オメガ♂に惚れたインフィニティスターの話

keino

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29.3 僕が私になった日(ひなた)

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――いいか日向ひなた。男の価値は生殖能力の高さだ。今から自慰を覚えとけ。

――しっかりやってるのか? まだ精通がないじゃないか。俺がお前の年の頃には半星(※トゥインクルのこと。蔑称)がついていたというのに。

――やっと精通したかと思えば数値が低過ぎる。

――お前まだ半星もつかないのか、情けない。精通から何年経ったと思ってるんだ。

――お前本当に俺の息子かよ。なぁおい、茉麻まあさ(日向母)。間違えて俺の種じゃない方の受精卵を残されたんじゃないのか。

――なんだこのしみったれたファッキンマネー(※この世界ではピンポイントで献精手当金のこと。低い時使われがち)は。当てるどころか数も打てねぇのか。

――使えねぇな。オメガになっちまった方が、いっそ良いんじゃねぇか?


 こんなの夢だ。だってこれは、はるか昔のこと。
 あいつはもう、僕に関心なんかない。家にだってほとんど帰ってきていない。
 だから母さんは泣いているんだ。
 起きろ、目を開けろ、目を覚ませ僕――!

 ビクンッと体が波打ち、暗闇のなか目が開いた。
 汗で全身じっとりと濡れていて気持ち悪い。肩で大きく息をついていて苦しい。
 なんで、こんな、今更――。
 ……なにわざとらしいことを考えてる。今更なもんか。原因はわかっている。
 冠城龍玖だ。
 
 シャツを脱いで汗を拭う。
 あいつが、最年少タイトルホルダーが、あいつみたいなことを言うから――!

 ベッドの上で膝を抱えてうずくまった。その瞬間。

「痛うっ!?」

 胸に激痛が走った。
 胸を両腕で押さえて痛みが去るのを待つ。心臓がバックンバックンいっている。
 痛みが落ち着いたところで、なんだったのだろうと傷んだ胸に触れた。
 やっぱり乳首がピリピリ痛い。

「……ヘナ(※香坂家アシスタントAIのウェイクワード)、ライトランプ――OK」

 照明がランプ色でつき、部屋がゆっくりと明るくなっていく。明るさをなるべく抑えた状態で調光を止め、胸を見下ろす。ほんの薄っすらだけど、腫れている?
 え? 薄っすら? この暗さで乳首の色がわかる? あまり色素ない感じじゃなかったっけ?
 鏡でよく見てみようと、ベッドから下りようとしてバランスを崩しふらつく。
 なんなんだと訝しみながら姿見で自分の全身を見て息をのんだ。

「うそだろ……、まさか……っ!」

 姿見に駆け寄る。
 そろそろヘアサロンに行かないとと思ってたけど、まだマッシュヘアの範疇だった髪が長めのボブになっていた。前はプラチナブロンドとブロンドの間の髪色だったのに、今は黄みが抜けてしまいプラチナブロンドだ。
 肌も白くなっているみたいだ。目の色も、アイスブルーからバイオレットブルーに変わっている。
 照明の発光色を様々な色に何度も変え、それでも納得できずに未練がましくライトを変色させ続けた。

「うそだろ? いやだ。いやだいやだいやだ……」

 そろそろとパンツの前に手を伸ばす。
 大丈夫、ある。機能は低いとしても、僕を、僕たらしめる、もの。
 バッとパンツを引き下ろし、鏡を見る。

「う、う、う、うわぁぁぁぁぁ…………」

 僕は泣き崩れた。
 一応には、まだあった。薄かった体毛が更に薄くなっていて、強迫のごとく変化を突き付けられているようだ。
 陰嚢は股間に埋没しそうになっていたし、陰茎は太さも長さも前より縮んだように見える。
 嘘だ。こんなの夢だ。僕はまだ目が覚めてないだけなんだ。

「どうしたの、日向?」

「ッ! 入って来ないで!!」

 ノックと同時に母がドアを開けた。
 普通の声以下だったと思うけれど、夜中だし響いてしまったのだろう。
 夜中に半裸で、鏡の前で泣き崩れている息子に、母は何を思うのだろうか。

「日向っ、まさかっ!? ヘナ! ライトデイマックス!」

 局部や胸は見えていなかったはずなのに、母はすぐに察したようだ。照明を最大値にされる。髪か。それとも一見してわかるほどに変わってしまっているのか。
 母がうずくまっている僕の体をペタペタと忙しなく触って、最後には背にすがりついてきた。

「日向、ごめんなさいっ、ごめんなさい! オメガになったのね!? 私がちゃんとあなたを生んであげられなかったばっかりに……っ!」

「違う! 母さんのせいじゃない!」

「でも……! あなたの生殖能力が低いのは私のせいなの、ごめんなさいごめんなさい!」

「母さん! 違うから!」

 声を出すだけで全身がギシギシときしんで痛む。あまりの痛みにたまらずすがってくる母を振り払うと、母は両手で顔をおおい謝罪の言葉を繰り返す。

「違わないわ、あの人はダブルなのに、私は日向しかできなかったもの。私のせいなのよ! ごめんなさい、ごめんなさい日向、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

 僕は両手で耳を塞ぎ、自らの体から発せられている軋んだ音と、まるで呪詛のような母の謝罪をBGMに、いつしか意識を手放した。


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