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13 いいえ大好きですが何か
しおりを挟む「付き合――あ、いやっ、ご、ご飯でもどうですかっ」
私はしゃがんだままずざぁっと後ずさる。一歩分も下がればもうドアに背中がぶつかってしまう。耳を抑えたまま、ぶんぶんと首を振った。
だから無理なんだって! この人とまともにしゃべれないもの!
助けをもとめるように周りを見えれば、口元を抑えたり、おなかを抱えたりして笑いをかみ殺している人たちと目が合う。
瀬古さんなんかぶはっと吹き出し「中学生かよ」とか言ってる。いろいろひどい。
そこに私の視界を遮るように、ドアに両手をつきずずいと四ッ橋先生が近づく。
うひぃぃぃ!? しゃがみ込み壁ドンーっ!?
って言うか四ッ橋先生デカッ、180以上あるよね、それでしゃがみ込み壁ドンヤバいって! 威圧感んっ!
「チャンスをもらえるまで、ここに通います」
いやいやいやいや、それって犯罪行為なんじゃないの!? 付きまといアンド恐喝ぅ! イケメン無罪とかないからね!?
なんなの、この金持ちがぁ!
「わ、私のこと好きなんですか? 私は好きじゃありません。ス、ストーカーになりますよ!」
バンバンとソファーの座面でも叩いているような音がする。きっとまた大爆笑中なんだろう。
それでも私は目をそらさずに四ッ橋先生を睨んだ。耳にある手は外さないけど!
四ッ橋先生はうっと怯んだようだ。
しかし四ッ橋先生はごくりと喉仏を上下させると、片腕を外し、もう片腕の方に重心を持っていった。つまり私の、耳をおおっている手に顔が寄せられている。
いや、たぶん本人としてはガックリポーズ的なものなんだろうけどもさぁっ。距離ぃっ。
「その……、好きとか、正直わからないんです。でも、気になって仕方がない。確かめさせてもらえませんか」
ひぃぃぃぃっ!!
手にっ、息がっ! 息遣いがぁっ! やめてーっ! なんなのこの拷問は!!
あの歌い出しの一瞬の息遣いとかマジヤバイんだけど、生とかエモい、謝りたい、ほんと語彙力……ッ。
逃げ出したくても、首を振りたくても、四ッ橋先生が近すぎてやる勇気がない。と言うかこの声で力が抜けるよぉ……っ!
またこくりと四ッ橋先生が嚥下した音が聞こえる。いや実際は聞こえていない。
視界に入るだけでアテレコされてしまうとか私おかしい……っ。
「あなたの、その、赤面につられているだけかもしれない。お願いします。……若葉さん」
私はふしゅうと完全に脱力し、小さく丸まって、頭ならず耳を抱えた。
「――本当、だめなんです。先生の声、だめなの……で、とりあえず、連絡、ちゃんとしますから、もう、許してください……」
ちょっと膝を抱えていたら落ち着けた。だけど周りがすごい静かだ。そろそろと顔を上げたら、四ッ橋先生がまだ目の前にいて、ビクッと肩を揺らしたと思ったら高速バックしていった。
その勢いに目がまん丸くなったのが自分でもわかる。
「ご、ごめ……ッ」
四ッ橋先生が謝りかけたと思ったら、バシンッと自分の口を叩きふさいだ。フーフーッって音が聞こえてきそうなくらい肩で息をしている。
声が駄目だって言ったから気をつかってくれてるんだと思う。申し訳ないけどごめんなさい。マジムリ。
「ごめんなさい、お客様にこんなこと頼むの、どうかとは思うんですけど、何か曲をかけてもらっていいですか? その……腰が抜けちゃって……」
四ッ橋先生の声のせいでね。チラッと四ッ橋先生をうかがう。これで察してください、すみません!
とにかくdaiの曲を、声をかき消したい。曲だけならまだいいんだ。イケボ――いや、エロボをかき消したいの! ううう、恥ずかしいぃぃぃ。
「あ! ダスグリ――das Glueck Herz以外で! お願いします!」
一番リモコンに近かった真嶋さんが、呆然としながらも曲をかけてくれた。
昔の有名な洋楽ロック、足と手でリズムを取るやつだ。
おおう、これ本人映像&歌唱だ。二面の大スクリーンに白いマントをなびかせて、上半身裸の濃ゆいボーカルが颯爽とステージを行く。
ドンドンとおなかに響く重低音が、イヤーワームを駆逐していく。
さすがラグジュアリーカラオケ店。音響ばっちり、歓声に巻かれてライブ会場さながらである。ライト暗くしたら完璧だ。
ふうっと大きな溜め息というか、もう深呼吸を思いっきりした。
しびれていた指先に力が入るようになり、頭のかすみが晴れていく。
「ええっと、あの、本原さん?」
「はい」
力が入るか確かめるため、手をにぎにぎしていた私に、梶さんが話しかけてくる。うう握力寝起きぃっ。
「ダスグリ、嫌いなの?」
梶さんも気づいているのかもしれない。四ッ橋先生の声が、ダスグリのdaiにそっくりなこと。
友人としては、このあやふやな恋未満を応援したいという気持ちもわかる。
私も友達から「気になる人がいる」って相談受けて、とりまはっきりするまで~みたいな感じで言ったこともある。
だからこの質問なんだろう。
「いいえ、大好きです」
daiの――むしろ四ッ橋先生のせいで、daiに一生処女を捧げる勢いで好きですロッキュー!
よしよし調子戻ってきた。ゆっくりと立ち上がる。
『本原さん大丈夫? どうかした?』
インカムから連絡が入ってビクッとなった。少し時間がかかりすぎてしまったみたいだ。
私の雰囲気が変わったのを見て取った4人に凝視される中、インカムマイクのスイッチに触れる。
「……本原です。すみません、少し貧血になったみたいですが大丈夫です。すぐ戻ります」
インカムに応えてマイクスイッチから手を離してから、お客様に向かって一礼する。
「取り乱してすみませんでした。失礼いたします」
今度こそちゃんとワゴンを押して出た。
と言うか、ワゴンが杖替わりみたいになってたのは否めない。
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