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2 近江花音は小学生

4.ママの色(4)

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 ステージから2人がいなくなっても、しばらく動けなかった。

 キラキラとしたステージ。

 今までに観たバレエやピアノのステージよりも、ずっとずっとキラキラしていた。

「あなた」

 彼女が私に声をかけたのは、そんなとき。

 ステージを見終わった人たちが、一斉に動き出してたくさんの人が行き交う中で、彼女は私を見つけた。

 ベレー帽にサングラスをかけたその人は、顔がほとんど隠されていたけれど、綺麗な人だと思った。

 キラキラしていた。

「歌とか踊りとか、モデルとか。そういうのに興味ない?」

 その言葉の示す意味が、よくわからなかった。

「……もしかして、原田海ちゃん?」

 ママの言葉に、彼女はしーっと人差し指を唇にあてた。

「今はこういう仕事をしています。新設したばかりでタレントも少ないですが」

 そう言って、ママに名刺を渡す。

「もしあなたが、さっきの子たちみたいに、ステージで歌ったり踊ったりすることに興味があるなら、ぜひウチに来て。待ってるから」

 ――あの子たちみたいに。

 ステージの上で、キラキラしていたあの子たちのように、私もなれる?

 声楽やバレエは習っているけど、ステージで発表もするけど、私はあの子たちみたいにキラキラできていない。

 もしも私もキラキラできるなら、やってみたい。

*****

 小学生生活最後の夏休みに、彼女が私を見つけてくれた。

 灰色だった、私の世界。

 彼女が私を見つけてくれて、声をかけてくれた。

 変わり始めた私の世界。

 彼女が私に声をかけたあのとき、あの瞬間から、私の世界は彩りを持ち始めた。

 近江花音、12歳。

 小学6年生。

 キラキラな私を、目指します。

*****
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