【完結】中原マナの片想い

桐生千種

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初等部

中学年

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 小春が3年生になって、僕は5年生になった。小春と毎日登下校できるのもあと2年。僕が中学生になれば、小春と毎日一緒に登下校するのは難しくなる。中学生の方が、小学生より帰る時間がずっと遅いから。
 待っていてほしいとは思うけど、広い校舎の中で小春をたったひとりで待たせておくなんてできない。

 ……ほんの少し、想像してしまうけど。広い校舎の中、ぽつんとひとりだけ、じっと僕を待つ小春。僕だけを待ち続ける小春の姿を想像して、どうしようもない感情が沸き立った。……ほんの少しだけだ。実際に待たせたりはしない。

 小春との登下校は、可能な限りし続けるつもりだけど、僕はあと2年の小春との時間を大切に噛みしめて日々を過ごす――予定だった。

「マナーっ!! おそーいっ!!」

 どうしてこうなる。
 通学路の先で、日和が叫ぶ。日和の隣には小春がいて、僕は2人のうしろをついて歩く。
 僕や小春の学年があがったということは、日和も学年があがったということで、今年から、日和は幼等部を卒業して小学生になった。
 小春との2人きりの時間は、日和の乱入によって終わりを迎えた。

「日和をお願いします」
「うん、ちゃんと初等部まで送り届けるよ」

 日和は、小春と違って付属の女子小学校ではなく、共学の学園初等部に進学した。小春に頼まれたからには、小春と約束したからには、僕には日和を初等部まで送り届ける義務がある。

「また放課後、迎えに来るね」
「うん、バイバイ、マナ君、日和」

 背を向ける小春を、本当なら校舎に入るまで見届けたいけれど……。

「マナーっ! 早くっ!」

 日和がそれを許してはくれない。僕を急かすように叫んで、周囲の注目を集める。けれど、これもだいぶ日課になってしまった。

「道路には飛び出ないでね」
「わかってるよーだっ!」

 無邪気に舌を出してみせる日和は、本当に小春とタイプが違う。

「日和ちゃーん! おはよう!」

 日和が目立てばおのずと声をかけてくる人物がいる。

「悠だ! おはよう!」

 同じ幼等部出身の悠と紘正。日和とももちろん面識がある。小人数だった上に日和は目立つ子だから、学年問わずに知らない子はいないだろう。

「今日も送って来たんだ。ホント、羨ましい」

 紘正がぼやく。

「ひろまー! おはよう!」
「おはよう日和ちゃん。僕、紘正だよ。そろそろ言えてもいいんじゃないかな?」
「ひろまーはひろまーでいいよ」
「そう……」

 項垂れる紘正にかける言葉は特にない。日和がまだ年少組だったころ、『ひろまさ』が言えなかったものが、今ではすっかりあだ名になってしまっていた。

 初等部へと向かう友人たちと日和を前に、そっとうしろを振り返る。小春の姿はもう校舎の中に入っていた。
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