ASMR!~精神安定剤が触診してくるっ!

keino

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 一万円札をそそくさと手に取りシワを伸ばす。

「す、すみません。お釣りですよね。今は持ってないので後で持ってきます……」

 そっと四ッ橋先生に一万円札を差し返す。四ッ橋先生も戸惑って、なにか言おうとしているのか口をぱくぱくしている。
 次の瞬間ぶはっと爆笑に包まれた。
 ビクッとして手を引っ込める。ハラハラと2人の間のテーブルの上にお金が落ちた。
 私と四ッ橋先生以外の3人が、おなかを抱えるほど笑っていた。真嶋さんは他の二人よりは控えめだったけど、やっぱりこらえきれないといった風に笑っている。
 つい冷めた目を向ける。もう絶対受け取らないんだから。……やだやだ卑屈になりそう。

「ご、ごめん、若葉ちゃんを笑ってるわけじゃないんだ、旺佑がやり込められてるのがおかしくて」

「使い物にならなくて本当に困ってるんだ。いっそもっとガツンと言ってやって構わない」

「わかりました」

「えっ!」

「やったな、旺佑!」

 そんなわけないでしょ。なんで私が四ッ橋先生に喝を入れてあげなきゃいけないの。絶不調とか知らないし。
 プライベートの四ッ橋先生と話さなくちゃいけないとか何の罰ゲーム。社会人、自分でがんばれ。

「私も悪かった、四ッ橋先生も悪かった。四ッ橋先生は一万円それで詫びたい。私はスカート代すらいらないからそんなにもらいたくない。
 間を取って五千円で手打ちにしましょう」

 いつもなら遠慮しつつも一万円喜んでもらうんだけどね、チップでもらえることもあるし。
 でも今回はチップじゃないからもらえない。受け取っちゃったら絶対もやもやが残る。
 けど受け取ってもらえない先生も、きっと似たような気持ちなんだろう。ならモヤっても折半するしかない。痛み分けってやつだ。

「だそうだ旺佑、飲み込め」

「失恋おめ! フリーズもいいけどその自信作、こっちに回してからにしろ? な?」

 梶さんと瀬古さんが四ッ橋先生の肩をぽんぽん叩きながらソファーに座った。瀬古さんはまだ笑いがこらえきれないと言うか、若干バカにしたようなニュアンスが入ってるように見えるけど、仲の良い友達ならわからなくもないからそんなものなんだろう。
 私はすかさず一礼して退室しようと背を向けたとき。

「待って、本原さん!」

 ――”待って”いた 君に出会うのを――

 油断していた背中に素声を投げつけられて、ずっとしゃがんでいたせいか足もふらついてドアに手を付ける。もう片方の手はインカムのない方の耳にある。

「大丈夫? 若葉ちゃん」

「は、はい、大丈夫です、すみません」

 一番近い場所に座っていた瀬古さんがとっさに駆け寄ってくれた。のぞき込まれて、私は少しだけ振り返ってこたえる。
 肩越しに瀬古さんを見上げた感じだったのだけれど、瀬古さんがぐおっと仰け反った。
 なに? 私なんかより瀬古さんのふらつき具合が怖いですよ、顔赤いし酔いすぎじゃないですか? 口に手をやっていて更に危機感が増す。もしかして吐くんです!?

「達巳!?」

 四ッ橋先生の焦った声もやばい~~~。もうやだこの部屋。

「待て! 俺無罪だから! 見てもらえばわかる!」

 瀬古さんに両肩を持たれてぐりんとひっくり返され押し出される。
 えっ、私盾にされてる!?

「達巳、本原さんを放せ」

 ――もう君を”放せ”ないから――

「これは俺のせいじゃないだろ! 俺じゃなくて若葉ちゃんを見てみろよ」

 はぁ? 私のせいだって言いたいの? 瀬古さんの意味が分からないよ。吐き気は平気なの? 私の背中で吐いたら容赦なく万札もらいますからね。
 ……そういえば店へもクリーニング代取られなかったっけ? ソファーへだけはやめて置いた方がいいと思う。ここ絨毯敷の部屋じゃなくてよかったですね。

「いいから本原さんから手を放せ」

 ――いいから、手を離さないで。

 ぐわあっ! 歌どころか夢まで出てこないでーっ!
 私を挟んで二人でぽんぽんと言葉の応酬していて、次から次へと曲や夢のセリフがフラッシュバックする。酔ったみたいにフラフラしてきた。
 お願い、四ッ橋先生黙ってください。私はたまらず両耳を抑えてしゃがみこんだ。

「大丈夫? どうした、貧血?」

 四ッ橋先生もしゃがみ、おろおろと顔を覗き込んできた、と思ったら、四ッ橋先生までぐあっと仰け反り顔を逸らした。

「な? な? 凶悪だろ? 俺のせいじゃないだろ!?」

「……わかったから本原さんから離れろ。そして記憶から抹消しろ」

「もう、旺佑ったらいけずぅ~」

「とりあえず座らせてあげなきゃ。本原さん、うるさくしてごめんね」

 梶さんに促されたのを首を振って断る。

「すみません、大丈夫ですから、もう行きますので」

「そんな顔の本原さんを外に出せない!」

 ひぃぃぃ!! もう四ッ橋先生は口を開かないでぇ!

「そうだよ! 危ないって!
 若葉ちゃん頭痛いの? ずっと耳を気にしてる感じだったけど聴覚過敏症とか……だったらこんな仕事してないか」

「――旺佑の声じゃない?」

 今まで黙っていた真嶋さんがボソッと呟く。とても小さい声だったけど、その声はよく通った。

「声?」

 瀬古さんが聞き返す。

「そうか、声か!」

 梶さんが大げさに頷いた。

「不思議だったんだよね、全然そんな素振りないのに、急に脈ありみたいな時があったの。そっか声かぁ」

 いやっ、違う! え、あ、違わないかもしれないけど、違うの!
 私が好きなのはダスグリのdaiなのであって、四ッ橋先生じゃあ……。

「本原さん!」

 ひぃぃぃぃぃ!!
 キッと音が出てそうなくらい、四ッ橋先生が決意をにじませた顔でこちらに向き直って叫んだ。
顔は真っ赤だったけど。

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