フリーター、城を買う。 〜格安物件をローンで買ったら異世界のお城でした。ちくしょう!〜

きら幸運

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<フリーター出撃編> ~守護龍ヴァスケル 覚醒する~

第二十話:フリーター、腹を立てる

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「無茶なことをいう男だねえ……仕方ない。あんたが行くなら、あたいも行くよ」
我が領主マイ・ロード。私も地獄の底までおつきあい致します」
 
 俺は、ゴブリン族の争いへの介入を決断する。

 守護龍ドラゴンヴァスケルと女騎士ナイトエリカ・ヤンセンも当然のように同行を申し出る。

「ヴァスケルは火を消せるか? 嵐を呼ぶとか、雨を降らせたりできるか?」
「あたいは火をつけるのは得意だけど、火を消すのはあんまり得意じゃ……」
「できるのかできないのか、はっきり言え!」
「い、一応いちおうできる。けど、雨雲を集めるのに時間がかかるし、あんたたちをかかえながらは無理だよ」

 屹立きつりつする岩場の上から、俺は戦場をにらみつける。
 ジーグフリードの軍勢は、いまや完全に浮き足立っている。
 彼らが動揺する原因が、村の火災なのは明らか。
 家族の身が心配でゴブリン兵たちは気が気でないのだろう。

「ヴァスケル! 俺と女騎士ナイトエリカをジーグフリードの軍勢の近くに下ろせ! そのあと、お前は消火に専念せんねんしろ!」
「そしたら、あんたの身の安全が……」
「エリカ・ヤンセンがいる。領主おれまも女騎士ナイトだ! 地獄の底まで付きあってくれると約束してくれた。女騎士エリカを信じろ!」
「わ、わかったよ!」「我が領主マイ・ロード! おおせのままに!!」

 守護龍ドラゴンヴァスケルが、俺と女騎士ナイトエリカを抱え込む。
 大きく咆哮ほうこうし、大空に飛び立つ。
 オーデル村を囲むゴブリン兵をなめまわすように旋回し、つむじ風をまきおこしながらジーグフリード軍の目の前に降り立つ。

「なんだあ! でっかいドラゴンまで出たぞお!」「おでたち、もうおしめえだあ」

 突如出現したドラゴンおびえ、ジーグフリード軍は潰走かいそう寸前の様相になる。

「ゴブリン族の勇者たちよ、狼狽うろたえるな! 俺はリューキ・タツミ。ワーグナーの領主ロードだ。このドラゴン守護龍ドラゴンヴァスケル。お前たちの敵ではない!」

 ジーグフリード配下のゴブリン兵が静まる。
 俺の言葉を受けて気持ちが落ち着いたというより、どう行動したら良いか判断できない様子。
 ゴブリン族は好戦的な種族で、身体からだ人間ヒト族より大きい者が多い。
 ただし、頭の回転はそれほど早くない印象を受けた。

「お前たちの大将、ジーグフリードに会いたい。どこにいる?」

 俺の問いにこたえるかのように、屈強な兵の間から細身の青年が姿をあらわす。
 動揺が残る同胞と違い、青年ひとり落ち着いた感じだ。

「私がジーグフリードです。領主ロードリューキ殿、お会いできて光栄です。以後、お見知りおきを」

 どちらかといえばほそマッチョな体格のジーグフリードは、言葉遣いもなめらかで、ゴブリン族とは別の種族に思えた。
 俺と同じ人間ヒト族と言われても信じてしまいそう。
 例えるなら、技巧派の軽量級ボクサーという感じ。
 力任せに戦うよりも、俊敏しゅんびんに動いて急所を突くタイプに見えた。
 
領主ロード様におかれましては、本日はどのようなご用件でしょうか? わざわざお越し頂いて恐縮ですが、ご覧のとおり、少々立て込んでおりまして……」

 苦戦をいられているはずなのに、それを感じさせないユニークな言い回し。
 頭は悪くなさそう。
 それどころか、なかなかの曲者くせもののようでもある。

 同時に、俺はジーグフリードの言葉に違和感を覚えた。
 ジーグフリードの使者は、俺にオーデル村まで来るよう要請してきたはず。
 なのに、目の前の青年は辻褄つじつまの合わないことを言っている。

 これは、ひょっとして……

「ジーグフリード、教えてくれ。ワーグナーの使者は、お前に何と言った?」
「いまさら何を尋ねられるのですか? このオーデル村を私に任せて頂けるとのお話だったのでは? ……いや、なるほど。そういうことですか」
 
 ジーグフリードが大笑たいしょうする。
 大きく開いた口のなか、ヒト族とは明らかに異なる鋭い犬歯が見えた。

「新天地のオーデル村で一旗ひとはたげようと考えたのですが……ダゴダネルの罠でしたか。私としたことが目先の欲に目がくらんで、まんまとだまされました」
「どうやらそのようだな」
 
 俺とジーグフリードは共に苦笑いする。
 対して、女騎士ナイトエリカ・ヤンセンが理解できないといった顔をする。
 賢いはずのエリカも奸計かんけいたぐいにはうといようだ。

 仕方ない。説明してやろう。

「ダゴダネルの奴らは、俺からの使者を詐称さしょうして、ジーグフリードの一族をオーデル村におびき出したのさ。そのあと、他のゴブリン族をきつけて、紛争状態にしたんだろうな。俺を呼び出したのは、あわよくばワーグナー領全域に争いを広げようとと目論もくろんだんじゃないかな?」
「的確な分析です。リューキ殿もなかなかの策士と見ました。私と話があうかもしれませんね」

 ゴブリン・ロードのジーグフリードが、ぬけぬけと言う。
 実に愉快そう。
 俺は別にジーグフリードを喜ばせたくて説明したわけではないが……
 まあいい。話を進めよう。

「ジーグフリード、あらためて問う。いまでもオーデル村が欲しいか?」
「なっ……当たり前です。私は一族を養わなければならない。領地が欲しいに決まっている」
「お前にその能力があるのか?」
「なんだと!? ……失礼。私には十分な力があります。私はゴブリン族ただひとりのゴブリン・ロード。その気になれば、村どころか、国だって統治できます」

 ジーグフリードが言い切る。
 たいした自信だ。
 よし、その言葉を信じてやろう。

「ジーグフリード、お前にオーデル村を任せる! いや、オーデル村だけではない。ダゴダネルから獲得したローグ山の南西地域すべてを一任する。領地に住むゴブリン族をまとめあげろ!」
「嘘でしょう!? ワーグナー領の三分の一を私に任せることになりますよ!」
「分かってる。ただし、これ以上は領地を与えるつもりはない。お前はゴブリン兵を統率し、俺のために戦場いくさばで働けるように鍛え上げろ! 今後、働いた分の報酬は現物で渡す」
「ほう……なかなか興味深いお話ですな。ゴブリン族は戦好いくさずきな上に、欲深よくぶかい種族。贅沢ぜいたくしたければ戦うしかないとわかれば、よく働きますよ」

 ジーグフリードがひざまずく。
 俺に忠誠をちかあかしに、頭を深く下げる。
 対して、俺は声をかけない。
 いな、ジーグフリードの考えを一族が共有するまで、何も言うつもりはない。

 頭の鈍いゴブリン族も状況を理解したのか、ひとり、ふたりとひざまずいていく。

 見わたす限りのゴブリン兵が身をちぢませたところで、俺は声を張り上げた。

「ゴブリン族の勇者たちよ! 俺はジーグフリードに領地を任せると約束した。だが、約束が果たされるかどうかはお前たちの働き次第だ。戦え! 敵を追い払え! 村を焼いた奴らに後悔させてやれ! お前たちの大将をだました黒幕くろまくつかまえろ!」

 数百ものゴブリン咆哮ほうこうが重なる。
 守護龍ドラゴンヴァスケルに負けない迫力がある。
 士気の上がった屈強なゴブリン兵が敵陣に突撃する。
 すさまじい勢いだ。

「リューキ……あんた、たいした男だねえ。あたい、感心しちゃったよ」
「ヴァスケル。お前、ここでなにしてる?」
「なにって? あんたの演説を聞いてたのさ」
「俺はお前に村の火事を消すように指示したよな? 雨を降らせるのに時間がかかるって言ったのはお前だよな? おらっ! さっさと行けよ!!」
「ひいーーっ! わかった、わかったから、そんなにおこんないでおくれよー」

 守護龍ドラゴンヴァスケルが慌てて飛び立つ。

 その姿を見ていると、俺は腹の底がさらに熱くなってくるのを感じた。


……「おこらないで」だと? ヴァスケルは何を言っているんだ? お前が言いつけを守らないから、俺は叱ったんだ。いや、ちょっと注意しただけだ。多少興奮したかもしれないが、いつもと変わらない。まったく、ヴァスケルがグズグズしていたせいで村が焼けちまったらどうするつもりだ? 領民には女、子どももいるんだ。火傷やけど程度で済めばいいが、死んじまったらどうするんだ。ど畜生ちくしょう! どいつもこいつも勝手なことしやがって! 戦いたい奴は勝手に戦えばいい。死んでも自業自得だ。だが、世の中には平和に生きたいやつも多いんだ。俺もそうだ。俺だってこのんで戦場にいるわけじゃない。だいたい……


女騎士ナイトエリカ殿。尋ねてよろしいですか? 先ほどまで熱く語っておられたリューキ殿が急に黙り込んでしまわれました。私は何か粗相そそうをしたのだろうか?」
「ジーグフリード殿。気になさらないでください。我が領主マイ・ロードには、よくあることです。ただ……」
「なにか気になることでも?」
「はい。日に日にリューキ殿の怒りの熱量が増している気がします。同時に、怒りの持続時間も長くなっている様で……」


 気づくと、女騎士ナイトエリカとジーグフリードがボソボソと話しあっていた。
 エリカはまだしも、ジーグフリードは自分の一族の未来がかかっているというのに、何をチンタラしているのやら。
 まったく、しょうがない奴だ。

「エリカ・ヤンセン、ジーグフリード。なにか言いたいことがあるのか? あれば、言え!」
「マ、我が領主マイ・ロード……、そう! 報告があります。岩場の上から戦場を観察していたとき、村の西の高台の……あのあたりに黒い鎧を着た大男がいました!」
「どこだ? 俺には分からないな。ジーグフリード、お前は眼が良いか? 黒鎧の男が見えるか?」
「はい……確かにいますね」
我が領主マイ・ロード。あの黒鎧は、先のいくさで捕虜にしたムタ・ダゴダネルと同じ鎧です! 間違いありません!」
「なに!? 確かに、よく見ると伝令らしき兵が行き来しているな。……よし、黒鎧の男を捕まえろ! ジーグフリード、お前の力を俺に見せてくれ!」

 ゴブリン・ロードのジーグフリードが配下の兵を呼び寄せる。
 すばやく密集隊形を取り、オーデル村の西の高台に向かって進軍を開始する。
 ぽつり。俺のほほに雨粒があたる。
 すぐさま激しい豪雨となる。
 オーデル村の火災は鎮火に向かう。
 あたり一面、煙と雨で視界は悪い。足元がぬかるむ。

 村を囲んでいた敵のゴブリン兵が右往左往するなか、俺と女騎士ナイトエリカ・ヤンセンはジーグフリードの軍勢と一緒に、敵陣に突入した。
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