フリーター、城を買う。 〜格安物件をローンで買ったら異世界のお城でした。ちくしょう!〜

きら幸運

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<フリーター探索編> ~ジーナはどこへ消えた?~

第七十話:フリーター、使者を送る

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 居室を出て、黒檀こくたんの塔に向かう。

 石造りの階段を降り、薄暗い廊下を進む。

 長い廊下の途中、守備兵の詰所つめしょから聞き覚えのある声がする。
 詰所をのぞくと、グスタフ隊長が十名ほどのオーク兵たちに演説していた。

「おめえら! よく見とけよ! こーんびーふは、こうやって開けるんだ!」

 オーク・キングのグスタフ隊長がコンビーフ缶をむんずとつかむ。
 ミカンの皮をむくように、メリメリと金属製の胴体部分を引きはがす。

 うむ、まったくもって間違った方法だな。

 グスタフ隊長のやり方をまねて、オーク兵たちが缶詰をこじ開ける。
 力加減ちからかげんを誤ったのか、配下のひとりは缶の上蓋うわぶたをベリっとはがしてしまう。

 力ずくとはいえ器用だ。

 ワイワイ騒ぎながらオークたちがコンビーフを食べはじめる。
 途端とたんに「ナニコレウマイ!」の大合唱。

 コンビーフの味はオークたちに好評なようだ。

「グスタフ隊長! オレ、生きてて良かったっす!」
「そうかそうか。カールはいくさで功績をあげたから、こーんびーふを食べられるんだぞ! もっと食いたければ任務にはげめ!」

「隊長! もっと食いてえ! 次のいくさはいつですかい?」
「ボビー。褒美がもらえるのはいくさ働きだけじゃない。盗っ人ぬすっとをとらえるとか、畑仕事に精を出すとかでもいい。ワーグナーの為に働けば、リューキ殿は評価してくれる。がんばれ!」

「グスタフたいちょー! 盗っ人はどこにいますか? 俺、捕まえてきます!」
「バード。よく考えろ。盗っ人が南瓜かぼちゃみたいにゴロゴロ転がってるわけないだろ! 楽して褒美が得られるはずがない! ほかの奴らも聞け! こーんびーふを手に入れられるのはひと握りの奴だけだ! こーんびーふを食いたければデカイことをやってみせろ!」

 挑発じみたグスタフ隊長の言葉を受け、オーク兵たちが歓声を上げる。

「こーんびーふ! こーんびーふ!」の大合唱。

 掛け声にあわせて、コンビーフの空き缶が高々と掲げられる。

 なんじゃこりゃあ?

 まあ、そうだな……コンビーフは偉大なり、か。

「おお、リューキ殿! いま、論功行賞ろんこうこうしょうを行ってたとこです。オーク兵たちの士気は高いですぞ! オレたちのこれからに期待してください!」

 オーク・キングのグスタフ隊長が声をかけてくる。

 缶の開け方は下手だが、四百名の配下をもつ隊長としてはなかなかの振る舞い。

「して、リューキ殿はどちらへ?」
黒檀こくたんの塔だ。ジーナとエルに土産を渡そうと思ってね。相談したいこともあるし。グスタフ隊長も一緒に来るか?」

「いえ、オレは用事があって、その……」

 グスタフ隊長が口ごもる。
 勇ましい演説を打っていた隊長の面影は消えつつある。

 そういえば、グスタフ隊長は、幼いころに幽霊に追いかけられたトラウマで、黒檀こくたんの塔に近づきたくないと言っていた。

 これ以上、部下たちの前で顔をつぶすのは申し訳ないので、俺は話を切り替えることにした。

「新しく領地になったホプランに使者を送りたい。女騎士ナイトエリカ・ヤンセンとゴブリン・ロードのジーグフリードの元にだ」
「ホプランは、元はダゴダネルの首都だった都市。ずいぶん遠いですな」

「そうだ。できるだけ急いでほしい。足の速い部下を推薦すいせんしてくれ」

 話を聞いていたオーク兵たちが我先われさきに名乗り出る。

 もちろん褒美コンビーフ目当てだ。

 任務に立候補すること自体は悪くはないが、どうみても走るのが遅そうなオーク兵も手をあげている。

「ボビー。おまえは二番隊で一番足が遅いじゃねえか! こーんびーふが欲しいからってやたらと手をあげるんじゃない! バード。おまえはトンデモなく方向音痴じゃねえか! おまえほど使者に向いてない奴はいねえ! ……ふたりとも積極的なのはいいが領主ロードリューキ殿に迷惑をかけるわけにはいかない。自分にあった仕事を頑張れ」

 グスタフ隊長がバシッと裁断する。

 ボビーとバードの両名はしぶしぶうなずく。
 
「その点、カールは適任だな。足は速いし力もある。だが、使者がひとりだけというのは……」

「父ちゃん! オイラに行かせてくれよ! オイラは足は速いし剣の腕だって上達したよ!」

 守備兵の詰所つめしょの入り口からオークの少年が顔を出す。
 グスタフ隊長のひとり息子、オルフェスだ。

 父親に届け物でも持ってきたのか、少年の手には大きな布袋があった。

 ひげのないスリムなグスタフといった感じのオルフェス少年が、真剣な表情で父親に訴えかける。

「父ちゃん、頼むよ。オイラに使者ってやつをやらせてくれよ!」
「オルフェス、バカなこと言うな。ガキの遊びじゃないんだぞ!」

「違うよ! 領主ロードのおじちゃんに恩返ししたいんだよ。おじちゃんが金貨をくれたおかげで、母ちゃんの薬を買えたんじゃないか! 父ちゃんだって泣きながら感謝してたじゃないか!」
「バ、バ、バカ野郎! そんなことばらすんじゃねえ!」

「父ちゃん、お願いだよ! オイラも領主ロードのおじちゃんの役に立ちたいんだよ!」
「うるせー! 引っ込んでろ!!」

 唐突に始まる小鬼オークの親子の鬼ごっこ。

 オーク・キングのグスタフ隊長はオルフェスに飛び掛かる。
 が、ひょいっと避けられてしまう。

 顔を真っ赤にさせながら立ち上がるグスタフ隊長。幾度も息子オルフェスに挑むが、まったく捕えることができない。

 俺が見る限り、グスタフ隊長が手加減している素振そぶりは見えない。

 オルフェス少年は相当すばしっこいのだろう。

 若いオーク兵のカールが、オルフェスを捕まえる。

「あっ! 離せ! 離してくれよ!」

 オルフェスは懸命にあらがうが、カールの手から逃れられない。

「カール、よくやった!」
「グスタフ隊長、ちょっといいっすか? 使者ですが、オレ、オルフェス坊やと一緒に行きたいっす!」

「カール? なにをバカなことを。これはオレら親子の問題だ。他人は口をはさまないでくれ!」
「隊長、なに言ってんすか? オーク兵のなかで、隊長が全力で追いかけて捕まえられない奴がどれだけいるんすか? 少なくともオレよりオルフェス坊やの方が逃げ足は速いっす。任務に適した者を親子だからって外す方が問題じゃないっすか?」

「う、ぐぅ」
「それに、オレはジーグフリードさんどころか、女騎士ナイトエリカさんとも面識がない。オルフェス坊やがいた方が、使者の役割は果たせるんじゃないっすかね?」

「そーだよ、父ちゃん! カールの兄ちゃんのいう通りだよ!」

 グスタフ隊長が、調子に乗った息子の頭をゴンと殴る。
 しばらく考えたあと、おもむろに口を開く。

「オレが初陣ういじんを飾ったのは十歳だ。おまえも十歳になったことだし、やってみるか?」
「ホントかい!? 父ちゃん、ありがとう! オイラ、がんばるよ!」

 グスタフ隊長が、ふたたび息子の頭を殴る。
 
「父ちゃんじゃねえ! これからは隊長と呼べ! わかったな!」
「う、痛てえよ、と……隊長」

「いいか! 戦闘に巻き込まれたらこんなもんじゃすまねえぞ! ただし、使者の仕事は戦うことじゃない。ヤバいときは逃げろ。これは隊長としての命令だ!」

「わかったよ、隊長。マズいときはさっさと逃げるよ」

 グスタフ隊長の命令をオルフェスが復唱する。

 新たな仲間の誕生に、オーク兵たちが微笑む。

 うむ、なんだかほのぼのとした決着となって良かったな。


 使者二名の人選が済み、俺は急いで手紙を書いた。

 ゴブリン・ロードのジーグフリードへの手紙にはインスタントスープの素の大袋をひとつ付けた。
 女騎士ナイトエリカ・ヤンセンには抹茶ベースのチョコレートを付けた。
 本当は、エリカには抹茶系の和スイーツを付けたかったが、西方都市ホプランまでの旅程は十日程度かかるとの話から諦めた。日持ちしないからね。
 エリカへのお土産は当分収納袋で保管だな。

 そんな感じで使者の手はずを整えた後、俺は黒檀こくたんの塔に向かった。
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