飛んでくる。いくつかに剣をぶつけてみたが、衝撃で消えていった。
 残りを盾で受けるが、やはり重い。とはいえ、ソニアさんの剣ほどではない。これなら、どうにかできそうだ。

 それにしても、全部俺の方に向けてきているな。避けにくいようにとか、考えていないのだろうか。
 まあ、エギルは癒やしの力ばかりを使っていたのは分かる。だから、戦闘に慣れていないのだろう。
 今この状況ではありがたいな。敵の経験が浅いのなら、簡単に倒せるのだから。

 とはいえ、エギルは原作の攻略対象なのだろう。それにしては弱いな。マリオもだ。
 やはり、サクラと共にイベントをこなしていないからだろうか。やはり、サクラを俺が奪ったことが大きいのだろうな。
 まあ、マリオもエギルも、キュアンも、サクラの名前すら知らないのかもしれないが。

 まあいい。いまは目の前のエギルだ。周りの敵はシルクとルミリエが片付けてくれているので、俺はエギルにだけ集中すればいい。
 気をつけなければならないことは、シルクが巻き込まれないようにすることだけだ。

「どうした? その程度の攻撃で俺を殺せるつもりか? 戦いを知らないお前には、荷が重かったか?」

「お前にとって他人など道具でしかないんだな。よく分かったよ、リオン!」

 何を言っているのだろうか。ミナもシルクもルミリエも、役に立たなかったとしても何の問題もない。
 ただ一緒にいるだけで、幸せを実感できる相手なのだから。そんな人を道具だなんて思うわけがないだろう。
 まあ、いまさらだ。エギルになんと思われていようが、これからの関係など存在しないのだから。

 悲しいが、お前を殺すよ。いつかお前が俺を癒やしてくれた時は嬉しかった。だが、おしまいだな。
 罪のない人間を殺していくのなら、止めるしかない。そもそも、いま助けたところで、どうせ死ぬのだから。
 せめて楽に死なせてやるよ。最後の手向けとしてな。

「なら、どうする? 俺を殺すか? やってみろよ、エギル!」

 そして、俺のことだけに集中していてくれ。シルクが傷つかないのならば、どうだっていい。
 今のエギルに、俺に勝つだけの動きができるとは思えないからな。
 さっさと殺そう。もういまさらなんだ。マリオは俺が殺したんだから。
 エギルだって、同じところに送ってやるよ。マリオが大切なんだろう? だから、きっと幸せだろうさ。

「リオン、お前という怪物は、ここで討つ! 友達だろうが平気で殺せる人間に、未来はつかませません!」

 怪物だなどと、大層な物言いだ。ディヴァリアならともかく、俺がか? 笑えるな。
 まあいい。エギルは俺にだけ目を向けている。だから、楽なものだ。攻撃を回避する選択だけしなければ、シルクを巻き込まずに済む。

 エギルの放ってくる刃を盾で防ぎ、剣で打ち消し、だんだんとエギルの方へと向かっていく。
 俺が近寄っていくと、徐々に顔に怯えを浮かばせ始めた。

「どうした? さっきまでの威勢はそれで終わりか? 大したものだな、お前の友情とやらは」

「ふざけるな! それが友達だった相手に対する態度か!? 人の心を持たない化け物め!」

「それで、怪物退治と意気込んで負ける気分はどうだ? 今なら逃げてもいいぞ?」

 当然、逃がすつもりなんてない。シルクは結界を準備してくれている。それは見なくても分かるからな。
 エギルが逃げようとしたのなら、シルクの結界にはばまれて終わりだ。

「逃げるものか! せめてお前だけは死ね! マリオ君の仇!」

 そしてエギルは俺に向けて全力で攻撃する。
 だが、もう慣れた。飛んでくる刃には簡単に対処できる。
 そのままエギルの方へと近寄っていくと、エギルは足をもつれさせながら逃げようとする。
 だが、シルクが結界でエギルの逃走を妨害してくれた。

「じゃあな、エギル。お前と過ごした時間は、確かに楽しかったよ」

「嫌だ、まだ、俺は誰にも認められていないのに……」

 エギルは悲痛そうな声でポツリともらす。
 だったら、お前の取った手段は大間違いだったよ。

 後は簡単だ。腰を抜かしながら必死で下がろうとするエギルに向けて、剣を振る。
 そして、エギルの首は転がっていった。
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