【完結】中原マナの片想い

桐生千種

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高等部

1年生

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 桜月学園付属桜ノ女子高等学校校門前。その場所で、僕を待つ小春を見るたび心が躍る。小春は、僕のためにそこに立って、僕を――僕だけを待っているのだと。

 けれどその日は、そこにいたのは小春1人ではなくて最近仲良くしているらしい小春の友人が一緒にいた。彼女はたしか、演劇部に入ったと小春に聞いた。今日は、休みなのだろうか。

 そんなことを考えながら、小春を見る。友人と楽しそうに話す小春。こぼれる花のような笑顔。

 ――どんな話をしているの?

 僕と話すときの小春は、そんな笑顔を向けてはくれない。そんな事実に嫉妬する。

「あ、マナ君!」

 話に夢中になっていた小春が、僕に気づいてくれた。そんなことが嬉しく思う。小春は、友人と話すことよりも、僕を選んでくれた、なんて錯覚を起こす。
 小春が友人へと手を振って、僕のもとへと駆けてくる。その姿に、笑みを隠せない。

「友達はいいの?」

 一緒に、なんて言ってほしくないけれど、表面上聞いておく。僕が望む答えを、小春が口にしてくれることを望んで。

「うん、栞ちゃんもお兄さんを待ってるんだって」
「……そっか」

 その友人のいる場所を見ると、目が合った。
 頭を下げるその仕草は、あいさつのつもりなのだろうけど、彼女には僕に対する脅えが見える。
 いつか、小春が僕に向けたものと同じ目だ。

 あの子は、苦手だ……。

「いこう、マナ君」
「……そうだね」

 僕はその子から小春へと視線を移した。
 高校生になってから、小春は積極的に僕と登下校をしてくれる。それは、この時間が残り1年を切った限定的なものになったから。

 永遠に続けばいいのに。永遠に1年生の小春と3年生の僕が続けばいい。そうすれば、この幸福な時間がずっと続く。

「もうすぐ4周年だね」
「……そうだね」

 僕たちが、アイドルとして活動を始めてからもう4年。目まぐるしく変わる日常にもうずいぶんと慣れた。
 今急に、これからの予定が変わったところで驚きはしない。

 着信。

 その音は、メールの受信を知らせるもの。
 確認すれば、事務所から『すぐに来れないか』と。
 家には事務所から連絡がいっていると思うけれど、僕の方からもメールを入れておく。

 『直接事務所に行く』

「小春」

 小春を見れば、小春も同じようにメールを確認していた。

「うん、行こうマナ君」

 言わなくても、通じ合えている満足感。満ち足りた気持ちに浸りながら、僕たちは進路を家から事務所へと変更した。


 小春と一緒なら、どこへでも。
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