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3 更紗の場合
1 相手はいないけど
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静かな教室にトゥルルル……というミシンの音が響く。
この心地良い音が好き。やっぱり家の古いミシンとは違うなぁ。
ドレスをチェックして、その出来に思わずくるりと回って裾をひらめかせた。
今作っているのは高校生活最後の作品――プロムナード用のドレス。この学園の服飾デザイン科では、評価に繋がるコンテストのみならずこれが恒例で。
デザインはすぐに決まったのだけど、なかなかイメージ通り出なかったのだ。
シンプルなデザインだけに、布地の重なりによる色の濃淡が決め手のこのドレス。仮縫いにもいけずに仮留めを繰り返していたら、どんどん時間が過ぎていた。
みんなはすでに出来上がっていて、エスコートの相手までも決まっているのがほとんど。
私は相手どころかドレスまでも全然だったのだけれど、今ようやく本縫いを上げたところ。
「良かった間に合う! ……相手はいないけどね」
彼氏彼女のいない人たちは、早々に合コンしたり、誰かに頼んだり……卒業がいよいよ見えてきてからは、まさに告白ラッシュだった。
文化祭でのフリーデザインコンテストから、年明けのウェディングドレスコンテストまで終わったら、服飾デザイン科は卒業式まで登校する必要はないのに、結構な人数が学校に来ていた。
まずは私のようなプロムのドレスが仕上がっていない人。それからパーティーや二次会の実行委員。それからシングルの人たちで、他学部や他学年までも伝手を広げて情報交換してるっぽい。
ほとんど女子のみの服飾デザイン科はほとんどが専門及び大学推薦で気楽なものだった。
そして毎日、誰がフラれただの、あと誰が余ってるだの賑やかなものだったのだけれど。
「私にはそんな勇気も、告白してくれる人も居ないもんなー」
ついつい盛大なため息が出てしまうけど、参加することに意義がある!
満足いくドレスも作れたし!
よし、最終チェックは、家で靴やアクセ全部合わせてやろう!
卒業式のリハなどもとっくに済み、いよいよ卒業式とプロムまで1週間を切っていた。
「あ! 更紗先輩! ドレスできたんですか?」
「うん! できたのー苦労したかいがあったよー」
「わ! 良かったですね間に合って~じゃあベストドレッサーは間違いなく更紗先輩ですね!
それで相手は見つかったんですか?」
ロビーで声をかけてくれたのは、プロム実行委員をしている後輩の恵美ちゃんだった。
ベストドレッサーとは、ミスコンのように選ばれるキングとクイーンの他に、自分でドレスを作った人たちのみエントリーされて選ばれる賞のことで。
プロムは自由参加なのだが、私はこの賞のために、相手のいない恥を偲んで参加するのである。
このドレスはもう成績などには関係ないのだけれど、この賞は服飾に携わる者にとって、いわゆる箔なのだ。
「ううん、それはいいの」
「うちのお兄ちゃん紹介しますよ!」
「いいよいいよ! 緊張して裾でも踏んだらオオゴトだもん!」
「あはは、更紗先輩らしいー。
残念ですけどわかりました、当日はもちろん更紗先輩を応援します!」
「まだ見てないじゃん」
驚く私をしり目に、そんなの見なくてもわかります、と恵美ちゃんは手を振って行ってしまった。
________ ___ __ _
「別に男子に興味がない訳じゃないのになー」
ドレスの細かい直しと小物のチェックを済ませ、ドレスをトルソーに戻してベッドに寝転ぶ。
ただちょっと怖いだけで、男の子を前にするとうまくしゃべれなくなってしまうのだ。
「あーあーこんな優しくてカッコいい白馬の王子様なんているわけないよねー」
と言うよりむしろ、居ても私なんか選ばないだろう。
いや、路傍の小石のように視界にも映らないに違いない。
甘々のウェブ小説を読みながら呟く。
小説ではこんなに胸がきゅんきゅんするのに、なんで現実の男子はあんなに怖いんだろう。
別に実際怖いことされた訳じゃないんだけど、大きい声とかがさつに見える仕草とかがもうだめだった。
「他に胸キュンする小説はないかなぁー?」
リンクの一つをクリックしてみる。
「きゃあ!! 何これ!!」
そこに映し出されたのは、大量の裸のお姉さんお姉さんお姉さん――!
ブラウザを消そうとするも焦るばかりで手が震え、ブラウザを増やしてしまう始末。とりあえずスリープボタンを押してベッドに投げた。
深呼吸して落ち着いてから取り上げたスマホには、キラキラの大粒ジュエリーに囲まれて、【快感アプリ DreamBomb】と表示されていた。
なんだこれと思うも、『自分の好きな夢が見られるアプリ』という謳い文句に乗せられて、説明を貪るように読んだ。
こんなの眉唾だと思った。
自分が好きな夢なんて、そうそう都合良く見られるわけないじゃん。
だけどもし本当だったら。
私でもちょっとは男子耐性ができて、現実でも多少はまともに男子と話せるようになるんだろうか。
Hするのはこわい。
だけど夢なら。
とりあえず体験版を試すのもこわい。
けど、今なら月額100円の有料会員費が1ヶ月無料のキャンペーンをやってるから。だから覗くだけ。覗いてダメなら退会すればいいだけだし、1ヶ月無料だから……。
自分に言い訳しながら会員登録ボタンをタップし、悪戦苦闘しながらもなんとか済ませ、有料会員ページに進む。
うわ、すごい……。私じゃ想像もつかないような、いろんなカテゴリーがある。言葉だけ見てもよくわかんないや。
適当にスクロールしていると、あるワードにぴたりと目が留まった。
――シンデレラ。
この心地良い音が好き。やっぱり家の古いミシンとは違うなぁ。
ドレスをチェックして、その出来に思わずくるりと回って裾をひらめかせた。
今作っているのは高校生活最後の作品――プロムナード用のドレス。この学園の服飾デザイン科では、評価に繋がるコンテストのみならずこれが恒例で。
デザインはすぐに決まったのだけど、なかなかイメージ通り出なかったのだ。
シンプルなデザインだけに、布地の重なりによる色の濃淡が決め手のこのドレス。仮縫いにもいけずに仮留めを繰り返していたら、どんどん時間が過ぎていた。
みんなはすでに出来上がっていて、エスコートの相手までも決まっているのがほとんど。
私は相手どころかドレスまでも全然だったのだけれど、今ようやく本縫いを上げたところ。
「良かった間に合う! ……相手はいないけどね」
彼氏彼女のいない人たちは、早々に合コンしたり、誰かに頼んだり……卒業がいよいよ見えてきてからは、まさに告白ラッシュだった。
文化祭でのフリーデザインコンテストから、年明けのウェディングドレスコンテストまで終わったら、服飾デザイン科は卒業式まで登校する必要はないのに、結構な人数が学校に来ていた。
まずは私のようなプロムのドレスが仕上がっていない人。それからパーティーや二次会の実行委員。それからシングルの人たちで、他学部や他学年までも伝手を広げて情報交換してるっぽい。
ほとんど女子のみの服飾デザイン科はほとんどが専門及び大学推薦で気楽なものだった。
そして毎日、誰がフラれただの、あと誰が余ってるだの賑やかなものだったのだけれど。
「私にはそんな勇気も、告白してくれる人も居ないもんなー」
ついつい盛大なため息が出てしまうけど、参加することに意義がある!
満足いくドレスも作れたし!
よし、最終チェックは、家で靴やアクセ全部合わせてやろう!
卒業式のリハなどもとっくに済み、いよいよ卒業式とプロムまで1週間を切っていた。
「あ! 更紗先輩! ドレスできたんですか?」
「うん! できたのー苦労したかいがあったよー」
「わ! 良かったですね間に合って~じゃあベストドレッサーは間違いなく更紗先輩ですね!
それで相手は見つかったんですか?」
ロビーで声をかけてくれたのは、プロム実行委員をしている後輩の恵美ちゃんだった。
ベストドレッサーとは、ミスコンのように選ばれるキングとクイーンの他に、自分でドレスを作った人たちのみエントリーされて選ばれる賞のことで。
プロムは自由参加なのだが、私はこの賞のために、相手のいない恥を偲んで参加するのである。
このドレスはもう成績などには関係ないのだけれど、この賞は服飾に携わる者にとって、いわゆる箔なのだ。
「ううん、それはいいの」
「うちのお兄ちゃん紹介しますよ!」
「いいよいいよ! 緊張して裾でも踏んだらオオゴトだもん!」
「あはは、更紗先輩らしいー。
残念ですけどわかりました、当日はもちろん更紗先輩を応援します!」
「まだ見てないじゃん」
驚く私をしり目に、そんなの見なくてもわかります、と恵美ちゃんは手を振って行ってしまった。
________ ___ __ _
「別に男子に興味がない訳じゃないのになー」
ドレスの細かい直しと小物のチェックを済ませ、ドレスをトルソーに戻してベッドに寝転ぶ。
ただちょっと怖いだけで、男の子を前にするとうまくしゃべれなくなってしまうのだ。
「あーあーこんな優しくてカッコいい白馬の王子様なんているわけないよねー」
と言うよりむしろ、居ても私なんか選ばないだろう。
いや、路傍の小石のように視界にも映らないに違いない。
甘々のウェブ小説を読みながら呟く。
小説ではこんなに胸がきゅんきゅんするのに、なんで現実の男子はあんなに怖いんだろう。
別に実際怖いことされた訳じゃないんだけど、大きい声とかがさつに見える仕草とかがもうだめだった。
「他に胸キュンする小説はないかなぁー?」
リンクの一つをクリックしてみる。
「きゃあ!! 何これ!!」
そこに映し出されたのは、大量の裸のお姉さんお姉さんお姉さん――!
ブラウザを消そうとするも焦るばかりで手が震え、ブラウザを増やしてしまう始末。とりあえずスリープボタンを押してベッドに投げた。
深呼吸して落ち着いてから取り上げたスマホには、キラキラの大粒ジュエリーに囲まれて、【快感アプリ DreamBomb】と表示されていた。
なんだこれと思うも、『自分の好きな夢が見られるアプリ』という謳い文句に乗せられて、説明を貪るように読んだ。
こんなの眉唾だと思った。
自分が好きな夢なんて、そうそう都合良く見られるわけないじゃん。
だけどもし本当だったら。
私でもちょっとは男子耐性ができて、現実でも多少はまともに男子と話せるようになるんだろうか。
Hするのはこわい。
だけど夢なら。
とりあえず体験版を試すのもこわい。
けど、今なら月額100円の有料会員費が1ヶ月無料のキャンペーンをやってるから。だから覗くだけ。覗いてダメなら退会すればいいだけだし、1ヶ月無料だから……。
自分に言い訳しながら会員登録ボタンをタップし、悪戦苦闘しながらもなんとか済ませ、有料会員ページに進む。
うわ、すごい……。私じゃ想像もつかないような、いろんなカテゴリーがある。言葉だけ見てもよくわかんないや。
適当にスクロールしていると、あるワードにぴたりと目が留まった。
――シンデレラ。
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