フリーター、城を買う。 〜格安物件をローンで買ったら異世界のお城でした。ちくしょう!〜

きら幸運

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<フリーター籠城編> ~神紙の使い手 エル姫登場~

第四十五話:フリーター、賭けに出る

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 白磁はくじの塔のなか、屋上に至る螺旋らせん階段。

 ホブゴブリンには窮屈きゅうくつな階段も、細身な女騎士エリカには戦闘に支障のない広さ。

 高所に位置する女騎士エリカエリカ・ヤンセンが、大剣を一閃させる。
 黒鎧の敵兵は階段を転げ落ち、自らの巨体で仲間の前進を妨げてしまう。

 敵兵と対峙するのは、エリカただひとり。
 いつものことながら、彼女ひとりに苦難を負わせてしまい、俺の心は痛んだ。

「エル。神紙しんしはあと何枚残っている?」
「六枚じゃ。精霊はあと六回召喚できるのじゃ」
「よし、いつでも精霊を呼べるように準備しておいてくれ」
 
 俺はエル姫に指示を出す。
 大きなメガネの小さな微女びじょが、懸命に笑みを浮かべる。
 間近に迫る敵兵を怖がってはいるが、まだ目に生気がある。
 俺の第三夫人を自称するなら、それくらい根性がなくてはいけない。

「モイロ、弓矢はあるか?」
「あるだあ! だけんど、矢は十本しか持ってこられなかっただ。すまねえ」
「それだけあれば上等だ。エリカの背後に付いて、万が一に備えてくれ!」
我が領主マイ・ロード、私は不覚を取りません!」
「はは、頼もしいな! では、残った矢の数だけ抹茶スイーツを進呈しよう!」
「リューキ殿! 約束ですよ!!」

 エリカはまだ軽口ジョークにつきあう余裕がある。
 とはいえ、一瞬のミスが命取りになる。
 弓の名手モイロが後ろにひかえていれば、俺も安心できる。

「ミイロ、なにか武器になりそうなものはないか?」
投石機カタパルトはあるだが、タマがねえだあ」
「ん? 投石機カタパルトはガレキに埋まっていたんだろ? ホントに撃てるのか?」
大丈夫でーじょうぶだあ。だども、足場がガタガタだで、狙いはよくないだあ」
「撃てればいい。目標をダゴダネルの本城に定めてくれ」
「分かっただあ」

 宿屋の亭主のミイロが大きな投石機カタパルトを動かしはじめる。
 
「メイロ。これで黄金弾おうごんだんを作れるか?」
我が領主マイロどん、ワグナーぼうを持ってただか。おで、作れるだあ!」
「よし、頼むぞ」

 俺は収納袋からワーグナーぼうを取り出す。
 興味半分に持ち出したものだ。
 メイロは黄金色こがねいろに輝くワーグナーぼうを丸めて、投石機カタパルト用のタマを作り始める。
 
我が領主マイロどん、おでは?」
「ムイロ。狼煙玉のろしだまは残ってるか?」
「あるだあ」
「ジーグフリードに合図を送ってくれ。俺たちが無事なのを教えてやろう」
「わかっただあ! ド派手にやるだあ!」

 ムイロがふところから導火線の付いた黒い玉を取り出す。
 手早く火を着けて、ぶんっと空に向かって投げる。
 なかなかの強肩。

「ムイロ? 狼煙のろしは塔の上からあげるんじゃないのか?」
「まあ、見ててくれだあ!」

 バッゴォーーーン!!

 投げた狼煙玉のろしだまは、結構な高さまで上がって破裂した。
 そう。ムイロの言う通り、カラフルな大輪は確かに「ド派手」だった。
 
 てか、これって打ち上げ花火なんじゃないのか?
 うむ。無事帰還したら、夜にみんなで花火鑑賞しようかね。

我が領主マイロどん、この狼煙のろしの意味は総攻撃だあ! ジーグフリード様も、おでたちが無事なのを分かってくれるだあ!」
「そうか。せっかくだから、ありったけぶっ放してくれ!」

 火煙師かえんしムイロが嬉々として花火、もとい狼煙のろしをあげる。
 昔のひとなら「たまや」とか言いそうなくらいの出来栄えだと思った。

我が領主マイロどん投石機カタパルトの向きを変えただ」
我が領主マイロどん黄金弾おうごんだんを作っただ」
「ミイロ、メイロ、ご苦労さん。エル、炎の精霊イフリート三兄弟を召喚してくれ」
「リューキ、いきなり神紙しんしを三枚も使うのか?」
「ああ。ダゴダネル本城に火球を撃ち込む。ジーグフリードが到着するまで、まだ時間がかかりそうだ。ダゴダネルの奴らを混乱させてやる」
「分かったのじゃ!」

 エル姫がふところから神紙しんしを取り出す。
 ゴニョゴニョ唱えながら、丸まった紙を宙に放り投げる。

炎の精霊イフリート三兄弟! 再び出でよ!!」

 宙を舞う神紙しんしふくらみ、めらめらと燃える。
 姿を見せた炎の小人たちは、今度はケンカすることなく仲良く並んでいる。
 てか、なぜか俺を見上げて直立不動の姿勢となる。

「エル? ヤンチャな三兄弟が妙におとなしいようだが?」
「おおかた風の精霊シルフのデボネアから話をきいたのであろう。リューキよ、三兄弟はいつでも良いそうじゃぞ!」

 デボネアの話とはなんだろう? と思った。
 けど、とりあえずは目先の問題を片付けることにした。

「ミイロ! 目標はダゴダネル本城。ニセブブナのいた宮殿の大広間付近!」
我が領主マイロどん! そこまで狙いは絞れねえだあ!」
「あくまで目標だ! 狙いはだいたいで良い! なせば成る!」
「当てたいのか当てたくないのが、どっちだあ?」
「細かいことは気にするな! よし、撃て!」

 ボスンッ!!

 鈍い音を残して、黄金弾おうごんだんが飛んでいく。
 炎の精霊イフリートの三兄弟がしがみついたタマは、青白い炎の尾をひく。
 気のせいか、前に見たときと炎の色が違うようだ。
 赤じゃなくて青白い? 
 より高温なのか?
 三兄弟の気合きあいが違うのか?
 まあいいや、悪いことではない。

 黄金弾おうごんだんの軌道がブレる。
 青白い尾を引いたタマは、宮殿の手前、やや左側に着弾したようだ。
 
 ボゴォオオオオーーーン!!!

 火柱が上がる。
 まるで油田の火事のよう。
 てか、油田火災の現物なんか見たことないけどさ。
 まあ、イメージとして、そんな感じの大きな火柱だ。
 
 爆発の衝撃に、俺はよろける。
 エル姫はあっさり転んでいる。
 ミイロたちはこらえている。
 四人とも小柄とはいえ、さすがはゴブリン族だな。
 螺旋らせん階段で戦っているエリカ・ヤンセンは平然と立っている。
 うん、それでこそ俺の女騎士ナイトだ。

我が領主マイ・ロード、いまのは?」
「悪さばかりするブブナにお仕置きした音だ。エリカ、気を付けてくれ。お前にとばっちりがくるかもしれない!」
「リューキ殿。もう慣れました!」

 女騎士ナイトエリカに反論される。
 俺は苦笑するしかない。
 起き上がったエル姫が、生暖かい目で俺とエリカを交互に見る。
「だてに第二夫人ではないのう」と妙な感心をする。
 うむ、エル姫にもなにも言い返せない。

「キサマら! よくもやりやがったなあ!!」

 塔の前庭に、ブブナ・ダゴダネルが姿を見せる。
 誠に残念ながら、ブブナは黒鎧を着ている。
 ブブナの巨大なふたつのメロンは、完全に隠されてしまっている。
 そう。あのスバらしい、たゆんたゆんとした躍動は、もう見られないのだ。

 畜生ガッデム
 
 ブブナめ! 
 お前さんなあ、それじゃあ単に口が悪いだけの性悪女しょうわるおんなじゃないか!
 顔はまあまあ好みだけどさ。

「ブブナ! さっさと降参しろ!」
「うるさい! 黙れ!!」
「降参するのは嫌か? じゃあ、逃げな! どこへなりと行くがいい」
「リューキ。本気で言ってるのか?」
「ああ、今回だけは見逃してやる。でないと、あたり一面火の海にするぞ!」

 俺は火球の攻撃を暗示あんじする。
 もちろんブラフだ。
 エル姫の神紙しんしは三枚しか残ってない。
 黄金弾おうごんだんは、もうない。
 問題はそれだけじゃない。
 最大のネックは、俺はギャンブルが苦手だってことだ。
 
 俺は、ブブナがハッタリに乗ってくれるよう祈った。
 
「ちっ……」
「ブブナ! これにりたら……」
「はあっ!? ここで退いたら、アタシに未来はないのさ! ……そうだな、最後に教えてやろう。アタシがなんの後ろ盾もなく、帝都に輸送するワーグナーぼうを強奪したり、エルメンルート・ホラントの生命いのちを狙ったりしたと思うか?」

 ブブナが笑う。
 小ばかにするどころか、見下し、さげすむ笑い。

「どういう意味だ?」
「キサマは阿呆あほうか? ワーグナーごとき攻め滅ぼすのに、わざわざ皇帝の怒りを買うようなリスクを冒すはずはなかろうが!」
「なに!? じゃあ、お前がワーグナーを攻めたのは……」
「理由を知りたきゃ、自分で皇帝に聞きな! 生きてここから出られたらな!」

 ブブナ・ダゴダネルが総攻撃を号令する。
 黒鎧の兵が白磁はくじの塔の周りに満ちる。
 どうやら俺の賭けは失敗に終わったようだ。 
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