36 / 48
36 考えられない
しおりを挟む翌日朝、着信音で目が覚めた。
「……はい」
『すっごい声。おはよ、若葉。でももう9時よ』
「おはよ、春希。今日も夜バイトだからいいんだよ」
『今夜もバイトなの? 頑張るね」
「サービス業で、イブ回避できただけでオッケーですよ」
『そっか、そうだね、昨日も今日もお疲れさま。それで朝から連絡した理由だけど、若葉はもうダスグリの新曲動画見た? 見たわよね?』
春希が矢継ぎ早に言う。
「見たけど、どうしたの」
『私は今朝テレビで知ったの。エンタメトップよ。それでええっと……、若葉、大丈夫?』
「へ? なにが?」
昨日なんか散々、人をぽんこつ呼ばわりした人が歯切れが悪い。
『今朝のテレビ――は見てるわけないね。昨日ボヤッターとか、SNSなんでもいいけど、見てない?』
「見てないけど」
『じゃあとりあえずテレビつけて。今やってるから』
言われた通りテレビをつける。ザッピングしてエンタメニュースがやっているところを探す。
『――ックヘルツの姿が見られて、ファンは感涙ものですね!』
『顔がバッチリとまではいかないですが、それでもイケメン揃いというのは伝わってきますよ!』
『das Glueck Herzファンにとっては、最高のクリスマスプレゼントになったでしょうね』
『私もますますファンになっちゃいましたぁ~、会ってみたいですぅ~』
重くて開かなかった目がバチーッと開いた。
テレビには、画像を補正された4人が映し出されていた。
たぶん動画の中で一番顔の露出が大きかった瞬間を使い、明度が上げられ、粗い画像を整えたものだ。
「これは……」
『知り合いだったら、話題がてらツッコミ入れる程度にはハッキリしてると思うのよ』
昨日の動画では、あーまー言われれば似てるかもしれないねーくらいだったのが、この画像だと、あっダスグリに似てない?くらいにはグレードアップした。
これってやっぱり、3人、かな? ピアノとドラムの人が似てると言えば似てる。合成したのかな? 4人目はやっぱりいない?
有志によるファンまとめサイト見なきゃ。
『今までダスグリは顔出しをしてきませんでしたが、これからはオープンで活動していくのでしょうか』
スタジオではアナウンサーやコメンテーターが、そうなったら嬉しいだの、ライブ行きたいだの言っている。
『それであの、昨日は煽っちゃってごめん! 個人的にはめっちゃいい人だと思うの、本当に! 医者だし、まさか今更顔出しするとは思わなくて……』
春希の中では完全に本人確定なのね。
「春希が謝ることじゃないよ。って言うかごめん春希、寝起きだし、こんなだし、めっちゃ頭混乱してる。春希は何が心配なの?」
なにか心配をしてくれて電話をかけてきてくれたのは、寝ぼけアンド混乱中の私でもわかる。
『業界でよく聞くヤリ捨ては心配してないの。ええっと、有名税?』
はぁ?っと間抜けな声が出た。
ヤリ捨てって言葉は適切じゃないんじゃないのかしら。
確かに私の周りには、短期間や1回でさよならの話をよく聞く。私のバイト先の入れ替えが激しい理由の一因にもなっている。
でも彼女たちの方も、わかってて一夜を過ごした人は多いし、自慢の一つで自ら売り込んでく人がほとんどだ。win-winな気がする。私は当事者じゃないので言葉には出さないけど、そんな風に見える。
「それってあれ? 文冬砲とかマンデーされちゃうとかそういうこと? 私が? そもそも付き合ってもないのに?」
『付き合う前提でまとまったでしょ。それに噂の段階でも拡散されちゃうのが、ネットや週刊誌でしょ』
春希がちょっとだけ、ムッとしたような声を出す。
「まぁ、そうだけどさ。……本人確定したわけじゃないし」
『あんたあの歌聴いて何も感じないの!?』
「そんなの! 控えめに言って最高だったよ! 昨日は寝落ちするまでエンドレスして泣いたわ!」
『そうじゃないでしょ、あのコメントはどう考えても"愛しい若葉に捧ぐ"でしょ! それに若葉だってどう見たって四ッ橋さんのこと――」
「――もう! 春希は謝りたいのか煽りたいのか、どっちなのよ!」
『う……、ごめん』
「私もごめん、春希は心配してくれたのに……。混乱極まってる」
『仕方ないよ、これは……』
しばらく無言が二人の間で続く。テレビは次の話題に移っていく。
『……どんなつもりであのPVで公開したんだろうね』
ぽつりと春希がつぶやく。
「まだ確定したわけじゃ……」
『四ッ橋さん一人ならまだしも、瀬古さんぽい人いるし……』
おずおずと春希が言う。うあー、やっぱりあのギター似てる?
『バイト先に来てた中に、他のメンバーいなかったの?』
「えっ、マジで?」
『私が訊いてるの』
「そうだね……、んーわからないよ」
あとは梶さんと真嶋さんだっけ、一緒に来てたの。
真嶋さんはほとんどしゃべらなかったから、なんとも言えない。とりま梶さんの声は、ダスグリにいないことだけはわかる。
顔は覚えていられるほど見てないし、そういえば立ち姿すら見てないや。
『問い詰めるわけにもいかないしね』
「そうだよ、こんなの他人の空似レベルと言われたらそれまでだし。仮にそうだったとしても、私に口出す権利なんてないし」
『でも考えとかないとヤバくない?』
「何を? 本人から言われてもないことなんて、考えられないよ」
『うん……。そうだね。
また会って話そっか』
「そうだね、心配してくれてありがとね」
『ううん、ゆっくり休んでね』
「春希もね」
微妙な空気になりそうだったところを春希が断ち切る。
電話を切る前に、会うのをいつにするか決めなかったあたり、すでに微妙な空気になっていたかもしれない。
二度寝する気分にもなれず、リビングに降りた。
0
あなたにおすすめの小説
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる