桜1/2

平野水面

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走れ至恩

前兆

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 久しぶりに夢を見た。
 夢の中の砂嵐は収まり、僕の住む街並みが広がっていた。
 あてもなく歩いて辿り着いた場所は学校。
 校庭からグラウンドを眺める。
 体育祭の男女混合リレー が再現されていた。
 バッタもんはゴール地点で「ヒャッハー」と奇声をあげてはしゃいでいる。
 恵さんと麗さん、亜希の三人と密着した状態で体をくねらせて「柔らかい、気持ちいい」を連呼していた。
 僕はバッタもんの背後から忍び寄り大きな声で話しかけた。
「元気だったかヘタレ変態!」
 バッタもんは体をビクッと反応させた。
 ゆっくり振り向いたバッタもんは、鳩が豆鉄砲を食らったような目で僕を見た。
 やがて顔が真っ赤に染まる。
「うわあああっ、いきなり来るなよ。恥ずかしい所を見られたわ。それから俺をヘタレ変態と呼ぶな」
  恥ずかしい行為をしている自覚はあるようだ。
 人並みの羞恥心を持っていて安心した。
 これで心置きなく質問ができる。
「変態ごっこしてる場合じゃないだろ。なんで夢の中の砂嵐が消えて現実の街並みが広がっているんだ?」
 バッタもんは美女三人からするりと抜け出ると、腕組みをして考えこむ。
 けれどすぐに諦め、首をすくめながら答えた。
「知らん。パチもんがみんなから過去の話を聞いてくれたからじゃね? 少しずつ世界が広がって行く感じだったけど」
 十分な答えではないが不十分でもない。
 とりあえずは記憶が順調に戻っているようだ。
 僕はバッタもんへ質問を重ねた。
「で、色々と思い出せたか?」
「そこそこにな。部活での会話が記憶に影響を与えてくれたと思うぜ。場所を移すぞ文芸部の部室に」
 バッタもんは指をパチンと鳴らす。
 僕とバッタもんは一瞬で文芸部の部室へ移った。

 校舎三階の端にある普段は使われていない空き教室。
 白井先生の許可を得て文芸部の部室として使っていた。
 今、僕とバッタもんは教室の黒板前に立っている。
 机と椅子は後ろへ押し込んであって、ガランと空いた教室の中央には四つの机がくっつけてあった。
 窓側の黒板から恵さん、亜希の順に座り、廊下側の黒板から空席、その隣に麗さんが座っていた。
 空席は僕の席である。

 体育祭が終わってから一週間たって僕ら少しだけ変化があった。
 白井先生からの陸上部への勧誘を断り、恵さんのお誘いにのって文芸部に入部。
 入部をしたのは僕だけでなく妹の亜希と、陸上部と掛け持ちで麗さんも入部した。
 麗さんは週に二回、文芸部員として活動している。
 主な活動は放課後、部室で本や漫画を読んだり、感想を語りあったり、時には文芸部以外の映画、ドラマ、アニメ等も話題で盛り上がっていた。
 僕はようやく充実した学園生活を送れるようになったのである。
 バッタもんは空席に座り、机に頬杖をついて訊ねてきた。
「部室でパチもんが一人で女が三人。現実の世界だとハーレムじゃん。羨ましいなぁ。もしキッスするならどの子を選ぶ?」
 戻った記憶とは別の話で、実に下らない質問をしてきたバッタもんに溜め息が出る。
 しかもバッタもんのニヤケ面。
 イラッとする顔へハイキックを食らわせたい気分だ。
 不本意だが質問に付き合ってやることにした。
「亜希は選択肢には入らないだろ。妹とキスはあり得ない」
「亜希以外の二人でどっち?」
「それ答えなきゃ駄目なのか?」
「深く考えなくていいから答えてくれ」
「なら彼女の恵さんで」
 ニヤニヤしていたバッタもんも急に真剣な顔つきでボソッと言った。
「つまらん答えだな」
「うるさい」
 不機嫌な僕を察したバッタもんは慌てて席を立ち、おどけながら「ごめんねぇ」と謝った。
  ふざけた態度にイライラしたが、バッタもんの体の変化に気づいた。
「なあバッタもん……少し濃くなってないか?」
 バッタもんは小首を傾げて答える。
「濃い性格だと自覚してるが」
「そうじゃなくて、バッタもんの体が濃くなって見えるんだよ」
「はっ?」
 バッタもんは自分の体の隅々まで確認してから僕の体と見比べる。
 するとバッタもんも何かに気づいたようで、顎に手をあてながらジト目で言った。
「なあ、逆にパチもんの体は薄くなってね?」
 指摘されて体を見る。
 微かに透けている僕の手は、向こう側の恵さんたちが見えた。
「これはどういうことだ?」
「はははっ、面白いはこれ。パチもんが幽霊みたいだ」
「笑ってる場合か。なにが起きたんだ?」
「さあ俺にも分からん。けど明日は学校を休んで月イチの通院だろ。先生に訊いてみろよ」
「……そうするよ」
 僕は視線を落とし、腕組みをしてこの現象を考えていた。
 記憶が戻ると共に体が薄くなるこの現象。
 何かの前兆だとしたら、どのような影響がでるのか、今後の僕がどうなってしまうのか、言い知れない不安に襲われ背筋が冷たくなった。
「あまり思い詰めて考えるなよ。分からないことを考えても意味がないだろ」
「バッタもんからまともな意見が聞けるとは思わなかった」
 僕は顔を上げてバッタもんを見る。
 おどけた仕草と変顔に吹いてしまった。
 少し落ち着いてからバッタもんが訊ねてきた。
「なあパチもん、明日は通院には母さんと亜希が付き添いなんだよな?」
「なぜか必ず付き添いで亜希も来るけどね」
「いいじゃねえかよ、家族と外出を楽しんでこいよ」
「診察の後はショッピングとレストランに行く予定だよ」
「レストランだと? じゃあパチもんが食べるランチは――」
「当然ハンバーグだ」
 僕はサムズアップする。
 バッタもんは名残惜しそうに言った。
「そろそろ起きる時間だな。行ってこいよパチもん」
「行ってきます」
 会話を終えた直後、バッタもんから背を押されて夢の世界から出された。

 ハッと目を覚ます。
 スマホからお気に入りの曲が流れていた。
 目覚ましソングを止めて起き上がりカーテンを開けた。
「よく晴れそうだな」
 久しぶりに家族揃っての外出に心が弾んだ。
 
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