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第1章 私が生きる国、日本
3.誕生日、今日
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今日は、いつもとはちょっと違う日。
ちょっとだけ、特別。
私の、16歳の誕生日。
なのに……。
「んー……」
なんだか今日は、ぼーっとする。
昨日はあんなに元気でわくわくしてたのに……。
だからかもしれないけど。
眠いわけじゃなくて、熱があるわけでもなくて、でも、ただなんとなく、心ここにあらず、っていうか……。
意識が明後日の方向にいきそうっていうか……。
「危ないっ!!」
あれ?
デジャヴ?
昨日と同じ。
ように、今度は腕をひかれて。
目の前を走り去る、大型トラック。
そこにいるのは、あの外国人。
「また、助けられましたね」
これで、3度目だ。
「ありがとう、ございます」
見つめた、外国人の目。
なんだか今日は、物憂げな気がする。
するりと、頬に手が添えられた。
覗き込むような、緑色の、目。
そして……。
「気をつけて」
「え?」
2度も車に轢かれそうになって危ない、という意味だろうか。
でも、なにか違う気がする。
「ときが近づいている」
「?」
どういう、意味?
聞こうと、思うのに、言葉がでない。
うまく、頭が回らない。
「行こう」
ふい、と頬の手が離れた。
「送って行くよ」
そんなことを言わせてしまって……。
私は相当、危なっかしい人だと思われてしまったらしい。
「大丈夫ですよ。学校に行くだけですから」
通い慣れた、道だから。
「いや、送って行く。それが僕の務めだから」
あれ?
なんか、昨日と雰囲気が違うような……。
昨日はもう少し幼さ、というか少年っぽさがあったと思ったけど……。
今はすごく、大人っぽくて……。
「でも……」
「送らせて」
お願い、とまで言われたら……。
断るのも、それはそれで失礼な気がした。
「……はい」
頷いて、連れ立って、歩く。
昨日は一緒に下校して。
今日は一緒に登校して。
これは……。
偶然……?
「さあ、着いた」
「ありがとうございました」
本当に、学校まで送ってもらってしまった。
道中、いろんな人に見られたけど……。
なぜか、あまり気にならなかった。
頭の中に、霧がかかったみたいに。
始終頭がぼーっとして……。
今日は、どうしたんだろう。
せっかくの、誕生日なのに……。
「気をつけて」
「はい……」
また、気をつけて。
そんなに、危なく見えるのかな……。
*****
朝。
朝礼前の教室。
友達に、「誕生日おめでとう」と言ってもらった。
嬉しかった。
でも、熱があるんじゃないかと疑われてしまった。
熱はない、と思う。
朝礼中。
先生の話が、頭に入ってこなかった。
頭がうまく、回らない。
1時限目、国語(現国)。
やっぱり頭に入ってこない。
黒板に書かれた文字を、ただノートに写すだけの時間になった。
ちらりと、目の端に、窓の向こうに、あの外国人を見た気がした。
2時限目、理科。
移動教室。
うまく頭が回らなくて、それでも先生に怒られることなく無事に終えられたのは、同じ班の人たちのおかげ。
理科室の窓の向こう。
移動中の廊下の窓。
ちらちらと、あの外国人を見た気がした。
3時限目、数学。
また、ノートに文字を写すだけの時間。
当たらなくてよかった。
窓の向こうに見える外国人は、どうやら気のせいじゃないらしい。
4時限目、体育。
先生から直々に、見学を言い渡された。
みんなが走るのを眺めながら、私は1人、ベンチで見学。
外国人が、やっぱりいる。
でも、先生もなにも言わないし、いいのかな……。
昼休み。
いつものように友達と教室でお昼ごはん。
お母さんの手作りのお弁当は、今日もおいしい。
友達から向けられる不審の目。
でも、具合は決して悪くない。
5時限目、LHR。
ホームルーム。
今日は、来たる学校祭に向けての委員決め。
6時限目、英語。
当てられた。
けど、読むだけだったからなんとかことなきをえた。
7時限目、世界史。
また、ノートに文字を写すだけ。
終礼を終えて、教室の掃除。
朝よりも、なんだかぼけらーっとしている気がする。
そして、窓の外。
あの外国人が、校舎を向いて立っている。
今日は1日、あの人がちらちらと目に入って。
でも、誰もなにも言わない。
今だって。
たくさんの生徒が行き来しているグラウンドで、誰にも声をかけられることなく、立っている。
それどころか、誰も気づいていないような……。
まるでそこに誰もいないかのように、空気のように、誰もが素通りして行く。
「はい、掃除終わり。早く帰んな」
「え?」
突然、そんなことを言われて。
「やっぱ、あんたおかしいよ。早く帰ってさっさと寝な」
そんなに、変に映っているのだろうか。
「……それとも送って行こうか」
「それはいいよ。逆方向だし」
私とは、帰る方向が逆の人に送らせるなんて。
それはできない。
「そんなに心配なら、先に帰るよ。ありがとう」
1人だけ、先に帰らせてもらうことにする。
「私が送って行こうか? 私なら方向一緒だし」
「いいよ、大丈夫。部活あるでしょ?」
「そうだけど……」
そんなにヒドイかな、私。
「ちゃんと帰れるよ、大丈夫。また、明日。バイバイ」
教室を出て、学校を出て、歩く。
空は、オレンジ色の夕焼け。
風は凪いで、静か。
……静か?
違和感を覚えて、周りに意識を向ける。
車の往来。
行き交う人々。
いつも聞こえる、はずの賑やかな音。
それが、どこか、遥か、遠くて。
意識を向ければたしかに聞こえるけど、どこか遠い。
意識を逸らせば、そこにはなにも存在していないかのようになにも聞こえなくなる。
私、やっぱり今日はどこかおかしいのかも……。
ふと、人の気配を感じた。
たくさんの、行き交う人の中で、その人に注意を向けなければと思った。
顔をあげ、その人を見る。
夕日を背に、こっちを見て佇む、もう見慣れてしまった外国人。
その人が、そこに立っている。
「もうすぐだ」
その人が、言う。
「?」
なにが……?
「キミが、この世界に生まれおちて、ちょうど16年の月日が経つ」
どうして……。
16年。
たしかに、今日は私の誕生日で。
生まれてから16年経った、16歳の誕生日だけどどうして。
どうしてこの人がそれを知っているの……?
「さあ、行こう」
差し出された、右手。
この手をとるほど、私はバカじゃない。
いくら、ぼーっとしていても。
いくら、身体が不調でも。
怪しい、人。
「怖がらなくても、大丈夫。キミを、傷つけるようなことはしないから。キミはただ、この手をとればいい」
1歩。
私はうしろへと下がる。
いくら命の恩人でも、これは少し怪しすぎる気がするんだ。
「……どこに、行こうというんですか?」
私は家に帰るんです。
お母さんが、待っていてくれている家に。
「キミが、本来いるべき場所。出会うべき人のところに」
1歩。
近づかれたので。
1歩。
私は下がる。
「……言っている、意味がわかりません」
怪し、すぎる……。
「僕の言葉、おかしい?」
首を傾げて、憂いを帯びた目で見つめられて。
でも、怪しいものは怪しい。
「おかしい、です……」
1歩。
またうしろに下がって……。
「っ!?」
うしろが、段差なんて……。
足を踏み外して、倒れそうになる。
けど、私の腕は掴まれて、倒れることはなかったけれど……。
ぐいと身体を引き寄せられて……。
まるで、抱きしめられてるみたいに、腕の中にいて。
ありがとう、すみません。
なにか言って、離れなきゃと思うのに。
「時間だ」
そんな声が聞こえて。
「怖かったら、目を閉じていてもいいよ」
その言葉が聞こえたと同時。
身体に訪れた、浮遊感。
思わず、目の前の腕にしがみついた。
気持ち悪くて、目を閉じた。
*****
ざわざわと、人の声が聞こえる。
ゆっくりと、襲っていた浮遊感が治まる。
目を開けた。
薄暗い、場所。
明かりはロウソクで、炎の光に揺らめく幾人かの人。
人、人、人。
人に、囲まれて……。
ココハ、ドコ……?
「到着。身体は、平気?」
そう言われたけど、なにが起こったのかわからなくて。
答えることが、できなかった。
「アナトーリィ・サドーフニコフ」
どこかで、聞いたことのあるような言葉が聞こえた。
その言葉を発したのは、私とあの外国人を取り囲む人の中の1人。
真っ白な服を身にまとう、長い髪の人。
髪の色は、金。
するりと、私の身体を支えていた腕が離れた。
「ーーーーーー」
金の髪の、彼はなにかを言った。
けれど、その言葉は私の知らない言語。
「スヴェトラーナ様」
また、どこかで聞き覚えのある言葉。
金の髪の彼が、私の方へと近づいて来る。
そして、跪いた。
私を見上げる、その顔はあの外国人にも負けず劣らずの秀麗さで。
細められた目が、緑色のその目が、少しだけ怖いと感じる。
「よく、お戻りくださいました」
日本、語……?
たしかに、この金髪の彼から発せられている言葉は日本語だった。
「おかえりなさい」
ただ、言っていることの意味はまったくわからない。
「あの……」
いろいろと、聞きたいことが、聞かなきゃいけないことがある。
聞かなきゃ、いけないのに……。
どうして……。
意識が、遠くなる……。
身体がぐらりと傾いて……。
周りが、ざわざわと、騒がしくなる。
私の身体は……。
地面に倒れ込むことはなくて。
ただ、その代わりに金髪の彼に抱きしめられていた。
こんな、どこともわからない場所で、誰ともわからない人に倒れ込むなんて……。
離れなきゃ。
そう思うのに。身体がいうことを聞かない……。
「ーーーー」
金髪の彼が、なにかを言った。
ピタリと、ざわめきは止む。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
金髪の彼が、なにかを言っているけれど、なにを言っているのかはさっぱりで。
「ーーーーーーーーーーーーーーー」
きゅっと、腕に力が込められたのがわかった。
「おやすみなさい」
最後の言葉は日本語で。
その言葉に、抗うことができずに意識は遠退いていく。
だめ……。
寝ちゃ、いけない……。
そう思うのに、逆らえない……。
「ーーーーーーーーー」
身体が、浮く。
誰かに、抱きかかえられている感じ。
どこかに、移動しているのが、わかる……。
起きなきゃ……。
動かなきゃ……。
思うのに。
意識は……。
おちた……。
ちょっとだけ、特別。
私の、16歳の誕生日。
なのに……。
「んー……」
なんだか今日は、ぼーっとする。
昨日はあんなに元気でわくわくしてたのに……。
だからかもしれないけど。
眠いわけじゃなくて、熱があるわけでもなくて、でも、ただなんとなく、心ここにあらず、っていうか……。
意識が明後日の方向にいきそうっていうか……。
「危ないっ!!」
あれ?
デジャヴ?
昨日と同じ。
ように、今度は腕をひかれて。
目の前を走り去る、大型トラック。
そこにいるのは、あの外国人。
「また、助けられましたね」
これで、3度目だ。
「ありがとう、ございます」
見つめた、外国人の目。
なんだか今日は、物憂げな気がする。
するりと、頬に手が添えられた。
覗き込むような、緑色の、目。
そして……。
「気をつけて」
「え?」
2度も車に轢かれそうになって危ない、という意味だろうか。
でも、なにか違う気がする。
「ときが近づいている」
「?」
どういう、意味?
聞こうと、思うのに、言葉がでない。
うまく、頭が回らない。
「行こう」
ふい、と頬の手が離れた。
「送って行くよ」
そんなことを言わせてしまって……。
私は相当、危なっかしい人だと思われてしまったらしい。
「大丈夫ですよ。学校に行くだけですから」
通い慣れた、道だから。
「いや、送って行く。それが僕の務めだから」
あれ?
なんか、昨日と雰囲気が違うような……。
昨日はもう少し幼さ、というか少年っぽさがあったと思ったけど……。
今はすごく、大人っぽくて……。
「でも……」
「送らせて」
お願い、とまで言われたら……。
断るのも、それはそれで失礼な気がした。
「……はい」
頷いて、連れ立って、歩く。
昨日は一緒に下校して。
今日は一緒に登校して。
これは……。
偶然……?
「さあ、着いた」
「ありがとうございました」
本当に、学校まで送ってもらってしまった。
道中、いろんな人に見られたけど……。
なぜか、あまり気にならなかった。
頭の中に、霧がかかったみたいに。
始終頭がぼーっとして……。
今日は、どうしたんだろう。
せっかくの、誕生日なのに……。
「気をつけて」
「はい……」
また、気をつけて。
そんなに、危なく見えるのかな……。
*****
朝。
朝礼前の教室。
友達に、「誕生日おめでとう」と言ってもらった。
嬉しかった。
でも、熱があるんじゃないかと疑われてしまった。
熱はない、と思う。
朝礼中。
先生の話が、頭に入ってこなかった。
頭がうまく、回らない。
1時限目、国語(現国)。
やっぱり頭に入ってこない。
黒板に書かれた文字を、ただノートに写すだけの時間になった。
ちらりと、目の端に、窓の向こうに、あの外国人を見た気がした。
2時限目、理科。
移動教室。
うまく頭が回らなくて、それでも先生に怒られることなく無事に終えられたのは、同じ班の人たちのおかげ。
理科室の窓の向こう。
移動中の廊下の窓。
ちらちらと、あの外国人を見た気がした。
3時限目、数学。
また、ノートに文字を写すだけの時間。
当たらなくてよかった。
窓の向こうに見える外国人は、どうやら気のせいじゃないらしい。
4時限目、体育。
先生から直々に、見学を言い渡された。
みんなが走るのを眺めながら、私は1人、ベンチで見学。
外国人が、やっぱりいる。
でも、先生もなにも言わないし、いいのかな……。
昼休み。
いつものように友達と教室でお昼ごはん。
お母さんの手作りのお弁当は、今日もおいしい。
友達から向けられる不審の目。
でも、具合は決して悪くない。
5時限目、LHR。
ホームルーム。
今日は、来たる学校祭に向けての委員決め。
6時限目、英語。
当てられた。
けど、読むだけだったからなんとかことなきをえた。
7時限目、世界史。
また、ノートに文字を写すだけ。
終礼を終えて、教室の掃除。
朝よりも、なんだかぼけらーっとしている気がする。
そして、窓の外。
あの外国人が、校舎を向いて立っている。
今日は1日、あの人がちらちらと目に入って。
でも、誰もなにも言わない。
今だって。
たくさんの生徒が行き来しているグラウンドで、誰にも声をかけられることなく、立っている。
それどころか、誰も気づいていないような……。
まるでそこに誰もいないかのように、空気のように、誰もが素通りして行く。
「はい、掃除終わり。早く帰んな」
「え?」
突然、そんなことを言われて。
「やっぱ、あんたおかしいよ。早く帰ってさっさと寝な」
そんなに、変に映っているのだろうか。
「……それとも送って行こうか」
「それはいいよ。逆方向だし」
私とは、帰る方向が逆の人に送らせるなんて。
それはできない。
「そんなに心配なら、先に帰るよ。ありがとう」
1人だけ、先に帰らせてもらうことにする。
「私が送って行こうか? 私なら方向一緒だし」
「いいよ、大丈夫。部活あるでしょ?」
「そうだけど……」
そんなにヒドイかな、私。
「ちゃんと帰れるよ、大丈夫。また、明日。バイバイ」
教室を出て、学校を出て、歩く。
空は、オレンジ色の夕焼け。
風は凪いで、静か。
……静か?
違和感を覚えて、周りに意識を向ける。
車の往来。
行き交う人々。
いつも聞こえる、はずの賑やかな音。
それが、どこか、遥か、遠くて。
意識を向ければたしかに聞こえるけど、どこか遠い。
意識を逸らせば、そこにはなにも存在していないかのようになにも聞こえなくなる。
私、やっぱり今日はどこかおかしいのかも……。
ふと、人の気配を感じた。
たくさんの、行き交う人の中で、その人に注意を向けなければと思った。
顔をあげ、その人を見る。
夕日を背に、こっちを見て佇む、もう見慣れてしまった外国人。
その人が、そこに立っている。
「もうすぐだ」
その人が、言う。
「?」
なにが……?
「キミが、この世界に生まれおちて、ちょうど16年の月日が経つ」
どうして……。
16年。
たしかに、今日は私の誕生日で。
生まれてから16年経った、16歳の誕生日だけどどうして。
どうしてこの人がそれを知っているの……?
「さあ、行こう」
差し出された、右手。
この手をとるほど、私はバカじゃない。
いくら、ぼーっとしていても。
いくら、身体が不調でも。
怪しい、人。
「怖がらなくても、大丈夫。キミを、傷つけるようなことはしないから。キミはただ、この手をとればいい」
1歩。
私はうしろへと下がる。
いくら命の恩人でも、これは少し怪しすぎる気がするんだ。
「……どこに、行こうというんですか?」
私は家に帰るんです。
お母さんが、待っていてくれている家に。
「キミが、本来いるべき場所。出会うべき人のところに」
1歩。
近づかれたので。
1歩。
私は下がる。
「……言っている、意味がわかりません」
怪し、すぎる……。
「僕の言葉、おかしい?」
首を傾げて、憂いを帯びた目で見つめられて。
でも、怪しいものは怪しい。
「おかしい、です……」
1歩。
またうしろに下がって……。
「っ!?」
うしろが、段差なんて……。
足を踏み外して、倒れそうになる。
けど、私の腕は掴まれて、倒れることはなかったけれど……。
ぐいと身体を引き寄せられて……。
まるで、抱きしめられてるみたいに、腕の中にいて。
ありがとう、すみません。
なにか言って、離れなきゃと思うのに。
「時間だ」
そんな声が聞こえて。
「怖かったら、目を閉じていてもいいよ」
その言葉が聞こえたと同時。
身体に訪れた、浮遊感。
思わず、目の前の腕にしがみついた。
気持ち悪くて、目を閉じた。
*****
ざわざわと、人の声が聞こえる。
ゆっくりと、襲っていた浮遊感が治まる。
目を開けた。
薄暗い、場所。
明かりはロウソクで、炎の光に揺らめく幾人かの人。
人、人、人。
人に、囲まれて……。
ココハ、ドコ……?
「到着。身体は、平気?」
そう言われたけど、なにが起こったのかわからなくて。
答えることが、できなかった。
「アナトーリィ・サドーフニコフ」
どこかで、聞いたことのあるような言葉が聞こえた。
その言葉を発したのは、私とあの外国人を取り囲む人の中の1人。
真っ白な服を身にまとう、長い髪の人。
髪の色は、金。
するりと、私の身体を支えていた腕が離れた。
「ーーーーーー」
金の髪の、彼はなにかを言った。
けれど、その言葉は私の知らない言語。
「スヴェトラーナ様」
また、どこかで聞き覚えのある言葉。
金の髪の彼が、私の方へと近づいて来る。
そして、跪いた。
私を見上げる、その顔はあの外国人にも負けず劣らずの秀麗さで。
細められた目が、緑色のその目が、少しだけ怖いと感じる。
「よく、お戻りくださいました」
日本、語……?
たしかに、この金髪の彼から発せられている言葉は日本語だった。
「おかえりなさい」
ただ、言っていることの意味はまったくわからない。
「あの……」
いろいろと、聞きたいことが、聞かなきゃいけないことがある。
聞かなきゃ、いけないのに……。
どうして……。
意識が、遠くなる……。
身体がぐらりと傾いて……。
周りが、ざわざわと、騒がしくなる。
私の身体は……。
地面に倒れ込むことはなくて。
ただ、その代わりに金髪の彼に抱きしめられていた。
こんな、どこともわからない場所で、誰ともわからない人に倒れ込むなんて……。
離れなきゃ。
そう思うのに。身体がいうことを聞かない……。
「ーーーー」
金髪の彼が、なにかを言った。
ピタリと、ざわめきは止む。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
金髪の彼が、なにかを言っているけれど、なにを言っているのかはさっぱりで。
「ーーーーーーーーーーーーーーー」
きゅっと、腕に力が込められたのがわかった。
「おやすみなさい」
最後の言葉は日本語で。
その言葉に、抗うことができずに意識は遠退いていく。
だめ……。
寝ちゃ、いけない……。
そう思うのに、逆らえない……。
「ーーーーーーーーー」
身体が、浮く。
誰かに、抱きかかえられている感じ。
どこかに、移動しているのが、わかる……。
起きなきゃ……。
動かなきゃ……。
思うのに。
意識は……。
おちた……。
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