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11 それでチャラで
しおりを挟む追加注文されたお酒を持ち、8番部屋の前で深呼吸する。
よし、本原若葉、行きます。
「失礼いたします」
「本原さん!」
「うわっ!?」
部屋に入るなりスーツ姿の人が駆け寄ってくる。びっくりしてトレイをひっくり返しそうになり、慌ててバランスを取る。
スーツの人がサッとトレイを取り上げ、ワゴンに置いた。
「ありがとう、ございます?」
ついお礼を口にしたけど、この人が突進してきたので……語尾が少々疑問形になってしまった。
「旺佑から聞いたんだけど、ぜひともお詫びに付き合ってあげてくれないかなぁ?」
「充!? お前、やめろ」
一瞬、おーすけ? と首を傾げそうになったが、おろおろとしていた四ッ橋先生がこちらに突進してきた。
ちょ! 素の声だめぇ~!! 思わず耳をふさぐ。
IZUの声に似た人が、「まぁまぁまぁまぁ」と割り込んできた。
「大の男に詰め寄られたら本原さんが困るだろう。とりあえず座れ」
二人はソファーへ強制的に、四ッ橋先生の素声にテンパっていた私まで「まぁまぁまぁ」で座らされてしまった。
誕生日席に当たるスツールに座らされ、斜め両サイドがスーツの人とIZU似さんだ。
四ッ橋先生じゃなくてとりあえずホッとする。ホッとしたけど座ってはいけない決まりだ。
スツールから流れるように跪いた。膝ついてないけど。
ちなみにうちの制服は、黒のスラックスにカマーベスト、黒のカフェエプロンである。
引かれたけど「決まりですので」で押し通す。着席すると営業法に引っかかるらしい。
それにしてもなんなんだ、この威圧感たっぷりの人たちは。
年の頃は若く見ても25歳以下はないだろうし、大きく見ても30少し過ぎくらいかな?
とにかく、きっとほとんどの人が彼らはイケメン!って言うようなイケメンぶり。芸能人集団でもここまで揃うのはレアだと思う。
仕事柄いろんな人を見ているけれど、高身長ってそれだけで武器だなと感じる。彼らなら、モデル相手でもそうそう遅れをとらないレベルでイケメン集団だ。
「驚かせて申し訳ないね、僕は梶充。旺佑の幼馴染。その二人も学生の頃からの付き合いで、仕事仲間でもある。そいつが瀬古達巳、あっちは真嶋一成」
斜め隣の瀬古さんがにっと笑い、テーブルの端で黙々と食べていた真嶋さんが、軽い会釈をした。四ッ橋先生は苦々しそうにしている。
なんだろう、実力に裏付けされた自信か何かがにじみ出ていて、それが更にイケメン度を上げている感じ。あ、持ってる者の余裕ってやつかも。
「覚えてないかもしれないけど、本原さんに声かけたことあるんだよ。今日は名前も教えてくれるよね」
ここのお客様はたいてい酔っぱらいなので、声をかけられることも多い。
ほとんど「仕事中ですのでうんぬん」でかわすけれど、まれにかわし切れないお客様もいて、仕方ないので苗字だけ答えることがある。
瀬古さんはそんなお客様だったようだ。
「……本原若葉です。申し訳ありませんが仕事中ですので失礼いたします」
どうせ四ッ橋先生は知ってるし仕方ない。
高校の頃バイトしてたとき、なれなれしくちゃん付けで呼んでくる客がいて、名前出すの懲りたんだよね。
そのバイト先ではネームプレートがあったから仕方なかったんだけどさ。
立ち上がり頭を下げればスーツの――ええっと梶さんに引き留められた。
「ちょっと待って! ちょっとでいいから話させて!」
「充、いい加減にしろ。お前達には関係ない」
四ッ橋先生が梶さんを止める。病院とは違う素声に再び耳をふさぐ。インカムを聞くふりで取り繕った。ついでに顔も逸らす。
「いいや、関係あるね、このままだと仕事にならない。本原さん、少しでいいからこいつに付き合ってくんないかな。別に煮るなり焼くなり好きにしてもらっていい」
「は?」
「は?」
私と四ッ橋先生の声がかぶった。
突然なに言ってるんだこの人は。
「最近旺佑が良い仕事をするからさ、それで今日わざわざ集まったのに、いざ会ったらドン引きするほど絶不調なんだよね。その原因が君みたいでさ」
「は?」
お客様に2連続で、は?とか言っちゃったけど、だって意味不明すぎるんだもの。
四ッ橋先生も唖然としている。唖然とした顔もイケメンとかすごいな。
イケメンだけど喋らなきゃただのイケメンだ。オーケー、冷静になれたぞ。
「お話はわかりました。あれはよそ見していた私が悪かったと伝えたのですが、それでも気になると言うのでしたら2千円いただけますか。あれ、イチキュッパだったので」
おつりはチップよチップ。この店に来られるんだから稼いでるんでしょう? ってこの人医者だったわ。
ぽかんと全員で私を見てくるので――我関せずとディナーしていた人、たしか真嶋さん、まで手を止めて見てきていて、なんだか恥ずかしくなって無駄に顔に力が入る。
「それでチャラと言うことでいいですよね?」
キッと四ッ橋先生を睨みつけて手を出す。四ッ橋先生は私の顔と手を交互に見てあたふたと立ち上がり、ボトムのポケットを叩いて財布を取り出した。
そして私の差し出した手に、万札を乗せてきた。
私はバチッとその万札をテーブルに叩きつける。またこの人は!
「だぁから、万札は多すぎだって、この前も言いました!」
これだから金持ちは。
って金持ちなんて知り合いにいないけどさぁ、なんなのよもう。
四ッ橋先生含め周りは唖然顔続行中だ。
あ。もしかして万札しか持ってないから釣り寄こせってこと?
やっばい、勘違いして啖呵切っちゃったよ。
……お財布そんなにお金入ってたかなぁ? 現実逃避しても消えない現実に、ますます顔に血が上った。
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