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記憶のない少年
教室の支配者1
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ここまで露骨ないじめをしてくるとは思わなかった。
とりあえずこれを証拠に残そうと、鞄からスマホを取り出して画像を残した。
この状態をキープしてホームルームにくる担任の浜口先生に現状を訴えようと思う。
席に着き、周りの生徒の様子を窺う。
昨日、僕をロダンと言って馬鹿にしていた竹田と木下は窓側の席でニタニタしていた。
他の生徒は目を伏せて見て見ぬふりをしていた。
巻き込まれたくない気持ちも理解できるが、何のアクションを起こさない同級生に失望した。
チャイムが鳴ると同時に浜口先生が教室に入ってきた。
黒髪のポニーテールを揺らしながら颯爽と歩く。
一見地味だけど、いつもニコニコしていて僕は先生に好印象を抱いていた。
浜口先生ならきっと助けてくれると信じて声をかけた。
「浜口先生、これを見てください。僕が登校してきた時には、このように仏花が置いてありました。これは明らかないじめです。僕は学校にいじめの解決を望みます」
先生はチラリと僕に視線を向けただけで、何も言わずに教壇に立つ。
「えー、朝から皆さんに悲しいお知らせをしなければなりません。月島至恩くんが登校中に交通事故で亡くなりました。月島くんの冥福をいのりましょう」
「……先生?」
僕の理解を超えていた。
混乱する脳。
何とか脳を回転させて状況の把握につとめるものの、動揺して手と足が震え出した。
「そっか、ロダンさんは死んだのか。残念だな、ああ悲しいな。木下もそう思うだろ?」
「竹田は優しいな。俺はロダンさんが死んで悲しいなんてこれっぽっちも思ってないけどな。むしろ死んでくれて感謝しているぜ」
「酷いな木下。でも実は俺もそう思ってる」
混乱しているのに追い討ちをかけられた。
本人がいる前によくもここまで酷い事を言えるものだと思う。
性根が腐りきっているとしか思えない。
「はい、質問があります」
竹田は挙手をした。
浜口先生は「どうぞ竹田くん」と促す。
竹田が立ち上がると僕を見ながら発言をした。
「ロダンくんが見えるんですけど、これはどういう事ですか?」
「良い質問ですね。お答えします。あれは悪霊ですね。呪われるかもしれませんから決して近づいてはいけませんよ」
「でも向こうから近づいて来た場合は?」
「その対策を今から教えます」
浜口先生はニコニコと笑いながら僕へ歩み寄ってきて右手を振り上げた。
「パチン」
乾いた音と共に伝わる頬の痛み。
僕は左頬をさすりながら浜口先生を睨んだ。
その刹那。
「ペッ」
顔面に唾を吐きかけられた。
同時にホームルームの終わりを告げるチャイムが鳴る。
「はい、ホームルームはここまで。一限目の授業は私の現国ですので、トイレに行くなら今のうちにね」
教壇へ戻る浜口先生の背を睨んだまま、顔に付いた唾をハンカチで拭き取った。
僕は大きな勘違いをしていたようだ。
いじめの主犯は担任の浜口だった。
僕は今起きている最悪の事態をどう解決すべきか、脳をフル回転させて考える。
答えを出せずに授業の始まりを告げるチャイムが鳴った。
浜口は何事もなかったのように笑顔で授業を始めた。
仕方なく着席する。
机の上の仏花をじっと見つめながら担任の浜口と、竹田と木下からいじめを受ける理由を考えていた。
僕は恨みを買うような事をしただろうか。
まだ入学したばかり、そんなに誰かと関り合いがある訳でもないのに、いじめられる理由が思い浮かばない。
徐々にネガティブ思考に陥って行き、目の前が真っ暗になる感覚に襲われる。
暗闇は不安と恐怖しか与えない。
伸し掛る絶望。
思考停止寸前の僕の体は、全身が小刻みに震え出す。
(寒い、怖い、帰りたい、こんな学校に居たくない)
頭によぎる「退学」の二文字。
僕の導き出した答えは「闘争」ではなく「逃走」だった。
今すぐにこの教室から逃げ出したい、逃げ帰って家に引きこもりたい、そのままニートとして生きて、辛い現実と記憶喪失から目を背けて楽に生きたい、あらゆるものから逃げ出したい、そんなふうに考え始めた。
光のないこの暗闇の中で僕の心は壊れそうになった。
「頑張れ神山さん」
「恵カッコいいよ、素敵だよ」
暗闇の外から聞こえる声。
僕を覆っていた暗闇は一瞬にして晴れた。
気がついたら声のする方を見ていた。
グランドから女子の歓声が聞こえてくる。
女子たちが連呼する名は僕の元カノの「神山恵」である。
「お前ら良く見とけ。神山恵の走法はとても理想的だ。陸上部にスカウトしたいくらいだぞ。ガハハッ」
耳を澄まさなくても聞こえる男の野太い声は白井先生である。
グランドから聞こえてくる声が、暗闇の中で怯えて逃げ出そうとした僕に勇気を与えてくれた。
いじめに負けてられない。
記憶喪失と比べれば、いじめなんて大したことない。
目の前の花瓶に映る僕の表情はどことなく勝ち気だった。
少し冷静になれた僕はいじめをどう解決するかを考える。
一つだけ言える事は一人で解決するのは難しい。
となれば、
――逃げる
である。
ただ怖くて逃げるのではない。
いじめを終わらせる為の戦略的撤退である。
僕の席はベランダの出口の方が僅かに近い。
ベランダから隣の教室を駆け抜け、グランドにいる恵さんと白井先生に浜口のいじめを訴える。
行動に移そうと机の脇にかけてある鞄を机の下に隠し機会を伺う。
僕は逃げ足が速いと聞いている。
きっと大丈夫だ。
捕まりはしない。
逃げるタイミングを見計い。
――三、二、一、今だ。
僕は自分の尊厳を守るために逃げ出した。
とりあえずこれを証拠に残そうと、鞄からスマホを取り出して画像を残した。
この状態をキープしてホームルームにくる担任の浜口先生に現状を訴えようと思う。
席に着き、周りの生徒の様子を窺う。
昨日、僕をロダンと言って馬鹿にしていた竹田と木下は窓側の席でニタニタしていた。
他の生徒は目を伏せて見て見ぬふりをしていた。
巻き込まれたくない気持ちも理解できるが、何のアクションを起こさない同級生に失望した。
チャイムが鳴ると同時に浜口先生が教室に入ってきた。
黒髪のポニーテールを揺らしながら颯爽と歩く。
一見地味だけど、いつもニコニコしていて僕は先生に好印象を抱いていた。
浜口先生ならきっと助けてくれると信じて声をかけた。
「浜口先生、これを見てください。僕が登校してきた時には、このように仏花が置いてありました。これは明らかないじめです。僕は学校にいじめの解決を望みます」
先生はチラリと僕に視線を向けただけで、何も言わずに教壇に立つ。
「えー、朝から皆さんに悲しいお知らせをしなければなりません。月島至恩くんが登校中に交通事故で亡くなりました。月島くんの冥福をいのりましょう」
「……先生?」
僕の理解を超えていた。
混乱する脳。
何とか脳を回転させて状況の把握につとめるものの、動揺して手と足が震え出した。
「そっか、ロダンさんは死んだのか。残念だな、ああ悲しいな。木下もそう思うだろ?」
「竹田は優しいな。俺はロダンさんが死んで悲しいなんてこれっぽっちも思ってないけどな。むしろ死んでくれて感謝しているぜ」
「酷いな木下。でも実は俺もそう思ってる」
混乱しているのに追い討ちをかけられた。
本人がいる前によくもここまで酷い事を言えるものだと思う。
性根が腐りきっているとしか思えない。
「はい、質問があります」
竹田は挙手をした。
浜口先生は「どうぞ竹田くん」と促す。
竹田が立ち上がると僕を見ながら発言をした。
「ロダンくんが見えるんですけど、これはどういう事ですか?」
「良い質問ですね。お答えします。あれは悪霊ですね。呪われるかもしれませんから決して近づいてはいけませんよ」
「でも向こうから近づいて来た場合は?」
「その対策を今から教えます」
浜口先生はニコニコと笑いながら僕へ歩み寄ってきて右手を振り上げた。
「パチン」
乾いた音と共に伝わる頬の痛み。
僕は左頬をさすりながら浜口先生を睨んだ。
その刹那。
「ペッ」
顔面に唾を吐きかけられた。
同時にホームルームの終わりを告げるチャイムが鳴る。
「はい、ホームルームはここまで。一限目の授業は私の現国ですので、トイレに行くなら今のうちにね」
教壇へ戻る浜口先生の背を睨んだまま、顔に付いた唾をハンカチで拭き取った。
僕は大きな勘違いをしていたようだ。
いじめの主犯は担任の浜口だった。
僕は今起きている最悪の事態をどう解決すべきか、脳をフル回転させて考える。
答えを出せずに授業の始まりを告げるチャイムが鳴った。
浜口は何事もなかったのように笑顔で授業を始めた。
仕方なく着席する。
机の上の仏花をじっと見つめながら担任の浜口と、竹田と木下からいじめを受ける理由を考えていた。
僕は恨みを買うような事をしただろうか。
まだ入学したばかり、そんなに誰かと関り合いがある訳でもないのに、いじめられる理由が思い浮かばない。
徐々にネガティブ思考に陥って行き、目の前が真っ暗になる感覚に襲われる。
暗闇は不安と恐怖しか与えない。
伸し掛る絶望。
思考停止寸前の僕の体は、全身が小刻みに震え出す。
(寒い、怖い、帰りたい、こんな学校に居たくない)
頭によぎる「退学」の二文字。
僕の導き出した答えは「闘争」ではなく「逃走」だった。
今すぐにこの教室から逃げ出したい、逃げ帰って家に引きこもりたい、そのままニートとして生きて、辛い現実と記憶喪失から目を背けて楽に生きたい、あらゆるものから逃げ出したい、そんなふうに考え始めた。
光のないこの暗闇の中で僕の心は壊れそうになった。
「頑張れ神山さん」
「恵カッコいいよ、素敵だよ」
暗闇の外から聞こえる声。
僕を覆っていた暗闇は一瞬にして晴れた。
気がついたら声のする方を見ていた。
グランドから女子の歓声が聞こえてくる。
女子たちが連呼する名は僕の元カノの「神山恵」である。
「お前ら良く見とけ。神山恵の走法はとても理想的だ。陸上部にスカウトしたいくらいだぞ。ガハハッ」
耳を澄まさなくても聞こえる男の野太い声は白井先生である。
グランドから聞こえてくる声が、暗闇の中で怯えて逃げ出そうとした僕に勇気を与えてくれた。
いじめに負けてられない。
記憶喪失と比べれば、いじめなんて大したことない。
目の前の花瓶に映る僕の表情はどことなく勝ち気だった。
少し冷静になれた僕はいじめをどう解決するかを考える。
一つだけ言える事は一人で解決するのは難しい。
となれば、
――逃げる
である。
ただ怖くて逃げるのではない。
いじめを終わらせる為の戦略的撤退である。
僕の席はベランダの出口の方が僅かに近い。
ベランダから隣の教室を駆け抜け、グランドにいる恵さんと白井先生に浜口のいじめを訴える。
行動に移そうと机の脇にかけてある鞄を机の下に隠し機会を伺う。
僕は逃げ足が速いと聞いている。
きっと大丈夫だ。
捕まりはしない。
逃げるタイミングを見計い。
――三、二、一、今だ。
僕は自分の尊厳を守るために逃げ出した。
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