フリーター、城を買う。 〜格安物件をローンで買ったら異世界のお城でした。ちくしょう!〜

きら幸運

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<フリーター籠城編> ~神紙の使い手 エル姫登場~

第四十話:フリーター、誘惑を跳ね返す

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「リューキさん。ちゃんとお話をすれば、わかってもらえると思うのー」

 淫魔サキュバスブブナ・ダゴダネルが、甘えるような声を出す。

 ブブナを頂点としたホブゴブリン兵のピラミッドは動いていない。
 俺との距離は二十メートルほど離れたまま。
 なのに、ブブナが目の前にいるかのような錯覚におちいってしまう。
 淫魔サキュバスが見せる幻覚か。

 くっ……気をしっかり持たないと顔がニヤけちまうぜ。
 俺は血がにじむほどにくちびるみ、懸命けんめいに自制心を働かせる。
 それくらい、ブブナは魅力的な女に思えた。

「……ひとつ教えてくれないか?」
「なになに! 何でも聞いてー!」
「俺はいつから『マイロ』から『リューキ』に変わったんだ? お前にリューキと名乗った覚えはないがな」

 ブブナが首をかしげる。
「あれー? そーだっけー?」なんて不思議ふしぎがりながら、身体からだをクネクネさせる。
 自然と、メロンサイズのふたつのモノが、たゆんたゆんと揺れ動く。

 いや違うな。ブブナはわざと大きく揺らしているな。
 うむ、俺の弱点は完全にバレているようだ。
 うれしいのにくやしいという複雑な心境をどう表現したらよいだろう? 
 とりあえず「畜生ちくしょう」と言っておこう。
 いや、「うれちくしょう」か? そんな言葉はないな。はは……

「マイロさん。ちゃんとお話をすれば、わかってもらえると思うのー」
「『ブブナ』、俺の名前を言い直さなくてもいいぞ」
「あれー? 私の名前も『ナナブ』から『ブブナ』に変わっちゃったね……はんっ、エルメンルート・ホラントから聞いたな?」

 ブブナ・ダゴダネルが腕を組む。
 きゃぴきゃぴした笑顔は消え、代わりに冷笑が浮かぶ。
 声音こわねはクールというより単に冷たい感じ。
 
「リューキ。どうだい、アタシと取り引きしないか?」
「取り引きだと?」
「キサマの生命いのちは助けてやる。それだけじゃない、ワーグナーとダゴダネルをひとつにしようじゃないか……それに、アタシの身体からだも好きにしていいんだよ」

 ブブナがふたつのメロンをむんずと持ち上げる。
 すごく重そう、けれど柔らかそう。
 淫魔サキュバス舌舐したなめずりをしながら腰をくねらせ、娼婦しょうふのように誘惑してくる。

「お前の提案はわかった。だが断る!」
「なに!?  アタシの身体からだが欲しくないのか?」

 叫ぶようにブブナが問う。
 淫魔サキュバスであるおのれの性的魅力に絶対的な自信を持っているのだろう。

「そんなものいらない! そもそも、お前の言葉は信用できない」
「バカな! アタシの誘惑チャームが効かないなんて! くっ、これならどうだ!!」

 淫魔サキュバスブブナが、するすると服を脱ぎ始める。
 ブブナの白い肌が徐々にあらわになる。
 けれども、俺はこれっぽっちも興奮を覚えない。

我が領主マイ・ロード! まどわされてはなりません!」
「エリカ。俺は平気だよ」

 女騎士ナイトエリカ・ヤンセンの危惧きぐを俺は一蹴いっしゅうする。

「リューキよ。どうなっておるのじゃ? 淫魔サキュバス誘惑チャームを跳ね返すとは……」
「エル。俺をなめるな。誘惑チャームだかチャイムだか知らないが、そんなもの俺の心には響かない!」
 
 エリカ同様、エル姫にも心配されたが、俺はキッパリと言い切る。
 なーに、俺だってやるときはやるのだ!


 ……すいません。俺、嘘をつきました。ホントは、「うひょー! コリャたまらん!!」となっちゃった瞬間、急に興奮が冷めただけです。俺が自力で誘惑チャームとやらを跳ね返したわけじゃありません。なんだろうね、不思議だね……
 

「エルメンルートの仕業しわざか!? またおかしな神器しんきを使いやがったな!!」

 ブブナの勝手な憶測おくそくを、俺は否定も肯定もしない。
 エル姫が何か言うかと思ったが、彼女も何も話さない。
 見ると、エル姫は俺の背後にしゃがみ込み、マントをモソモソといじっていた。
 
「エル。ブブナが文句を言ってるぞ?」
「放っておけばよいのじゃ。それよりも、よく見るとリューキのマントはなかなかの逸品いっぴんじゃのう。クイーン・タランテラの糸の織布おりぬの不死鳥フェニックスの羽根がみこまれておる。他にも見慣れぬ素材も……ふむ、良い仕事をしておるのう」

 俺には理解できないところに、エル姫が感心する。
 白磁はくじの塔でも神器しんきを研究し続けていた姫様なだけに、着眼点が違うようだ。

「なあ、エリカ。ジーナが贈ってくれたマントは普通のマントじゃないのか?」
我が領主マイ・ロード。ジーナ様は、リューキ殿の旅の安全を願って衣装を作られました。城の書庫の古文書を調べて、様々な工夫をらしていたようです」
「リューキよ。淫魔サキュバスブブナの魅了チャームが効かなかったのは、マントの加護のおかげかもしれぬぞ。わらわの従妹いとこのジーナ・ワーグナーは優しい女子おなごじゃのう。精々せいぜい、大事にしてやってくれなのじゃ」 
 
 ジーナを大事にする? 
 確かに、最近はぞんざいに扱っていたかもしれないね。
 うん、無事に城に戻ったらお礼をしようかな。
 なにか欲しいものがないか尋ねてみよう。
 きっとスイーツだろうけどね。

「キサマら! アタシの話を聞いてるのか?」

 淫魔サキュバスブブナが叫び声をあげる。

「もう一度聞く! アタシと手を組むつもりはないか?」
「これっぽっちもない。俺の方こそ何度でも言おう、お前は信用できない」

 俺は即答する。
 対して、ブブナはニヤリと冷たく笑い返してきた。

「そうかい……交渉決裂だな。ワーグナーとの休戦協定は破棄させてもらう。キサマらはここで死にな!」

 ブブナがホブゴブリン兵のピラミッドから飛び降りる。
 俺は急いで窓から顔を出す。
 ピラミッドの下には大きな布を広げた黒鎧の兵たち。
 最初から予定していた展開のようだ。
 やはり、俺と手を組もうという提案は嘘だったのだ。

 ブブナが着地したのと同時に、屋上にいる見張りのムイロが警告を発する。

「敵だあ! でっかい投石機カタパルトが塔の西にあらわれただあ! こっちを狙っでる。早くぶっつぶすだあ!!」
 
 俺たちは、反対側の西の窓に駆け寄ろうとする。
 唐突とうとつに、衝撃音しょうげきおんがドガンと頭の上から響いてくる。
 不意の揺れに耐えられず、俺はバランスを崩す。
 転倒しながら、視界のはしに塔の外壁がバラバラと落ちていくのが見えた。

白磁はくじの塔が気に入ったならくれてやる! キサマたちの墓標ぼひょうにしてやろう。アーハッハッハーー!」

 ブブナの嘲笑ちょうしょうが響き渡る。
 ムカつく。
 それが、戦闘再開の合図となった。

「な、なんじゃあれは!?」

 いち早く、部屋の西側の窓際にたどり着いたエル姫が叫ぶ。
 いで、俺と女騎士ナイトエリカも同じものを目にする。
 
「でかいな……」
我が領主マイ・ロード……そうですね」
「リューキ、エリカ。さっさと片付けてしまおうぞ」

 白磁はくじの塔の西。
 庭園のど真ん中に通常の何倍も大きな投石機カタパルトが鎮座している。
 敵の新兵器には黒鎧の兵がアリのように群がり、次の攻撃を準備していた。

「くっ、撃たせるか!」

 俺は西の窓際に弩砲バリスタを移動させようとする。
 が、塔の東側からも敵兵が押し寄せてくるのに気づき、動揺してしまう。

「みんな、東にも敵だ! ムイロ、何やってる! しっかり見張ってくれよ!」

 俺の問いかけに返事はない。
 代わりに塔の上から丸い玉が立て続けに落ちてきた。
 火煙師かえんしムイロの狼煙玉のろしだまだ。
 ただし、火は着いておらず、地面に落ちても煙は上がらなかった。

「ムイロ! どうした!? 返事をしろ!」

 再三呼びかけても返事はない。

「くっ……みんな、ムイロの指示を待たずに各自で判断しろ! 敵を塔に近づけるな! メイロ、タマの補充は後でいい、屋上のムイロの様子を見てきてくれ!」
我が領主マイロどん! おでに任せるだあ!」
我が領主マイ・ロード、私は塔の入り口で敵の侵入を防ぎます!」
「エリカ! 頼んだぞ!」

 俺は塔の東から押し寄せる黒鎧の集団に黄金弾おうごんだんを撃ちまくる。
 エル姫は俺と連携して矢を射る。
 六階のミイロは投石機カタパルトで城壁の上の攻城兵器を片っ端からつぶし、二階のモイロは四方八方に矢を射まくる。  

 懸命に塔の防衛タワー・ディフェンスを続ける俺たちだったが、再度、巨大な投石機カタパルトの攻撃に水を差されてしまう。

 ドガンッ!

 轟音ごうおんとともに白磁はくじの塔が揺れる。
 外壁が大きく壊れ、ひときわ大きな石のかたまりが落ちていくのが見えた。

「リューキ。巨大投石機カタパルトを先に片付けようぞ。このままでは塔が崩れて、生き埋めになってしまうのじゃ!」
「ちっ、仕方ない。エリカ、ミイロ、モイロ。しばらく、なんとかしのいでくれ!」
我が領主マイ・ロード、お任せください!」「おで、頑張るだあ!」「おでもだあ!!」

 俺は西の窓際に弩砲バリスタを移動させる。
 塔の東から雲霞うんかのごとく押し寄せる黒鎧の群れは、女騎士ナイトエリカ、「ウサギ山のモーリッツ」ことモイロのふたりに任せる。
 特に、巨漢のホブゴブリン兵と直接対峙するエリカには大きな負担をかけてしまうことになり、俺は心が痛んだ。

「な!? 投石機カタパルトが!?」

 窓際に弩砲バリスタえ付けた俺は、巨大投石機カタパルトが厚い壁に覆われているのに気づく。
 やっかいな攻撃を仕掛けてくる敵の新兵器は、黒鎧の兵が厳重に守っていた。

「リューキ。奴らは黄金弾おうごんだんを相当警戒しておるようじゃのう」

 エル姫がくやしそうに言う。

 俺は、ホブゴブリン兵の山に弩砲バリスタを撃ちまくる。
 黄金弾おうごんだんは、丸太のたば幾重いくえにも重ねた大盾、更にはホブゴブリン兵たちをも吹き飛ばしたものの、肝心の巨大投石機カタパルトには傷ひとつ負わせることができなかった。
 逆に、ダゴダネルの新兵器は何度も白磁はくじの塔に痛撃を与え続ける。

 厳しい戦況に、俺は焦りを感じた。

神紙しんししんでいる場合ではないのう」

 エル姫がふところから丸まった紙を取り出す。
 なにやらゴニョゴニョ唱えながら、取り出した神紙しんしを宙に放り投げる。

でよ! 炎の精霊イフリート三兄弟よ! いまこそ、『火球』を放つ時ぞ!」

 宙を舞う神紙しんしがむくむくとふくらみ、めらめらと燃え始める。
 背丈せたけは二十センチにも満たないが、ヤンチャそうな炎の精霊イフリートが三体姿を見せる。
 てか、炎をまとった小人たちは、召喚された途端にケンカを始めてしまった。

「これ! いさかいはやめぬか! おぬしたちの出番じゃぞ! これ! やめろと言ったらやめるのじゃ!!」

 エル姫がどれだけ言っても、小さな炎の精霊イフリートたちは争いをやめない。
 そうしている間も部屋の温度はグングンと上昇していく。
 俺の額にも汗がにじみだしてくる。
 
 はたして、炎の精霊イフリートの出現は吉となるか凶となるか、どっちに転ぶやら?
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