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桜咲く堤防へ
臨時休校
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朝食を食べながらテレビを見ていた。
「殺人未遂事件のあった高校からお伝えします」
僕の高校が中継されていた。
女性リポーターはそれほど多くの情報を得ていないようで、不足分は憶測で補って伝えている。
僕の知る事件の真相とは、たいぶ違う形になっていた。
司会者が「ありがとうございました」と言うと、中継が終わって映像はスタジオに戻る。
司会者が有識者らしき女性に意見を求めると、真剣な表情で的外れで頓珍漢なコメントを繰り返していたので、思わず吹きそうになった。
口に含んだ牛乳を「鼻から牛乳」するところだった。
なんとか被害を最小におさえられたけど、鼻の中が牛乳臭くてゲンナリする。
目の前にあったティッシュボックスからティッシュを二枚掴み取って鼻をかんだ。
その間に亜希がリビングに入ってきた。
「おはよう」
いつも挨拶なんてしないのに今日に限って珍しい。
驚きを隠しつつ、気付かれないように様子を窺う。
いつもと変わらずに不機嫌に見える。
女心というか、妹の心情がいまいち読み取れない。
亜希は一旦台所へ。
母さんが用意した朝食をトレーに載せて、僕の正面のソファーに座って食べ始めた。
鼻をかんだティッシュを丸めて近くのゴミ箱へ投げ入れてから、亜希の顔色を窺っていると。
「亜希をじろじろ見て何なの?」
「お、おはよう亜希、僕が迷惑をかけたせいで学校を臨時休校にしてしまった。ごめんな」
「……」
「それとこの前の着替えを覗いた事も……その、ごめんな」
「……」
「そうだ、いきなり休みで退屈だろ? 堤防の桜を見に行かないか? 散り始めらしいけどまだ綺麗に咲いているはず。朝食を食べてからどうだ?」
「……」
亜希のパンを千切る手がピタッと止まり、僕の目をじっと見つめてきた。
亜希は小さな溜め息を吐く。
「学校が臨時休校になったのは兄さん……至恩くんのせいじゃないし、覗かれた事はもう怒ってないし、桜は……神山恵を誘って行けばいいじゃん」
意外な返答に驚きつつも訊ねた。
「いいのか? 亜希は恵さんの事を恨んでいるんじゃなかったか?」
「恨んでいるし大嫌い。でも至恩くんを救ってくれたのは変えようがない事実よ。一応は認めてあげる。亜希の目の届かない所で話したり会ったりするのは許してあげる」
「ありがとう亜希。早速誘ってみるよ」
テーブルに置いたあったスマホを勢いよく掴み取り、電話をかけようとしたら亜希は咳をして僕を睨む。
その鋭い視線は「もう忘れたの?」と言いたげだった。
僕は「ごめん」と頭を下げてからリビングを飛び出し、階段を一気に駆け上り自室に駆け込んだ。
勢いで走ってきたから心臓はバクバク、元カノへの初めての電話にドキドキ、二つの心音がシンクロした。
スマホの通話のボタンを押して耳に当てる。
恵さんはスリーコールで電話に出た。
「もしもし、おはよう至恩。そっちから電話してくるなんて珍しいわね。ラインでもよかったのに」
普段と変わらない話し方。
緊張している僕とは違い、恵さんには余裕があった。
「お、おはようございます。今の気持ちを文章じゃなく、直接声で伝えたくて。それで、あの、その、突然ですが花見に行きませんか?」
「不合格。誘い方が下手すぎよ。ひょっとして緊張とかしてる?」
「緊張するでしょ普通。人生で初めて異性をデートに誘っている訳ですから」
「……確かにそうね。デートに誘うのはいつも私の方から。至恩の方から誘われたことは無いわね。つまり『月島至恩、初めてのお誘い』よ」
「まぁそのネーミングセンスは一旦横に置いといて。記憶を失くす前の僕はデートも誘えないヘタレでしたか?」
「ヘタレと変態のエキスパートよ。至恩は行きたい場所を自分から言わないもの。デートしたい場所の関連した話題を振って、私から「行きたい」と言わせるの。そしたら至恩が「イクイク、恵と一緒にイクッ」って実に下らない下ネタを言うのよ。変態だと思わない?」
そんなことありませんからと否定できないのがつらい。
聴かされる僕の過去は、変態と罵られても仕方がないとは思う。
けれど言われっぱなしなのはしゃくなので小さな抵抗を試みる。
「そう思いますよ。良くもまあ、そんなヘタレ変態とお付き合いできたなぁと。そんな恵さんもある意味で特殊では?」
「自覚はある。私ってダメな男に惚れる性癖があるかも。変な母性が働いて守ってあげたいと思ったりね。残念だけど、私はがっかりヘタレ変態の至恩が好きなのよねぇ」
「あまり嬉しくないです。それとがっかりを付け足して、さりげなくヘタレ変態具合を勝手にダウングレードさせないで下さい」
「フフフ、冗談よ。それで堤防の桜を私と見に行きたいわけね?」
「はい。お願いします」
「話を聴いてた? そこは『イクイク、恵と一緒にイク』て言う所よ」
「うーん、今気づきましたが、恵さんの過去の僕をオモチャにして遊んでませんでしたか? むしろその下ネタを言わせてたの恵さんの方では?」
「記憶のない至恩の方が頭がイイわね。フフフ、バレてしまってはしょうがないわね。それで待ち合わせ場所は堤防沿いのコンビニで、時間は十一時でいいかな?」
「え、はい、それで」
「結局デートに誘われた私が仕切ってたわね。あ、遅刻だめよ。それじゃまた後でね」
終始、主導権を握られたまま話は進み通話を切られた。
そして過去の僕は色々な意味で残念な奴だと知りへこむ。
けれども落ち込んではいられない。
家着から余所行きの一張羅に着替えてお花見デートへ行かなければならない。
左右の頬を両手で「パンパン」と叩いて闘魂を注入し、クローゼットの引き戸を勢い良く開けた。
「殺人未遂事件のあった高校からお伝えします」
僕の高校が中継されていた。
女性リポーターはそれほど多くの情報を得ていないようで、不足分は憶測で補って伝えている。
僕の知る事件の真相とは、たいぶ違う形になっていた。
司会者が「ありがとうございました」と言うと、中継が終わって映像はスタジオに戻る。
司会者が有識者らしき女性に意見を求めると、真剣な表情で的外れで頓珍漢なコメントを繰り返していたので、思わず吹きそうになった。
口に含んだ牛乳を「鼻から牛乳」するところだった。
なんとか被害を最小におさえられたけど、鼻の中が牛乳臭くてゲンナリする。
目の前にあったティッシュボックスからティッシュを二枚掴み取って鼻をかんだ。
その間に亜希がリビングに入ってきた。
「おはよう」
いつも挨拶なんてしないのに今日に限って珍しい。
驚きを隠しつつ、気付かれないように様子を窺う。
いつもと変わらずに不機嫌に見える。
女心というか、妹の心情がいまいち読み取れない。
亜希は一旦台所へ。
母さんが用意した朝食をトレーに載せて、僕の正面のソファーに座って食べ始めた。
鼻をかんだティッシュを丸めて近くのゴミ箱へ投げ入れてから、亜希の顔色を窺っていると。
「亜希をじろじろ見て何なの?」
「お、おはよう亜希、僕が迷惑をかけたせいで学校を臨時休校にしてしまった。ごめんな」
「……」
「それとこの前の着替えを覗いた事も……その、ごめんな」
「……」
「そうだ、いきなり休みで退屈だろ? 堤防の桜を見に行かないか? 散り始めらしいけどまだ綺麗に咲いているはず。朝食を食べてからどうだ?」
「……」
亜希のパンを千切る手がピタッと止まり、僕の目をじっと見つめてきた。
亜希は小さな溜め息を吐く。
「学校が臨時休校になったのは兄さん……至恩くんのせいじゃないし、覗かれた事はもう怒ってないし、桜は……神山恵を誘って行けばいいじゃん」
意外な返答に驚きつつも訊ねた。
「いいのか? 亜希は恵さんの事を恨んでいるんじゃなかったか?」
「恨んでいるし大嫌い。でも至恩くんを救ってくれたのは変えようがない事実よ。一応は認めてあげる。亜希の目の届かない所で話したり会ったりするのは許してあげる」
「ありがとう亜希。早速誘ってみるよ」
テーブルに置いたあったスマホを勢いよく掴み取り、電話をかけようとしたら亜希は咳をして僕を睨む。
その鋭い視線は「もう忘れたの?」と言いたげだった。
僕は「ごめん」と頭を下げてからリビングを飛び出し、階段を一気に駆け上り自室に駆け込んだ。
勢いで走ってきたから心臓はバクバク、元カノへの初めての電話にドキドキ、二つの心音がシンクロした。
スマホの通話のボタンを押して耳に当てる。
恵さんはスリーコールで電話に出た。
「もしもし、おはよう至恩。そっちから電話してくるなんて珍しいわね。ラインでもよかったのに」
普段と変わらない話し方。
緊張している僕とは違い、恵さんには余裕があった。
「お、おはようございます。今の気持ちを文章じゃなく、直接声で伝えたくて。それで、あの、その、突然ですが花見に行きませんか?」
「不合格。誘い方が下手すぎよ。ひょっとして緊張とかしてる?」
「緊張するでしょ普通。人生で初めて異性をデートに誘っている訳ですから」
「……確かにそうね。デートに誘うのはいつも私の方から。至恩の方から誘われたことは無いわね。つまり『月島至恩、初めてのお誘い』よ」
「まぁそのネーミングセンスは一旦横に置いといて。記憶を失くす前の僕はデートも誘えないヘタレでしたか?」
「ヘタレと変態のエキスパートよ。至恩は行きたい場所を自分から言わないもの。デートしたい場所の関連した話題を振って、私から「行きたい」と言わせるの。そしたら至恩が「イクイク、恵と一緒にイクッ」って実に下らない下ネタを言うのよ。変態だと思わない?」
そんなことありませんからと否定できないのがつらい。
聴かされる僕の過去は、変態と罵られても仕方がないとは思う。
けれど言われっぱなしなのはしゃくなので小さな抵抗を試みる。
「そう思いますよ。良くもまあ、そんなヘタレ変態とお付き合いできたなぁと。そんな恵さんもある意味で特殊では?」
「自覚はある。私ってダメな男に惚れる性癖があるかも。変な母性が働いて守ってあげたいと思ったりね。残念だけど、私はがっかりヘタレ変態の至恩が好きなのよねぇ」
「あまり嬉しくないです。それとがっかりを付け足して、さりげなくヘタレ変態具合を勝手にダウングレードさせないで下さい」
「フフフ、冗談よ。それで堤防の桜を私と見に行きたいわけね?」
「はい。お願いします」
「話を聴いてた? そこは『イクイク、恵と一緒にイク』て言う所よ」
「うーん、今気づきましたが、恵さんの過去の僕をオモチャにして遊んでませんでしたか? むしろその下ネタを言わせてたの恵さんの方では?」
「記憶のない至恩の方が頭がイイわね。フフフ、バレてしまってはしょうがないわね。それで待ち合わせ場所は堤防沿いのコンビニで、時間は十一時でいいかな?」
「え、はい、それで」
「結局デートに誘われた私が仕切ってたわね。あ、遅刻だめよ。それじゃまた後でね」
終始、主導権を握られたまま話は進み通話を切られた。
そして過去の僕は色々な意味で残念な奴だと知りへこむ。
けれども落ち込んではいられない。
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