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2.好きになる
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吉川翔太、5歳。
桜月学園幼等部、年中組。
僕は今、絶体絶命の大ピンチ。
「だれのー?」
そう言って、右手を掲げるハルカ君(年長組)。
その手には、ピンク色のハンカチ。
かわいい、ハンカチ。
――ぼくの。
言いたい言葉は、喉につっかえて出てこない。
なにも、年長組のハルカ君が怖いとか、そう言うんじゃない。
ピンク色のハンカチを、女の子みたいなハンカチを、男の子の僕が持って来たっていうことを、みんなに知られるのが恥ずかしかった。
でも、ハンカチを持って帰らなかったら、きっとママに怒られる。
――ぼくの。ぼくの。
念じたところで声は出ない。
ハルカ君が、気づいてくれるわけもない。
「ちがうー?」
みんなの視線が集まる中、ハルカ君が女の子ひとりひとりに聞き始めた。
やっぱり、女の子のだって思ってる。
いよいよ、言い出せなくなった。
そのときだった。
ハナちゃん(年中組)が、ハルカ君に近づいたんだ。
え? って思った。
どうして? って。
だって……。
「あ、ハナちゃんのだったんだね。はい、どーぞ」
って、ハルカ君はハナちゃんにハンカチを渡して。
ハナちゃんも、ハルカ君からハンカチを受け取ったから。
僕のハンカチなのに、どうして、って。
ハナちゃんが、自分のみたいに受け取ったことが信じられなかった。
でも、ハナちゃんはすぐに僕のところに向かって来たんだ。
「……」
ハナちゃんは、なにも言わないで僕に受け取ったばかりのハンカチを差し出した。
「え?」
どういう意味かわからなくて固まっていると、ハナちゃんはじっと僕を見つめたまま。
「……」
なにも言わないまま、だけどグイッ! と僕にハンカチを押しつけて離れて行った。
僕の手には、僕のハンカチ。
離れて行った、ハナちゃんを見た。
仲良しのコトネちゃんにくっついて、笑っていた。
ふと、ハナちゃんを見ている僕に気づいて、目が合った。
ハナちゃんは、キョトンと僕を見つめて、そして、小首を傾げながら小さく笑った。
たぶんこれが、僕がハナちゃんのことを好きになった瞬間――
桜月学園幼等部、年中組。
僕は今、絶体絶命の大ピンチ。
「だれのー?」
そう言って、右手を掲げるハルカ君(年長組)。
その手には、ピンク色のハンカチ。
かわいい、ハンカチ。
――ぼくの。
言いたい言葉は、喉につっかえて出てこない。
なにも、年長組のハルカ君が怖いとか、そう言うんじゃない。
ピンク色のハンカチを、女の子みたいなハンカチを、男の子の僕が持って来たっていうことを、みんなに知られるのが恥ずかしかった。
でも、ハンカチを持って帰らなかったら、きっとママに怒られる。
――ぼくの。ぼくの。
念じたところで声は出ない。
ハルカ君が、気づいてくれるわけもない。
「ちがうー?」
みんなの視線が集まる中、ハルカ君が女の子ひとりひとりに聞き始めた。
やっぱり、女の子のだって思ってる。
いよいよ、言い出せなくなった。
そのときだった。
ハナちゃん(年中組)が、ハルカ君に近づいたんだ。
え? って思った。
どうして? って。
だって……。
「あ、ハナちゃんのだったんだね。はい、どーぞ」
って、ハルカ君はハナちゃんにハンカチを渡して。
ハナちゃんも、ハルカ君からハンカチを受け取ったから。
僕のハンカチなのに、どうして、って。
ハナちゃんが、自分のみたいに受け取ったことが信じられなかった。
でも、ハナちゃんはすぐに僕のところに向かって来たんだ。
「……」
ハナちゃんは、なにも言わないで僕に受け取ったばかりのハンカチを差し出した。
「え?」
どういう意味かわからなくて固まっていると、ハナちゃんはじっと僕を見つめたまま。
「……」
なにも言わないまま、だけどグイッ! と僕にハンカチを押しつけて離れて行った。
僕の手には、僕のハンカチ。
離れて行った、ハナちゃんを見た。
仲良しのコトネちゃんにくっついて、笑っていた。
ふと、ハナちゃんを見ている僕に気づいて、目が合った。
ハナちゃんは、キョトンと僕を見つめて、そして、小首を傾げながら小さく笑った。
たぶんこれが、僕がハナちゃんのことを好きになった瞬間――
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