フリーター、城を買う。 〜格安物件をローンで買ったら異世界のお城でした。ちくしょう!〜

きら幸運

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<フリーター籠城編> ~神紙の使い手 エル姫登場~

第四十一話:フリーター、束の間の休息を楽しむ

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「これ! いさかいはやめぬか! おぬしたちの出番じゃぞ! これ! やめろと言ったらやめるのじゃ!!」

 召喚した炎の精霊イフリート三兄弟のケンカを、エル姫は懸命に止める。
 対して、炎をまとった小人たちは争いをやめない。
 むしろヒートアップ。
 室内はサウナのように暑くなり、汗がしたたり落ちる。

 仕方なく、俺は兄弟ケンカに割って入ることにした。

「エル。炎の精霊イフリートは、なにをめているんだ?」
「単純なことじゃ。三兄弟で誰が一番強いかを争っておるのじゃ」
「そんなことかよ!? まあいい。で、どうやって勝ち負けを決めるんだ?」
「『火球』の破壊力じゃ。火球の正体は、炎の精霊イフリート弩砲バリスタ投石機カタパルトのタマにしがみついて、敵に体当たりしたものじゃ。三兄弟は、どれだけ敵をやっつけたかで競っておるのじゃ」
「ずいぶんと乱暴な方法だな。けど、攻撃目標ターゲットなんて毎回違うし、簡単には比較できないだろ?」
「その通りじゃ。だからこそ、今回の目標が敵の新兵器だとわかった途端、誰が最初に行くかでめておるのじゃ……これ、やめぬか! バグラ! 長男なら弟たちに譲ったらどうじゃ! ドグラとディアグラもわがままを言うでない!」

「お兄ちゃんなんだから我慢しなさい」的に、エル姫がたしなめる。
 が、三兄弟は聞く耳を持たない。

 暑さで頭がクラクラしてきた俺は、手っ取り早く解決策を提示することにした。

「兄弟そろって、同じタマにしがみつけばいいじゃないか。一緒に当たれば、誰が一番強いかわかるだろ?」
「お……おお、おおおお! リューキよ、あまりにも単純すぎて思いつかなんだわ! さすがはワーグナーの領主ロードじゃな!」

 なんというか、ちっとも褒められた気がしない。
 でもまあ、エル姫だけじゃなく炎の精霊イフリート三兄弟も納得したから、よしとしよう。

「準備はいいか? 巨大投石機カタパルトは丸太の束や大盾を抱えた黒鎧の兵が大人数で守っている。生半可な攻撃は通じないガチな守りだ。投石機カタパルトを一番派手に燃やした奴が勝ちってことでいいな?」
「リューキ。三兄弟は待ちきれない様子じゃ。『早くしろ』と催促しておるぞよ」
「そうかい、じゃあ撃つぞ! バグラ! ドグラ! ディアグラ! 炎の精霊イフリートの兄弟よ! おのれが一番強いと思うなら、俺たちに証明してみせろ!」


 黄金弾おうごんだんを放つ。
 瞬時に、炎の精霊イフリートの三兄弟がタマに飛びつく。
 三兄弟をのせたタマは、彗星すいせいの如く炎の尾をひきながら目標ターゲットに向かう。
 
 黄金弾おうごんだん着弾ヒットする。
 炎の精霊イフリートの放つ高熱で、巨大投石機カタパルトを覆う丸太の山が発火する。
 こけむした生木が、油を染み込ませた枯れ木のように勢いよく燃えさかる。

 黄金弾おうごんだんは浸透する。
 灼熱しゃくねつの弾丸は、厚い甲羅こうらのような大盾の重層構造をずぶずぶとえぐっていく。
 あまりの熱量に大盾の金属部分は溶解し、いびつにゆがんでしまう。

 黄金弾おうごんだんに恐怖する。
 鉄壁の防御に黒鎧の兵は油断していた。
 密集隊形の兵たちは、突如とつじょ目の前にあらわれた黄金色こがねいろタマを避けられず、なすすべもなく撃ち倒されてしまう。

 黄金弾おうごんだんの使命が果たされる。
 矢や石弾せきだんばかりか、通常の黄金弾おうごんだんも通用しない防御を突破し、炎の精霊イフリートたちは巨大投石機カタパルトに到達する。
 役目を終えた黄金弾おうごんだんはどろりと溶け落ち、地面に黄金色こがねいろのちいさな池を作る。

 三兄弟は競い合うように巨大投石機カタパルトに取り付き、最大限の熱量をっておのれの強さを主張した。


 バゴォオーーーン!!

 爆音ばくおんとともに火柱ひばしらが立つ。
 俺がいる三階どころか、塔の屋上よりも遥かに高く火炎が昇る。
 目をらすまでもなく、新兵器の脅威きょういが消え去ったと理解できた。

 戦況の変化を悟ったのか、白磁はくじの塔を囲んでいた敵兵が撤退し始める。
 再度、俺たちはダゴダネルの襲撃を跳ね返すのに成功した。

 てか、正直言って、ギリギリの生命いのちびろいだけどね……

「リューキ。見事に巨大投石機カタパルトを攻略したのう。三兄弟の競争心がうまい具合に作用したようじゃ」
「ああ、すさまじい威力だったな……それより、無事かな!?」
女騎士ナイトは無事じゃぞ。ほれ、噂をすればなんとやらじゃ!」

 俺が「みんな」と言ったにもかかわらず、エル姫は具体的に答える。
 見ると、女騎士ナイトエリカ・ヤンセンが螺旋らせん階段を上ってきたところだった。
 ……まったく、姫様にはかないませんな。
 
我が領主マイ・ロード、先ほどの火災はなにが起きたのですか?」
「後で説明してやる。それより、ケガはないか? ホブゴブリンの集団に押し潰されなかったか?」
「大丈夫です。塔を背にして、常に一対一で戦いました。私は領主ロードまも女騎士ナイト。敵の同じ手には乗りません」

 女騎士ナイトエリカ・ヤンセンの頼もしい返答に、俺はようやく安堵あんどする。
 てか、エリカのことを一番に心配してしまうのは、しょうがないよね。
 ホレちまった弱みってやつさ。

我が領主マイロどん、ムイロが……」

 ミイロとメイロが、屋上で見張りをしていたムイロをかかえて階段を下りてくる。
 ムイロは辛うじて意識はあるものの、うつろな表情。
 全身を何か所も骨折しているようだ。
 
「なっ!? ヒドいケガじゃないか!」
我が領主マイ・ロード、早く治療をしなくては! ゴブリン族は食事が治療。なにか食べやすいものはありませんか?」
「カップスープは全部ジーグフリードに渡したしな……あ、これがあった!」

 俺は収納袋からフリーズドライのカレーを取り出す。
 「タナカ商会」で手に入れたものの、こめがないので手つかずだった非常食。
 これならムイロのくちに入れられる。
 そうとも、偉大な食の達人が言っていたじゃないか。「カレーは飲み物」だと。
 うむ、実に名言だと思う。

 俺はカセットコンロ、金属製の小型ケトル、ミネラルウォーターを取り出し、チャチャっと準備する。
 フリーズドライとはいえ、いちおうビーフカレーなので、肉好きのゴブリン族にも丁度いいだろう。

「リューキよ。何ともいえぬ良い香りがするぞよ。それに、その面妖めんような焚き火はなんじゃ?」
「エル。これは『カレー』という食べ物だ。焚き火は『カセットコンロ』。ついでに説明しておくが、俺は異世界から来た人間だ。この戦いが終わったら、知りたがりのお前にもいろいろと教えてやるから、質問は後にしてくれ!」
「異世界とな!? わ、わかったのじゃ! リューキの話を楽しみにしてるのじゃ!」

 俺はカレーをスプーンですくい、ムイロのくちに入れてやる。
 ムイロは即座に、ピクン、ピクンと反応する。
 青かったほほは赤く染まり、途切れがちだった呼吸はハッキリしたものに変わる。

我が領主マイロどん、うまそうだな……いんや、ダメだあ! いまはムイロを助けねばなんねえだあ!」
「ミイロたちにも後でメシを出してやるから、ちょっと待ってな」
「おで、おとなしく待つだあ!」「おでも!」「おでもだあ」

 よだれを滝のように流しながら、ミイロたち三人はおとなしく座る。
 聞き分けが良くていいね。
 口には出さないが、女騎士ナイトエリカとエル姫の目もカレーに釘付けさ。
 うむ、カレーは日本だけじゃなく、全宇宙最強の食べ物だな。

 ムイロの額に汗が流れる。
 呼吸は明らかに荒くなっている。
 ほほだけでなく、ムイロの目も赤みが差してきた。
 そう、充血ってやつだ。

我が領主マイ・ロード。ムイロ殿の容態は良くなってきていますが、いささか苦しんでいませんか?」
「エリカ、お前もそう思うか? 実は俺もそんな気がして……」

 フリーズドライカレーの包装紙を見直す。
 値札に隠れて見えなかった字を読んでみる。
「超激辛」。
 おっと、俺は大事な情報を見落としていたようだね。

「ムイロ、いちおう尋ねる。お前、辛い食べ物は苦手か?」

 ムイロが首を縦に振る。
 そりゃーもう、汗をダラダラと流しながら、懸命に。

「そうか……けどな。ムイロが食べられそうなメシは、これしかない。頑張ってハラに収めるんだ!」

 ムイロの目に絶望の色が浮かぶ。
 俺は彼の目をできるだけ見ないようにして、淡々とカレーを食べさせてやる。
 スプーンをひとすくいするたび、ムイロの熱い息が俺の手にかかる。

 でもまあ、仕方ないよね。
 生命いのちがかかってるんだし、背に腹は代えられないからね。

我が領主マイロどん……もう『カレー』は勘弁しでくで……」

 ムイロがしゃべった。
 そう。ムイロは真っ赤にふくれたタラコくちびるで明確に意思を伝えてきた。

 こうして、カレーのおかげでムイロの生命いのちはなんとかつなぐことができた。

 ありがとう、カレー様! 
 でも俺の好みは中辛さ。
 
「みんな、お待たせ。ハラ減ったよな。けど、みんなに出せるのは缶詰しかない。これで良ければ食べてくれ」

 俺は缶詰を山ほど並べる。
 定番のコンビーフ、ウインナー、焼き鳥などの肉系。
 サバ味噌煮、サンマ蒲焼、ブリ照焼、オイルサーディンなどの魚系。
 みかん、桃、パイナップルといったフルーツ系。
 だし巻き卵、たこ焼きといった「こんなのあるんだ!?」と面白がって買ったものまで様々さまざま
 
 みんな遠慮なく食べる。
 もりもりしょくす。
 早朝からぶっ続けで戦っていたから、ハラが減ってたんだね。

 さあ、ドンドン食べてくれ! 
 ぜんぶ、タナカ商会で買った特売品だけどさ。

我が領主マイ・ロード! このオイルサーディンは、とても美味しいですね!」
「だろ! 火を通すときにスライスしたニンニクと鷹の爪をのせたら、もっとウマいんだけどな」
「リューキよ。お酒に合いそうな味じゃのう」
「なんだ、エルは酒を飲むんだ。てか、エルの言うとおり、オイルサーディンは酒のツマミにもぴったりだぞ」
我が領主マイロどん、おでは魚より肉が気に入っただ!」
「ムイロ……もう手づかみでコンビーフを食べられるんだ。ホントに、ゴブリン族の再生力はたいしたもんだな」
「いんや、我が領主マイロどんの出しでくれたメシがすごいんだあ」
我が領主マイロどん、おではパイナッポーのっぱい味が気に入っただあ」
「ミイロ、何気なにげにネイティブっぽい発音だな」
我が領主マイ・ロード、だし巻き卵もすっごく美味しいです!」
「エリカは意外と食いしん坊じゃのう」
「い、いやー! 姫様、それを言わないでー」

 エリカがイヤイヤを始める。 
 俺にとって、最高のご馳走だ! 
 ナイスだ、エル! 
 たまにはイイこと言うじゃないか。
 
 領主ロード、お姫様、女騎士ナイト、ゴブリン族。
 身分の分け隔てなく食事をする。

 そんなこんなで、俺たちはつかの間の休息を楽しんだ。 
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