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第七章 火竜討伐
#167 遠い背中
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「何をしている!早く止めを刺せ!!」
火竜の動きを止められたことに安堵していたフェーリエは、強い叱責に身体を跳ねさせた。
振り返すと、そこには耳を押さえたままのメディオが立っていた。片目を瞑ったままの様子から、目が眩んでいるようだ。
(そうよね。こいつが私の助言を聞くわけないものね)
諦めと共に納得する。態度の一貫したメディオに感心すら覚えるものだ。
防御策をとらなかったにも関わらずこうして立っている分、他の騎士とは鍛え方が違うのだなとも思う。
「聞こえないのか!!くそっ!耳が聞こえん!!」
「え?聞こえないの?バーカバーカ」
聞こえないことに悔しがっているメディオに、試しに呟いてみる。
メディオは眉を寄せた不機嫌な顔で此方を睨んできた。本当に聞こえていないようだ。
「流石にそれは馬鹿にしすぎでは?」
「クロー、浄化は終わりましたか?」
「ええ。正確には、後もう少しで終わります。一々浄化するのが面倒だったので私の魔力を辺りに充満させました。これで、邪気を取り込んで正常にしてくれる筈です」
「魔力にそんな性質が?」
さらりと言ったクローだが、そんな話は聞いたことが無かった。かなり珍しいことなのではないだろうか。
「おっと……これ以上は言えません。貴女なら、分かって下さるでしょう?」
「あはは……まぁ、そうですね」
フェーリエが思ったとおり、あまり知られてはいけない情報だったようだ。
喚き続ける声が大きくなり始めたところで、フェーリエはクローとの軽いやり取りを切り上げた。
「これ以上この場を賑やかにして貰うのも何ですし、耳を治してあげましょうか」
当の本人に聞こえていないのに、皮肉たっぷりな言葉を呟いたクローはメディオにすっと指を向けた。
白い光が弾けた後メディオは喚くのを辞めた。
「……?耳が、聞こえる……」
突然聴力が戻ったことに驚いた様だ。このまま静かになってくれたら嬉しかったのだが、そうならないのがこの男。
「……おい!何故火竜に止めを刺さない!!」
「……」
フェーリエの心情としては、聴力戻ってもこれかよ、だった。勿論口には出さなかったが、いい加減この男を気絶でもさせたい。
「何を黙っている!!答えろ!!冒険者風情が、騎士団に刃向かうつもりか!!」
怒りが頂点に達したのか、メディオはフェーリエに向けて剣を引き抜いた。剣を振り下ろすようなら、正当防衛で気絶させてしまおうと思ったフェーリエの目の前に、ユースが立ちふさがった。
「貴様も邪魔をするのか!!冒険者はどいつもこいつも思慮に欠ける。同じ種族だと思いたくも無い!!」
「冒険者で無ければ、その振る舞いを辞めるのか?」
「は?」
ユースの静かな問いかけに、メディオは動きを止めた。
フェーリエも、ユースの意図が読めずその背中を伺う。
「もう一度問う。冒険者で無ければ、貴殿より身分が上であれば、その振る舞いを辞めるのか?」
「……勿論、身分が上の者には跪くさ。だが、お前のような冒険者には死んでもそうしない」
清々しいほどの階級を愛する目の前の男に、ユースは仮面に手を添えながら小さく笑った。
「そうか。ならば跪いて貰おう」
そう言ったユースはいつもつけている銀の仮面を外し、その素顔を晒した。
初めは怪訝そうな目で見ていたメディオも、その顔を思い出し目を見開いていた。
「俺はウァリエタース王国第三王子、ユスティア=ルプス=ウァリエタースだ。さぁどうする?跪くか?」
王族らしい威圧感でもって、その場を制したユスティアの背中は酷く遠く、別人の物の様に感じられた。
火竜の動きを止められたことに安堵していたフェーリエは、強い叱責に身体を跳ねさせた。
振り返すと、そこには耳を押さえたままのメディオが立っていた。片目を瞑ったままの様子から、目が眩んでいるようだ。
(そうよね。こいつが私の助言を聞くわけないものね)
諦めと共に納得する。態度の一貫したメディオに感心すら覚えるものだ。
防御策をとらなかったにも関わらずこうして立っている分、他の騎士とは鍛え方が違うのだなとも思う。
「聞こえないのか!!くそっ!耳が聞こえん!!」
「え?聞こえないの?バーカバーカ」
聞こえないことに悔しがっているメディオに、試しに呟いてみる。
メディオは眉を寄せた不機嫌な顔で此方を睨んできた。本当に聞こえていないようだ。
「流石にそれは馬鹿にしすぎでは?」
「クロー、浄化は終わりましたか?」
「ええ。正確には、後もう少しで終わります。一々浄化するのが面倒だったので私の魔力を辺りに充満させました。これで、邪気を取り込んで正常にしてくれる筈です」
「魔力にそんな性質が?」
さらりと言ったクローだが、そんな話は聞いたことが無かった。かなり珍しいことなのではないだろうか。
「おっと……これ以上は言えません。貴女なら、分かって下さるでしょう?」
「あはは……まぁ、そうですね」
フェーリエが思ったとおり、あまり知られてはいけない情報だったようだ。
喚き続ける声が大きくなり始めたところで、フェーリエはクローとの軽いやり取りを切り上げた。
「これ以上この場を賑やかにして貰うのも何ですし、耳を治してあげましょうか」
当の本人に聞こえていないのに、皮肉たっぷりな言葉を呟いたクローはメディオにすっと指を向けた。
白い光が弾けた後メディオは喚くのを辞めた。
「……?耳が、聞こえる……」
突然聴力が戻ったことに驚いた様だ。このまま静かになってくれたら嬉しかったのだが、そうならないのがこの男。
「……おい!何故火竜に止めを刺さない!!」
「……」
フェーリエの心情としては、聴力戻ってもこれかよ、だった。勿論口には出さなかったが、いい加減この男を気絶でもさせたい。
「何を黙っている!!答えろ!!冒険者風情が、騎士団に刃向かうつもりか!!」
怒りが頂点に達したのか、メディオはフェーリエに向けて剣を引き抜いた。剣を振り下ろすようなら、正当防衛で気絶させてしまおうと思ったフェーリエの目の前に、ユースが立ちふさがった。
「貴様も邪魔をするのか!!冒険者はどいつもこいつも思慮に欠ける。同じ種族だと思いたくも無い!!」
「冒険者で無ければ、その振る舞いを辞めるのか?」
「は?」
ユースの静かな問いかけに、メディオは動きを止めた。
フェーリエも、ユースの意図が読めずその背中を伺う。
「もう一度問う。冒険者で無ければ、貴殿より身分が上であれば、その振る舞いを辞めるのか?」
「……勿論、身分が上の者には跪くさ。だが、お前のような冒険者には死んでもそうしない」
清々しいほどの階級を愛する目の前の男に、ユースは仮面に手を添えながら小さく笑った。
「そうか。ならば跪いて貰おう」
そう言ったユースはいつもつけている銀の仮面を外し、その素顔を晒した。
初めは怪訝そうな目で見ていたメディオも、その顔を思い出し目を見開いていた。
「俺はウァリエタース王国第三王子、ユスティア=ルプス=ウァリエタースだ。さぁどうする?跪くか?」
王族らしい威圧感でもって、その場を制したユスティアの背中は酷く遠く、別人の物の様に感じられた。
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