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プロローグ
しおりを挟む「なにこれ?!こわい!やだ!お父さま!!お母さま!!」
すさまじい魔力が発動し、幼いフェリシアの上にもフィリップの上にも魔法陣を浮かび上がらせている。
次から次へと高速で繰り出される術式が生み出す、まばゆい光が二人を包み、フェリシアは金縛りにあったように動けず声も出なくなった。
大好きな従兄妹のフィリップは無表情で、ずっと術式の詠唱を続けている。
さっきまではあんなに楽しかったのに——
~~*~~
ここは王宮の王妃専用サロン——
人払いした上で、母子二組、気兼ねないおしゃべりと遊びに別れていた。
母親達、メアリー王妃とハリエット大公妃はソファーでお茶を飲み、幼いフィリップ王子とフェリシア大公女は、少し離れたふかふかのマットの上に座っていた。
今日は曇りで外は肌寒い。
フィリップはたくさん本を用意し、いつものように読み聞かせあっていた。
何冊か楽しんだあと、フィリップが少し大きめな本を広げて見せる。
そこには大人でも読むのが難しい古代文字が並び、あちこちに散りばめられた蔓薔薇の花がとても美しかった。
「フェリィ。これ、すごいだろう?」
フィリップは愛らしい従兄妹のフェリシアにちょっぴり自慢げに話しかける。
お互いの愛称「フィル」と「フェリィ」で呼び合う家族ぐるみの付き合いだ。
「なあに、このご本?こんなの見たことない。とってもきれい」
フェリシアの知らない文字だらけで、わくわくしてくる。
(どんなお話がかかれてるんだろう)
物知りのフィリップなら知ってるかもと、フェリシアは無邪気に愛称で呼びかける。
「ねえ、フィル。なんてかいてあるの?よんで、ね、よんで」
こんなにきれいな本なんだから、きっとわくわくか、うっとりするお話だ、とフェリシアは幼い胸をときめかせ、フィリップを見上げる。
実はフィリップは書かれている古代文字の、たった二つの言葉しかわからなかった。
でも意地っぱりの王子様は、大好きな子に良いところを見せたくて正直に話せない。
この本が図書館の禁書庫の中にあったことも——
入れないはずなのに、ドアノブに魔力を注いだら入れてしまったことも——
フィリップが思い付いたのは、自分でお話を作ることだった。初めてではない。
お互いが作ったお話を、大好きなフェリシアと交代で聴かせあった。
途中からぐだぐだになったけれど、二人で楽しく笑いあった。
(フェリィだったら、きっと許してくれる)
本を見て、どう始めようか考える。
描かれている薔薇は当然だが、フェリシアが大好きな馬も出したい。
フェリシアは母親達がおしゃべりに夢中なのをいいことに、お行儀悪く寝そべり肘を突き、手のひらに顔を載せ、水色の瞳を煌めかせじっと待っている。
そうだ。
薔薇に囲まれたお城に住んでいる、お姫様の話にしよう。馬に乗ってお散歩するんだ。
むかしむかし、あるところに——
お話を始めようとしたフィリップに、“蔓薔薇の本”が心の中で話しかけて来た。
違うよ、この本は魔法の話——
大好きな、とっても、う~んと大好きな相手と、ず~っと一緒にいられるようにしてくれる。
そんな魔法のお話だよ。知りたくなあい?
『知りたい!!』
フィリップは心の中で、魔法の“蔓薔薇の本”に答えてしまった。
『じゃあ、教えてあげよう』
そこからフィリップの身体は、この“本”に乗っ取られた。
知らない術式の詠唱を続け、空中や自分やフェリシアの身体の上に、魔法陣を浮かび上がらせる。
次から次へと高速で繰り出される術式が生み出す、まばゆい光が二人を包む。
“本”に乗っ取られてからは、時間が飴のように伸びて長く感じたり、逆にとっても短く感じたり、フィリップ自身の記憶もあやふやだ。
この“本”はおそらく邪魔が入らないよう、時間を圧縮しフィリップを操ったんだろう——
後日、フィリップから事情聴取した宮廷魔術師長が、フェリシアの魔術の教師になってからそう話していた。
母親達がその光に気付いた時にはもう手遅れで手が出せず、光が消えたあと、すでに呪いは成立していた。
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