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01 小さな世界
02 アイラ(02)
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真っ白なワンピース。
ついさっき見たばかりの、レイナが着ていたものと同じデザインのワンピースを着てアイラはテーブルへと向かった。
真っ白で袖のない、キャミソールタイプのワンピース。
靴だって、レイナと一緒。
アイラが着る服はいつも、レイナと同じ。
それは、レイナと一緒に過すようになってからずっと続いている。
「おはよう、カイト。おはよう、レイナ」
カイトとレイナの待つテーブルへ向かうと、アイラは真っ先にそう声をかける。
「おはよ」
カイトは短くそう返す。
「おはよう」
レイナも「おはよう」と返し、それを聞き届けたアイラは、レイナの隣のイスへと腰を降ろした。
テーブルの上にはすでに、リンが運んできた昼食が並べられている。
「ちゃんと残さず食べるんだよ」
そう言うリンは、一緒にテーブルには着かない。
昼食を摂ることもしない。
近くに立って、四角いボードを触っている。
いつもリンが触っているそれは、いろいろなことができる機械で、アイラにも誰にも触らせないリンだけの大切な仕事道具。
「アイラ、ブロッコリーもちゃんと食べるんだよ。レイナも、ニンジンを残さないの」
リンが言った。
アイラの嫌いなブロッコリーを、お皿の端へ除けて食べようとしない様子をリンはしっかりと見ていた。
レイナがニンジンにまったく手を付けようとしていないことにも気づいていた。
「わかってるもん……」
食べないといけないことはわかっている。
けれど、どうしたってアイラの口の中に入ってきたブロッコリーはおいしくなくて、あとまわしにしたくなってしまう。
「最後に食べるんだもん……」
そうは言っても、もう残っているのはブロッコリーだけだ。
こぼれたパンくずをいじいじしていても、仕方がない。
いい加減、覚悟を決めなければならない。
「ごちそうさまでした」
ふいにカイトから放たれた言葉にアイラが顔を上げると、カイトのお皿は空になり、カイトは片付けをはじめていた。
そんな様子に、アイラは慌ててブロッコリーをフォークに刺す。
昔は、カイトだってミニトマトが嫌いだったのに、今では平気でトマトを食べるようになっていた。
本当は、カイトが苦手だったのはミニトマトで、その理由も『アイラの瞳みたいだから食べたくない』と言う見た目が原因だった。
だから、カイトの食事にミニトマトがそのまま出ることがなくなったから食べられているというだけ。
それでも、アイラにはカイトが苦手を克服しているようにみえて、ほんの少し悔しさがあった。
意を決して、ブロッコリーを頬張るアイラ。
「おいしくない……」
やっぱり、おいしくないものはおいしくない。
「うん。食べれたね、えらい、えらい」
アイラの様子にすかさず褒めてくれるリンだけれど、どうせなら最初からブロッコリーなんて入れないようにしてほしいと、アイラは思った。
せめてアスパラガスにしてくれれば、こんな思いをしなくてすむのに……、と。
「ごちそうさまでした」
食べ終えて、アイラも片付けをはじめた。
隣でレイナも「ごちそうさまでした」と告げて、片付けをはじめた。
レイナが何かをするタイミングは、いつもアイラとそろっていた。
アイラがブロッコリーを残しているなら、レイナもニンジンを残す。
アイラが食べたなら、レイナも。
そんなことを、レイナは意図的に、無意識に、クセのように行っていた。
「カイト、いってらっしゃい」
食事を終えて、扉の前でアイラはカイトに言う。
アイラが決して出ることを許されない扉。
カイトはいつも、その扉を開けて部屋の外へと出かけて行ってしまう。
それはとても寂しいことだけれど、アイラは我慢する。
カイトと交わした約束を果たすためにも、アイラは大人しく定められた部屋で大人しく待っている。
「いってきます」
そう言って扉の外へと出ていくカイトを、レイナと並んで見送る習慣は、カイトとの約束。
――いってきますを言うから、いってらっしゃいを言ってほしい。
――ただいまを言うから、おかえりを言ってほしい。
――カイトの帰る場所は、アイラのいる場所だから。
――だから、カイトを待っていてほしい。
そう約束を交わした。
いつか、ずっと一緒にいられる日のために、カイトは頑張っているから。
朝目が覚めて、夜眠りにつくまで。
誰にも邪魔されず、何にも邪魔されない。
ずっと、一緒にいられる日々を手に入れるために。
アイラはアイラにできることを。
カイトを応援すること。
カイトを見送ること。
カイトを迎えること。
カイトの帰る場所であること。
それがアイラにできる、唯一絶対の約束――
ついさっき見たばかりの、レイナが着ていたものと同じデザインのワンピースを着てアイラはテーブルへと向かった。
真っ白で袖のない、キャミソールタイプのワンピース。
靴だって、レイナと一緒。
アイラが着る服はいつも、レイナと同じ。
それは、レイナと一緒に過すようになってからずっと続いている。
「おはよう、カイト。おはよう、レイナ」
カイトとレイナの待つテーブルへ向かうと、アイラは真っ先にそう声をかける。
「おはよ」
カイトは短くそう返す。
「おはよう」
レイナも「おはよう」と返し、それを聞き届けたアイラは、レイナの隣のイスへと腰を降ろした。
テーブルの上にはすでに、リンが運んできた昼食が並べられている。
「ちゃんと残さず食べるんだよ」
そう言うリンは、一緒にテーブルには着かない。
昼食を摂ることもしない。
近くに立って、四角いボードを触っている。
いつもリンが触っているそれは、いろいろなことができる機械で、アイラにも誰にも触らせないリンだけの大切な仕事道具。
「アイラ、ブロッコリーもちゃんと食べるんだよ。レイナも、ニンジンを残さないの」
リンが言った。
アイラの嫌いなブロッコリーを、お皿の端へ除けて食べようとしない様子をリンはしっかりと見ていた。
レイナがニンジンにまったく手を付けようとしていないことにも気づいていた。
「わかってるもん……」
食べないといけないことはわかっている。
けれど、どうしたってアイラの口の中に入ってきたブロッコリーはおいしくなくて、あとまわしにしたくなってしまう。
「最後に食べるんだもん……」
そうは言っても、もう残っているのはブロッコリーだけだ。
こぼれたパンくずをいじいじしていても、仕方がない。
いい加減、覚悟を決めなければならない。
「ごちそうさまでした」
ふいにカイトから放たれた言葉にアイラが顔を上げると、カイトのお皿は空になり、カイトは片付けをはじめていた。
そんな様子に、アイラは慌ててブロッコリーをフォークに刺す。
昔は、カイトだってミニトマトが嫌いだったのに、今では平気でトマトを食べるようになっていた。
本当は、カイトが苦手だったのはミニトマトで、その理由も『アイラの瞳みたいだから食べたくない』と言う見た目が原因だった。
だから、カイトの食事にミニトマトがそのまま出ることがなくなったから食べられているというだけ。
それでも、アイラにはカイトが苦手を克服しているようにみえて、ほんの少し悔しさがあった。
意を決して、ブロッコリーを頬張るアイラ。
「おいしくない……」
やっぱり、おいしくないものはおいしくない。
「うん。食べれたね、えらい、えらい」
アイラの様子にすかさず褒めてくれるリンだけれど、どうせなら最初からブロッコリーなんて入れないようにしてほしいと、アイラは思った。
せめてアスパラガスにしてくれれば、こんな思いをしなくてすむのに……、と。
「ごちそうさまでした」
食べ終えて、アイラも片付けをはじめた。
隣でレイナも「ごちそうさまでした」と告げて、片付けをはじめた。
レイナが何かをするタイミングは、いつもアイラとそろっていた。
アイラがブロッコリーを残しているなら、レイナもニンジンを残す。
アイラが食べたなら、レイナも。
そんなことを、レイナは意図的に、無意識に、クセのように行っていた。
「カイト、いってらっしゃい」
食事を終えて、扉の前でアイラはカイトに言う。
アイラが決して出ることを許されない扉。
カイトはいつも、その扉を開けて部屋の外へと出かけて行ってしまう。
それはとても寂しいことだけれど、アイラは我慢する。
カイトと交わした約束を果たすためにも、アイラは大人しく定められた部屋で大人しく待っている。
「いってきます」
そう言って扉の外へと出ていくカイトを、レイナと並んで見送る習慣は、カイトとの約束。
――いってきますを言うから、いってらっしゃいを言ってほしい。
――ただいまを言うから、おかえりを言ってほしい。
――カイトの帰る場所は、アイラのいる場所だから。
――だから、カイトを待っていてほしい。
そう約束を交わした。
いつか、ずっと一緒にいられる日のために、カイトは頑張っているから。
朝目が覚めて、夜眠りにつくまで。
誰にも邪魔されず、何にも邪魔されない。
ずっと、一緒にいられる日々を手に入れるために。
アイラはアイラにできることを。
カイトを応援すること。
カイトを見送ること。
カイトを迎えること。
カイトの帰る場所であること。
それがアイラにできる、唯一絶対の約束――
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