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走れ至恩
夕食会
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約束の時間になって呼び鈴が鳴った。
僕と母さんは玄関で恵さんと白井先生を出迎えた。
今日の恵さんのコーデは薄い灰色のガーリーレトロジャケット、ふんわりとしたクリーム色のブラウス、アウターの色に合わせたミニスカートだった。
恵さんは清楚系が好みらしい。
そして隣に立つ白井先生は予想の斜め上というか、数光年先を行くような、気合いを入れすぎた服装していた。
まさかの白いスーツである。
強面と相まって怖さ倍増、まるであの極道漫画の主人公である。
危うく一線を越えかけたにも関わらず、一切の動揺もせずに平然としていた母さんでさえ、笑顔が引きつっていた。
白井先生の白スーツの破壊力は凄まじいようだ。
恵さんは察して母さんに挨拶をした。
「招待ありがとうございます」
「しばらく見ない間に綺麗になったわね」
「ありがとうございます」
「今日は沢山食べてね」
「久しぶりのおばさんの手料理が楽しみです」
和やかな雰囲気になった。
母さんから恐怖と緊張が消えた。
僕は心の中で「ナイス恵さん」と思った。
けれど空気を読まない白井先生は、まさかのボウ・アンド・クスレープで挨拶をしてきた。
「ディナーにお招き頂きありがとうございますミセス月島、貴方の美しさは今宵の月が霞む――」
「あ、立ち話もなんですので中へどうぞ」
「え、ああ、はあ」
白井先生は間抜け声をだす。
一番の見せ所で遮られて困惑しているように見える。
やるな母さんと思った。
確か母さんは若い頃、男から言い寄られる事が多かったと自慢してた。
だから男のいなし方は心得ているのだろうと思う。
母さんは二人をリビングへ案内した。
恵さんと白井先生は指定された場所に座る。
いつもならソファーに座って食事をするけれど、五人だと一人座れなくなってしまうので、フローリングに座布団を敷いて対応した。
座布団は上座に一枚、テーブルを挟んで二枚ずつ並んで敷いてある。
上座の座布団に白井先生、時計回りに説明すると母さん、恵さん、僕、亜希の席順である。
亜希はまだリビングにはいない。
白井先生はともかく、恵さんが来る事に最後まで反対していて、説得するのは大変だった。
母さんがスマホのラインで呼び出す。
少したってから不機嫌の亜希がリビングに入ってきた。
けれど白井先生を見たとたん腹を抱えて笑いだした。
「ははは、白いスーツが全然似合ってないよ先生。超ダサい。そんな格好してたら反社に間違われて職質受けちゃうってば」
「バカな。大学時代の友人に聞いたらこれがベストだと聞いたぞ」
「多分、その友人に唆されたんだと思うよ先生」
白井先生は顔を真っ赤にして悔しがる。
ジャケットを脱ぎ、シャツ引きちぎるような脱ぎ方をした。
白井先生は肌着の白いタンクトップと白いスラックス姿になった。
しかもタンクトップから濃い胸毛が見えていた。
僕は心に思った事をうっかり口に出した。
「なんだか伝説のロックバンドのボーカルっぽくない?」
「あらやだ、確かにそうね。何だか懐かしいわね、プッ」
母さんは我慢できずに吹き出す。
隣の恵さんと目と目が合う。
僕は必死に笑うのを堪えている恵さんが可笑しくて笑い出す。
つられて恵さんも笑いだした。
皆に笑われた白井先生は、上座の座布団にストンと座って背中を丸めた。
母さんが場を仕切る
「さあ皆座ってちょうだい」
皆それぞれの場所に座った。
「至恩の命の恩人である――」
「待ってお母さん。その前に聞いておきたいことがあるの。白井先生、至恩くんをいじめた奴らはどうなったんですか?」
亜希は母さんの言葉を遮り、白井先生を鋭く睨んだ。
笑われて少し落ち込んでいた白井先生は、スッと姿勢を正し真剣な眼差しで僕ら見つめた。
「月島至恩くんとご家族に迷惑をおかけしました。本当に申し訳ありませんでした」
白井先生は座っていた座布団から、一つ下がった位置で土下座した。
土下座する白井先生に母さんは慌てた。
「すでに偉い人達から謝罪を受けました。白井先生は至恩の恩人ですので、そのように頭を下げられては困ります。どうか頭を上げてください」
「本当に申し訳ありません」
「頭を上げてください」
このやり取りを数回繰り返した後、白井先生は土下座を止めて座布団に座った。
「それで奴らの処分は?」
亜希は殺気だっていた。
白井先生は少しゆっくりと丁寧な口調で話した。
「今回の事件の主犯であった浜口は懲戒免職。殺人未遂の容疑者だから当然だろうな。担任はこの俺が引き継ぐ。竹田と木下は月島至恩くんと他生徒への暴行及び、教師との肉体関係があったとして退学処分が決定した」
「当然の結果だわ。でも亜希の気持ちはおさまらない。奴らを八つ裂きにしたい気分よ」
亜希は俯きながら怒りに打ち震えていた。
危険な考えを認めるつもりはないけど、僕の為に怒ってくれる亜希の気持ちがとても嬉しかった。
白井先生は淡々と語る。
「その他にはな――」
「町田さんはどうなりましたか? 僕の悪口を言うグループにはいましたが、彼女は僕の為、クラスの為に戦ってくれました。寛大な処分を」
「おいおい慌てるな。これから説明する所だ。町田たちの処分は軽微で厳重注意で済んだ。それと来週の月曜日から学校が始まるから遅刻するなよ」
「学校で町田さんにお礼を言わなきゃな」
何気なく呟いた一言。
恵さんと亜希と母さんの視線が僕に集まり、三人から同時に「誰?」と訊ねられた。
「恩人の一人だけど」
三人は「ふーん」と言って何かを疑っているようだった。
やましい気持ちは無いけど、疑惑をかわすには強行突破以外に解決策はないと思った。
「母さん、僕らが作った料理を食べてもらおうよ。熱々の鳥の唐揚げが冷めちゃうよ」
「そうね、冷めないうちに召し上がって下さい」
「いただきます」
夕食会が始まった。
なんとか誤魔化せた。
けれど本当の目的はこれから。
僕は亜希へ話しかけるタイミングを狙っていた。
僕と母さんは玄関で恵さんと白井先生を出迎えた。
今日の恵さんのコーデは薄い灰色のガーリーレトロジャケット、ふんわりとしたクリーム色のブラウス、アウターの色に合わせたミニスカートだった。
恵さんは清楚系が好みらしい。
そして隣に立つ白井先生は予想の斜め上というか、数光年先を行くような、気合いを入れすぎた服装していた。
まさかの白いスーツである。
強面と相まって怖さ倍増、まるであの極道漫画の主人公である。
危うく一線を越えかけたにも関わらず、一切の動揺もせずに平然としていた母さんでさえ、笑顔が引きつっていた。
白井先生の白スーツの破壊力は凄まじいようだ。
恵さんは察して母さんに挨拶をした。
「招待ありがとうございます」
「しばらく見ない間に綺麗になったわね」
「ありがとうございます」
「今日は沢山食べてね」
「久しぶりのおばさんの手料理が楽しみです」
和やかな雰囲気になった。
母さんから恐怖と緊張が消えた。
僕は心の中で「ナイス恵さん」と思った。
けれど空気を読まない白井先生は、まさかのボウ・アンド・クスレープで挨拶をしてきた。
「ディナーにお招き頂きありがとうございますミセス月島、貴方の美しさは今宵の月が霞む――」
「あ、立ち話もなんですので中へどうぞ」
「え、ああ、はあ」
白井先生は間抜け声をだす。
一番の見せ所で遮られて困惑しているように見える。
やるな母さんと思った。
確か母さんは若い頃、男から言い寄られる事が多かったと自慢してた。
だから男のいなし方は心得ているのだろうと思う。
母さんは二人をリビングへ案内した。
恵さんと白井先生は指定された場所に座る。
いつもならソファーに座って食事をするけれど、五人だと一人座れなくなってしまうので、フローリングに座布団を敷いて対応した。
座布団は上座に一枚、テーブルを挟んで二枚ずつ並んで敷いてある。
上座の座布団に白井先生、時計回りに説明すると母さん、恵さん、僕、亜希の席順である。
亜希はまだリビングにはいない。
白井先生はともかく、恵さんが来る事に最後まで反対していて、説得するのは大変だった。
母さんがスマホのラインで呼び出す。
少したってから不機嫌の亜希がリビングに入ってきた。
けれど白井先生を見たとたん腹を抱えて笑いだした。
「ははは、白いスーツが全然似合ってないよ先生。超ダサい。そんな格好してたら反社に間違われて職質受けちゃうってば」
「バカな。大学時代の友人に聞いたらこれがベストだと聞いたぞ」
「多分、その友人に唆されたんだと思うよ先生」
白井先生は顔を真っ赤にして悔しがる。
ジャケットを脱ぎ、シャツ引きちぎるような脱ぎ方をした。
白井先生は肌着の白いタンクトップと白いスラックス姿になった。
しかもタンクトップから濃い胸毛が見えていた。
僕は心に思った事をうっかり口に出した。
「なんだか伝説のロックバンドのボーカルっぽくない?」
「あらやだ、確かにそうね。何だか懐かしいわね、プッ」
母さんは我慢できずに吹き出す。
隣の恵さんと目と目が合う。
僕は必死に笑うのを堪えている恵さんが可笑しくて笑い出す。
つられて恵さんも笑いだした。
皆に笑われた白井先生は、上座の座布団にストンと座って背中を丸めた。
母さんが場を仕切る
「さあ皆座ってちょうだい」
皆それぞれの場所に座った。
「至恩の命の恩人である――」
「待ってお母さん。その前に聞いておきたいことがあるの。白井先生、至恩くんをいじめた奴らはどうなったんですか?」
亜希は母さんの言葉を遮り、白井先生を鋭く睨んだ。
笑われて少し落ち込んでいた白井先生は、スッと姿勢を正し真剣な眼差しで僕ら見つめた。
「月島至恩くんとご家族に迷惑をおかけしました。本当に申し訳ありませんでした」
白井先生は座っていた座布団から、一つ下がった位置で土下座した。
土下座する白井先生に母さんは慌てた。
「すでに偉い人達から謝罪を受けました。白井先生は至恩の恩人ですので、そのように頭を下げられては困ります。どうか頭を上げてください」
「本当に申し訳ありません」
「頭を上げてください」
このやり取りを数回繰り返した後、白井先生は土下座を止めて座布団に座った。
「それで奴らの処分は?」
亜希は殺気だっていた。
白井先生は少しゆっくりと丁寧な口調で話した。
「今回の事件の主犯であった浜口は懲戒免職。殺人未遂の容疑者だから当然だろうな。担任はこの俺が引き継ぐ。竹田と木下は月島至恩くんと他生徒への暴行及び、教師との肉体関係があったとして退学処分が決定した」
「当然の結果だわ。でも亜希の気持ちはおさまらない。奴らを八つ裂きにしたい気分よ」
亜希は俯きながら怒りに打ち震えていた。
危険な考えを認めるつもりはないけど、僕の為に怒ってくれる亜希の気持ちがとても嬉しかった。
白井先生は淡々と語る。
「その他にはな――」
「町田さんはどうなりましたか? 僕の悪口を言うグループにはいましたが、彼女は僕の為、クラスの為に戦ってくれました。寛大な処分を」
「おいおい慌てるな。これから説明する所だ。町田たちの処分は軽微で厳重注意で済んだ。それと来週の月曜日から学校が始まるから遅刻するなよ」
「学校で町田さんにお礼を言わなきゃな」
何気なく呟いた一言。
恵さんと亜希と母さんの視線が僕に集まり、三人から同時に「誰?」と訊ねられた。
「恩人の一人だけど」
三人は「ふーん」と言って何かを疑っているようだった。
やましい気持ちは無いけど、疑惑をかわすには強行突破以外に解決策はないと思った。
「母さん、僕らが作った料理を食べてもらおうよ。熱々の鳥の唐揚げが冷めちゃうよ」
「そうね、冷めないうちに召し上がって下さい」
「いただきます」
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