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桜咲く堤防へ
お花見デート
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待ち合わせ時間の十分前。
恵さんはコンビニの前で待っていた。
恵さんの私服にドキッとする。
長袖の白いパフスリーブに、黒のジャンパースカート、可愛い黒い靴、トップスの色に合わせた小さなバッグを肩からぶら下げていた。
「お待たせしました。ずいぶんと早いですね恵さん」
「今の至恩なら早く来てくれるような気がしてね。記憶を失くす前の至恩はルーズで時間が読めなかったわ」
「僕は遅刻の常習犯でしたか?」
「至恩は平気で遅れて来たわね」
「ヘタレ変態、それでいて遅刻魔かぁ。ほんと申し訳ないです」
「今更どうでもいいことよ。それよりも久しぶりのデートを楽しもうよ。ほら行くよ」
先に歩き出した恵さんの後をついて行く。
コンビニの駐車場を横切り、交差点の横断歩道を渡ったすぐ先に堤防へ続く緩やかな坂がある。
恵さんは坂道の手前で突然立ち止まった。
「なにかありましたか?」
恵さんは何も答えずに不敵に笑う。
「よーいドンッ!」
いきなり走り出した恵さんを追って僕も走る。
先に坂を駆け上がった恵さんは「凄く綺麗よ」と言って振り返った。
恵さんの隣に立った僕は思わず「おお」と唸った。
堤防の道の両端に植えられた桜は、空を覆い隠すように枝がはり出ている。
散り始めた桜の花弁は絶え間なく降り注ぎ、灰色のアスファルトを薄紅色へ塗り替えていた。
まるで桜色のカーペットである。
その光景は桜と道が見える限り続いていた。
僕と恵さんは桜色のトンネルの中にいるようだった。
幻想的な景色に見とれていたら、不意に脇腹を擽られて体をくの字に曲げる。
恵さんは悪戯に笑いながら言った。
「こんな感じにね、至恩は私に悪戯してくるのよ。まあ触るのはお腹だけじゃなくて胸やお尻もだけどね。今まで散々やられたお返しよ」
「ただのセクハラじゃないですか。これまで良く我慢して僕と付き合って来れましたね?」
「好き同士のスキンシップだから平気……かもしれないけど。まぁそれよりも、はい恋人繋ぎ」
僕の指と恵さんの指を絡めて桜のトンネルを同じ歩幅で歩く。
平日とあって人はいない。
まるで僕と恵さんだけに許された時間と世界のようだった。
恵さんは上機嫌に思い出を語る。
僕は相槌を打ちながら聞いていた。
体育祭のリレーで活躍したこと、夏休みは海へ行き、この堤防から花火を見たこと、僕の知らないエピソードが次々語られた。
楽しそうに思い出を語る恵さんの笑顔が消えて立ち止まる。
繋いでいた手を離し、キョロキョロと辺りを窺っていた。
「どうかしましたか?」
恵さんは何も答えずにゆったりとした足取りで僕の正面に立った。
無言のまま俯いている。
しばらく待っていたら顔を上げて上目遣いで見つめてきた。
すごく可愛いくて「抱き締めたいなあ」と思っていたら、恵さんの方から僕に抱きついて来た。
全身に感じる恵さんの柔らかい体。
恵さんの背に両手を回して抱き締めようとした。
けれど不意に話しかけられ、その手を止めた。
「覚えてないと思うけど、二人で桜を見に行く約束をしてたの。私たちが付き合い始めたのは入学してから一ヶ月後だった。もう桜の季節は終わってたのね。だから二年生になったら見に行こうって約束してたの」
「約束を破ってすみませんでした」
「至恩は悪くないわ。でもね、こんなにも早く至恩と一緒に桜を見る日が来るなんて思わなかった。昏睡状態がずっとこのまま続くかもって覚悟してたの。こうしてデートできる今がとても幸せ」
「ずっと心配してくれてありがとうございます」
「だから約束して欲しいの」
「約束?」
「昨日みたいな危険な真似はしないで。もう少しで死んじゃうところだったんだから。私を一人にしないでね」
「分かりました。命を大事にします。僕からも約束して欲しいことがありまして」
「何?」
「今年の夏は海水浴へ行き、ここで花火を見て、来年の春も一緒に桜を見に行きましょう」
恵さんはバッと顔を上げて僕を見つめる。
最初は驚いた顔をしていたけど、目を潤ませて口を真一文字に結んだ。
恵さんは僕を両手で突き飛ばし「馬鹿」と呟いた。
慌てて右の人差し指で両目の涙を拭い、その勢いのままに人差し指を僕に差した。
「ヘタレ変態の至恩のくせに生意気言っちゃって何なのよ。亜希ちゃんとは仲直り出来てないし、記憶だって失ったまま。その問題が片付くまでどこも連れてってあげませんからね。これは宿題です、早目に終わらせるように」
「僕一人で宿題を片付けるのは難しいです。できれば恵さんに手伝って欲しいです」
「確かにそうね。だったら今から特別授業をしましょう。ランチが美味しいと評判の喫茶店で」
「喫茶店?」
「その喫茶店まで競争よ。負けた方のおごりね。よーいドン」
恵さんは僕を出し抜いて走り出す。
置いていかれないように追いかける。
僕は前を行く恵さんへ訊ねた。
「喫茶店の場所を知らない僕にとって不利な競争では?」
「最初から喫茶店のランチタイムに合わせて待ち合わせ時間を設定したの。私、勝てる勝負しかしない女なの」
「計画的ですか。ズルイですよ恵さん」
「ゴチになるわね至恩」
全ては恵さんの計画通りで僕は掌で踊らされていた。
けれど悪い気はしない。
デートが楽しいから。
僕は今、青春をしていた。
恵さんはコンビニの前で待っていた。
恵さんの私服にドキッとする。
長袖の白いパフスリーブに、黒のジャンパースカート、可愛い黒い靴、トップスの色に合わせた小さなバッグを肩からぶら下げていた。
「お待たせしました。ずいぶんと早いですね恵さん」
「今の至恩なら早く来てくれるような気がしてね。記憶を失くす前の至恩はルーズで時間が読めなかったわ」
「僕は遅刻の常習犯でしたか?」
「至恩は平気で遅れて来たわね」
「ヘタレ変態、それでいて遅刻魔かぁ。ほんと申し訳ないです」
「今更どうでもいいことよ。それよりも久しぶりのデートを楽しもうよ。ほら行くよ」
先に歩き出した恵さんの後をついて行く。
コンビニの駐車場を横切り、交差点の横断歩道を渡ったすぐ先に堤防へ続く緩やかな坂がある。
恵さんは坂道の手前で突然立ち止まった。
「なにかありましたか?」
恵さんは何も答えずに不敵に笑う。
「よーいドンッ!」
いきなり走り出した恵さんを追って僕も走る。
先に坂を駆け上がった恵さんは「凄く綺麗よ」と言って振り返った。
恵さんの隣に立った僕は思わず「おお」と唸った。
堤防の道の両端に植えられた桜は、空を覆い隠すように枝がはり出ている。
散り始めた桜の花弁は絶え間なく降り注ぎ、灰色のアスファルトを薄紅色へ塗り替えていた。
まるで桜色のカーペットである。
その光景は桜と道が見える限り続いていた。
僕と恵さんは桜色のトンネルの中にいるようだった。
幻想的な景色に見とれていたら、不意に脇腹を擽られて体をくの字に曲げる。
恵さんは悪戯に笑いながら言った。
「こんな感じにね、至恩は私に悪戯してくるのよ。まあ触るのはお腹だけじゃなくて胸やお尻もだけどね。今まで散々やられたお返しよ」
「ただのセクハラじゃないですか。これまで良く我慢して僕と付き合って来れましたね?」
「好き同士のスキンシップだから平気……かもしれないけど。まぁそれよりも、はい恋人繋ぎ」
僕の指と恵さんの指を絡めて桜のトンネルを同じ歩幅で歩く。
平日とあって人はいない。
まるで僕と恵さんだけに許された時間と世界のようだった。
恵さんは上機嫌に思い出を語る。
僕は相槌を打ちながら聞いていた。
体育祭のリレーで活躍したこと、夏休みは海へ行き、この堤防から花火を見たこと、僕の知らないエピソードが次々語られた。
楽しそうに思い出を語る恵さんの笑顔が消えて立ち止まる。
繋いでいた手を離し、キョロキョロと辺りを窺っていた。
「どうかしましたか?」
恵さんは何も答えずにゆったりとした足取りで僕の正面に立った。
無言のまま俯いている。
しばらく待っていたら顔を上げて上目遣いで見つめてきた。
すごく可愛いくて「抱き締めたいなあ」と思っていたら、恵さんの方から僕に抱きついて来た。
全身に感じる恵さんの柔らかい体。
恵さんの背に両手を回して抱き締めようとした。
けれど不意に話しかけられ、その手を止めた。
「覚えてないと思うけど、二人で桜を見に行く約束をしてたの。私たちが付き合い始めたのは入学してから一ヶ月後だった。もう桜の季節は終わってたのね。だから二年生になったら見に行こうって約束してたの」
「約束を破ってすみませんでした」
「至恩は悪くないわ。でもね、こんなにも早く至恩と一緒に桜を見る日が来るなんて思わなかった。昏睡状態がずっとこのまま続くかもって覚悟してたの。こうしてデートできる今がとても幸せ」
「ずっと心配してくれてありがとうございます」
「だから約束して欲しいの」
「約束?」
「昨日みたいな危険な真似はしないで。もう少しで死んじゃうところだったんだから。私を一人にしないでね」
「分かりました。命を大事にします。僕からも約束して欲しいことがありまして」
「何?」
「今年の夏は海水浴へ行き、ここで花火を見て、来年の春も一緒に桜を見に行きましょう」
恵さんはバッと顔を上げて僕を見つめる。
最初は驚いた顔をしていたけど、目を潤ませて口を真一文字に結んだ。
恵さんは僕を両手で突き飛ばし「馬鹿」と呟いた。
慌てて右の人差し指で両目の涙を拭い、その勢いのままに人差し指を僕に差した。
「ヘタレ変態の至恩のくせに生意気言っちゃって何なのよ。亜希ちゃんとは仲直り出来てないし、記憶だって失ったまま。その問題が片付くまでどこも連れてってあげませんからね。これは宿題です、早目に終わらせるように」
「僕一人で宿題を片付けるのは難しいです。できれば恵さんに手伝って欲しいです」
「確かにそうね。だったら今から特別授業をしましょう。ランチが美味しいと評判の喫茶店で」
「喫茶店?」
「その喫茶店まで競争よ。負けた方のおごりね。よーいドン」
恵さんは僕を出し抜いて走り出す。
置いていかれないように追いかける。
僕は前を行く恵さんへ訊ねた。
「喫茶店の場所を知らない僕にとって不利な競争では?」
「最初から喫茶店のランチタイムに合わせて待ち合わせ時間を設定したの。私、勝てる勝負しかしない女なの」
「計画的ですか。ズルイですよ恵さん」
「ゴチになるわね至恩」
全ては恵さんの計画通りで僕は掌で踊らされていた。
けれど悪い気はしない。
デートが楽しいから。
僕は今、青春をしていた。
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