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<フリーター危機一髪> ~嵐の前の静けさ~
幕間①:ジーナ先生の個人授業 1
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「この世界の情勢や歴史ですか? 当然知ってますわ。家庭教師のリヒャルド爺に学びましたから」
ジーナ・ワーグナーが鼻高々に答える。
彼女は元領主で、現在は城代。
ワーグナー家の第五十三代当主で、今では俺の配下。
そう。俺が手に入れたのは城と領地だけで、ワーグナー家そのものではない。
よく考えると俺たちはややこしい間柄だ。
まあ、俺の方が巻き込まれた口だけどね。
「リューキさまは、この世界のことを知りたいんですか?」
「そんなとこだ。領主たるもの、自分の領地はもちろん、世界情勢も把握しておかないとな」
「リューキさま、偉いですわ! わっかりましたー。わたしが個人授業してさしあげます!」
ジーナが元気な声をあげる。
むんっと胸をそらし、どこかへ行ってしまう。
しばらく待つと、地図やら古文書やら巻物やらを抱えて戻ってくる。
なんだか妙に張りきっている。
いやいや、そこまで本格的に準備しなくてもいいのに。
空いてる時間にお茶でも飲みながら話してくれるだけで構わない。
授業だなんて仰々しくしなくても良いんだが。
「では始めます! リューキさま、はやく席についてください!」
「は、はいっ!」
ジーナの勢いに思わず従ってしまう。
ワーグナー城の大広間が、個人授業の教室に変わってしまった。
なぜだ? 流れがジーナのペースになってる。
俺が思ってたのと違う。
「ジーナ、そこまで堅苦しくなくても……」
「そこ! 騒がないの。授業中は静かにですわ!」
「はい……すいません」
叱られた俺は背筋を正す。
授業を受けるのは高校生のとき以来。
もう十五年、いや十六年たつか。
懐かしいが、あの頃には戻りたいと思わない。
学校の授業は退屈でしかなかった。
「今日はワーグナー城の歴史。ひいてはワーグナー家の歴史を説明しますわね!」
「ジーナ先生、よろしくお願いします」
「せ・ん・せ・い! なんて素晴らしい響き! わたし、がんばりますわ!!」
ああ、やっちまった。
ついうっかり、ジーナを「先生」と呼んでしまった。
火に油を注ぐとは正にこのこと。
いまさら取り消せるはずもない失言に、ジーナの目がキラキラ輝く。
ふうっ、純粋な瞳がまぶしいぜ。
俺たちは先生と生徒。
もう後戻りはできない。
「コホン、では……そもそもワーグナー城とは初代ワーグナー卿が戦功の褒美として皇帝陛下より下賜されたローグ山に築城した山城で、プロイゼン帝国随一の堅牢さを誇る城です。ローグ山っていうのはこの地図のこの山のことで、帝国で三番目に高い山です。いまも地殻変動が続いていて、どんどん高くなってます。山の高さの記録はこっちの本に載ってます。けど、ワーグナー城は日当たりの悪い北斜面にあるので、城近辺の村々は農作物があまりとれないのよね。困ったものだわ。農業だけじゃなく、このあたりには産業らしい産業がないの。山を掘っても碌な鉱物は取れないし。なので、武勇に優れた初代ワーグナー卿は近隣勢力を攻め、領地を切り取っていったそうよ。わたしの父、ギルガルド・ワーグナーが第五十二代当主になるころには、帝国全土の三分の一近くを勢力下におく大公爵になっていたわ。それがいまや、初代ワーグナー卿の最初の領地よりも小さくなっちゃった。寂しい話よね。でね、初代ワーグナー卿ってのが……」
「はい! ジーナ先生!」
「ほえっ? なんでしょうか?」
俺は我慢できず、ジーナ先生の説明を止める。
ひと息でいつまでも話し続けるジーナの説明はあっちこっち飛んで分かりにくい。
彼女の肺活量がスゴイのはわかったが、要点を絞って話してほしいものだ。
「ジーナ先生。今さらですが、ワーグナー家は公爵なんですか? 公爵って、格式高い家柄ですよね?」
「そーでーす。父上は皇帝に次ぐ実力者でしたわ。いまでは名ばかりの公爵家ですけどねー」
「先生。差し支えなければ、なにがあったのか教えてくれませんか? 大公爵が落魄するにも原因があると思います」
「簡単に言えば、皇帝の跡目争いで負けた側についたからよ。裏切りにあった側といっても良いかしらねー。よくある話よ」
ジーナ先生がさらっと答える。
他人事のように話しているが、本音はどうだろうか。
ワーグナー城を売り払うまで追い詰められたんだから、面白いはずなかろう。
「はい。他に質問がなければ授業の続きをします。初代ワーグナー卿は……」
ジーナ先生の講義が続く。
初代ワーグナー卿は勇猛なだけでなく信義に厚い男だったらしい。
権謀術数にも長け、硬軟使い分けて領地を拡大したことから、有能な男であったのは間違いない。
ジーナ先生がひと息ついて水を飲む。
昼過ぎに始まった授業は、すでに五時間は経過した。
初代ワーグナー卿の功績は語りつくされたかに思えた。
「でね、こっからが面白いのよ! 実は初代ワーグナー卿って方は艶福家でもあって、政略結婚を繰り返して……」
ジーナ先生のテンションが上がる。
今までの話は単なる序章だったのか。
この様子では、歴代ワーグナー卿の話が何日も続きそうだ。
いや、だけどね。
俺の目的は領主として領地運営に役立つ情報が欲しいのであって……
「我が領主、ジーナ様。そろそろ夕食の時間ですがどうされますか? こちらに運ばせましょうか?」
「エリカ、知らせてくれてありがとう。ジーナ先生、授業の続きはまた今度に……」
「リューキさまぁ! ここからが盛り上がるんですってば! エリカ、夕食はこっちに運ばせて!」
「ええっ! じゃあ、エリカも俺たちと一緒に夕食をとらないか?」
「嫌です! いえ、用事がありますので遠慮させていただきます!」
エリカ・ヤンセンに逃げられる。
さすがは女騎士といったところか、危機察知能力が高い。
結局、俺は翌日の明け方近くまでジーナの個人授業を受けた。
というか、そこで意識を失った。
一晩かけても、ワーグナー家の二代目当主の途中までしか聞けなかった。
二代目は凡庸な当主だったらしいが、それでもジーナの話は長かった。
教訓:ジーナ先生の授業は時間を決めてから受けよう。
ジーナ・ワーグナーが鼻高々に答える。
彼女は元領主で、現在は城代。
ワーグナー家の第五十三代当主で、今では俺の配下。
そう。俺が手に入れたのは城と領地だけで、ワーグナー家そのものではない。
よく考えると俺たちはややこしい間柄だ。
まあ、俺の方が巻き込まれた口だけどね。
「リューキさまは、この世界のことを知りたいんですか?」
「そんなとこだ。領主たるもの、自分の領地はもちろん、世界情勢も把握しておかないとな」
「リューキさま、偉いですわ! わっかりましたー。わたしが個人授業してさしあげます!」
ジーナが元気な声をあげる。
むんっと胸をそらし、どこかへ行ってしまう。
しばらく待つと、地図やら古文書やら巻物やらを抱えて戻ってくる。
なんだか妙に張りきっている。
いやいや、そこまで本格的に準備しなくてもいいのに。
空いてる時間にお茶でも飲みながら話してくれるだけで構わない。
授業だなんて仰々しくしなくても良いんだが。
「では始めます! リューキさま、はやく席についてください!」
「は、はいっ!」
ジーナの勢いに思わず従ってしまう。
ワーグナー城の大広間が、個人授業の教室に変わってしまった。
なぜだ? 流れがジーナのペースになってる。
俺が思ってたのと違う。
「ジーナ、そこまで堅苦しくなくても……」
「そこ! 騒がないの。授業中は静かにですわ!」
「はい……すいません」
叱られた俺は背筋を正す。
授業を受けるのは高校生のとき以来。
もう十五年、いや十六年たつか。
懐かしいが、あの頃には戻りたいと思わない。
学校の授業は退屈でしかなかった。
「今日はワーグナー城の歴史。ひいてはワーグナー家の歴史を説明しますわね!」
「ジーナ先生、よろしくお願いします」
「せ・ん・せ・い! なんて素晴らしい響き! わたし、がんばりますわ!!」
ああ、やっちまった。
ついうっかり、ジーナを「先生」と呼んでしまった。
火に油を注ぐとは正にこのこと。
いまさら取り消せるはずもない失言に、ジーナの目がキラキラ輝く。
ふうっ、純粋な瞳がまぶしいぜ。
俺たちは先生と生徒。
もう後戻りはできない。
「コホン、では……そもそもワーグナー城とは初代ワーグナー卿が戦功の褒美として皇帝陛下より下賜されたローグ山に築城した山城で、プロイゼン帝国随一の堅牢さを誇る城です。ローグ山っていうのはこの地図のこの山のことで、帝国で三番目に高い山です。いまも地殻変動が続いていて、どんどん高くなってます。山の高さの記録はこっちの本に載ってます。けど、ワーグナー城は日当たりの悪い北斜面にあるので、城近辺の村々は農作物があまりとれないのよね。困ったものだわ。農業だけじゃなく、このあたりには産業らしい産業がないの。山を掘っても碌な鉱物は取れないし。なので、武勇に優れた初代ワーグナー卿は近隣勢力を攻め、領地を切り取っていったそうよ。わたしの父、ギルガルド・ワーグナーが第五十二代当主になるころには、帝国全土の三分の一近くを勢力下におく大公爵になっていたわ。それがいまや、初代ワーグナー卿の最初の領地よりも小さくなっちゃった。寂しい話よね。でね、初代ワーグナー卿ってのが……」
「はい! ジーナ先生!」
「ほえっ? なんでしょうか?」
俺は我慢できず、ジーナ先生の説明を止める。
ひと息でいつまでも話し続けるジーナの説明はあっちこっち飛んで分かりにくい。
彼女の肺活量がスゴイのはわかったが、要点を絞って話してほしいものだ。
「ジーナ先生。今さらですが、ワーグナー家は公爵なんですか? 公爵って、格式高い家柄ですよね?」
「そーでーす。父上は皇帝に次ぐ実力者でしたわ。いまでは名ばかりの公爵家ですけどねー」
「先生。差し支えなければ、なにがあったのか教えてくれませんか? 大公爵が落魄するにも原因があると思います」
「簡単に言えば、皇帝の跡目争いで負けた側についたからよ。裏切りにあった側といっても良いかしらねー。よくある話よ」
ジーナ先生がさらっと答える。
他人事のように話しているが、本音はどうだろうか。
ワーグナー城を売り払うまで追い詰められたんだから、面白いはずなかろう。
「はい。他に質問がなければ授業の続きをします。初代ワーグナー卿は……」
ジーナ先生の講義が続く。
初代ワーグナー卿は勇猛なだけでなく信義に厚い男だったらしい。
権謀術数にも長け、硬軟使い分けて領地を拡大したことから、有能な男であったのは間違いない。
ジーナ先生がひと息ついて水を飲む。
昼過ぎに始まった授業は、すでに五時間は経過した。
初代ワーグナー卿の功績は語りつくされたかに思えた。
「でね、こっからが面白いのよ! 実は初代ワーグナー卿って方は艶福家でもあって、政略結婚を繰り返して……」
ジーナ先生のテンションが上がる。
今までの話は単なる序章だったのか。
この様子では、歴代ワーグナー卿の話が何日も続きそうだ。
いや、だけどね。
俺の目的は領主として領地運営に役立つ情報が欲しいのであって……
「我が領主、ジーナ様。そろそろ夕食の時間ですがどうされますか? こちらに運ばせましょうか?」
「エリカ、知らせてくれてありがとう。ジーナ先生、授業の続きはまた今度に……」
「リューキさまぁ! ここからが盛り上がるんですってば! エリカ、夕食はこっちに運ばせて!」
「ええっ! じゃあ、エリカも俺たちと一緒に夕食をとらないか?」
「嫌です! いえ、用事がありますので遠慮させていただきます!」
エリカ・ヤンセンに逃げられる。
さすがは女騎士といったところか、危機察知能力が高い。
結局、俺は翌日の明け方近くまでジーナの個人授業を受けた。
というか、そこで意識を失った。
一晩かけても、ワーグナー家の二代目当主の途中までしか聞けなかった。
二代目は凡庸な当主だったらしいが、それでもジーナの話は長かった。
教訓:ジーナ先生の授業は時間を決めてから受けよう。
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