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記憶のない少年
砂嵐
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学校のベランダにいたはずの僕は、10 メートル先も見えない砂嵐の世界にいた。
耳障りな「ザアア」という音が鼓膜の奥から聞こえるこの感覚が嫌いである。
「夢の世界にお戻りってかパチもん」
話しかけられて振り向くと半透明の僕が立っていた。
黒髪ツーブロックで同じ顔、身長も同じ175センチで学校指定の同じブレザー姿。
見慣れてきたとはいえ、鏡に映った自分と会話をしているようで少し気味が悪い。
まあ見た目が悪くないのがせめてもの救いだろうか。
僕をパチもんと呼ぶこのそっくりさんがどういう存在かは分からないけど、おそらく僕自身だと思う。
夢の中とはいえ、なぜ僕らは二つに別れているのかは未だ謎のままである。
昏睡状態から目覚めた直後から夢の中に現れ、馴れ馴れしく話しかけてくるようになった。
初めての友達が現実よりも先に夢の中で出来た。
僕はその友達をバッタもんと呼んでいる。
「バッタもんがいるってことは、ここは夢の中か。僕は学校のベランダにいたはずだけど?」
バッタもんはおどけた顔をして首をすくめる。
「パチもんが急に倒れたんだ。それで夢の中へってこと。それよりも昔の彼女にあった感想はどうだ? ビックリするくらい美人だろ神山恵。俺と恵が付き合ってなかったら知り合えなかったんだぜ。感謝しろよパチもん。さあ俺を褒め称えろ、さあ崇め奉れ!」
「少しは倒れた僕の心配したらどうだ。てか神山先輩の存在を思い出したのは今だよな? 大切な彼女を今の今まで忘れてたくせに、ちゃっかり彼女の自慢をする神経の太さにあきれるよ。まったく調子のいい奴だ」
「何でバレてる……けっ、俺を冷静に分析しやがってムカつく。パチもんのそういう所が気に食わない」
「僕は事実を言っているだけだ。バッタもんとの付き合いはまだ短いけど、今までの行動と言動を知っていれば、普通の人ならバッタもんの考えそうな事くらいすぐに分かるさ」
「あ、ごめん。分かりやすく説明してくれよパチもん」
「……ようはバッタもんが特別に分かりやすい奴なだけだよ」
「いやぁ、それ程でもねえよ」
バッタもんは後頭部を撫で、満更でもない表情をしていた
「褒めたつもりはないんだけどな。他に思い出した事はないか?」
「あるぞ、今からそこへ連れてってやる」
バッタもんは俺の左手首を乱暴に掴むと、飼い主を引っ張る馬鹿犬のように砂嵐の中を走りまくった。
できれば手を繋いで走る青春っぽいシチュエーションは男子ではなく女子が良いと思った。
やがて砂嵐を抜ける。
僕とバッタもんが着いた場所は教室のベランダである。
僕たち以外には、グラビアポーズをしてまま動かない神山先輩がいた。
周りには生徒の存在を感じない
僕ら三人しかいない世界のようだ。
「バッタもんが思い出した記憶がここか? てさか、さっき僕と神山先輩の会話をしている風景なんだが。実はなにも思い出せてないよな?」
「そんなことはない。おかげで恵のオッパイを揉めるチャンスが巡ってきた」
「はあ? 本当にゲス野郎だなバッタもんは」
「動かない女の子を悪戯するのは男のロマン。日本男子の嗜みだ」
「バッタもんの性癖を日本男子の総意とするなよゲス野郎」
「ゲス野郎上等。俺は恵と最後までヤっちゃうぜ。パチもんの番は俺が終わった後でな」
バッタもんは神山先輩の背後へ回り込み、厭らしい表情で胸を鷲掴みにした。
けれどすぐに魂の脱け殻のような表情になってパッと手を離した。
何となく理由を察した。
「俺さあ、恵のオッパイの柔らかさを覚えてねえわ。何の感触がねえのよ」
「でしょうね」
バッタもんは神山先輩から離れてベランダの手摺に寄りかかり、校庭を眺めながらボヤいた。
「恵の事を思い出せたのはごく僅かよ。どんな性格でどんな風に付き合ってたか、さっぱり思い出せんわ。パチもんは何か思い出したか?」
「とくに何も」
「変だな。俺はお前の見た物や聴いたことを通して少しずつ失った記憶を思い出しているけど、何でパチもんは、何にも思い出せないんだ?」
バッタもんは間抜け顔をしているが、鋭いことを言っていた。
僕もそれが気がかりだった。
自力で思い出した事は一度もない。
バッタもんが思い出した記憶を僕が知識としているにすぎない。
この現象をどう解釈していいか分からなかった
「とりあえず僕たちがやるべきことは、喪失した記憶の復元が優先だ。記憶が戻れば全ては解決なんだから、気にしなくて良いと思う」
「難しいことはパチもんに全て任せた。とりあえずは恵と一緒にいれば何か思い出すはずだぜ。例えば恵とデートしたりとか、あるいはオッパイとお尻を揉んだりとか。ひょっとそれ以上も……イヒヒ。あ、パンツを見てきてくれパンツ。スカートの中が透明じゃつまらんから」
バッタもんは恵のスカートを捲ってため息を吐いた。
「本当にクズだなバッタもん。てかさ、記憶を失くす前の僕らがそういう行為してるとは限らない訳だ。もし童貞だったら美味しい思いをするのは僕だけど」
「それは駄目だ。絶対に駄目だ。高校入学早々に童貞卒業とはけしからん。そんなハレンチな行為は認められません。不順異性交遊は風紀委員であるこの俺が許さん!」
バッタもんは眉を吊り上げ、口を真一文字に結び、僕に人差し指を差して注意した。
ていうか自称風紀委員を名乗る前に胸や尻を揉めとか、スカートの中身を見て来いとか、エロ指令を出したのはどちら様ですかと問い質してやたい。
「と、とにかくパチもんよ、現実へ戻って新たな恵の情報を持ち帰って来い。でも恵と不純異性交遊に走らぬようにな。さあ行け、我がしもべよ」
バッタもんは顎を上げて偉そうに指示する。
尊大な態度にムカつく。
「人にものを頼む態度じゃないだろそれ。もう少し丁寧に言わないとバッタもんの指示には従わないからな」
「いやあ、ちょっと待って下さいよパチもんさん。君が協力してくれないと記憶が戻らないでしょ? 頼みますよぉバッタもんさん。あ、こんな所に糸屑が着いておりますよぉ」
バッタもんは軽やかなステップで僕に近づく。
僕の上半身に着いたゴミ取ったり、払ったりしながら背後へ回り込むと。
「大人しく俺の指示に従えや!」
バッタもんに襟首をガシッと掴まれ、子猫のようにヒョイッと持ち上げられた。
「おい、何をする気だパチもん」
「お前を投げるんだよ」
砂嵐の中へポイッと投げ込まれる。
投げ飛ばされた僕は徐々に意識が薄れていった。
耳障りな「ザアア」という音が鼓膜の奥から聞こえるこの感覚が嫌いである。
「夢の世界にお戻りってかパチもん」
話しかけられて振り向くと半透明の僕が立っていた。
黒髪ツーブロックで同じ顔、身長も同じ175センチで学校指定の同じブレザー姿。
見慣れてきたとはいえ、鏡に映った自分と会話をしているようで少し気味が悪い。
まあ見た目が悪くないのがせめてもの救いだろうか。
僕をパチもんと呼ぶこのそっくりさんがどういう存在かは分からないけど、おそらく僕自身だと思う。
夢の中とはいえ、なぜ僕らは二つに別れているのかは未だ謎のままである。
昏睡状態から目覚めた直後から夢の中に現れ、馴れ馴れしく話しかけてくるようになった。
初めての友達が現実よりも先に夢の中で出来た。
僕はその友達をバッタもんと呼んでいる。
「バッタもんがいるってことは、ここは夢の中か。僕は学校のベランダにいたはずだけど?」
バッタもんはおどけた顔をして首をすくめる。
「パチもんが急に倒れたんだ。それで夢の中へってこと。それよりも昔の彼女にあった感想はどうだ? ビックリするくらい美人だろ神山恵。俺と恵が付き合ってなかったら知り合えなかったんだぜ。感謝しろよパチもん。さあ俺を褒め称えろ、さあ崇め奉れ!」
「少しは倒れた僕の心配したらどうだ。てか神山先輩の存在を思い出したのは今だよな? 大切な彼女を今の今まで忘れてたくせに、ちゃっかり彼女の自慢をする神経の太さにあきれるよ。まったく調子のいい奴だ」
「何でバレてる……けっ、俺を冷静に分析しやがってムカつく。パチもんのそういう所が気に食わない」
「僕は事実を言っているだけだ。バッタもんとの付き合いはまだ短いけど、今までの行動と言動を知っていれば、普通の人ならバッタもんの考えそうな事くらいすぐに分かるさ」
「あ、ごめん。分かりやすく説明してくれよパチもん」
「……ようはバッタもんが特別に分かりやすい奴なだけだよ」
「いやぁ、それ程でもねえよ」
バッタもんは後頭部を撫で、満更でもない表情をしていた
「褒めたつもりはないんだけどな。他に思い出した事はないか?」
「あるぞ、今からそこへ連れてってやる」
バッタもんは俺の左手首を乱暴に掴むと、飼い主を引っ張る馬鹿犬のように砂嵐の中を走りまくった。
できれば手を繋いで走る青春っぽいシチュエーションは男子ではなく女子が良いと思った。
やがて砂嵐を抜ける。
僕とバッタもんが着いた場所は教室のベランダである。
僕たち以外には、グラビアポーズをしてまま動かない神山先輩がいた。
周りには生徒の存在を感じない
僕ら三人しかいない世界のようだ。
「バッタもんが思い出した記憶がここか? てさか、さっき僕と神山先輩の会話をしている風景なんだが。実はなにも思い出せてないよな?」
「そんなことはない。おかげで恵のオッパイを揉めるチャンスが巡ってきた」
「はあ? 本当にゲス野郎だなバッタもんは」
「動かない女の子を悪戯するのは男のロマン。日本男子の嗜みだ」
「バッタもんの性癖を日本男子の総意とするなよゲス野郎」
「ゲス野郎上等。俺は恵と最後までヤっちゃうぜ。パチもんの番は俺が終わった後でな」
バッタもんは神山先輩の背後へ回り込み、厭らしい表情で胸を鷲掴みにした。
けれどすぐに魂の脱け殻のような表情になってパッと手を離した。
何となく理由を察した。
「俺さあ、恵のオッパイの柔らかさを覚えてねえわ。何の感触がねえのよ」
「でしょうね」
バッタもんは神山先輩から離れてベランダの手摺に寄りかかり、校庭を眺めながらボヤいた。
「恵の事を思い出せたのはごく僅かよ。どんな性格でどんな風に付き合ってたか、さっぱり思い出せんわ。パチもんは何か思い出したか?」
「とくに何も」
「変だな。俺はお前の見た物や聴いたことを通して少しずつ失った記憶を思い出しているけど、何でパチもんは、何にも思い出せないんだ?」
バッタもんは間抜け顔をしているが、鋭いことを言っていた。
僕もそれが気がかりだった。
自力で思い出した事は一度もない。
バッタもんが思い出した記憶を僕が知識としているにすぎない。
この現象をどう解釈していいか分からなかった
「とりあえず僕たちがやるべきことは、喪失した記憶の復元が優先だ。記憶が戻れば全ては解決なんだから、気にしなくて良いと思う」
「難しいことはパチもんに全て任せた。とりあえずは恵と一緒にいれば何か思い出すはずだぜ。例えば恵とデートしたりとか、あるいはオッパイとお尻を揉んだりとか。ひょっとそれ以上も……イヒヒ。あ、パンツを見てきてくれパンツ。スカートの中が透明じゃつまらんから」
バッタもんは恵のスカートを捲ってため息を吐いた。
「本当にクズだなバッタもん。てかさ、記憶を失くす前の僕らがそういう行為してるとは限らない訳だ。もし童貞だったら美味しい思いをするのは僕だけど」
「それは駄目だ。絶対に駄目だ。高校入学早々に童貞卒業とはけしからん。そんなハレンチな行為は認められません。不順異性交遊は風紀委員であるこの俺が許さん!」
バッタもんは眉を吊り上げ、口を真一文字に結び、僕に人差し指を差して注意した。
ていうか自称風紀委員を名乗る前に胸や尻を揉めとか、スカートの中身を見て来いとか、エロ指令を出したのはどちら様ですかと問い質してやたい。
「と、とにかくパチもんよ、現実へ戻って新たな恵の情報を持ち帰って来い。でも恵と不純異性交遊に走らぬようにな。さあ行け、我がしもべよ」
バッタもんは顎を上げて偉そうに指示する。
尊大な態度にムカつく。
「人にものを頼む態度じゃないだろそれ。もう少し丁寧に言わないとバッタもんの指示には従わないからな」
「いやあ、ちょっと待って下さいよパチもんさん。君が協力してくれないと記憶が戻らないでしょ? 頼みますよぉバッタもんさん。あ、こんな所に糸屑が着いておりますよぉ」
バッタもんは軽やかなステップで僕に近づく。
僕の上半身に着いたゴミ取ったり、払ったりしながら背後へ回り込むと。
「大人しく俺の指示に従えや!」
バッタもんに襟首をガシッと掴まれ、子猫のようにヒョイッと持ち上げられた。
「おい、何をする気だパチもん」
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投げ飛ばされた僕は徐々に意識が薄れていった。
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