桜1/2

平野水面

文字の大きさ
12 / 50
桜咲く堤防へ

臨時休校

しおりを挟む
 朝食を食べながらテレビを見ていた。
「殺人未遂事件のあった高校からお伝えします」
 僕の高校が中継されていた。
 女性リポーターはそれほど多くの情報を得ていないようで、不足分は憶測で補って伝えている。
 僕の知る事件の真相とは、たいぶ違う形になっていた。
 司会者が「ありがとうございました」と言うと、中継が終わって映像はスタジオに戻る。
 司会者が有識者らしき女性に意見を求めると、真剣な表情で的外れで頓珍漢なコメントを繰り返していたので、思わず吹きそうになった。
 口に含んだ牛乳を「鼻から牛乳」するところだった。
 なんとか被害を最小におさえられたけど、鼻の中が牛乳臭くてゲンナリする。
 目の前にあったティッシュボックスからティッシュを二枚掴み取って鼻をかんだ。
 その間に亜希がリビングに入ってきた。
「おはよう」
 いつも挨拶なんてしないのに今日に限って珍しい。
 驚きを隠しつつ、気付かれないように様子を窺う。
 いつもと変わらずに不機嫌に見える。
 女心というか、妹の心情がいまいち読み取れない。
 亜希は一旦台所へ。
 母さんが用意した朝食をトレーに載せて、僕の正面のソファーに座って食べ始めた。
 鼻をかんだティッシュを丸めて近くのゴミ箱へ投げ入れてから、亜希の顔色を窺っていると。
「亜希をじろじろ見て何なの?」
「お、おはよう亜希、僕が迷惑をかけたせいで学校を臨時休校にしてしまった。ごめんな」
「……」
「それとこの前の着替えを覗いた事も……その、ごめんな」
「……」
「そうだ、いきなり休みで退屈だろ? 堤防の桜を見に行かないか? 散り始めらしいけどまだ綺麗に咲いているはず。朝食を食べてからどうだ?」
「……」
 亜希のパンを千切る手がピタッと止まり、僕の目をじっと見つめてきた。
 亜希は小さな溜め息を吐く。
「学校が臨時休校になったのは兄さん……のせいじゃないし、覗かれた事はもう怒ってないし、桜は……神山恵を誘って行けばいいじゃん」
 意外な返答に驚きつつも訊ねた。
「いいのか? 亜希は恵さんの事を恨んでいるんじゃなかったか?」
「恨んでいるし大嫌い。でも至恩くんを救ってくれたのは変えようがない事実よ。一応は認めてあげる。亜希の目の届かない所で話したり会ったりするのは許してあげる」
「ありがとう亜希。早速誘ってみるよ」
 テーブルに置いたあったスマホを勢いよく掴み取り、電話をかけようとしたら亜希は咳をして僕を睨む。
 その鋭い視線は「もう忘れたの?」と言いたげだった。
 僕は「ごめん」と頭を下げてからリビングを飛び出し、階段を一気に駆け上り自室に駆け込んだ。
 勢いで走ってきたから心臓はバクバク、元カノへの初めての電話にドキドキ、二つの心音がシンクロした。
 スマホの通話のボタンを押して耳に当てる。
 恵さんはスリーコールで電話に出た。
「もしもし、おはよう至恩。そっちから電話してくるなんて珍しいわね。ラインでもよかったのに」
 普段と変わらない話し方。
 緊張している僕とは違い、恵さんには余裕があった。
「お、おはようございます。今の気持ちを文章じゃなく、直接声で伝えたくて。それで、あの、その、突然ですが花見に行きませんか?」
「不合格。誘い方が下手すぎよ。ひょっとして緊張とかしてる?」
「緊張するでしょ普通。人生で初めて異性をデートに誘っている訳ですから」
「……確かにそうね。デートに誘うのはいつも私の方から。至恩の方から誘われたことは無いわね。つまり『月島至恩、初めてのお誘い』よ」
「まぁそのネーミングセンスは一旦横に置いといて。記憶を失くす前の僕はデートも誘えないヘタレでしたか?」
「ヘタレと変態のエキスパートよ。至恩は行きたい場所を自分から言わないもの。デートしたい場所の関連した話題を振って、私から「行きたい」と言わせるの。そしたら至恩が「イクイク、恵と一緒にイクッ」って実に下らない下ネタを言うのよ。変態だと思わない?」
 そんなことありませんからと否定できないのがつらい。
 聴かされる僕の過去は、変態と罵られても仕方がないとは思う。
 けれど言われっぱなしなのはしゃくなので小さな抵抗を試みる。
「そう思いますよ。良くもまあ、そんなヘタレ変態とお付き合いできたなぁと。そんな恵さんもある意味で特殊では?」
「自覚はある。私ってダメな男に惚れる性癖があるかも。変な母性が働いて守ってあげたいと思ったりね。残念だけど、私はがっかりヘタレ変態の至恩が好きなのよねぇ」
「あまり嬉しくないです。それとがっかりを付け足して、さりげなくヘタレ変態具合を勝手にダウングレードさせないで下さい」
「フフフ、冗談よ。それで堤防の桜を私と見に行きたいわけね?」
「はい。お願いします」
「話を聴いてた? そこは『イクイク、恵と一緒にイク』て言う所よ」
「うーん、今気づきましたが、恵さんの過去の僕をオモチャにして遊んでませんでしたか? むしろその下ネタを言わせてたの恵さんの方では?」
「記憶のない至恩の方が頭がイイわね。フフフ、バレてしまってはしょうがないわね。それで待ち合わせ場所は堤防沿いのコンビニで、時間は十一時でいいかな?」
「え、はい、それで」
「結局デートに誘われた私が仕切ってたわね。あ、遅刻だめよ。それじゃまた後でね」
 終始、主導権を握られたまま話は進み通話を切られた。
 そして過去の僕は色々な意味で残念な奴だと知りへこむ。
 けれども落ち込んではいられない。 
 家着から余所行きの一張羅に着替えてお花見デートへ行かなければならない。
 左右の頬を両手で「パンパン」と叩いて闘魂を注入し、クローゼットの引き戸を勢い良く開けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

妹の仇 兄の復讐

MisakiNonagase
青春
神奈川県の海に近い住宅街。夏の終わりが、夕焼けに溶けていく季節だった。 僕、孝之は高校三年生、十七歳。妹の茜は十五歳、高校一年生。父と母との四人暮らし。ごく普通の家庭で、僕と茜は、ブラコンやシスコンと騒がれるほどではないが、それなりに仲の良い兄妹だった。茜は少し内気で、真面目な顔をしているが、家族の前ではよく笑う。特に、幼馴染で僕の交際相手でもある佑香が来ると、姉のように慕って明るくなる。 その平穏が、ほんの些細な噂によって、静かに、しかし深く切り裂かれようとは、その時はまだ知らなかった。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

処理中です...