【完結】EACH-篠突く雨に、凛と-

桐生千種

文字の大きさ
3 / 14
02 ハウス『友の木』

02

しおりを挟む
 その建物の中には、僕たちと同じくらいの子供がたくさんいた。
 僕たちよりも大きい子もいた。

 大人も、いた。

「はい、タオル」
「サンキュー」

 僕たちを建物の中に招き入れたその人は、女の人からタオルを受け取ってガシガシと勢いよく自分の頭を拭いていた。

「キミたちもね」

 バサリと頭からタオルをかけられて、身体がこわばった。

 視界を封じて、どうする気なのかと。

 ここに来ても、何も変わらないのかと。

 けれど、視界を封じられたからといって何をされるということもなかった。

 ただ、わしわしと身体を拭かれて――それだけだった。

「はいはい、みんな。小さい子はお部屋に戻って。就寝時間はとっくに過ぎてますよ。大きい子は小さい子を連れて行ってあげて」

 現れたのは、この中で誰よりも歳を取っていそうで、誰よりも偉そうに命令する女の人だった。

 集まっていた子供たちは、ひとり、ひとり、と姿を消していく。

 多分、部屋に戻っているんだろう。

「あなたたちは、先にお風呂ね」

 女の人は、僕たちを見てそう言った。

「葵、一緒に行ってあげてちょうだい。葵も一緒にあったまって来なさい」

「へーい」

 この人は、アオイというらしかった。

「行くぞ、お前ら。着いて来い」

 「着いて来い」と言うアオイを、信用したわけではないけれど、今は言う通りにしておいた方がいい。

 僕たちは、外の世界を知らなすぎる。

 うっかり機嫌を損ねて追い出されたら、僕たちは二度と人間として生きるチャンスを得ることはできないと、わかっている。

 これは、『彼女』がくれた最初で最後のチャンス。

 失うわけにはいかない。

 できる限りの注意を払いながら、僕は――僕たちは、アオイの後ろを着いて歩いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...