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6章 聖女ディヴァリアと勇者リオン

175話 信頼の距離

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 使用人とディヴァリアとの関係も、ある程度は大事になってくる。
 ということで、フェミルとも仲良くしたいと言われた。
 納得できる話ではある。俺が結婚しても、使用人は雇い続けるつもりだから。
 ディヴァリアから関係を作りたいと言うのだから、大丈夫だろう。
 人と仲良くすることに関しては、とても得意な人間と言えるから。

「聖女様は、もともとリオンの家の使用人を決めることにも関わったのよね? つまり、アインソフ家とは親しかったの?」

「そうだね。子供の頃に、私とリオンを紹介し合う関係ではあったかな」

 完全に幼馴染だものな。それにしても、完全に外堀を埋められていたんじゃないか?
 俺の使用人の選定に関わるとか、それこそ結婚相手でもなければおかしいだろう。
 父さんも母さんも、ディヴァリアと俺が結ばれるようなことは言っていた。
 冗談だと考えていたが、本気で結婚に向けて進んでいたのかもしれないな。

「人の家の使用人を選べるとか、とんでもない関係だよな。流していた俺はどうにかしていたぞ」

「リオンって、なんというか鈍いものね。ちょっと心配になるくらいよ。支えてあげたくなる感じよね」

「決めるべきところでは決めてくれるから、余計にね。フェミルが支えてくれるなら、少しは安心できるかな」

 否定はできない。ディヴァリアが悪意を持っていたら、俺は終わっていたんだから。
 信じているといえば聞こえは良いが、ちょっと問題があるよな。
 違和感に気づけるようにならないと、妙な策に引っかかりかねない。
 ディヴァリアにも多少は頼るだろうが、自分の能力も高めないとな。

「ディヴァリアにも色々と迷惑をかけた気がするからな。申し訳ないよ」

「気にしなくて良いよ。それ以上に、たくさん助けてもらったから」

「そうね。私だって、エリスと私の命を助けてもらったんだから。迷惑をかけるくらいでちょうど良いわ」

「ありがとう。迷惑をかけることもあるだろうが、よろしく頼む」

「リオンが言っていたことでしょ? 友達ってのはお互いに迷惑をかけあうものだって」

 よくあるセリフだという印象だし、確かに言っていてもおかしくはない。
 正しい内容でもある。ある程度親しい相手に迷惑をかけないなんて不可能だ。
 それに、多少の嫌なことは許せてこその友達だからな。
 免罪符にするつもりはないが、極端に相手への迷惑を忌避するべきでもない。
 結局のところ、別の形で余計に迷惑をかけて終わりだろうからな。

「そうだな。限度こそあるだろうが、親しいなら当たり前だよな」

「ええ。友達ではなくて使用人だけど、私も同じよ」

「そうだね。私だってフェミルだって、リオンに迷惑をかけることもあるよ」

「確かにね。人生を預け合うんだから、当然のことよ」

 いずれはフェミルとも結婚をするわけだからな。完璧を目指しては、絶対に破綻する。
 配慮を忘れるつもりはないが、ある程度は諦めるべきだよな。
 俺だって、ディヴァリアやフェミルに多少の問題があったところで、受け入れるんだから。

「そうだな。それに、そもそも全く迷惑をかけないなんて、できないものな」

「ええ。リオンが私を雑に扱わないってことは分かるわ。だから、大丈夫よ」

「うん。お互いを尊重できる関係に、きっとなれるよ」

 ディヴァリアから出てくる言葉とは思えない。
 どちらかというと、上から支配を押し付ける人間だったからな。
 原作と比べても、昔と比べても、ぜんぜん違う人になったよな。
 俺としては嬉しいから、良い変化だと思って良いはずだ。

「フェミルとディヴァリアも、俺から見ればうまくやっていけそうだな」

「リオンが選んだ相手なんだから、当然よ。あなたの使用人なのよ?」

「私は、リオンを大事にしてくれる相手とは仲良くできるよ」

「リオンが基準なのね。でも、だからこそ仲良くできそうだわ。大切なものは同じだから」

「そうだね。フェミルは、少なくともわざとリオンを傷つけたりはしない。そう信じられるから」

「嬉しいわ。私の本心が伝わっているようで。リオンになら、すべてを捧げられるのよ。私はね」

 以前も似たようなことを言っていたな。
 確か、俺になら殺されても良いとまで思っているとまで言われた。
 そんな相手を軽く扱いはしないよな。ありがたいことだ。
 いくら命の恩人だからって、簡単にすべてを捧げられはしない。
 恩を仇で返すような人間だって、珍しくはない。

 だからこそ、救った相手がフェミルで良かったと思える。
 俺を大切にしてくれて、俺にとっても大事な相手で。
 間違いなく、命をかけるだけの価値はある人だった。
 帝国との戦争なんかで死ぬべき存在じゃなかった。

 フェミルはディヴァリアが仕向けた戦争での被害者なんだよな。
 今が幸せそうだから、大丈夫だとは思うが。
 故郷に大切な人が居たりはしなかったのだろうか。
 結局は、自作自演のようなものでしか無いのだろうか。

 とはいえ、真実を明かしても誰も得をしない。
 秘密を抱える苦しさはあるが、耐えるべきことだろう。
 フェミルがディヴァリアに敵対すれば、エリスごと死んでしまいかねないのだから。

「ありがとう。でも、フェミル自身の幸せだって大事なことなんだからな」

「ええ。そんなリオンだからこそ、大切に思っているのよ。私とエリスを本気で心配してくれる人間は、リオンだけなんだから」

「リオンは優しいよね。恋人としては、少しだけ思うところもあるけれど」

「そうよね。女ばかりと仲良くして。でも、性欲に支配されてってわけじゃないからね」

「うん。仮にフェミルの言うような人だったら、好きにはならなかったよ」

「使用人なんて、手を出すのにちょうど良い相手なのにね。でも、何もしない人だから」

 当時から、ディヴァリアのことが頭の片隅にあったのだろうな。
 想い人がいる状態で、他の女に手を出すことが嫌だったんだと思う。
 俺は聖人君子ではないから、性欲だって感じていたのだし。
 ノエルもユリアもフェミルも、みんな綺麗だったり可愛かったりするからな。
 よく我慢できたものだ。自分で自分を褒めたいくらいだ。

「結構頑張って我慢していたんだぞ。ユリアとノエルは特に押しが強かったからな」

「大好きだって、全身から表現していたものね。私が男なら、間違いなく手を出していたわ」

「一緒にお風呂に入っているんだよね。それでも何もしないなんて、すごいよね」

「リオンのお父様から聞いたの? あれは、大変だったわよね」

「ユリアやノエルは裸でも平気で抱きついてくるから、結局フェミルにばかり頼んでしまったな」

「ああ、やりそうだよね。話を聞いていると、よく我慢できたなって思うよ」

「そうよね。他の男だったら、絶対3人とも抱かれていたはずよ」

 流石に全員に手を出したりはしないんじゃなかろうか。
 それでも、ノエルとユリアの誘惑は危険だった。ディヴァリアの前で言うことでもない気はするが。

「フェミルも大変だったよね。1人だけ選ばれると、ちょっとしんどいからね」

「リオンには細かい機微はわからないものね。でも、結婚してからは聖女様も居るわけだから」

「私と一緒に、お風呂に入ろうね。リオン。ユリアやノエルも、混ぜてあげてもいいけどね」

「聖女様は寛大だわ。私なら、嫉妬してしまいそうだもの」

「仕方のないことだからね。使用人は、絶対に必要なものだから。立場上、理解はしているよ」

 一緒に風呂に入ることまで必要だったのか……?
 いや、分かっている。身の回りのことをさせて、仕事を生み出すのも大事なことだと。
 だからこそ、ユリア達の行動を受け入れようとしていたのだから。

「これからは、ディヴァリアを優先していくつもりだ」

「ありがとう。だけど、大丈夫だよ。ノエル達を使用人に勧めたのは、私だから」

「だけど、聖女様を一番に愛するのは大事よね。第一夫人なんだから」

「そうだね。でも、リオンはちゃんとやってくれるから。周りとの関係も、大事にしてほしいんだ」

「なら、私もよね。聖女様に好きになってもらえるように、頑張るわ」

「私もだよ。リオンの大切な人を、同じように大切にできるように。だから、リオンも私を大切にしてね?」
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