君は煙のように消えない

七星恋

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1章

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 ボロアパートの六畳一間の部屋に適当に敷かれたマットレスの上で寝転びながら、スマホでSNSを覗いていた。
 特に何かを気にとめる事もない。上から下に指をなぞる。人々の喜怒哀楽が、幸・不幸が、日常と創作が僕の指先に従い流れていく。まるでここにあるのはマクロな社会の縮図だ。ある人は喜びに満ち、その嬉しさを誰かに伝え、またある人は自分の惨めさ、他人の怒りに耐えきれず心の声を漏らす。それにしてもみんな声が大きすぎやしないだろうか。自分はこうゆう類いのツールに関しては基本的に見る専門で、あまり自発的に行動はしない。
 ふと、ある動画が流れてきた。猫の動画だ。白い猫がもう一匹の黒い猫にちょっかいをかける。黒猫は気だるそうに無視をする。それでも白い猫はじゃれようと必死に前足で叩き、高い声をだし、のしかかる。やっぱり黒猫は気だるそうに無視をする。
 彼女は猫が好きだった。性格は犬っぽかったのだが、犬より猫派だった。
 この白黒猫コンビの動画をあげるアカウントを僕の携帯を使ってフォローしたのは彼女だった。彼女はSNSの類いをほとんどしていないのだが、僕の携帯越しに見るのは好きだった。たまたま、他人がシェアした投稿に心を鷲掴みされた彼女はためらいもなくフォローして、僕ににんまり笑って見せた。その笑顔があまりにも愛らしく、僕は彼女を抱き寄せた。
 そんなことを思い出すと急に目の奥から暑いものが込み上げてきた。徐々に呼吸が早くなる。さっきまで聞こえていた風の音が遠くなり、最後には自分が鼻をすする音だけが鼓膜を通じて感じられた。
 マットレスの上で、二人して寝転びながら、遊ぶ二匹の猫の動画を見て「かわいいね」と言って、和んで、寝て。当たり前だった日常が今はもうとっくに無くなってしまった事を、この動画が教えてくる。その事実が鋭いナイフとなり、僕の心をえぐる。
 そう思うとこの部屋にあるもの全てが、今のぼくにとって凶器になった。二人で添い寝したマットレスも、お揃いのマグカップも、二人分の食事を置くのにぴったりな机も、彼女のご飯を作ったフライパンも、というよりこの六畳という狭い空間そのものも、全てが僕に現実を押し付け、殴り、刺し、打つ。
 少し落ち着いてから、昼間の事を考えた。そういえば、彼女はタバコが嫌いだった。付き合った当初、絶対にしないでと言われたのが喫煙だった。結局タバコを吸うことなく別れたのだが。
 きっと僕はじぶんや他人が思うより女々しくて、彼女の事を簡単には忘れれるほど強くはない。でも彼女にこれ以上迷惑をかけたくない。迷惑をかけて僕自信を傷つけたくない。ならばいっそ、彼女が嫌いな僕になろう。彼女の彼氏失格な僕になれば、きっと僕にも諦めがつく。
 寒空のもと、僕はコンビニに出掛けた。カウンターの奥に大量の箱が並ぶ。何を買って良いかわからない僕は、とりあえず父の吸ってるものと同じ銘柄を買った。店を出る前にライターが無いことに気づいて、もう一度レジに並んだ。
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