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03 忘れられない過去
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窓から見える広い空は、いつかみた夢と同じように青かった。
澄んだ空が空がどこまでも続いていた。
射し込む陽射しが柔らかく、少女――アイの白い髪を撫でていた。
穏やかなときの流れに、ついウトウトと瞼を閉じた。
夢か現か、今のアイにとってはどちらでも構わないことだった。
穏やかなときの流れに、身をゆだねたいと思った。
「アイっ!?」
不意にあげられた大きな声と、掴みかかるような手のひらに瞼を持ち上げた。
青い瞳が、ひどく不安そうな眼差しでアイを見ていた。
――また、この子は……。
アイは目を細めた。
アイに意識があるとわかるとその人物――シノはほっとしたように息を吐いた。
「また、キミが眠ってしまったかと」
「少し、ウトウトしてただけ……」
アイはそう言うと、窓の外をみた。
「今日は、穏やかな日ね……」
こんな日は、ついウトウトとうたた寝をしたくなるものだけど、そうすると、シノは決まって心配そうにアイを起こした。
その様子は、アイが再び長い眠りについてしまうことを恐れているようだった。
アイ長い眠りから目を覚ましてから、半日以上と眠っていることはなかったというのに、シノの行動はなかなか改まらなかった。
「シノ、心配しすぎだよ」
宥めるのはいつもの青年――リンの役目だった。
「今日は天気がいいから、ついウトウトしちゃうよね」
「そう。太陽の光って、あたたかいの」
そう言って、もう1度目を閉じたアイにリンは穏やかな表情を見せた。
長い間、陽の光を浴びることなく屋内で過ごしていたアイは、陽射しのある場所を好んだ。
今まで触れることのできなかった分を取り戻すかのように、アイは1日の大半を窓辺で過ごすことが多かった。
「もう、無茶はしないよ」
閉じていた目を開き、ポツリと呟いたその言葉は、もう何度目になるかわからなかった。
アイが長い間眠り続けることになった原因は、自分の限界を考えずに無茶をして、生きていくための力を失ったことにあった。
もう2度とそんな無茶はしないと、眠り続けることはないと、アイは言っているけれど、シノの不安は消えなかった。
アイが目を閉じる度、ちゃんともう1度目を開くかどうか不安がっていた。
「アイラたちだ」
窓の外の遥か下に、4つの影をリンは捉えた。
真っ黒な髪。
薄い茶髪。
そして、アイと同じ真っ白な髪。
遥か遠く小さくはあるけれど、白い髪とこの組み合わせとなれば、あの4人だとすぐにわかった。
それはシノが生み出してしまった、不幸な子供たちの生き残りだった。
たったひとつ、シノの望みを叶えるために生み出され奇跡的に生き残った子供たち。
彼らはもう、何に縛られることのない自由を謳歌していた。
いつでも好きなときに外出し、好きなときに好きなところへ行ける、彼らが望んだ通りの自由を手にしていた。
「会いたいかい?」
シノが聞いた。
アイとアイラは、初めて接触したあの日から1度も会っていなかった。
「いい」
アイは答えた。
「あの子は、何も知らない。普通の女の子だもの」
そう言うアイが、ほんの少し寂しそうに見えたのはきっと、シノの気のせいではない。
アイとアイラが接触し、生きる力のやり取りをしたあと、眠りについたアイラが再び目覚めたときには、アイラは何も覚えていなかった。
アイと何があったのか。
どうしてアイに会うことになったのか。
サイトとの出会い。
リンやシノのこと。
カイトとレイナと過ごした日々もすべて。
何もかもがまっさらに、記憶から消えてしまっていた。
例えるのなら、生まれたばかりの子供のように、アイラの中身は空っぽだった。
言葉すらままならない、自分という存在を認識しているのかどうかさえ危うい状態だった。
何も知らないアイラは、何も知らないまま、普通の女の子として生きさせてほしいと、カイトとレイナとサイトが望んだ。
アイ自身も、それを望んだ。
何より、生きる力のやり取りをしてしまうアイラとは会わないほうがいいと思った。
「それに……」
アイはシノと、そしてリンを見た。
「私には、あなたたちがいるもの」
そう言って、不器用に微笑むアイにシノとリンは思わず驚き、そして微笑み返した。
「ずっと、一緒にいてくれるでしょう? 今までがそうだったように」
だからもう、アイは世界に独りきりの寂しさを覚えることはなかった。
澄んだ空が空がどこまでも続いていた。
射し込む陽射しが柔らかく、少女――アイの白い髪を撫でていた。
穏やかなときの流れに、ついウトウトと瞼を閉じた。
夢か現か、今のアイにとってはどちらでも構わないことだった。
穏やかなときの流れに、身をゆだねたいと思った。
「アイっ!?」
不意にあげられた大きな声と、掴みかかるような手のひらに瞼を持ち上げた。
青い瞳が、ひどく不安そうな眼差しでアイを見ていた。
――また、この子は……。
アイは目を細めた。
アイに意識があるとわかるとその人物――シノはほっとしたように息を吐いた。
「また、キミが眠ってしまったかと」
「少し、ウトウトしてただけ……」
アイはそう言うと、窓の外をみた。
「今日は、穏やかな日ね……」
こんな日は、ついウトウトとうたた寝をしたくなるものだけど、そうすると、シノは決まって心配そうにアイを起こした。
その様子は、アイが再び長い眠りについてしまうことを恐れているようだった。
アイ長い眠りから目を覚ましてから、半日以上と眠っていることはなかったというのに、シノの行動はなかなか改まらなかった。
「シノ、心配しすぎだよ」
宥めるのはいつもの青年――リンの役目だった。
「今日は天気がいいから、ついウトウトしちゃうよね」
「そう。太陽の光って、あたたかいの」
そう言って、もう1度目を閉じたアイにリンは穏やかな表情を見せた。
長い間、陽の光を浴びることなく屋内で過ごしていたアイは、陽射しのある場所を好んだ。
今まで触れることのできなかった分を取り戻すかのように、アイは1日の大半を窓辺で過ごすことが多かった。
「もう、無茶はしないよ」
閉じていた目を開き、ポツリと呟いたその言葉は、もう何度目になるかわからなかった。
アイが長い間眠り続けることになった原因は、自分の限界を考えずに無茶をして、生きていくための力を失ったことにあった。
もう2度とそんな無茶はしないと、眠り続けることはないと、アイは言っているけれど、シノの不安は消えなかった。
アイが目を閉じる度、ちゃんともう1度目を開くかどうか不安がっていた。
「アイラたちだ」
窓の外の遥か下に、4つの影をリンは捉えた。
真っ黒な髪。
薄い茶髪。
そして、アイと同じ真っ白な髪。
遥か遠く小さくはあるけれど、白い髪とこの組み合わせとなれば、あの4人だとすぐにわかった。
それはシノが生み出してしまった、不幸な子供たちの生き残りだった。
たったひとつ、シノの望みを叶えるために生み出され奇跡的に生き残った子供たち。
彼らはもう、何に縛られることのない自由を謳歌していた。
いつでも好きなときに外出し、好きなときに好きなところへ行ける、彼らが望んだ通りの自由を手にしていた。
「会いたいかい?」
シノが聞いた。
アイとアイラは、初めて接触したあの日から1度も会っていなかった。
「いい」
アイは答えた。
「あの子は、何も知らない。普通の女の子だもの」
そう言うアイが、ほんの少し寂しそうに見えたのはきっと、シノの気のせいではない。
アイとアイラが接触し、生きる力のやり取りをしたあと、眠りについたアイラが再び目覚めたときには、アイラは何も覚えていなかった。
アイと何があったのか。
どうしてアイに会うことになったのか。
サイトとの出会い。
リンやシノのこと。
カイトとレイナと過ごした日々もすべて。
何もかもがまっさらに、記憶から消えてしまっていた。
例えるのなら、生まれたばかりの子供のように、アイラの中身は空っぽだった。
言葉すらままならない、自分という存在を認識しているのかどうかさえ危うい状態だった。
何も知らないアイラは、何も知らないまま、普通の女の子として生きさせてほしいと、カイトとレイナとサイトが望んだ。
アイ自身も、それを望んだ。
何より、生きる力のやり取りをしてしまうアイラとは会わないほうがいいと思った。
「それに……」
アイはシノと、そしてリンを見た。
「私には、あなたたちがいるもの」
そう言って、不器用に微笑むアイにシノとリンは思わず驚き、そして微笑み返した。
「ずっと、一緒にいてくれるでしょう? 今までがそうだったように」
だからもう、アイは世界に独りきりの寂しさを覚えることはなかった。
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