フリーター、城を買う。 〜格安物件をローンで買ったら異世界のお城でした。ちくしょう!〜

きら幸運

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<フリーター探索編> ~ジーナはどこへ消えた?~

第八十五話:フリーター、地竜の力を手に入れる

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 ローグ山の内部、洞窟深部。
 小さな村が丸ごと入りそうな空洞。

 目の前に横たわるのは地竜デュカキス。
 体長五メートルほどの黒い巨体はピクリとも動かない。

 むくろの頭からは二本のツノが生えている。
 いな、一本はツノではなく剣。アゴから脳天まで貫く畜生剣ガッデム・ソードだ。
 地竜にトドメを刺したのが、剣のひと突きだったのは明らかだ。

「あんなに怖ろしかった地竜が安らいだ顔をしておる。眠っておるかのようじゃ」

 落ち着きを取り戻したエル姫がボソリと言う。
 亡国ぼうこく微女びじょこと、エルメンルートホラント姫の顔色を隠すノッペリ化粧メイクは、すっかり落ちている。
 その、泥と汗にまみれたスッピン顔には、不思議そうな表情が浮かんでいた。

「デュカキス、仲間の地竜たち……ゆっくりと休んでくれ」

 俺はつぶやく。
 望まぬ戦いに巻き込まれたのは彼らも同じだ。

 俺は地竜の死骸に近づき、畜生剣ガッデム・ソードに手をかける。

 ズルリ。

 剣は簡単に抜ける。
 生気のない地竜の身体からだは硬直するどころか、むしろ崩れ落ちそうな感じがした。
 
<むっ、領主ロードリューキ殿。見事でござった>
<ありがとう、ドムドム……じゃなくて畜生剣ガッデム・ソード。お前のおかげだよ>

<むおっ……やはり、その名前はなんとかしたいでござるな>

 俺は、畜生剣ガッデム・ソード愚痴ぐちをスルーする。
 別に意地悪をしたわけではない。
 ただ、俺としては畜生剣ガッデム・ソードの名前がちょっと気に入ってきただけだ。はは。

「な、なんじゃ!? 地竜が!!!」

 俺の肩に乗る風の精霊シルフデボネアが、大きな声をあげる。
 
 見ると、地竜の姿が空気に溶け込むように消えつつあった。 

 ものの十秒も経たないうちに、大きなむくろが跡形もなく消滅してしまう。まるで最初から存在しなかったかのように。

「なんと! どういうことじゃ!?」

「地竜は死龍アンデッドだったのさ。三百年前に倒された地竜デュカキスを、何者かがムリヤリ召喚したらしい。ある意味、ようやく解放されたんだと思う」

 俺は淡々と説明する。
 なんというか、胸がいっぱいな気持ちになった。

「リューキよ。なぜ、そんなことを知っておるのじゃ?」

「リューキはん、意味が分かっててしゃべっとるんか? 死龍アンデッドなんかおったら大問題やで!」

<むおおおおーーっ! どおりで手強かったのですぞ! リューキ殿。死龍アンデッドを倒すなぞ、なかなかにできることではございませぬぞぉ!!>
 
 三者三様の反応が返ってくる。

 もうちょっと落ち着いてから説明すれば良かったと、俺はいささか後悔する。

「えっと……ほら! 俺の傷口はすぐにふさがっただろ! あのとき、俺はあの世に行きかけてたんだ。黄泉よみの国の手前で地竜デュカキスと腹を割って話しあって、いろいろ教えてもらったんだ」

「リューキはんは精霊界に旅立つ前に黄泉よみの国に立ち寄ろうとしたんやな。あんさんはホンマせわしないやっちゃなー!」

 デボネアの軽口に俺は言葉を失う。
 まったく……風の精霊シルフ姫君プリンセス軽口ジョークはブラックで困るな。

「わらわも驚いたのじゃ。ともかく、リューキは生命いのちを粗末にしてはイケナイのじゃ! わらわたちを未亡人にしてはいけないのじゃぞ!」 

「未亡人って……まあいいや。生命いのちはもっと大事にするよ」

 エル姫にもからかい気味に言われてしまう。

 ねえ、ふたりとも。
 俺のこと、本気で心配してくれてたんだよね?
 信じていいんだよね? ね?

<むむむ……、領主ロードリューキ殿は『龍殺しドラゴンスレイヤー』を達成しただけでなく、死龍アンデッドの魂と語りあったとは……拙者、恐れ入ったでござる>

 畜生剣ガッデム・ソードに感心される。

 神器の剣の元の姿は土の精霊グノームの戦士ドムドム。
 そんな土の精霊グノームイチの戦士に褒められた俺は、ちょっとばかりイイ気分になる。

 うむ、我ながら単純な性格だな。ははは。

◇◇◇

 いつまでも立ち止まっているわけにもいかず、俺たちは前に進むことにした。

 『第二次ジーナ捜索隊そうさくたい』の先頭は俺。
 右手には畜生剣ガッデム・ソード。左肩には風の精霊シルフデボネアがちょこんと座る。
 
 俺のすぐ後ろを歩くのはエル姫。
 意気揚々と神器の『無限ランプ』で前方を明るく照らしてくれる。

 広大な空洞の足元は、地竜デュカキスとの戦闘でぐちゃぐちゃになっている。
 当然、ジーナの足跡は分からない。

 けれども、いくつもある枝道をひとつひとつ覗きこんでいくと、手前から十番目の枝道の奥に小さな足跡が続いていくのに気づく。
 ジーナの足跡に間違いないだろう。

 俺たちは小さな足跡をたどり、少し広めの枝道を進むことにした。
 
「それにしても、リューキの傷はあっさりと治ったものじゃのう。なんでじゃ?」
「俺が知りたいよ!」

 早足で歩きながら会話を続けるが、俺はエル姫の問いに答えることができない。

 俺の代わりに答えを出したのは、畜生剣ガッデム・ソードだった。

<むむむ、思い出したでござる。龍殺しドラゴンスレイヤーを成し遂げた勇者には、まれ竜の能力ドラゴン・スキルが宿るのですぞ!>

<なに!? てことは、ケガがあっという間に治ったのも竜の能力ドラゴン・スキルのおかげか?>

<むう! きっとそうですぞ!>

 俺は猛烈に感動した。
 さてさて、どれほどスーパーな能力が身についたのやら? 

「エル! デボネア! ドムド……畜生剣ガッデム・ソード! 教えてくれ! 地竜の能力ってなんだ? どんな特殊能力があるんだ?」

「……リューキよ。わらわの知る限り、地竜とは竜のなかでもっとも地味な存在なのじゃ。あまり過度な期待をするでないぞ」

「ん? どういう意味だ?」

「要するにじゃ……」

  
 地竜(下位)
・外見は竜というよりトカゲに似ている。
・腕力、脚力などの身体能力はヒト族と大差ない。
・他の竜族に比べて秀でているのは頑丈さと回復力。
・雑食性で食欲旺盛。貪竜どんりゅうの異名を持つ。


「はあ!? 頑丈さと回復力? いや、ぜいたくは言わないけど地味じゃね?」

「リューキよ。期待しすぎるなと言ったであろう。それに、丈夫な胃袋もあるのじゃぞ!」

 うーむ、欲張ってはいけないのは分かる。

 けどさあ……

 丈夫な胃袋。
 頑丈な身体からだ
 優れた回復力。

 おお……なんと実用的すぎる能力だ!
 うむ。俺らしいといえば俺らしいか!
 そうとも……そうだとも、健康第一だ!
 元気があれば何でもできる。素敵だ!

 転んだら起きあがればいい。
 倒されても起きあがればいい。
 へなちょこでもいい、たくましく起きあがればいい。

 は、はははは……畜生ガッデム! 
 
<むっ、リューキ殿、拙者を呼びましたかな?>
<気にしないでくれ、俺のひとり言だ。ただのリアル畜生ガッデムだ!> 
 
 俺は力強く答える。
 そう、俺のメンタルはそこそこ強い。
 底なしの健康まで手に入れたいま、俺は無敵だ。なはは!


 洞窟の枝道をダラダラと下り続ける。
 
 特に何にも遭遇しないまま小一時間ほど歩き続けると、突如、ザクッ、ザクッと穴を掘るような音が聞こえてきた。

「リューキよ。何かおるようじゃぞ!」

「また怪物モンスターが出たのか? よし、生まれ変わった俺の力を見せてやるぜ!」

「リューキはん。なんや急に勇ましくなったのう!」

<むお! 領主ロードリューキ殿はおとこでござる!>

 俺は神器の剣を構える。
 
 枝道の先、二十メートルほど前方、洞窟トロルが穴を掘っている。
 
 いや、穴に潜んだエモノを捕えようとしているようだ。

「助けてー、ジーナちゃーん!」

 洞窟トロルの掘る穴のなかから、助けを求める声が聞こえる。
 
 ジーナの名を呼ぶ幼い少年の声。

 俺は畜生剣ガッデム・ソードを握り直し、洞窟トロルに飛び掛かった。
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