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03 変わる世界
03 記録と記憶①
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シノと別れて、自分の持ち場へ、アイラとカイトとレイナがいる部屋へと向かう途中、リンは記憶を呼び起こしていた。
かつて、アイラが生まれるよりも前に短くも同じ時間を過した少女たち。
初めの子は、アイシー。
笑顔の絶えない子だった。
小さな身体で、好奇心旺盛で、何にでも興味を示しては、コロコロと表情を変えて、そうして最後には笑っていた。
そんなアイシーは、リンと出会ってから3ヶ月ほどで帰ることのない光になった。
初めからわかっていたことだった。
アイシーは、ある一定値以上の能力を持たせたら、どれだけ身体がもつのか。
それを知るために、データを取るために生み出された子だった。
アイシーは長く生きられない。
出会ったときからわかっていたことだったけれど、最期の瞬間までアイシーは笑っていて、リンはひどく苦しくなった。
アイシーがいなくなってすぐ、リンのところにはアイハが来た。
アイハはアイシーとは正反対の子だった。
いつも怯えて、笑顔をみせることはなかった。
アイハはそこに存在しないものに怯えていた。
過去の、ネオが生まれはじめたばかりの頃の幻。
ずさんな管理体制に、劣悪な生活環境。
虐待する大人たち。
アイハの現在の時間には存在しないものばかりが、アイハを苦しめていた。
「怖い大人はいない。悪いことは起こらない」
リンがそう言葉をかけても、アイハには届かなかった。
存在しない過去に怯え、そんな生活が半年間続いた。
皮肉にも、アイシーから取れたデータをもとにして改良されたアイハという個体は、3ヶ月から半年へと能力に対する身体の耐久性を上げていた。
けれど、心ばかりはどうすることもできずに、アイハの心は限界を迎え、同時に身体も半年が限界だった。
アイハが帰らない光となったとき、リンはほっとしていた。
もう、アイハが過去に苦しめられることはないのだから、と。
アイヒがいなくなって、間を置かずしてアイヒがやって来た。
出会った瞬間、リンは悟った。
リンは、アイヒと共に光になるのだろう、と。
アイヒはとても賢く、優しい子だった。
強い能力を持ちながら、それに耐えうる可能性を持った身体を持ち、それでいて心も正常。
だからこそ、アイヒは怯えていた。
心身ともに問題がなく、周囲の状況を的確に判断できるアイヒだからこそ、自身でコントロールしきれない能力の存在に怯えていた。
日増しに強くなるアイヒの能力は、アイヒの意志ではどうにもできないほどに増大し、遂には周囲のものを手当たり次第に破壊するようになってしまった。
その原因が自分にあると、アイヒは理解し、その小さな心では抱えきれない不安や悲しみを背負って、「誰も近づくな」と泣いていた。
本当は、アイヒの方が誰かに泣きついてしまいたいはずなのに、助けてほしいと願っているはずなのに、アイヒはそれをしなかった。
そうすれば、相手がどうなるかアイヒはわかっていた。
だからこそ、リンは逃げるアイヒを捕まえて抱きしめたのだ。
「大丈夫だよ」
その声が、アイヒに届いたかは定かではないけれど、アイヒはリンを最期には抱きしめ返していた。
――僕が一緒にいるからね……。
その言葉は、もう声にはならなかったけれど、きっとアイヒには届いたはずだ。
こうしてリンは、アイヒと共に1度目の光を経験した。
かつて、アイラが生まれるよりも前に短くも同じ時間を過した少女たち。
初めの子は、アイシー。
笑顔の絶えない子だった。
小さな身体で、好奇心旺盛で、何にでも興味を示しては、コロコロと表情を変えて、そうして最後には笑っていた。
そんなアイシーは、リンと出会ってから3ヶ月ほどで帰ることのない光になった。
初めからわかっていたことだった。
アイシーは、ある一定値以上の能力を持たせたら、どれだけ身体がもつのか。
それを知るために、データを取るために生み出された子だった。
アイシーは長く生きられない。
出会ったときからわかっていたことだったけれど、最期の瞬間までアイシーは笑っていて、リンはひどく苦しくなった。
アイシーがいなくなってすぐ、リンのところにはアイハが来た。
アイハはアイシーとは正反対の子だった。
いつも怯えて、笑顔をみせることはなかった。
アイハはそこに存在しないものに怯えていた。
過去の、ネオが生まれはじめたばかりの頃の幻。
ずさんな管理体制に、劣悪な生活環境。
虐待する大人たち。
アイハの現在の時間には存在しないものばかりが、アイハを苦しめていた。
「怖い大人はいない。悪いことは起こらない」
リンがそう言葉をかけても、アイハには届かなかった。
存在しない過去に怯え、そんな生活が半年間続いた。
皮肉にも、アイシーから取れたデータをもとにして改良されたアイハという個体は、3ヶ月から半年へと能力に対する身体の耐久性を上げていた。
けれど、心ばかりはどうすることもできずに、アイハの心は限界を迎え、同時に身体も半年が限界だった。
アイハが帰らない光となったとき、リンはほっとしていた。
もう、アイハが過去に苦しめられることはないのだから、と。
アイヒがいなくなって、間を置かずしてアイヒがやって来た。
出会った瞬間、リンは悟った。
リンは、アイヒと共に光になるのだろう、と。
アイヒはとても賢く、優しい子だった。
強い能力を持ちながら、それに耐えうる可能性を持った身体を持ち、それでいて心も正常。
だからこそ、アイヒは怯えていた。
心身ともに問題がなく、周囲の状況を的確に判断できるアイヒだからこそ、自身でコントロールしきれない能力の存在に怯えていた。
日増しに強くなるアイヒの能力は、アイヒの意志ではどうにもできないほどに増大し、遂には周囲のものを手当たり次第に破壊するようになってしまった。
その原因が自分にあると、アイヒは理解し、その小さな心では抱えきれない不安や悲しみを背負って、「誰も近づくな」と泣いていた。
本当は、アイヒの方が誰かに泣きついてしまいたいはずなのに、助けてほしいと願っているはずなのに、アイヒはそれをしなかった。
そうすれば、相手がどうなるかアイヒはわかっていた。
だからこそ、リンは逃げるアイヒを捕まえて抱きしめたのだ。
「大丈夫だよ」
その声が、アイヒに届いたかは定かではないけれど、アイヒはリンを最期には抱きしめ返していた。
――僕が一緒にいるからね……。
その言葉は、もう声にはならなかったけれど、きっとアイヒには届いたはずだ。
こうしてリンは、アイヒと共に1度目の光を経験した。
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