【完結】EACH-アイラが愛した世界-

桐生千種

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03 変わる世界

14 レイナの決意

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 カイトの研究室を出たレイナは1人、ある場所へと来ていた。

 限られた人間しか立ち入ることを許されていない場所。

 眠り続けるネオがいる場所。

 レイナはその能力から、立ち入ることを許されていた。
 もしかしたら、アイラと共鳴するレイナなら、このネオとも共鳴するかもしれない、と。

 結果は、共鳴どころか何も感じ取ることもできなかった。
 とうに諦めていたはずったけれど、先日、アイラと共鳴したことでレイナにもその余波が及んでいた。

 そして、とても耐えられないと、心の底からそう思った。

 けれど、レイナはもう決めてしまったいた。
 その時が来たら、アイラを追いかけて行こうと。

 時代遅れの巨大なコンピューターに繋がれた、真っ白な髪の、アイラによく似たネオの少女。

 実際には、アイラが似ているのだけれど、レイナにとってはアイラに似ているで正解だった。

 レイナはこのネオのことを何も知らない。
 ただ、何年も眠っている、初代に近いネオであるということしか教えられていなかった。

 その年代を考えれば、少女というには程遠いはずだった。
 けれど、その姿は、少女と言ってもおかしくはなかった。
 アイラと比べれば大人びて見えるけれど、どう見てもネオが生まれはじめた世代の人物だとは思えなかった。

 おとぎ話の守り姫のように、少女は眠る。
 何年も、その瞼を開いてはいない。

 けれど、レイナは知っていた。

 その瞼の奥にあるのが、アイラと同じ赤い瞳であることを。

 少女がいつも、アイラたちを見ていたことを、アイラを通して知っていた。

 最近になって、その姿を見せなくなっていたことも知っていた。

「笑っちゃうよね」

 レイナは、答える者のいない部屋の中で呟いた。

「守り姫、なんてさ。一体何から、何を守ってるんだろうね」

 自虐的にレイナは言った。

 『守り姫』は幼い頃、シノの話を聞いてレイナが創作した作り話だった。

 初めてこの部屋に連れて来られて、この少女の話を聞いた。
 シノとリンを救ってくれた、恩人だと。

 何があったのか、そこで語られることはなかったけれど、教育プログラムを受講していく中で新人類ネオと旧人類ヒトとの歴史は否応なしに知識として入って来る。

 何があったのか、簡単に想像がついた。

 初めは、単にアイラの暇つぶしにでもなればいいと軽い気持ちで作った。

 それがどういうわけか、のちの話が追加され、今の状態になっていた。

「アナタが起きないせいで、何人も子供が死んだ。知ってるんでしょう? ずっとレイナたちのこと、見てたんだから」

 返事なんて、期待していない。
 それでも、どこかに吐き出してしまいたかった。

「アナタさえ起きてくれたら、あの人は全部やめてくれる。誰も死なない。アイラも、他の子たちも」

 すべては、目の前のネオが原因だとでも言うようだった。

「なんて、アナタにどうにかできる問題じゃないってこともわかってるんだけどね」

 ここにアイラはいない。
 だから、レイナはその少女がレイナの言葉を聞いていることも、レイナを見ていることも気づかなかった。

 ――ごめんなさい……。

 その言葉も、レイナには届かなかった。

「じゃあね。愚痴、聞いてくれてありがとう。次来るときは、少しくらい話せるといいな。そっちの世界で」

 レイナはそう言い残すと、そっと部屋を出て行った。

 あとには、眠り続ける少女の身体と、誰にも見ることできない――アイラにしか視ることのできない、少女の意識だけが残されていた。
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