上 下
18 / 38
2 近江花音は小学生

5.パパの色(1)

しおりを挟む
 『ミツキモール』で声をかけられてから、ママはどこか興奮気味だった。

「今日、誰に会ったと思う?」

 それは家に帰ってからも続いていた。

「『クローバー』の原田海ちゃんよ! もうびっくりしちゃった!」

「ほう? 随分と懐かしい名前だね」

「パパも知ってる人?」

 とても、ママとお友達のようには見えなかったけど……。

「ああ、花音は知らないね」

 そう言ってパパは笑った。

「バンドだよ。有名だったんだ。『クローバー』っていう名前でね、すごく人気だったんだよ」

「今は人気じゃないの?」

 私の質問に、パパは笑った。

「引退しちゃったんだ。でも、今でもきっと、好きな人は好きだよ。パパやママみたいにね。……それで? 彼女は元気だった?」

「昔と全然変わってなくて、すぐわかっちゃった! 今はタレント事務所を開いているそうよ! 花音ちゃん、声をかけられちゃって!」

 ママが渡された名刺をパパに渡す。

「……『トップ・スター』か。なるほど、ね」

 パパが呟いた言葉の意味がわからなくて、首を傾げる。

「それで? 花音はどうするんだい? 声をかけられたっていうことは、タレントにならないかってことだろう?」

「ダメよ! 花音ちゃんには、バレエやピアノがあるんだから、毎週通わないといけないのよ」

 ――そうか……。

 ママの言葉に納得した。

 私には、習いごとがたくさんあるから、夏休みも終わってしまったら学校だって始まる。

 キラキラしていたあの子たちが、急に踊れるようになったわけじゃないことくらいわかる。

 きっとたくさん練習したはず。

 習いごとをしながら、練習をする時間が私にはない。

 キラキラに、近づけない。

「前から、言おうと思っていたことがあるんだ」
しおりを挟む

処理中です...