フリーター、城を買う。 〜格安物件をローンで買ったら異世界のお城でした。ちくしょう!〜

きら幸運

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<フリーター籠城編> ~神紙の使い手 エル姫登場~

第三十四話:フリーター、白磁の塔に逃げ込む

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 白磁はくじの塔の一階。
 分厚い石の壁に囲まれた円形の部屋に俺たちはいた。
 壁の銃眼じゅうがんは既に木板でふさがれており、外の様子は分からない。

 蝋燭ろうそく一本だけの薄暗い室内で目に留まるのは、二階と地下に繋がる螺旋らせん階段、簡素な収納棚、意識のない女騎士ナイトエリカ・ヤンセンが横たわる長椅子くらい。

 床に散らばるクロスボウや短弓、矢などの武具、金属くず、木片、紙くずなどを脇にやり、俺とゴブリン族のミイロたちは石畳の床にあぐらをかいて座る。

 腕を組み、興味深げに俺たちを眺めていた塔の住人が、ようやく口を開く。

「ワーグナーの方々かたがた、ダゴダネルの兵は撤収てっしゅうしたようじゃ。しばらくは休めるであろう……それにしてもにぎやかな登場の仕方であったな。わらわとしては、もう少し穏やかに会いたかったのじゃがな」
「もしかして、あなたがエルメンルート・ホラント姫? いえ、姫様ですか?」
「言葉をあらためる必要は無い。わらわはワーグナー家に預けられる身じゃからのう……もっとも、ここから生きて脱出できればの話じゃがな」

 大きなメガネの小さなお姫様がクスリと笑う。

 そう。ようやく会えたエルメンルート・ホラント姫は、やたらズリ落ちる大きなメガネをかけたチビッだった。

 背丈せたけは元領主ロードのジーナ・ワーグナーと似たり寄ったり。
 百五十センチをわずかかに超える程度。
 薄暗い室内ではかりにくいが、髪は俺と同じ黒髪のよう。
 戦いの最中さいちゅうだから仕方ないかもしれないが、飾り気のない格好は皇位に近い高貴なお姫様にはとても見えない。

 姫様の容貌ようぼうはどう表現すれば良いだろうか? 
 ブサイクではないが、噂に聞く「亡国ぼうこく微女びじょ」の異名も分からないでもない。
 背丈せたけ同様、顔の全体的な印象もジーナに似てるが、ド派手な顔立ちのジーナに比べて、姫様の顔のパーツひとつひとつは自己主張に欠けている。
 ハッキリいって地味。
 印象に残りにくいとでも言おうか。
 むしろ、目立たないような化粧メイクをしているんじゃないかとすら思った。
 まあ、俺の考え過ぎだろうけどね。

「して、おぬしらは何者じゃ? ワーグナーの使者なのは間違いなさそうじゃが、ヒト族とゴブリン族と、その意識を失っておるのは魔族まぞく女騎士ナイトじゃな。おかしな組み合わせじゃのう」

 へ!? 魔族まぞく女騎士ナイト? 
 エリカのこと言ってるんだよな? 
 魔族まぞくって、悪魔とかそういう分類だよね?


……エルメンルート姫が放ったひと言に、俺は衝撃を受けた。
 エリカは百歳を超えていると聞いてはいたが、単純に異世界のヒト族は長命なのだと思っていた。ファンタジーな世界なだけに長寿なエルフの血でも混ざっているのかとも想像した。エリカは二十歳そこそこにしか見えないし、エルフっぽいイメージのキレイなお姉さんだしね。まさか、魔族と呼ばれる種族とは思いもしなかった。いや、それがどうした。リューキよ、そんな些細ささいなことでショックを受けてどうする! 別にいいじゃないか、魔族まぞくでも裸族らぞくでも。いや、裸族らぞくは違うか。間違えたらすごく怒られちゃうね。てか、俺みたいによわっちくて短命なヒト族を救うために、エリカは自らの生命いのちを投げ出そうとしたんだぞ。なのに俺ってば……くっ、っちぇえ男だな。おい、リューキ・タツミさんよ。お前さん、魔族って聞いて、急にブルっちまったんじゃないのかい? え、そうじゃない? 最初からビビってたって? うん、そうだね。すっごく怖かったもんね。出会って早々、いきなり斬られそうになったからね。いまとなっては懐かしい思い出です。そういえばエリカの尋常でない殺気を感じても、怖いと思わなくなったなあ。なぜだろう? やっぱ、エリカのイヤイヤを見てからかなあ? きっとそうだな。あのギャップがなんとも言えないんだよな。それに、なんといっても膝枕ひざまくらとフーフーの絶妙なコンビネーション。おう、思い出しただけでも心がとろけそうだ。膝枕ひざまくらとフーフーの極楽タイムを堪能たんのうできるなら、頭突きヘッドバットの百や二百喰らっても……


「このヒト族の男はどうしたのじゃ? 急に固まってしまったが、何かショッキングなことでもあったのか?」
「エルメンナントカ・ホラナントカ姫さんや。大丈夫でえじょうぶだあ。マイロさんは、ときどきこうなるだあ」
「そうか、なら良いのじゃが」
「んでは、いまのうぢに、おでだちの自己紹介じこしょうがいでもするが」
「ああ、ぜひとも頼む」
「おで、ミイロだ。でも、ほんどの名前はミリアンだあ。宿屋の亭主ていしゅしでるだあ」
「おで、ムイロだ。でも、ほんどの名前はムタルだあ。火煙師かえんしと兵隊しでるだあ」
「おで、メイロだ。でも、ほんどの名前はメッシーナだあ。鉱夫こうふしでるだあ」
「おで、モイロだ。でも、ほんどの名前はモーリッツだあ。いま仕事はえが、やりがいのある仕事を探しでるだあ」
「ミイロとムイロとメイロとモイロじゃな、よろしく頼む。わらわの名前は長いから『エル姫』で構わぬぞ。して、そちらの女騎士ナイトはなんという名前じゃ?」
「こっちの女子おなごはエリカさまだあ。んで、そっちのマイロさんと良い仲で……」


 白日夢がける。
 俺は長椅子のはしに座り、女騎士ナイトエリカ・ヤンセンを膝枕ひざまくらしていた。
 しかも自分でも気づかないうちにエリカの頭をなでている。
 なんでこんな状況になったのかサッパリわからない。
 まあ、いいか。

 ふと顔を上げると、ミイロとムイロとメイロとモイロが、競い合うように俺のことをエルメンルート姫に説明している。

 こりゃマズい!

 このままでは面白おかしくふくらませた噂話ゴシップ吹聴ふいちょうされてしまう!

 危険を察知さっちした俺は、自己紹介がてら急いで会話に割り込むことにした。

「俺、マイロだ。でも、本当の名前はリューキだ。ワーグナーの領主ロードだ」

 エルメンルート・ホラント姫がぽかんと口を開けたまま固まる。
 はずみで、彼女の大きすぎるメガネが床に落ちてしまった。
 
 おう! 俺、やっちまったぁ! 
 つい、本当の自己紹介をしちまった。 

 こうして「エリカ様と下僕しもべのマイロ」の寸劇は幕を閉じましたとさ。
 
 ~おしまい~

 いやいや、そういう話ではない。
 そういう話ではないけど、あえて偽名マイロを続ける必要がなくなったのは事実。
 ダゴダネルにも俺の素性すじょうがバレちゃったみたいだしね。
 
 まあ、これもひとつのタイミングだ。
 これからは領主ロードリューキを堂々と名乗ろうか。
 領主ロードとして、エルメンルート・ホラント姫と積もる話お金の話もしなきゃいけないしね。
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