フリーター、城を買う。 〜格安物件をローンで買ったら異世界のお城でした。ちくしょう!〜

きら幸運

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<フリーター籠城編> ~神紙の使い手 エル姫登場~

第四十六話:フリーター、再会を喜ぶ

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 女騎士ナイトエリカ・ヤンセンが奮戦する。
 狭い螺旋らせん階段で、巨漢のホブゴブリンを、ひとり、またひとりと仕留める。
 一進一退どころか、じりじりと押し返す。

我が領主マイロどん! あっちゃこっちゃから、敵がやってくるだあ!」

 ガレキだらけの塔の屋上。
 火煙師かえんしムイロの警鐘に、俺は四方に目をらす。
 東の方角から接近する敵兵は認識済み。
 ジークフリード軍に追われるダゴダネルの敗残兵だ。

 加えて、西、南、北の方角でも、土ぼこりが舞いはじめた。
 遠目には分からないが、かなりの数の軍勢のようだ。

「まさか、ダゴダネルの増援か?」
「リューキよ、そうではなさそうじゃ! ダゴダネルの軍勢には違いないが、ボロボロじゃからのう」

 エル姫があっさり答える。
 彼女は長い円筒状のものを目に当てている。

「エル、それは?」
「『遠眼鏡とおめがね』という便利な道具じゃ。遠くのものが大きく見えるのじゃ。ほれ、おぬしに貸してやるぞよ。これは普通の道具ゆえ、神器しんきの適性が皆無かいむなリューキでも使えるであろう」
 「……ありがとう。助かるよ」

 エル姫に身もふたもない言い方をされるが、俺は聞き流す。
 俺も大人になったものだ。

「よいよい。世話の焼ける旦那様じゃのう」  
 
 世話女房のような言い方をされてしまう。
 マズい! 
 早くも尻に敷かれそうな感じだ!
 でもまあ、よく考えたら、皆さんお姉さま方。
 そう。姉さん女房でいらっしゃる。
 ああもう! 好きにやってくれ!!

「北と西の敵兵は……ゴブリン族の軍勢に追われているようだな」
我が領主マイロどん! きっど、おでだちの仲間が立ち上がったんだあ!」

 ミイロたちが喜びの声を上げる。
 同族間の争いが絶えないゴブリン族だが、ダゴダネルに虐げられていた同胞の蜂起ほうきは嬉しいようだ。

「南は……おかしいな? 黒鎧の敵兵を同じ黒鎧の兵が追いかけているぞ?」
「なんじゃ? 仲間割れでも起こしたかのう?」
「分からん。とりあえず、俺たちもやれるだけのことはやって……」

 ズシン!

 衝撃音とともに足元が揺れる。
 塔の外壁に何かがぶつかったようだ。
 
 屋上から転落しないよう四つん這いになり、下をのぞきこむ。

 塔の西。
 大きな丸太を抱えた黒鎧の集団が、塔の外壁に突進するのが見えた。

 ズシン!

 単純だが有効な破壊の手段。
 裏を返せば、螺旋らせん階段の攻防ではエリカにかなわないと認めたようなもの。
 ただし、弩砲バリスタや弓の攻撃が封じられたいま、塔外の敵を追い払う手立てはない。

「崩れた石壁のガレキをぶつけてやれ! 少しでも時間を稼ぐんだ!」

 皆で力を合わせ、かたぱしからガレキを投げつける。
 別に敵を撃ち倒せなくてもいい。
 破壊工作を妨げれば良いのだ。

「チッ! 往生際の悪い奴らだ……てめえら! ひるむんじゃねえ!! 大槌おおつちで塔の壁をぶっ壊せ!!!」

 ブブナが作戦を変更する。
 大槌おおつちを持つホブゴブリンがわらわらと集まり、石造りの外壁を叩き始める。
 個々の破壊力はたいしたことはないが、とにかく数が多い。

 白い外壁に集まる黒鎧の集団は、まるで砂糖に群がる黒蟻くろありのよう。
 女王蟻のために懸命に動きまわる働き蟻みたい。
 とはいえ、淫魔サキュバスブブナはホブゴブリン兵の生命いのちをこれっぽっちも顧みない。
 俺は、敵ながらホブゴブリンたちがあわれに思えた。
 そんなことを言ったら、女騎士ナイトエリカに「甘い!」と叱られるだろうけどね。

我が領主マイロどん! 目ぼしいガレキがなくなっちまっただあ!」
「壁や床の石をがせ! 塔が四階建てになろうが三階建てになろうが構わん!」
「わかっただあ!」

 メイロが石造りの壁を引き剥がす。
 さすがは鉱山で働く鉱夫こうふだ。力が強い。

 ひとつで数十キロはある真四角な石を、塔の下へ次々投げ落とす。

 ズンッ! 

「ぐわあっ!」

 ガツン! 

「ぎええっ!」

 白磁はくじの塔が平屋になりそうな勢いで石を放り続けるが、ブブナは撤退しない。
 むしろ、一層兵をけしかける。

 畜生ガッデム

 ここが正念場というやつか。

 ズシッ、ズズズズシンッ!!

 硬いものが押し潰されるような音が響く。
 正直、あまり聞きたくもない、嫌な音。

 塔は一段と傾斜する。
 俺もこらえ切れずに尻餅をついてしまう。

「きゃああ!」

 エル姫の叫び声が響く。
 こんな状況で不謹慎だが、普通の女の子っぽい悲鳴で妙に安心した。
 
「た、た、助けてくれなのじゃ!」

 声はすれども姿は見えない。
 いな、エル姫のほそっこい腕が屋上のふちに辛うじて見えている。
 塔が傾いたはずみで、屋上から落ちそうになったようだ。

「エル! いま行く!」
「リューキ! 早く来てくれなのじゃ! 手が滑る……」

 間一髪。
 俺の手がエル姫の服の首根っこをつかむ。
 ずいっと上に持ちあげると、彼女は俺に抱きついてくる。
 うむ。またまた不謹慎だが、お姫様は着やせするタイプだと俺は再認識した。

 ガンッ、ガガンッ!!

 黒鎧のホブゴブリン兵は少しの猶予ゆうよも与えてくれない。
 ここぞとばかりに塔の石壁に大槌おおつちを振るう。
 耳障りな破壊音がするたび、塔の傾きが大きくなる。
 塔の内部に配下の兵が残っていることなど、ブブナはお構いなしのようだ。
 
 塔はミシミシと断末魔の悲鳴をあげはじめる。
 パニックに陥ったのか、エル姫が全力でしがみついてくる。
「大丈夫だ」と、俺は懸命になだめる。

 突然、激しいつむじ風に襲われる。
 砂埃が舞い、思わず目をつぶる。
 風に巻き上げられた石の欠片かけらほほに当たって痛い。

 塔の下から怒号のような悲鳴が聞こえる。
 代わりに石壁を打ち壊す音は消えていた。

 おそるおそる目を開ける。
 厚い雲に覆われたように、あたりは薄暗い。
 エル姫とミイロたちが絶望の表情で天をあおいでいる。
 女騎士ナイトエリカ・ヤンセンだけが、安堵の表情で立っていた。

 俺は、ひと言文句を言うために立ち上がり、上を向く。

「ヴァスケル! 遅いぞ!」
「なんだい! 久しぶりに会えたのに、そんなに怒んなくてもいいじゃないか!」
「もちろん会えて嬉しいさ。待ち焦がれていたからこそ、余計にハラが立つんだ」
「なんだかよく分かんないけど。あたいに会えて喜んでいるんだね?」
「当り前さ!」

 塔の屋上。守護龍ドラゴンモードのヴァスケルが頭を下げてくる。
 俺は、ヴァスケルの頭をなでてやる。
 ミイロたちゴブリンたちの表情は固まったまま。
 エル姫は……白目をいて気を失っている。
 うむ。あとでキチンと説明してやらねばなるまい。

我が領主マイ・ロード。ヴァスケル様との再会は喜ばしいのですが、このままでは塔の崩壊に巻き込まれてしまいます。まずは塔から脱出致しましょう」
「そうだな。ヴァスケル! 俺たちをジーグフリードの元まで運んでくれ!」
「リューキやエリカはいいけど、そのチビッ娘とゴブリンたちも一緒かい? そんなに大勢じゃあ途中で落っことしちまうよ……おっと、アイツがいたんだった」

 守護龍ドラゴンヴァスケルの動きにつられて、東の空をあおぐ。
 こちらに向かって飛んでくる白いモノが見えた。
 女騎士ナイトエリカ・ヤンセンの愛馬、天馬ペガサスシルヴァーナだった。

「シルヴァーナちゃん! 来てくれたのですね!!」
 
 エリカが愛馬に向かって大きく手を振る。
 遠眼鏡とおめがねを使わずとも、天馬ペガサスの喜ぶ様が分かった。
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