【完結】好きです、ハナちゃんっ!

桐生千種

文字の大きさ
2 / 4

2.好きになる

しおりを挟む
 吉川よしかわ翔太しょうた、5歳。

 桜月さくらづき学園がくえん幼等部ようとうぶ、年中組。

 僕は今、絶体絶命の大ピンチ。

「だれのー?」

 そう言って、右手を掲げるハルカ君(年長組)。

 その手には、ピンク色のハンカチ。

 かわいい、ハンカチ。

 ――ぼくの。

 言いたい言葉は、喉につっかえて出てこない。

 なにも、年長組のハルカ君が怖いとか、そう言うんじゃない。

 ピンク色のハンカチを、女の子みたいなハンカチを、男の子の僕が持って来たっていうことを、みんなに知られるのが恥ずかしかった。

 でも、ハンカチを持って帰らなかったら、きっとママに怒られる。

 ――ぼくの。ぼくの。

 念じたところで声は出ない。

 ハルカ君が、気づいてくれるわけもない。

「ちがうー?」

 みんなの視線が集まる中、ハルカ君が女の子ひとりひとりに聞き始めた。

 やっぱり、女の子のだって思ってる。

 いよいよ、言い出せなくなった。

 そのときだった。

 ハナちゃん(年中組)が、ハルカ君に近づいたんだ。

 え? って思った。

 どうして? って。

 だって……。

「あ、ハナちゃんのだったんだね。はい、どーぞ」

 って、ハルカ君はハナちゃんにハンカチを渡して。

 ハナちゃんも、ハルカ君からハンカチを受け取ったから。

 僕のハンカチなのに、どうして、って。

 ハナちゃんが、自分のみたいに受け取ったことが信じられなかった。

 でも、ハナちゃんはすぐに僕のところに向かって来たんだ。

「……」

 ハナちゃんは、なにも言わないで僕に受け取ったばかりのハンカチを差し出した。

「え?」

 どういう意味かわからなくて固まっていると、ハナちゃんはじっと僕を見つめたまま。

「……」

 なにも言わないまま、だけどグイッ! と僕にハンカチを押しつけて離れて行った。

 僕の手には、僕のハンカチ。

 離れて行った、ハナちゃんを見た。

 仲良しのコトネちゃんにくっついて、笑っていた。

 ふと、ハナちゃんを見ている僕に気づいて、目が合った。

 ハナちゃんは、キョトンと僕を見つめて、そして、小首を傾げながら小さく笑った。

 たぶんこれが、僕がハナちゃんのことを好きになった瞬間――
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...