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<フリーター危機一髪> ~嵐の前の静けさ~
第十三話:フリーター、ドラゴン・ライダーになる
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「我が領主! 人質として送られてくるダゴダネル家の娘は、実の娘ではなく養女です。皇帝陛下から半ば強引に押し付けられた娘らしく……」
「リューキ殿! ゴブリン・ロードとその一族が、割譲される領地に移住するそうだ。ただでさえ紛争が絶えない地域なのに……」
地下牢を脱し、いつもの大広間に戻る。
すぐさま、女騎士エリカ・ヤンセンとグスタフ隊長が競うように報告してくる。
まったく、この世界は退屈しない。
次から次へと新たな問題が発生する。
ひとつずつ片付けていくしかないか。
おや、俺も領主らしくなってきたかな?
「人質の件から聞こう。エリカ、詳しく話してくれ」
「我が領主。勅命によりダゴダネル家が養女を迎えたのは半年ほど前です。もともと、ダゴダネルには息子が六人いましたが、娘はいませんでした。今回送られてくる人質は、その養女に間違いありません」
「皇帝陛下から託された養女を人質に出す? それってマズくないか?」
「仰る通り。政治的には、いえ、常識的にも考えられない行動です」
「そもそもダゴダネル家が養女を迎える話からして、俺は理解できない。ダゴダネル家は皇帝陛下が縁戚関係を望むほど有力な家ではないと思うが?」
俺の発言にエリカは感心する声を上げた。
そう。まだはじめたばかりだが、俺は異世界の情勢を学んでいる。
講師はジーナ先生とエリカ先生。
話が脱線ばかりするダメ先生と些細なミスにも殺気を放つスパルタ先生だ。
教え方が両極端すぎて正直困る。
「着眼点が良い。素晴らしい回答です! あっ 我が領主、これは失礼」
「いいから続けてくれ」
「はい。ダゴダネルの養女は、実は皇位に近い高貴な血筋との話です。但し、他国の皇位ですが」
「我らが属するプロイゼン帝国以外ってことか? なんで、よその国の高貴なお姫様がこんな辺境で養女になってるんだ?」
「そこまではまだ……分かり次第、ご報告します」
エリカが呼吸を整える。
疲れているようだ。
そりゃそうだよね。徹夜してジーナの長話を聞いたんだから。
正直、俺もしんどい。
そうだ。
疲れて頭が回らないときは、甘いものをとるといい。
俺は収納袋からカラフルな小袋を取り出す。
袋の中にはいろんな味のキャンディーが入ってる。
「タナカ商会」でなんとなく買ったキャンディーの詰め合わせが、早くも役立つときが来た。
「『キャンディー』ですか? ジーナ様に同行して異世界に行ったときに見たことはありますが食べたことは……ほお、美味しいものですね! お土産で頂いた『濃密抹茶パフェ』ほどの上品さはありませんが、これはこれでアリかと。はっ、我が領主。せっかく頂いたのに失礼なことを!」
「キャンディーは味を楽しむというより疲労回復用にあげたんだから。気にしないでくれ」
そう答えつつ、俺はエリカの発言の意味するところを考えた。
……エリカは俺を罪人扱いしてる間に、お土産の「濃密抹茶パフェ」を食べてたのか。なんてこった! 女は怖いぜ! 悲壮感を漂わせる裏で「なにこれおいしーっ!」なんて言いながら、スイーツを味わっていたのか。畜しょ……いやいや、俺に裏切られたと思いこんで、悲しい気持ちでヤケ食いしただけだ。失恋した女子がドカ食いするようなものだ。きっとそうだ。そうに違いない。そうでなければ困る。そう言ってくれ。おっと、また妄想が爆発してしまった。エリカの話の続きを聞こう……
「我が領主。そろそろよろしいですか?」
「ん? ああ、説明を再開してくれ」
「人質に関して、噂話の類ですが、興味深い話を旅の商人から聞きました」
「ほう、どんな?」
「皇帝陛下の元にいた『亡国の微女』と呼ばれる異国の姫が、半年ほど前に姿を消したそうです。ダゴダネルが皇帝陛下から養女を迎え入れた時期と重なります」
「偶然ではなさそうだな。『亡国の美女』か、会ってみたくなったよ」
「我が領主。美人の『美女』ではなく、そこそこ美人な『微女』です! 変な期待はしないでください!」
……エリカから殺気が放たれた気がする。俺が他の女に興味を持ったからか。まさか焼きもち? ふっ、馬鹿だなあ、そんなんじゃないってば。ちょっと気になっただけさ。高貴な位の美女、いや、微女。しかも異国人ときた。そんな話を聞いたら、男なら誰でも気になってしまうものだ。だから安心していいんだよ、エリカ……
「女騎士エリカよ。リューキ殿の意識がまた飛んでしまったようだが?」
「地下牢に押し込められ、徹夜までしたのですから、我が領主はお疲れなのでしょう。私からの報告はこれくらいにします。グスタフ隊長も手短にお願いします」
エリカ・ヤンセンが一礼して俺の前から離れる。
キャンディーで右のほっぺが丸く膨らんでいる。
ちょっとかわいい。
「リューキ殿! 次はオレの番だ。ダゴダネルが寄越す領土にゴブリン・ロードの一族が移住するそうだ。リューキ殿は覚えてるか? ダゴダネルの軍勢が攻め寄せてきたとき、バルゼー村を占拠した一千のゴブリン兵を。あれがゴブリン・ロードの一族だ。ゴブリン族の中でも特に手強い奴らだ」
「そうか。争うより味方につけたいな」
「リューキ殿、オレもそう思うぜ」
「ゴブリン・ロードと直接話したいが、伝手はないか? 早めに行動したほうが良いだろう」
「四番隊の副隊長の祖父がゴブリン・ロードの一族の長老と懇意だったはず。その者にやらせましょう」
「頼んだ。ただし、ご老人には無理をさせないでくれ」
「承知。ではこれにて」
オーク・キングのグスタフ隊長が慌ただしく走り去る。
なんだろう? 用事でもあるのだろうか?
妙に早く話を切り上げられた気がする。
まあいい。俺もやりたいことがある。
新たな厄介ごとを持ち込まれる前にはじめてしまおう。
◇◇◇
大広間の奥。
古めかしい玉座の後ろの小さな扉。
錆の浮いた青銅の鍵を近づけると金庫室の扉が音もなく開いた。
金庫室のなかは、小学校の体育館くらいはありそうな空間。
あいかわらず閑散としている。
捕虜返還の対価でダゴダネルから受け取った金貨が増えたとはいえ、金庫全体から見れば微々たる変化。
寂しい光景に変わりはない。
なので、俺はここに「秘密基地」を作ることにした。
背板を外側にして背の高い棚を四角く並べ、四畳半ほどの密閉空間を作る。
そのままでは俺も内側に入れないので、棚をひとつずらして隙間を開ける。
間仕切り用のカーテンが欲しいところだ。
次回のローン支払いの際にでも、ついでに買ってこようか。
完成したばかりのプライベート空間に入る。
四方は壁。なんか落ち着く。
ネットカフェの個人ブースに比べれば広いが、PCやマンガはない。
フリードリンクも当然ない。
あるのは誰にも邪魔されない閉ざされたスペースのみ。
それでも、ここなら落ち着いて休める気がする。
「空っぽの棚に囲まれているのは寂しいな。いろいろ並べてみるか」
収納袋から「タナカ商会」で買ってきた品物を取り出す。
コンビーフの缶詰。サバ缶。レトルトカレー。牛丼の素。カップ麺。ポテトチップスやチョコの大袋。箱買いした栄養ドリンクやスポーツドリンク。その他諸々。
華がないぶん、数で勝負だ。
「うーん。賑やかにはなったけど、ガラクタ市みたいだ」
己の美的センスの無さに絶望する。
秘密基地だから誰かに見せることはないが、いくらなんでもひどすぎる。
さて、どうしよう?
絵でも飾るか? 俺らしくない。
フィギュアはどうだ? タナカ商会で売ってなさそう。
生活に潤いを持たせるのは難しい。
まあ、時間はたっぷりある。
秘密基地はゆっくりと完成させればいい。
永遠に完成しない秘密基地っていうのもロマンがあっていいじゃないか。
そうとも、前向きに考えよう。
「ブシュウゥゥーッ、グホーー」
買ってきた栄養ドリンクを試飲していると、間欠泉の吹き出しのような音が聞こえてくる。守護龍ヴァスケルの深呼吸だ。
このドラゴンはいつになったら起きるのだろうか。
死にかけているとか、疲労困憊とかいう話だが、治す方法はないのだろうか。
獣医に診せるか、いや、龍医か。
そんな龍専門の医者がいるのだろうか?
たぶんいないだろうな。
未完成の秘密基地を出て、守護龍ヴァスケルのもとまで歩く。
以前見たときとは寝相が異なる。
寝返りをうったのか。翼を下にした仰向けの状態。
両手両足を広げ、大の字になって寝転がっている。
酔っぱらいのオヤジのようでだらしない。
ヴァスケルの腹の上によじ登ってみる。
我ながら大胆な行動だと思う。
徹夜明けのハイテンションのなせる業か。
まあ、ちょっとやってみたかったのもある。
誰も見てないしね。
俺の名前は「竜」に「騎る」と書いて「竜騎」。
英語にすると「ドラゴン・ライダー」。
俺は遂にホンモノの「ドラゴン・ライダー」になった。
なんちゃって。
スマホがあれば自撮りしたかった。
リアル「ドラゴン・ライダー」なら誰も馬鹿にしないだろう。
「ちゃんと心臓動いてるのかな?」
十数メートルはあるヴァスケルの巨体に抱き付くようにして、這って移動する。
ドラゴンの胸のあたりに耳をあてるが心音は聞こえない。
一日一回しか呼吸しないから、脈もゆっくりなのだろうか。
心臓マッサージモドキで胸を繰り返し押してみる。
やはり心音は聞こえてこない。
素人が龍の治療をするのは無理なようだ。
ヴァスケルの瞼は閉じられたままだが、口は半開きだった。
口の中には鋭い牙が見える。
牙は軽く触れただけで手が切れてしまった。
ちょっと血が出る。
俺はヴァスケルの厚い唇に手をあて、ダメ元でこじ開けてみる。
「お、口が開いた。舌は薄いピンク色か。ぽちゃぽちゃしててカワイイな」
口が閉じないように肘で押さえつけながら、俺は栄養ドリンクを流し込む。
ビンの但し書きを見ると、「大人一日一本まで」とあった。
守護龍ヴァスケルの適量はどれくらいだろうか?
ドラゴンの体長は俺の十倍くらい。体重は三十倍、いや五十倍以上か。
そんなにたくさんは栄養ドリンクはないので、とりあえず十本飲ませる。
これでも大盤振る舞いだ。
「ヴァスケルさんや、お大事に。目覚めたら背中に乗せておくれよ」
俺はドラゴンの頭を優しくなでる。
ドラゴン・ライダーと龍医の気分を味わった俺は、秘密基地に戻ろうとする。
金庫室の扉を叩く音がする。
扉の向こうから俺を呼ぶジーナ・ワーグナーの声がする。
なんでジーナは俺の居場所がすぐにわかったのだろう。
鼻が利くのか?
まあいい。
ジーナが俺の名前を呼び続けるので、俺は金庫室を出ることにした。
「リューキ殿! ゴブリン・ロードとその一族が、割譲される領地に移住するそうだ。ただでさえ紛争が絶えない地域なのに……」
地下牢を脱し、いつもの大広間に戻る。
すぐさま、女騎士エリカ・ヤンセンとグスタフ隊長が競うように報告してくる。
まったく、この世界は退屈しない。
次から次へと新たな問題が発生する。
ひとつずつ片付けていくしかないか。
おや、俺も領主らしくなってきたかな?
「人質の件から聞こう。エリカ、詳しく話してくれ」
「我が領主。勅命によりダゴダネル家が養女を迎えたのは半年ほど前です。もともと、ダゴダネルには息子が六人いましたが、娘はいませんでした。今回送られてくる人質は、その養女に間違いありません」
「皇帝陛下から託された養女を人質に出す? それってマズくないか?」
「仰る通り。政治的には、いえ、常識的にも考えられない行動です」
「そもそもダゴダネル家が養女を迎える話からして、俺は理解できない。ダゴダネル家は皇帝陛下が縁戚関係を望むほど有力な家ではないと思うが?」
俺の発言にエリカは感心する声を上げた。
そう。まだはじめたばかりだが、俺は異世界の情勢を学んでいる。
講師はジーナ先生とエリカ先生。
話が脱線ばかりするダメ先生と些細なミスにも殺気を放つスパルタ先生だ。
教え方が両極端すぎて正直困る。
「着眼点が良い。素晴らしい回答です! あっ 我が領主、これは失礼」
「いいから続けてくれ」
「はい。ダゴダネルの養女は、実は皇位に近い高貴な血筋との話です。但し、他国の皇位ですが」
「我らが属するプロイゼン帝国以外ってことか? なんで、よその国の高貴なお姫様がこんな辺境で養女になってるんだ?」
「そこまではまだ……分かり次第、ご報告します」
エリカが呼吸を整える。
疲れているようだ。
そりゃそうだよね。徹夜してジーナの長話を聞いたんだから。
正直、俺もしんどい。
そうだ。
疲れて頭が回らないときは、甘いものをとるといい。
俺は収納袋からカラフルな小袋を取り出す。
袋の中にはいろんな味のキャンディーが入ってる。
「タナカ商会」でなんとなく買ったキャンディーの詰め合わせが、早くも役立つときが来た。
「『キャンディー』ですか? ジーナ様に同行して異世界に行ったときに見たことはありますが食べたことは……ほお、美味しいものですね! お土産で頂いた『濃密抹茶パフェ』ほどの上品さはありませんが、これはこれでアリかと。はっ、我が領主。せっかく頂いたのに失礼なことを!」
「キャンディーは味を楽しむというより疲労回復用にあげたんだから。気にしないでくれ」
そう答えつつ、俺はエリカの発言の意味するところを考えた。
……エリカは俺を罪人扱いしてる間に、お土産の「濃密抹茶パフェ」を食べてたのか。なんてこった! 女は怖いぜ! 悲壮感を漂わせる裏で「なにこれおいしーっ!」なんて言いながら、スイーツを味わっていたのか。畜しょ……いやいや、俺に裏切られたと思いこんで、悲しい気持ちでヤケ食いしただけだ。失恋した女子がドカ食いするようなものだ。きっとそうだ。そうに違いない。そうでなければ困る。そう言ってくれ。おっと、また妄想が爆発してしまった。エリカの話の続きを聞こう……
「我が領主。そろそろよろしいですか?」
「ん? ああ、説明を再開してくれ」
「人質に関して、噂話の類ですが、興味深い話を旅の商人から聞きました」
「ほう、どんな?」
「皇帝陛下の元にいた『亡国の微女』と呼ばれる異国の姫が、半年ほど前に姿を消したそうです。ダゴダネルが皇帝陛下から養女を迎え入れた時期と重なります」
「偶然ではなさそうだな。『亡国の美女』か、会ってみたくなったよ」
「我が領主。美人の『美女』ではなく、そこそこ美人な『微女』です! 変な期待はしないでください!」
……エリカから殺気が放たれた気がする。俺が他の女に興味を持ったからか。まさか焼きもち? ふっ、馬鹿だなあ、そんなんじゃないってば。ちょっと気になっただけさ。高貴な位の美女、いや、微女。しかも異国人ときた。そんな話を聞いたら、男なら誰でも気になってしまうものだ。だから安心していいんだよ、エリカ……
「女騎士エリカよ。リューキ殿の意識がまた飛んでしまったようだが?」
「地下牢に押し込められ、徹夜までしたのですから、我が領主はお疲れなのでしょう。私からの報告はこれくらいにします。グスタフ隊長も手短にお願いします」
エリカ・ヤンセンが一礼して俺の前から離れる。
キャンディーで右のほっぺが丸く膨らんでいる。
ちょっとかわいい。
「リューキ殿! 次はオレの番だ。ダゴダネルが寄越す領土にゴブリン・ロードの一族が移住するそうだ。リューキ殿は覚えてるか? ダゴダネルの軍勢が攻め寄せてきたとき、バルゼー村を占拠した一千のゴブリン兵を。あれがゴブリン・ロードの一族だ。ゴブリン族の中でも特に手強い奴らだ」
「そうか。争うより味方につけたいな」
「リューキ殿、オレもそう思うぜ」
「ゴブリン・ロードと直接話したいが、伝手はないか? 早めに行動したほうが良いだろう」
「四番隊の副隊長の祖父がゴブリン・ロードの一族の長老と懇意だったはず。その者にやらせましょう」
「頼んだ。ただし、ご老人には無理をさせないでくれ」
「承知。ではこれにて」
オーク・キングのグスタフ隊長が慌ただしく走り去る。
なんだろう? 用事でもあるのだろうか?
妙に早く話を切り上げられた気がする。
まあいい。俺もやりたいことがある。
新たな厄介ごとを持ち込まれる前にはじめてしまおう。
◇◇◇
大広間の奥。
古めかしい玉座の後ろの小さな扉。
錆の浮いた青銅の鍵を近づけると金庫室の扉が音もなく開いた。
金庫室のなかは、小学校の体育館くらいはありそうな空間。
あいかわらず閑散としている。
捕虜返還の対価でダゴダネルから受け取った金貨が増えたとはいえ、金庫全体から見れば微々たる変化。
寂しい光景に変わりはない。
なので、俺はここに「秘密基地」を作ることにした。
背板を外側にして背の高い棚を四角く並べ、四畳半ほどの密閉空間を作る。
そのままでは俺も内側に入れないので、棚をひとつずらして隙間を開ける。
間仕切り用のカーテンが欲しいところだ。
次回のローン支払いの際にでも、ついでに買ってこようか。
完成したばかりのプライベート空間に入る。
四方は壁。なんか落ち着く。
ネットカフェの個人ブースに比べれば広いが、PCやマンガはない。
フリードリンクも当然ない。
あるのは誰にも邪魔されない閉ざされたスペースのみ。
それでも、ここなら落ち着いて休める気がする。
「空っぽの棚に囲まれているのは寂しいな。いろいろ並べてみるか」
収納袋から「タナカ商会」で買ってきた品物を取り出す。
コンビーフの缶詰。サバ缶。レトルトカレー。牛丼の素。カップ麺。ポテトチップスやチョコの大袋。箱買いした栄養ドリンクやスポーツドリンク。その他諸々。
華がないぶん、数で勝負だ。
「うーん。賑やかにはなったけど、ガラクタ市みたいだ」
己の美的センスの無さに絶望する。
秘密基地だから誰かに見せることはないが、いくらなんでもひどすぎる。
さて、どうしよう?
絵でも飾るか? 俺らしくない。
フィギュアはどうだ? タナカ商会で売ってなさそう。
生活に潤いを持たせるのは難しい。
まあ、時間はたっぷりある。
秘密基地はゆっくりと完成させればいい。
永遠に完成しない秘密基地っていうのもロマンがあっていいじゃないか。
そうとも、前向きに考えよう。
「ブシュウゥゥーッ、グホーー」
買ってきた栄養ドリンクを試飲していると、間欠泉の吹き出しのような音が聞こえてくる。守護龍ヴァスケルの深呼吸だ。
このドラゴンはいつになったら起きるのだろうか。
死にかけているとか、疲労困憊とかいう話だが、治す方法はないのだろうか。
獣医に診せるか、いや、龍医か。
そんな龍専門の医者がいるのだろうか?
たぶんいないだろうな。
未完成の秘密基地を出て、守護龍ヴァスケルのもとまで歩く。
以前見たときとは寝相が異なる。
寝返りをうったのか。翼を下にした仰向けの状態。
両手両足を広げ、大の字になって寝転がっている。
酔っぱらいのオヤジのようでだらしない。
ヴァスケルの腹の上によじ登ってみる。
我ながら大胆な行動だと思う。
徹夜明けのハイテンションのなせる業か。
まあ、ちょっとやってみたかったのもある。
誰も見てないしね。
俺の名前は「竜」に「騎る」と書いて「竜騎」。
英語にすると「ドラゴン・ライダー」。
俺は遂にホンモノの「ドラゴン・ライダー」になった。
なんちゃって。
スマホがあれば自撮りしたかった。
リアル「ドラゴン・ライダー」なら誰も馬鹿にしないだろう。
「ちゃんと心臓動いてるのかな?」
十数メートルはあるヴァスケルの巨体に抱き付くようにして、這って移動する。
ドラゴンの胸のあたりに耳をあてるが心音は聞こえない。
一日一回しか呼吸しないから、脈もゆっくりなのだろうか。
心臓マッサージモドキで胸を繰り返し押してみる。
やはり心音は聞こえてこない。
素人が龍の治療をするのは無理なようだ。
ヴァスケルの瞼は閉じられたままだが、口は半開きだった。
口の中には鋭い牙が見える。
牙は軽く触れただけで手が切れてしまった。
ちょっと血が出る。
俺はヴァスケルの厚い唇に手をあて、ダメ元でこじ開けてみる。
「お、口が開いた。舌は薄いピンク色か。ぽちゃぽちゃしててカワイイな」
口が閉じないように肘で押さえつけながら、俺は栄養ドリンクを流し込む。
ビンの但し書きを見ると、「大人一日一本まで」とあった。
守護龍ヴァスケルの適量はどれくらいだろうか?
ドラゴンの体長は俺の十倍くらい。体重は三十倍、いや五十倍以上か。
そんなにたくさんは栄養ドリンクはないので、とりあえず十本飲ませる。
これでも大盤振る舞いだ。
「ヴァスケルさんや、お大事に。目覚めたら背中に乗せておくれよ」
俺はドラゴンの頭を優しくなでる。
ドラゴン・ライダーと龍医の気分を味わった俺は、秘密基地に戻ろうとする。
金庫室の扉を叩く音がする。
扉の向こうから俺を呼ぶジーナ・ワーグナーの声がする。
なんでジーナは俺の居場所がすぐにわかったのだろう。
鼻が利くのか?
まあいい。
ジーナが俺の名前を呼び続けるので、俺は金庫室を出ることにした。
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