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<フリーター隠密行編> ~ 女騎士エリカ 大剣を振るう~
第二十二話:フリーター、女騎士エリカと村を散策する
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守護龍ヴァスケルと別離の言葉を交わした翌日、俺と女騎士エリカ・ヤンセンはオーデル村にいた。
戦が終わり平穏が訪れたオーデル村で、俺たちは言い争っていた。
「我が領主、私にはそのような無礼な真似はできません!」
「女騎士エリカ、領主の命令が聞けないのか?」
「いえ、決してそのようなことでは……」
「地獄の底までつきあうと言ってくれたエリカの覚悟はそんなものだったのか。もういい、他の者に代わりを頼もう」
「我が領主……分かりました、そこまで仰るなら、私がお相手を務めさせていただきます」
パワハラチックな俺の言動に、エリカはうなだれる。
彼女の肩は小刻みに揺れる。
どれほど多くの敵に囲まれようとも一歩も引かなかった女騎士エリカ・ヤンセンが震えていた。
はたして、いかに理不尽で無体な命令が下されたかというと……
「リューキ……さま」
「『さま』は余計だ!」
「リューキ……さん」
「『さん』も必要ない!」
「……リューキ」
「そうだ! やればできるじゃないか、『エリカ様』」
「いやー! やめてください! 我が領主を呼び捨てにするだけでなく、私が『様』付けされるなんてー!!」
女騎士エリカ・ヤンセンがパニックを起こす。
顔を赤くし、両手を胸の前で合わせ、祈るような格好でイヤイヤする。
うおっ、なんてカワイイんだ!
普段のクールなエリカとのギャップに、俺の方が悶えそうだ。
「領主リューキ殿、なにをされているのですか?」
俺の新しい臣下、ゴブリン・ロードのジーグフリードが尋ねてくる。
戦後処理に多忙でも、日に数回、ジーグフリードは俺のもとにやって来る。
いわゆる報連相というやつだ。
エリカに勝るとも劣らない真面目さが好ましい。
「例の『あれ』だよ。ダゴダネル領を訪問する予行練習さ」
「女騎士エリカ殿が外交団の正使を務め、領主リューキ殿が補佐役のふりをする、例の『あれ』ですね」
「ジーグフリードは察しが良いな」
精神的ダメージを負ったエリカをそっとしておき、俺はジーグフリードと会話を続けた。
そう。ダゴダネル領に赴くにあたり、俺たちは作戦を練った。
ダゴダネル家は俺とジーグフリードを罠にはめようと画策し、見事に失敗した。
しかし、奴らの暗躍を証明する直接的な証拠はない。
いちおう、ダゴダネルの手の者と思われる武将を捕えたが、意識が戻らないので話を聞くことができない。
仮に意識を取り戻したところで、簡単に口を割るとも思えない。
「捕縛した敵将はホブゴブリン。間違いなくダゴダネル一族の者です。この者を切り札に、腰を据えて交渉するのもひとつの手かと思います」
当初、ゴブリン・ロードのジーグフリードはそう進言してきた。
激しい死闘の繰り広げたあとでもあり、交渉による幕引きを主張したのだ。
だが俺には時間がない。
ダゴダネルの停戦協定違反を糾弾して、長々と話しあう時間的余裕はないのだ。
そもそも今回のダゴダネル領訪問の目的は、人質のエルメンルート・ホラント姫の身柄を確保すること。
それだけだ。
なので、俺は何食わぬ顔をしてダゴダネル領を訪問することにした。
ほかのことは後回しで良い。
外交団訪問に先立つ親書への返信は、ごく素っ気ない内容で返ってきた。
ダゴダネルもワーグナーの外交団は普通に受け入れるつもりのようだ。
俺たちが出立するのは二日後。
念のため、ジーグフリードが一千の兵を率いて同行する予定だ。
……ただ、こうして準備を進めている間もエルメンルート・ホラント姫は無駄遣いをしているかもしれない。そう。ワーグナー家のツケ払いで買い物をしているかもしれないのだ。いや、確実にしている。きっとそうだ。そうに違いない。エルメンルート姫の浪費のせいで、ワーグナー城の金庫が空になれば、俺は城のローンが払えなくなる。ローンが払えなければ、俺の生命は尽きてしまう。「亡国の美女」ならぬ、そこそこ美人の「亡国の微女」のせいで、俺は死んでしまうのだ! 畜しょ……
「リューキ! しっかりして下さい!!」
おや? また悪い癖が出てしまったようだ。
俺は昔から物思いにふけると周りが見えなくなってしまう性質だ。
名前を呼んでもらえたおかげで、俺は正気に戻ることができた。
「俺に声をかけたのはエリカか?」
「我が領主、失礼を致しました。リューキ殿の様子が尋常でない気がしましたので……つい」
「いや、いい。これからも俺の意識が飛んでいたら、遠慮なく止めてくれ」
「よろしいのですか? 皆、リューキ殿の思考を妨げるのに躊躇してますが?」
「遠慮せずに止めてくれ。俺からの命令だ。少々手荒な事をしても構わん」
女騎士エリカ・ヤンセンが、ほっとした顔を見せる。
声ひとつかけるのに、そこまで悩んでたのか?
なんか申し訳ない。
どうやら俺の白日夢は皆に心配をかけていたようだ。
気づかなかった。
みんな、スマン。
自分でも注意するが、これからは力づくでも俺を目覚めさせてくれ。
特にエリカ。
なんといっても、お前は俺の女、いや、領主の身を護る女騎士だ。
時には主君に強い態度で迫る必要がある。
それが忠臣ってやつだ。
迫るといえば……おっと、いけない。
また妄想の沼にはまるとこだったぜ。
あぶないあぶない。
「女騎士エリカ。さっきの発言は良かったぞ。自然な感じで俺を呼び捨てにしていた。ただ『しっかりして下さい』ではなく『しっかりしろ』の方がいいかな。外交団の正使が格下の補佐役に丁寧な言葉遣いをするのは不自然だ」
「マイ・ロ……リューキ。咄嗟には無理です」
「エリカ。もう一度言う。ダゴダネルの奴らに俺が領主だとばれたら、俺の生命が危うくなる。これは命令ではあるが、俺からの頼みでもあるんだ」
女騎士エリカが項垂れる。
……うん、その少し陰のある表情も悪くないな。いやいや、俺は何を考えているんだ? そうとも、エリカはときおり見せてくれる笑顔や、すごーくたまに見せてくれるギャップ萌えな仕草がいいんだ! キレイなお姉さんは好きですか? はい、とっても。じゃあ、そのお姉さんが顔をくしゃっとさせたり、すさまじく照れたりする姿はどうですか? うん、それはもう無上の喜……
「リューキ! しっかりしろ!!」
俺の意識は現実に還った。
俺を叱責する声以上に、強力な気の放出が俺の邪な心を更生させた。
「エリカ、いまのはすごく良かったよ!」
「我が領主、失礼を致しました。背中がゾクッとしましたので、思わず強い口調になってしまいました」
「風邪でも引いたのか? 体調管理には気を付けてくれ。では、実践練習に移る。ふたりでオーデル村を見て回ろう」
「我が領主、失礼ながら確認させて頂きますが、私の反応を見て楽しんでいませんよね?」
「やだなあ、そんなわけないだろう。……では、『エリカ様』。参りましょうか」
「ううう……リューキ、私について参れ」
相変わらずカンの鋭いエリカをなんとかいなして、俺たちはゴブリンの村を散策することにした。
◇◇◇
オーデル村は、住民が三千弱の大きな村。
その多くがジーグフリードと共に移り住んできた彼の一族だ。
ダゴダネルに唆された反ゴブリン・ロード連合に村の半分を焼かれたのは昨日のことだが、村のなかは急速に復興が進んでいる。
ゴブリン族とは、実に生命力あふれる種族なのだと思った。
「エリカ様、ゴブリン族の子どもらがこちらを見ております。手をお振りになられてはいかがでしょうか」
「そうだな……リューキ。こんな感じか?」
「エリカ様、表情が硬いです。笑顔! 笑顔!」
(我が領主、絶対に私で遊んでますよね?)
(エリカ、そんなことないってば。子どもはカンが鋭いから、予行練習につきあってもらおうよ)
女騎士エリカが小声で苦情を訴えてくるが、俺は受け付けない。
だって、本当に楽しいからね!
俺はストレスのかかる毎日を送っているのだ。
少しくらいエンジョイさせてくれてもいいだろう。
「姉ちゃんたち、なんだあ? ワグナーのひとたちがよ?」
「そうよ、ワーグナー城から来たの。私は女騎士エリカ・ヤンセン。こちらはマイ・ロ……」
「俺は女騎士様の下僕のマイロ・ド・リュッキーだ。しばらくの間、村で世話になる。坊やたち、よろしくな!」
「女騎士のエリカさまとマイロか。おではミヒャエルってんだ。村のことは何でも聞いてくで」
「わかった。よろしくな、ミヒャエル」
俺とエリカは、ミヒャエルをはじめとするゴブリン族の子どもたちに村を案内してもらうことにした。
途中、エリカに偽名のことを小声で尋ねられる。
俺が何度注意しても、エリカが「我が領主」と俺を呼びそうになるので、しばらくは「マイロ・ド・リュッキー」を仮の名前にすると答えた。
領主様に気を遣わせてしまって申し訳ないといってエリカが落ちこみそうになるので、気にするなと答える。
なんというか、エリカはとことん真面目な性格だと思う。
もう少し融通がきけば良いのにね。
「ミヒャエル。広場でやたら大きな肉を焼いてるけど、あれはなんだ?」
「ん? マイロがいってるのは、龍さまからのおくり物のこどが?」
「龍からの贈り物? どういうことだ?」
「お父とお母がいってだ。ワグナーの龍さまが、村に喰い物を運んできてくれだっで」
なんと!
守護龍ヴァスケルは、仕留めた獲物を食料として運んできてくれていた。
うむ、善い行いだ。
再会したら褒めてやろう。
しかも、これって結構理性的な行動ではないのか?
ヴァスケルはしばらく理性を保てなくなると危惧していたが、思ったより早く合流できるかもしれない。
嬉しい誤算だね!
「マイロの期待も分かりますが、ヴァスケル様の合流は数日かかると思います」
「エリカ様、どうしてですか?」
「広場で焼いているのは、何の肉か分かりますか?」
「いえ、さっぱり」
「シーサーペントです。ヴァスケル様は遥か彼方の外海まで飛んで、ご自身の何倍も大きなシーサーペントと戦ったんです。本来は火龍と水中に住む大海蛇では属性の相性が悪いはずなのに……余程、気力体力が溢れているのでしょうね」
エリカの説明を聞いて俺はあぜんとする。
同時に、やたらとヴァスケルに栄養ドリンクを飲ませてはいけないと認識する。
なんだろう……
ヴァスケルと栄養ドリンクの組み合わせは、猫に小判、違う、豚に真珠、もっと違う。しかも失礼だ。そう、鬼に金棒みたいなものか。
ある意味、最終兵器的な扱いかな。
「ミヒャエル、その方たちは?」
「お母! ワグナーから来たエリカ様とマイロだよ。おで、村を案内しでるんだ」
「そうかい。失礼のないようにな」
「分かっでるざ!」
ミヒャエルの母親が頭を下げてくる。
子どものミヒャエルの見た目はヒト族とほとんど変わらないが、母親は筋骨隆々としていて完全にゴブリン族だ。
俺だけ両手を使っても腕相撲で勝てる気がしない。
さて、ダゴダネル領に出発するまであと二日。
エリカ様と俺はどれだけ良い関係を築けるかな?
ん? 変な意味じゃないぞ。
外交団の正使と補佐役という偽装のことだ。
ほかにどんな意味があるっていうのさ? はは。
戦が終わり平穏が訪れたオーデル村で、俺たちは言い争っていた。
「我が領主、私にはそのような無礼な真似はできません!」
「女騎士エリカ、領主の命令が聞けないのか?」
「いえ、決してそのようなことでは……」
「地獄の底までつきあうと言ってくれたエリカの覚悟はそんなものだったのか。もういい、他の者に代わりを頼もう」
「我が領主……分かりました、そこまで仰るなら、私がお相手を務めさせていただきます」
パワハラチックな俺の言動に、エリカはうなだれる。
彼女の肩は小刻みに揺れる。
どれほど多くの敵に囲まれようとも一歩も引かなかった女騎士エリカ・ヤンセンが震えていた。
はたして、いかに理不尽で無体な命令が下されたかというと……
「リューキ……さま」
「『さま』は余計だ!」
「リューキ……さん」
「『さん』も必要ない!」
「……リューキ」
「そうだ! やればできるじゃないか、『エリカ様』」
「いやー! やめてください! 我が領主を呼び捨てにするだけでなく、私が『様』付けされるなんてー!!」
女騎士エリカ・ヤンセンがパニックを起こす。
顔を赤くし、両手を胸の前で合わせ、祈るような格好でイヤイヤする。
うおっ、なんてカワイイんだ!
普段のクールなエリカとのギャップに、俺の方が悶えそうだ。
「領主リューキ殿、なにをされているのですか?」
俺の新しい臣下、ゴブリン・ロードのジーグフリードが尋ねてくる。
戦後処理に多忙でも、日に数回、ジーグフリードは俺のもとにやって来る。
いわゆる報連相というやつだ。
エリカに勝るとも劣らない真面目さが好ましい。
「例の『あれ』だよ。ダゴダネル領を訪問する予行練習さ」
「女騎士エリカ殿が外交団の正使を務め、領主リューキ殿が補佐役のふりをする、例の『あれ』ですね」
「ジーグフリードは察しが良いな」
精神的ダメージを負ったエリカをそっとしておき、俺はジーグフリードと会話を続けた。
そう。ダゴダネル領に赴くにあたり、俺たちは作戦を練った。
ダゴダネル家は俺とジーグフリードを罠にはめようと画策し、見事に失敗した。
しかし、奴らの暗躍を証明する直接的な証拠はない。
いちおう、ダゴダネルの手の者と思われる武将を捕えたが、意識が戻らないので話を聞くことができない。
仮に意識を取り戻したところで、簡単に口を割るとも思えない。
「捕縛した敵将はホブゴブリン。間違いなくダゴダネル一族の者です。この者を切り札に、腰を据えて交渉するのもひとつの手かと思います」
当初、ゴブリン・ロードのジーグフリードはそう進言してきた。
激しい死闘の繰り広げたあとでもあり、交渉による幕引きを主張したのだ。
だが俺には時間がない。
ダゴダネルの停戦協定違反を糾弾して、長々と話しあう時間的余裕はないのだ。
そもそも今回のダゴダネル領訪問の目的は、人質のエルメンルート・ホラント姫の身柄を確保すること。
それだけだ。
なので、俺は何食わぬ顔をしてダゴダネル領を訪問することにした。
ほかのことは後回しで良い。
外交団訪問に先立つ親書への返信は、ごく素っ気ない内容で返ってきた。
ダゴダネルもワーグナーの外交団は普通に受け入れるつもりのようだ。
俺たちが出立するのは二日後。
念のため、ジーグフリードが一千の兵を率いて同行する予定だ。
……ただ、こうして準備を進めている間もエルメンルート・ホラント姫は無駄遣いをしているかもしれない。そう。ワーグナー家のツケ払いで買い物をしているかもしれないのだ。いや、確実にしている。きっとそうだ。そうに違いない。エルメンルート姫の浪費のせいで、ワーグナー城の金庫が空になれば、俺は城のローンが払えなくなる。ローンが払えなければ、俺の生命は尽きてしまう。「亡国の美女」ならぬ、そこそこ美人の「亡国の微女」のせいで、俺は死んでしまうのだ! 畜しょ……
「リューキ! しっかりして下さい!!」
おや? また悪い癖が出てしまったようだ。
俺は昔から物思いにふけると周りが見えなくなってしまう性質だ。
名前を呼んでもらえたおかげで、俺は正気に戻ることができた。
「俺に声をかけたのはエリカか?」
「我が領主、失礼を致しました。リューキ殿の様子が尋常でない気がしましたので……つい」
「いや、いい。これからも俺の意識が飛んでいたら、遠慮なく止めてくれ」
「よろしいのですか? 皆、リューキ殿の思考を妨げるのに躊躇してますが?」
「遠慮せずに止めてくれ。俺からの命令だ。少々手荒な事をしても構わん」
女騎士エリカ・ヤンセンが、ほっとした顔を見せる。
声ひとつかけるのに、そこまで悩んでたのか?
なんか申し訳ない。
どうやら俺の白日夢は皆に心配をかけていたようだ。
気づかなかった。
みんな、スマン。
自分でも注意するが、これからは力づくでも俺を目覚めさせてくれ。
特にエリカ。
なんといっても、お前は俺の女、いや、領主の身を護る女騎士だ。
時には主君に強い態度で迫る必要がある。
それが忠臣ってやつだ。
迫るといえば……おっと、いけない。
また妄想の沼にはまるとこだったぜ。
あぶないあぶない。
「女騎士エリカ。さっきの発言は良かったぞ。自然な感じで俺を呼び捨てにしていた。ただ『しっかりして下さい』ではなく『しっかりしろ』の方がいいかな。外交団の正使が格下の補佐役に丁寧な言葉遣いをするのは不自然だ」
「マイ・ロ……リューキ。咄嗟には無理です」
「エリカ。もう一度言う。ダゴダネルの奴らに俺が領主だとばれたら、俺の生命が危うくなる。これは命令ではあるが、俺からの頼みでもあるんだ」
女騎士エリカが項垂れる。
……うん、その少し陰のある表情も悪くないな。いやいや、俺は何を考えているんだ? そうとも、エリカはときおり見せてくれる笑顔や、すごーくたまに見せてくれるギャップ萌えな仕草がいいんだ! キレイなお姉さんは好きですか? はい、とっても。じゃあ、そのお姉さんが顔をくしゃっとさせたり、すさまじく照れたりする姿はどうですか? うん、それはもう無上の喜……
「リューキ! しっかりしろ!!」
俺の意識は現実に還った。
俺を叱責する声以上に、強力な気の放出が俺の邪な心を更生させた。
「エリカ、いまのはすごく良かったよ!」
「我が領主、失礼を致しました。背中がゾクッとしましたので、思わず強い口調になってしまいました」
「風邪でも引いたのか? 体調管理には気を付けてくれ。では、実践練習に移る。ふたりでオーデル村を見て回ろう」
「我が領主、失礼ながら確認させて頂きますが、私の反応を見て楽しんでいませんよね?」
「やだなあ、そんなわけないだろう。……では、『エリカ様』。参りましょうか」
「ううう……リューキ、私について参れ」
相変わらずカンの鋭いエリカをなんとかいなして、俺たちはゴブリンの村を散策することにした。
◇◇◇
オーデル村は、住民が三千弱の大きな村。
その多くがジーグフリードと共に移り住んできた彼の一族だ。
ダゴダネルに唆された反ゴブリン・ロード連合に村の半分を焼かれたのは昨日のことだが、村のなかは急速に復興が進んでいる。
ゴブリン族とは、実に生命力あふれる種族なのだと思った。
「エリカ様、ゴブリン族の子どもらがこちらを見ております。手をお振りになられてはいかがでしょうか」
「そうだな……リューキ。こんな感じか?」
「エリカ様、表情が硬いです。笑顔! 笑顔!」
(我が領主、絶対に私で遊んでますよね?)
(エリカ、そんなことないってば。子どもはカンが鋭いから、予行練習につきあってもらおうよ)
女騎士エリカが小声で苦情を訴えてくるが、俺は受け付けない。
だって、本当に楽しいからね!
俺はストレスのかかる毎日を送っているのだ。
少しくらいエンジョイさせてくれてもいいだろう。
「姉ちゃんたち、なんだあ? ワグナーのひとたちがよ?」
「そうよ、ワーグナー城から来たの。私は女騎士エリカ・ヤンセン。こちらはマイ・ロ……」
「俺は女騎士様の下僕のマイロ・ド・リュッキーだ。しばらくの間、村で世話になる。坊やたち、よろしくな!」
「女騎士のエリカさまとマイロか。おではミヒャエルってんだ。村のことは何でも聞いてくで」
「わかった。よろしくな、ミヒャエル」
俺とエリカは、ミヒャエルをはじめとするゴブリン族の子どもたちに村を案内してもらうことにした。
途中、エリカに偽名のことを小声で尋ねられる。
俺が何度注意しても、エリカが「我が領主」と俺を呼びそうになるので、しばらくは「マイロ・ド・リュッキー」を仮の名前にすると答えた。
領主様に気を遣わせてしまって申し訳ないといってエリカが落ちこみそうになるので、気にするなと答える。
なんというか、エリカはとことん真面目な性格だと思う。
もう少し融通がきけば良いのにね。
「ミヒャエル。広場でやたら大きな肉を焼いてるけど、あれはなんだ?」
「ん? マイロがいってるのは、龍さまからのおくり物のこどが?」
「龍からの贈り物? どういうことだ?」
「お父とお母がいってだ。ワグナーの龍さまが、村に喰い物を運んできてくれだっで」
なんと!
守護龍ヴァスケルは、仕留めた獲物を食料として運んできてくれていた。
うむ、善い行いだ。
再会したら褒めてやろう。
しかも、これって結構理性的な行動ではないのか?
ヴァスケルはしばらく理性を保てなくなると危惧していたが、思ったより早く合流できるかもしれない。
嬉しい誤算だね!
「マイロの期待も分かりますが、ヴァスケル様の合流は数日かかると思います」
「エリカ様、どうしてですか?」
「広場で焼いているのは、何の肉か分かりますか?」
「いえ、さっぱり」
「シーサーペントです。ヴァスケル様は遥か彼方の外海まで飛んで、ご自身の何倍も大きなシーサーペントと戦ったんです。本来は火龍と水中に住む大海蛇では属性の相性が悪いはずなのに……余程、気力体力が溢れているのでしょうね」
エリカの説明を聞いて俺はあぜんとする。
同時に、やたらとヴァスケルに栄養ドリンクを飲ませてはいけないと認識する。
なんだろう……
ヴァスケルと栄養ドリンクの組み合わせは、猫に小判、違う、豚に真珠、もっと違う。しかも失礼だ。そう、鬼に金棒みたいなものか。
ある意味、最終兵器的な扱いかな。
「ミヒャエル、その方たちは?」
「お母! ワグナーから来たエリカ様とマイロだよ。おで、村を案内しでるんだ」
「そうかい。失礼のないようにな」
「分かっでるざ!」
ミヒャエルの母親が頭を下げてくる。
子どものミヒャエルの見た目はヒト族とほとんど変わらないが、母親は筋骨隆々としていて完全にゴブリン族だ。
俺だけ両手を使っても腕相撲で勝てる気がしない。
さて、ダゴダネル領に出発するまであと二日。
エリカ様と俺はどれだけ良い関係を築けるかな?
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