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4章 フェイトオブデッドエンド

111話 願いと約束

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 今日はディヴァリアと一緒に過ごすことにする。相変わらず俺の家だ。
 帝国との戦争で死んでしまえば会えないし、ディヴァリアごと世界も滅ぶ。
 そう考えると、急に顔を見たくなったんだ。もう、限られた時間かもしれないからな。

 相変わらずキレイな銀髪に、澄み切った青い瞳。穏やかな微笑みも合わせると、本当に聖女に見える。
 この顔も、しっかりと目に焼き付けておかないとな。俺には時間がないのだから。
 もちろん、生き延びるつもりではある。そのために準備もしている。だとしても、不安は消えない。
 本当にみんなを助けられるのだろうか。弱い俺が。そんな心に押しつぶされそうな瞬間もある。

「リオン、不安そうな顔してるけど、大丈夫?」

 死ぬかもしれないと、言うべきなのだろうか。
 お前が死ぬ未来が恐ろしいと、伝えるべきなのだろうか。
 ディヴァリアは優しく手を握ってくれるけど、どうしても遠く感じる。
 手のぬくもりを感じている。吐息すらも聞こえてきそうなほど近くにいる。
 それなのに、星々に手を伸ばしているかのような気分になるんだ。

「どうだろうな。ディヴァリアの顔が急に見たくなったんだ」

「ふふっ、私を選んでくれて嬉しいな。リオン、ずっと一緒にいるからね」

 今だけはということだろうか。これからもということだろうか。
 問いかけることが恐ろしい。意気地なしだと自分でも笑える。
 それでも、ディヴァリアの心に触れることを恐れている。
 どこまで俺との時間を大切に思ってくれているのだろうか。本当は演技なのだろうか。
 そう考えただけで、震えそうになってしまうほど。

 情けない限りだが、自分で自分を制御できない。
 ディヴァリアの死ぬ姿を見たからだろうか。俺が死ぬことを恐れているからだろうか。
 自分の心に向き合うべきだと分かっていても、答えを知るのが怖い。
 俺の弱さの根源が、今の感情のどこかにあるような気がするから。

「ありがとう。ディヴァリアがそばに居ると、安心できるよ」

「いいね、2人だけの時間も。サクラやミナ達、ノエル達だって一緒にいるのは楽しいけどね」

「ああ、そうだな。俺だってお前と居るのは楽しいよ。もちろん、他のみんなとも」

「ふふっ、リオンはみんな大好きだもんね。でも、今日は私と一緒だから」

 ディヴァリアと2人きりだと、とても緊張する。
 きっと、恐怖がどこかにあるのだろう。あくまで外道であるディヴァリアだから、何を考えているか分からないという。
 それでも、俺を大切にしてくれているのだと信じたい。大切な幼馴染なんだ。ずっと一緒にいて、絆を紡いできたはずなんだ。

 俺だって、ディヴァリアの心の中心にいるのだと思いたいんだ。
 子供の頃から、ずっと隣にいた相手として。俺との時間を楽しいと思っていてほしい。
 ディヴァリアが幸せを感じてくれているのならば、暴走の可能性は減るのだと信じているから。
 俺がいないから世界を滅ぼしてもいいという考えが、本音なのだと信じたいから。

「ああ。2人きりというのは、緊張するな。今までずっと一緒だったはずなのに、おかしいよな」

「ふふっ、私だってドキドキしてるよ。確かめてみる?」

 どうやって確かめるというのだろうか。茶目っ気にあふれる表情はとても可愛らしいものだが、心が読めない。
 相変わらず、ディヴァリアの表情や言葉からは本心が見えてこないな。
 確かに心はあるはずなのに、どうしても手が届かない。何をすれば触れられるというのだろう。
 俺がずっと追い求めているものなんだ。ディヴァリアの心が解れば、大抵の問題は解決するはずだから。

 俺はずっとそばに居ながら、幼馴染の本心に届いていない。
 本当に情けない限りだ。ずっと導こうとしてきた相手の心を知らないままなんてな。
 ディヴァリアの幸せだって、俺にとっては大切なもののはずなのにな。
 相手の本音を知らないままで、どうやってたどり着くつもりだったのだろうか。

「ディヴァリア、俺をからかっているのか?」

「そうかもね。別に、心臓の音を聞いてもいいよ。リオンならね。私が生きているって証だから」

 何も伝えていないのに、俺の心は知られているのだろうか。
 それとも、不安を感じている相手への定番の回答としてだろうか。
 どちらにせよ、ディヴァリアの心音なんて聞こうとすれば、胸に触れてしまう。
 それを許す相手なのだろうか。いくら幼馴染とはいえ、セクハラと思われないだろうか。
 きっと、ディヴァリアの生を確かめれば安心できるのは事実なのだろうが。

 つい、ディヴァリアの胸元に視線が引き寄せられてしまう。
 自分でも自覚できるくらいに露骨に見ている。大丈夫だろうか。嫌われやしないだろうか。
 もう自分がよく分からなくなってきた。何がしたいのか、何を求めているのか。
 ディヴァリアに生きていてほしいこと、大切な存在であること、道を誤らないでいてほしいこと。
 みんな本音のはずなのだが、もっと大切なことがあるような気がする。

「大丈夫だ。俺は確かに不安だが、ディヴァリアに嫌な思いをさせてまで元気になりたくない」

「それなら、心配しなくてもいいのに。リオンなら、私に何をしてもいいよ」

 だからといって、殺そうとしたら許さないよな?
 いや、死んでほしい訳ではないのだが。ディヴァリアの許すラインがどこなのか分からない。
 なんとなく、性欲のような感情を向けそうになっている俺がいる。
 ディヴァリアは誰がどう見ても美人だろうから、ある意味では当然のことなのだが。
 それでも、相手が相手だからな。簡単に変な感情を向けられない。

 いや、抵抗しない相手なら良いわけではないか。
 ノエルやサクラ、ミナ達や他のみんなだって、性欲を向けていい相手とは思えない。
 誰もが俺よりも素晴らしい人達なんだ。本来は俺なんかが触れていい相手じゃないんだ。
 分かっていても、親しい人のそばに居たくなってしまう。
 ディヴァリア達がそばに居てくれる喜びを、もっと味わいたくなってしまう。

「何をしてもって、何でもか……?」

 俺は何を口走っているんだ。もっと冷静になれ。
 いくらディヴァリアが魅力的だからといって、相手は外道だぞ。
 それに、相手を不快にさせる言葉だろう。親しき仲にも礼儀ありだぞ。

「ふふっ、私のどこに触れたいとか、ある? リオンなら、別にいいんだよ?」

 ディヴァリアは可愛らしく小首をかしげている。
 なにかの罠か? あるいはテストのたぐいか? まさかとは思うが、本音か?
 どう考えても俺の頭はゆだっている。ディヴァリアの魅力に負けそうになっている。
 それを見抜かれているのか? だとして、何のために今のセリフを?

「なら、手を握ってくれないか……?」

 意識もしていないところから、勝手に言葉が出てきた。
 手を握ってほしいって、どれだけ俺は不安だったのだろうか。
 その不安の根源は何だ? やはり、絶望の未来か?

「もちろん良いよ。もう片方の手もってことだよね。私の手、あったかいでしょ」

 確かに、繋がれたディヴァリアの手のひらからは、ぬくもりが伝わってくる。
 それにしても、もう手を握られていたことを完全に忘れていたな。
 ディヴァリアの手は小さくて、いかにも女の子って感じだ。
 この小さな手のひらの上に、俺も乗っているのかもしれない。
 それでも、そうだとしても、ずっとディヴァリアのそばにいたい。間違いなく俺の本音なんだ。

「ああ、暖かいな。ずっと、こうしていたいくらいだ」

「ふふっ、私も。ねえ、リオン。これからも、また今みたいな時間を作ろうね。約束だよ」

「ああ、約束だ」

 この約束を守るためにも、絶対に生きのびなければならない。
 俺はいつまで、ディヴァリアの隣にいられるのだろうか。
 分からない。それでも、せめて少しでも長く、今みたいな時間が続くように。心から願っていた。
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