ASMR!~精神安定剤が触診してくるっ!

keino

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36 考えられない

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 翌日朝、着信音で目が覚めた。

「……はい」

『すっごい声。おはよ、若葉。でももう9時よ』

「おはよ、春希。今日も夜バイトだからいいんだよ」

『今夜もバイトなの? 頑張るね」

「サービス業で、イブ回避できただけでオッケーですよ」

『そっか、そうだね、昨日も今日もお疲れさま。それで朝から連絡した理由だけど、若葉はもうダスグリの新曲動画見た? 見たわよね?』

 春希が矢継ぎ早に言う。

「見たけど、どうしたの」

『私は今朝テレビで知ったの。エンタメトップよ。それでええっと……、若葉、大丈夫?』

「へ? なにが?」

 昨日なんか散々、人をぽんこつ呼ばわりした人が歯切れが悪い。

『今朝のテレビ――は見てるわけないね。昨日ボヤッターとか、SNSなんでもいいけど、見てない?』

「見てないけど」

『じゃあとりあえずテレビつけて。今やってるから』

 言われた通りテレビをつける。ザッピングしてエンタメニュースがやっているところを探す。

『――ックヘルツの姿が見られて、ファンは感涙ものですね!』

『顔がバッチリとまではいかないですが、それでもイケメン揃いというのは伝わってきますよ!』

『das Glueck Herzファンにとっては、最高のクリスマスプレゼントになったでしょうね』

『私もますますファンになっちゃいましたぁ~、会ってみたいですぅ~』

 重くて開かなかった目がバチーッと開いた。
 テレビには、画像を補正された4人が映し出されていた。
 たぶん動画の中で一番顔の露出が大きかった瞬間を使い、明度が上げられ、粗い画像を整えたものだ。

「これは……」

『知り合いだったら、話題がてらツッコミ入れる程度にはハッキリしてると思うのよ』

 昨日の動画では、あーまー言われれば似てるかもしれないねーくらいだったのが、この画像だと、あっダスグリに似てない?くらいにはグレードアップした。
 これってやっぱり、3人、かな? ピアノとドラムの人が似てると言えば似てる。合成したのかな? 4人目はやっぱりいない?
 有志によるファンまとめサイト見なきゃ。

『今までダスグリは顔出しをしてきませんでしたが、これからはオープンで活動していくのでしょうか』

 スタジオではアナウンサーやコメンテーターが、そうなったら嬉しいだの、ライブ行きたいだの言っている。

『それであの、昨日は煽っちゃってごめん! 個人的にはめっちゃいい人だと思うの、本当に! 医者だし、まさか今更顔出しするとは思わなくて……』

 春希の中では完全に本人確定なのね。

「春希が謝ることじゃないよ。って言うかごめん春希、寝起きだし、こんなだし、めっちゃ頭混乱してる。春希は何が心配なの?」

 なにか心配をしてくれて電話をかけてきてくれたのは、寝ぼけアンド混乱中の私でもわかる。

『業界でよく聞くヤリ捨ては心配してないの。ええっと、有名税?』

 はぁ?っと間抜けな声が出た。
 ヤリ捨てって言葉は適切じゃないんじゃないのかしら。
 確かに私の周りには、短期間や1回でさよならの話をよく聞く。私のバイト先の入れ替えが激しい理由の一因にもなっている。
 でも彼女たちの方も、わかってて一夜を過ごした人は多いし、自慢の一つで自ら売り込んでく人がほとんどだ。win-winな気がする。私は当事者じゃないので言葉には出さないけど、そんな風に見える。

「それってあれ? 文冬砲とかマンデーされちゃうとかそういうこと? 私が? そもそも付き合ってもないのに?」

『付き合う前提でまとまったでしょ。それに噂の段階でも拡散されちゃうのが、ネットや週刊誌でしょ』

 春希がちょっとだけ、ムッとしたような声を出す。

「まぁ、そうだけどさ。……本人確定したわけじゃないし」

『あんたあの歌聴いて何も感じないの!?』

「そんなの! 控えめに言って最高だったよ! 昨日は寝落ちするまでエンドレスして泣いたわ!」

『そうじゃないでしょ、あのコメントはどう考えても"愛しい若葉に捧ぐ"でしょ! それに若葉だってどう見たって四ッ橋さんのこと――」

「――もう! 春希は謝りたいのか煽りたいのか、どっちなのよ!」

『う……、ごめん』

「私もごめん、春希は心配してくれたのに……。混乱極まってる」

『仕方ないよ、これは……』

 しばらく無言が二人の間で続く。テレビは次の話題に移っていく。

『……どんなつもりであのPVで公開したんだろうね』

 ぽつりと春希がつぶやく。

「まだ確定したわけじゃ……」

『四ッ橋さん一人ならまだしも、瀬古さんぽい人いるし……』

 おずおずと春希が言う。うあー、やっぱりあのギター似てる?

『バイト先に来てた中に、他のメンバーいなかったの?』

「えっ、マジで?」

『私が訊いてるの』

「そうだね……、んーわからないよ」

 あとは梶さんと真嶋さんだっけ、一緒に来てたの。
 真嶋さんはほとんどしゃべらなかったから、なんとも言えない。とりま梶さんの声は、ダスグリにいないことだけはわかる。
 顔は覚えていられるほど見てないし、そういえば立ち姿すら見てないや。

『問い詰めるわけにもいかないしね』

「そうだよ、こんなの他人の空似レベルと言われたらそれまでだし。仮にそうだったとしても、私に口出す権利なんてないし」

『でも考えとかないとヤバくない?』

「何を? 本人から言われてもないことなんて、考えられないよ」

『うん……。そうだね。
 また会って話そっか』

「そうだね、心配してくれてありがとね」

『ううん、ゆっくり休んでね』

「春希もね」

 微妙な空気になりそうだったところを春希が断ち切る。
 電話を切る前に、会うのをいつにするか決めなかったあたり、すでに微妙な空気になっていたかもしれない。
 二度寝する気分にもなれず、リビングに降りた。

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