【完結】龍の姫君-序-

桐生千種

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第3話 少年と姫君

過保護な従者

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 龍麗の言葉を待たず、立ち上がったキバ。

「じゃーな、また明日」

 颯爽と飛び上がり、木の上へ、さらには学舎の屋根さえも越えてその姿を消した。

「ルリ」

 キバがいなくなったところを見て、優雅が龍麗に近づく。

「優雅、どうしたの?」

「ルリが遅いから、迎えに来たよ」

 そう告げた優雅は、キバが姿を消した方角を見上げて問う。

「あのね! 初めてのお友達! 初めて、お友達ができたんだよ!」

 キラキラと笑顔を見せる龍麗。

 その表情を観察するように優雅は龍麗に目を向けた。

 嬉しそうに話す龍麗に、ただ友人ができた喜びだけではない感情を優雅は読み取る。

 龍麗自身もまだ気づかずにいるその感情の正体を優雅は見破り、そして目を瞑る。

「そう。よかったね」

 ――気づかなければいい……。

 優雅の願いは、誰にも知られることはない。

 ただ、その胸の内にしまい込まれた。

*****

「わかったね、龍麗」

「はーい……」

 拗ねたような返事を残し、龍麗は龍雅の私室をあとにした。

 その姿を見送った龍雅は、残った優雅に告げる。

「キミは見なかったの? 龍麗のオトモダチ」

「私が着いたときには、すでに別れたあとでしたので」

 何食わぬ顔で、優雅は事実を偽る。

 本当はキバが龍麗のもとを離れる少し前から2人の様子を観察していた。

 その顔もしっかり優雅は目にしていた。

 それでも、偽りの報告をするのは、キバが優雅の存在を察して身を引くことのできる野良だと評価したから。

 どんなに仲良くなったところで、家位も持たない野良が本家跡取りの龍麗と結ばれることはない。

 龍麗自身、その感情に気づいていないのだからほんの短い間の友達ごっこをさせてあげようという優雅のただの気まぐれだ。

 ただの気まぐれ故に、その行動は龍雅のひと言であっさりと翻されてしまう。

「素性を調べ上げて」

「すべて、ですか?」

「もちろん。だって気になるだろう? 龍麗がどんな子と友達になったのか。龍麗のためにもね」
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