【完結】EACH-その先の未来-

桐生千種

文字の大きさ
7 / 10
03 忘れられない過去

02

しおりを挟む
 アイはずっと後悔していた。

 もしもあのとき、アイがシノとリンを外の世界へ連れ出さなかったら、と。

 ネオがヒトの手によって生み出されはじめた当初、ネオの扱いはひどいものだった。

 ヒトが猛獣をムチで打つのと同じように、ネオの子供に暴力をふるっていた。

 ヒトの社会ではそれが当然だった。

 ネオは、ヒトの子ではなかったから。
 ヒトの手で、人工的に作り出されたネズミと同じだった。

 だから、何をしても許された。

 そんな環境下で、アイは2人の少年の存在を知った。

 ヒトが望む、わかりやすい能力を持たずに生まれてきたシノとリン。

 もしもあのとき、アイが2人を放っておいたなら、2人はアイが存在を知った数日後には死んでいた。

 けれど、そうしていれば、シノがアイという存在に執着することはなかった。
 リンも、何度も死を繰り返し経験することはなかった。

 そうしなければ、シノもリンも今という時間に生きて存在していることはできなかったけれど、そうしたからこそアイという存在がシノとリンを縛りつけているような気がしてならなかった。

 けれど、その考えはある子供たちによって改めさせられた。

『手を出したなら、最後まで責任もちなよ』

 それはとある少女の言葉。

『責任もって、最後まで縛りつけろよ』

 それはとある少年の言葉。

『キミも視えるネオなら、こうなることはわかっていたはずだよ。それでもキミはそれを選んだ』

 それはとある少年の言葉。

 彼らの言葉はアイを苦しめ、そして救った。
 それで、いいのだと。

 消えゆく命の灯に、生きる道しるべを与えたのはアイ自身だった。
 見殺しにすることもできたはずなのに、それをしなかった。

 シノとリンが外へ出たことで、起こり得る未来の可能性のひとつとして「今」という未来がみえていなかったわけではなかった。

 それでも、アイは救うことを選んだ。
 アイ自身の選択だった。

 彼らの生き方を、歪めてしまったのはアイなのだから、彼らが自由を望むまで縛りつける責任がある。

 それでいいと、思えるようになった。

「僕はここへ戻ると決めたあの日から、キミに生かしてもらったこの命はキミのために使うと決めているんだ」

 シノが言った。

 大袈裟だとアイは眉を下げたけれど、シノをこうしてしまったのはアイ自身だった。
 後悔は、許されなかった。

「僕も、アイには感謝しているよ。アイが望んでくれるなら、僕も一緒にいさせてほしいな」

 リンの言葉に、「この子は透視を持っていたっけ」とアイはぼんやり考えた。

「あなたたちが飽きるまで、私に付き合ってね」

 以前のアイなら決して言わなかったであろう言葉を言えるようになったのもあの子たちの――遥か遠くの青空の下にいる彼らのおかげかと、アイは微笑んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

一番でなくとも

Rj
恋愛
婚約者が恋に落ちたのは親友だった。一番大切な存在になれない私。それでも私は幸せになる。 全九話。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

『影の夫人とガラスの花嫁』

柴田はつみ
恋愛
公爵カルロスの後妻として嫁いだシャルロットは、 結婚初日から気づいていた。 夫は優しい。 礼儀正しく、決して冷たくはない。 けれど──どこか遠い。 夜会で向けられる微笑みの奥には、 亡き前妻エリザベラの影が静かに揺れていた。 社交界は囁く。 「公爵さまは、今も前妻を想っているのだわ」 「後妻は所詮、影の夫人よ」 その言葉に胸が痛む。 けれどシャルロットは自分に言い聞かせた。 ──これは政略婚。 愛を求めてはいけない、と。 そんなある日、彼女はカルロスの書斎で “あり得ない手紙”を見つけてしまう。 『愛しいカルロスへ。  私は必ずあなたのもとへ戻るわ。          エリザベラ』 ……前妻は、本当に死んだのだろうか? 噂、沈黙、誤解、そして夫の隠す真実。 揺れ動く心のまま、シャルロットは “ガラスの花嫁”のように繊細にひび割れていく。 しかし、前妻の影が完全に姿を現したとき、 カルロスの静かな愛がようやく溢れ出す。 「影なんて、最初からいない。  見ていたのは……ずっと君だけだった」 消えた指輪、隠された手紙、閉ざされた書庫── すべての謎が解けたとき、 影に怯えていた花嫁は光を手に入れる。 切なく、美しく、そして必ず幸せになる後妻ロマンス。 愛に触れたとき、ガラスは光へと変わる

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...