転生令嬢は覆面ズをゆく

唄宮 和泉

文字の大きさ
上 下
13 / 185
第二章 ギルド要請冒険者

#11 キングの出現

しおりを挟む
「お待たせしました」
「いや、そこまで待っていない」
 ギルドの前で立つユースはとても目立っていた。顔を隠している方が目立つとはいかがなものだろうか。
「それじゃあ、早速ウルフ狩りにいきましょう」
 ギルドに入り、掲示板の前に立つ。ウルフ狩りの張り紙はすぐそこにあった。
 背伸びをし、手を精一杯伸ばすが、届かない。すると後ろから手が伸びてきて、張り紙をとった。
「……届きましたよ?……頑張れば」
「……諦めろ」
 負け惜しみで呟くフェーリエに、ユースは冷たい言葉を放つ。
 言い返そうと口を開きかけたとき、ギルドにアンジェリカの声が響いた。
「なんですって!!??キングが現れた!?」
 『キングが現れた』その言葉に、朝にもかかわらず酒場にいる飲んだくれ、フェーリエ達と同じように張り紙を眺めるヒト、今まさにクエストを受注しようとカウンターに向かっていたヒト、それぞれが驚愕の声を発した。
「なんだって?」「キングが?」「嘘だろ?」
 フェーリエは、アンジェリカに歩み寄る。アンジェリカは苦虫をかみつぶしたような顔をしていた。
「アンジェリカ!どういうこと?」
「ルナ……ユースさん。それが……」
「ホントにキングがいたんだ!!俺は、この目で、ちゃんと見たんだよ!」
 それは、農家のおじさんだった。納品のために、王都に来たところ、一般的な家よりも大きな体躯をしたウルフ型の魔物が街道をうろついていたらしい。見つからないように脇をよけてきたらしいが、まわりには多くのウルフがいたという。
「……家より大きい、それにウルフの群れ……キングの特徴ね」
 フェーリエの言葉に、アンジェリカは頷く。
 キングとは、その地域に多く生息する魔物の上位存在だ。王都周辺はウルフ型が多く、故に現れるならばウルフキングだろうと言われていた。そう、言われていたのだ。
「王都まわりにキングが現れたなんて今までに無い事よ。キングが現れないからこそ、王都は安全といわれてきたのに……」
 アンジェリカは口を噛む。打つ手がない状態なのだ。キングは、基準の魔物より2ランク高いと言われる。ウルフはEランク。つまり、Cランクだ。
「今、Dランク以上の冒険者は皆未開拓の森に居るの」
「なんてタイミングの悪い……」
 未開拓の森は資源が多い。それを開拓しようと国がクエストを発行した。皆こぞってそのクエストに取り組んでいると言うことらしい。
「おしまいだぁ。キングが王都に来たら簡単に殺されちまうぅ」
 キングをその目で見た農夫は、頭を抱え地面に座りこんだ。
「……剣士さん」
「分かってる」
 フェーリエの呼びかけに、剣士は素早く答える。それを聞いて、フェーリエは剣士から渡されたクエスト受注書をアンジェリカに渡す。
「これ、受注しといて。キングを倒すついでに小物も倒してくるから」
「え!ルナ!?」
 アンジェリカに背を向け、王都の門を目指す。
「キングなんて、師匠に比べたら怖くない!」
「……どんな師匠なんだ……」
 フェーリエの叫びに、ユースは呆れた声をこぼした。
しおりを挟む

処理中です...