【完結】陛下に愛を誓うまで

桐生千種

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第1章 私が生きる国、日本

2.風変り、外国人

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 夢を見ているときに時々、思うことがある。

 ああ、これは夢だって。

 そして今、まさにその状態に私はある。

 私はただ、立っているだけ。

 目の前には、人が1人。

 向かい合って、立っているだけの、変な夢。

 日本人離れした、中世的な顔立ち。

 緑色の目に、艶のある茶色の髪。

 天使かと、思ってしまうほどの綺麗な人。

 私は、この人を知っている。

 1度だけ、会った。

 それも、ごく最近。

 変な夢だ。

 ただ向かい合って立っているだけど、なにもない。

 なにも言わない。

 なにも聞こえない。

 その人のうしろは真っ暗で、真っ黒で。

 その人がぼうっと、浮きあがっているような、淡く光を放っているような。

 そんな風に見える。

 夢、だから。

 現実ではそんなこと、起こり得るわけがないけれど。

 夢だから、なんの疑問も抱くことなく、私は向き合っている。

 向き合い、見つめ合う。

 見つめ合い。

 見つめ合う。

 見つめ合う。

 見つめ合う……。

「朝だよ」

 起床。

 パチリと、目が覚めた。

 目の前には、お父さん。

 リンリンと鳴る、携帯電話のアラーム音。

 ああ、朝か。

 と、思う。

 今日も、変わらず1日が始まる。

*****

「今日はぐっすりだったね。携帯が鳴っていても起きないし、お父さんが近づいてもピクリとも動かないし」

 いつも通りの食卓で、お父さんに言われる。

「でも目覚めはバッチリ!」

 言って、Vサインをしてみる。

 本当に、今までにないくらいのスッキリ爽快な目覚め。

「本当? 具合悪くない?」

 心配性なお母さん。

「大丈夫だよー。すっごく元気なんだから! 今日はいいことありそうな気がする!」

 なんか、よくわからないけど。

 心がわくわくしてる。

「そっか。じゃあ、なにかご利益があるかな」

 ぽんぽん、とお父さんが私の頭を撫でる。

「お父さんっ。お地蔵様じゃないよっ」

「ごめんごめん」

 もうっ。

 でも……。

 キライじゃないんだよね。

「じゃ、いってきます」

 お父さんが、仕事に行く。

 いつも通りの朝だ。

 いつもとなにも変わらない。

 変わらないのに……。

 なぜだかとても、わくわくする。

 なんだか、なにかが楽しくて、高揚してる。

「本当に、大丈夫? 無理してない?」

「大丈夫だよー!」

 心配性なんだから、お母さんは。

「いつも通り、元気です!」

 ビシッと、敬礼してみたり。

「大丈夫ならいいけど……」

 まだ、納得いかない様子。

「じゃあ、もし具合悪くなったら早退する! それなら安心?」

 なんて言ってみて。

 困っちゃうほど心配性なお母さんだけど、実はそれが嬉しかったりするんだよね。

*****

 今日は1日、まとわりついていたものがある。

 今朝の夢のこと。

 夢、なんて普通いつまでも覚えていられるものじゃない。

 目が覚めて、着替えるころにはすでに忘れているなんてことも多い。

 なのに、今日の夢に限ってはチラチラ頭の中によぎってきて、一向に忘れられそうな気配がない。

 だからどうこうってわけでもないけど、気にならないと言えばウソになる。

「それは恋!! 運命の出会い!! きっとそうに違いない!!」

「それはない」

 相も変わらず友達Aは、いろいろと色恋沙汰にもっていきたいらしい。

 そんなの、私は興味ないのに。

「恋うんぬんはナシにしてもさ、あれだけ強烈な出会い方をしたんだから、夢に出てきてもおかしくないんじゃない?」

「キョーレツな、出会い……?」

 うーん……。

「私より、あの人の方がビックリだったと思うけど」

「たしかに、そうだけどさ」

 そうそう。

 上から人が降ってきて、それをキャッチ! なんてなかなかできる経験じゃないよね。

「木から落ちて受け止められる経験も、そうそうできるものじゃないじゃん?」

 ふむ。

「それに、落ちる悪夢を繰り返し見ないで済んでるならよかったよ。落ちたことよりあの外国人の方が印象的だったってことで」

「おー。じゃあ、あの人に感謝しなきゃ」

「……なんかそれ違う気が……、ま、いっか」

 受け止めてくれただけでなく、悪夢も見ずに済ませてくれているなんて。

 2重に感謝だよ。

 よくよく考えたら、私、死んでたかもしれなくて……。

 こんな話、お父さんとお母さんには言えない……。

 あの人は、命の恩人だ。

「で、あんたはあの外国人のことなんとも思わないの?」

「え? ……命の恩人に感謝しなきゃ。あ! やっぱりお礼しに行くべきかな? でもどこの誰かわんないし! この辺に住んでるのかな? なんか知らない?」

「知るわけないでしょ」

「ううー」

 冷たいです、友達B。

「そうじゃなくて、こう、きゅんきゅんする、とか、トキメキがとか、ちょっと気になる存在とか」

「だから命の恩人。お礼したいから、また会えないかな」

「ちっ、ダメか」

 !?

 今、舌打ちした!?

 なんで!?

「吊り橋効果で恋愛に1歩近づけると思ったんだけど、無理か」

 ええー。

 なに、その企み。

 っていうか、友達Bも友達Aと同じようなこと考えてたの?

「むむー。なんだよ、2人して。女子高生は恋愛しなきゃいけない決まりでもあると申すか」

 ぷんぷん。

 私は怒っているのです。

 ぷんぷん。

「ごめんごめん」

 ぷんぷん。

「だってさ、あんた顔も性格も悪くないし彼氏の1人や2人、簡単にできそうなもんなのにさ」

「ふ、2股しろと!?」

 なんと不誠実な!!

「あ、いや、今のは言葉の綾ってヤツで。深い意味は……」

「じゃあさ、じゃあさ! 好みのタイプとかないの? 付き合うならこんな人がいい! とか、そういう理想!」

「ないよそんなの。誰かと付き合いたいなんて思わないし」

「えー、なんかあるでしょー?」

 しつこいぞ、友達A。

「じゃあ、結婚するならお父さんみたいな人がいい」

*****

 もーうっ!!

 なんだよなんだよ2人してっ!!

 理想の結婚相手がお父さんみたいな人だっていいじゃないかーっ!!

『こんな娘を持ったお父さんは幸せ者だなー』

 バカにしてーっ!!

 ぷんぷんっ!!

「スヴェトラーナ様っ!! 危ないっ!!」

「え? うわっぷ!?」

 遮られた視界は真っ暗で。

 聞こえたのは、車のエンジン音が一瞬。

 たぶん、ものすごいスピードを出して通り過ぎて行ったんだと思う。

 あのまま歩いていたら、轢かれていたのかも……。

 そして感じる、覚えのあるぬくもり。

 匂い。

「大丈夫? ケガは?」

 開かれた視界。

 放れたぬくもり。

 そこにいたのは……。

「昨日の!!」

 外国人。

 木から落ちた私を受け止めて、夢にまで出てきたあの外国人。

「昨日は、ありがとうございました! それに、今も! ありがとうございます!」

 よかった。ちゃんと、お礼言えた。

「気にしないで。これが僕の務めだから」

「はぁ……」

 ……やっぱり変だよ、言ってること。

「キミにケガがなくてよかった」

「お、おかげさまで……。感謝してます」

 この人がいなかったら本当に。

 私は死んでいたかもしれないし……。

 そう考えると、ちょっと怖い。

「この道を行くの? そこまで送るね」

「え?」

 なぜでしょう?

 どういうわけか、命の恩人な(言ってることがちょっとおかしい)外国人と一緒に歩いて、下校中です。

「僕は、アナトーリィ・サドーフニコフ。親しい人は、トーリャって呼ぶ。キミの騎士。キミを守るのが、僕の務め」

 と、自己紹介をされましたがしかし。

 名前からして日本人ではなさそうで、外国人だと思っていいと思う。

 喋る日本語は流暢で、でも言ってることがちょっとおかしい。

「えーと……」

 なにから言うべきか……。

「日本語、上手ですね」

 そう言うと、いい笑顔を向けられた。

「うん! 勉強したんだ! ミーシャは鬼みたいだったけど、キミにそう言ってもらえるなら、頑張ってよかった!」

 ミーシャと言う人が、この人に日本語を教えたのだろうか。

 どんな人かはわからないけど、教えることばをちょっとだけ間違えていると思いますよ……?

 いや、でも、外国だと普通に言っちゃうこと?

 でも、ここ日本だし……。

「あの……」

 意を決して、言ってしまおう。

「あんまり、変なこと言わない方がいいですよ?」

「へ?」

 ……言ったはいいけど、キョトンとされた。

「僕、そんなに変なこと言ってる? おかしいかな?」

 ああ、伝わっていない。

「えっと……。外国だったら普通かもしれないですけど、ここは日本なので、あまり親しくない女の子にキミの騎士とかキミを守るとか、言わない方がいいですよ? 勘違いしちゃう女の子もいると思いますから……」

「勘違い……?」

 今度は首を傾げられた。

 どうしよう……。

 勘違い、という言葉の意味がわからないのかもしれない……。

 他になにか、わかりやすい簡単な言葉は……。

*****

「つまり、僕は畏れ多くもキミに求愛してたってこと?」

「まあ、あたらずとも遠からずというか……はい。割と近いことを言っているかと……」

「うわぁ……!!」

 ちょっと大袈裟かもしれないけど、まあ、いいでしょう。

 話していて、わかったこと。

 この人は英語圏の人ではないらしい。

 試しに英語で言ってみた。

 定期試験では平均すれすれの、拙い英語の知識でだけど。

 そしてら、キョトンとしたあとに困惑されて、逆にどうしようかと思った。

 私が突然、日本語じゃない言語で言葉を発したからか混乱させてしまって、ポロリと彼の口から出てきた言葉は、聞いたことのない知らない言語だった。

 なので、コミュニケーションは日本語でとることにした。

 どうにか、こっちの伝えたいこと、にほどなく近いようなことを伝えることはできた。

 っていうか、畏れ多くとか求愛とかそんな言葉知ってるんだ……。

 私たちでもそうそう使わないのに……。

 どんな勉強してたのか気になる。

「んー、でも、今の話からするとキミは僕がいろんな女の子に求愛してると思ってるわけだ」

「はあ、まあ、そうですね」

 そういうことに、なってしまいますね。

「それは間違いだよ、僕はキミの騎士で、キミを守るのが僕の務め。この言葉は、キミにしか言わない。キミだけだよ」

 え……。

 つまり、それはどういった意味で?

 なぜ、そんなことを私に言うんですか……?

「でも、これは求愛になってしまうんだよね?」

「そう、ですね……」

「それはダメだよ。僕がキミに求愛するなんて、ミーシャが許さないし、キールに知れたら殺されるじゃ済まないよ」

「はぁ……」

 なに言ってるんだろう、この人……。

「でも、そうなると僕はキミのなにになるの?」

 ホントに、なに言ってるんだろう、この人。

 いや、でも、違う国の言葉を話しているわけだから、本当に伝えたいことと実際に喋っていることが、ちゃんと同じ意味になっていないのかもしれない。

 こういうとき、どうすればいいんだろう……?

「えっと、じゃあ、騎士はどういう意味で使っているんですか?」

 ここからなにかヒントを得よう。

「キミを守るのが僕の務め。だから、騎士。なにか、違う?」

 なにも得られなかった……。

「たしかに、助けてもらって、命の恩人だとは思いますけど……」

「命の恩人?」

「はい。木から落ちて、死んでたかもしれない。車に轢かれて死んでたかもしれない。そんなところを助けてもらったので」

「そっか」

 なにか、納得したような顔。

「僕は、キミの命の恩人なんだ」

 あれ?

 なにか、間違ったことを教えた気がするのは、気のせい……?

「僕は、キミの命の恩人。これからも、僕がちゃーんと、キミを守るからね」

 ……騎士となにも変わらなかった。

 言葉を教えるのって、難しい……。

「じゃあ、僕はここまで」

「あ、はい」

 立ち止まったのは、いつも見慣れた住宅街に入る道。

「気をつけて、帰ってね」

「ありがとうございます」

 頭を下げる。

「さようなら。スヴェトラーナ様」

「ん? あれ?」

 頭を上げて、そのときにはすでに、そこには誰もいなくて……。

 スヴェトラーナサマって、なんだろう?

 あの人の国での、あいさつ……?

 かな……?
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