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第7話 禁呪の書庫
しおりを挟む黒曜の森の南東、獣道が急に切れて崖に出る場所がある。昼でも暗い谷間に、黒く口を開けた石の祠がひとつ。苔と蔦が石の継ぎ目を呑み、入口の上に打たれた古い紋章は雨に削られて判別がつかない。
オブシディアンは無言で松明を掲げ、足場を確かめてから先に降りた。私は彼の背を追い、砕けた段差を三度ほど跳ぶ。靴底が湿っている。土の下に空洞がある感触。ここは地面の“皮”で、その下に沈黙の“肉”がある。
「ここ?」
「廃教会の外れだ。昔は巡礼路だったらしい。今は、森が全部を呑んだ」
「“封印の書”の写本が眠ってるって言ってた場所」
「ああ。地上は全部、目くらましだ。目当ては下だ」
祠の床石に、僅かに浮いた一枚があった。オブシディアンはその角に短剣の根本を差し込み、体重をかけて持ち上げる。鈍い音。湿った空気が息を吹き返すみたいに溢れ、古い線香と灰の匂いが鼻を掠めた。
暗闇の穴。梯子が腐りかけの骨みたいに下へ伸びている。
「俺が降りる。五段明けてから来い。崩れやすい」
「了解」
彼が消える。私は紅玉を掌に握り、心臓と呼吸をそろえた。紅の微光が指の隙間で生まれ、暗闇の輪郭を柔らかく切り取る。
足をかける。木は軋み、埃が舞う。ひとつ、またひとつ。深さは思ったよりある。足が石に届いたとき、下から彼の声がする。
「足場、右。壊れかけの石に乗るな」
「了解」
底は広くない。湿った洞。壁に古い聖句の名残が刻まれている。神の名は風に削れてただの傷の列に変わっているのに、祈りの調子だけは確かに残っていた。
オブシディアンは松明を壁の金具に掛け、火を少し落として影を濃くする。薄い影は嘘を呼ぶから、彼はいつも、濃くする。
「ここからが本番だ」
彼は壁の一角、黒ずんだ石板の前に立った。表面に丸と線の複雑な組み合わせ――魔法陣の始祖みたいな素朴さと、目を凝らすほど見えてくる緻密さが同居している。
中心には“古い字”。私は祖母の書付で見たことがある。“ルビア”。カルネリアンの遠い祖。
「“ルビアの書”……?」
「俺の情報屋はここを“書庫”って呼んでた。鍵は血、火、呼気」
「血と、火と、息」
「そうだ。どれもお前の中にある」
心臓がひとつ強く打った。
私はゆっくりと膝をつき、石板の縁に触れる。冷たい。けれど、奥に薄い体温が残っている。長い眠りの体温。
掌を紅玉に当て、熱を少し起こす。火は私の指先で目を細め、やがて細い糸になって石へ移った。
ふ、と石の呼吸が変わる。
私は親指の腹を噛んで、少し血を落とす。赤が石に吸い込まれ、古い字が湿りを帯びて濃く浮かび上がる。
最後に、息。
石の中心、円と円が交差する点に口を近づけ、ゆっくりと長く吐く。
風鈴みたいな高い音が、石の中から鳴った。
石板が、わずかに回る。
隙間。
黒い影。
空気がひとつ歳を取る。
「下がれ」
オブシディアンが私の肩を引いた。石板が横へ滑り、狭い隙間の向こうに螺旋階段が現れる。階段は石。踏み面はすり減り、手すりは冷たい。
私は紅玉を握り直し、軽く頷いた。「行こう」
螺旋は長かった。歩く音が自分の胸の中でこだまし、上か下か分からなくなるほど時間が伸びる。
ようやく抜けた先に、薄暗い広間があった。
天井は低い。壁面には棚が彫り込まれ、乾いた皮紙の束、黒い糸で綴じた書物、石板、角の壷。
空気は乾いているのに、湿ったものの匂いがする。古い知恵が放つ、ほこりとは別の匂い。
中央の台座に、ひとつだけ赤い封蝋が残っていた。蝋の紋章は、私の胸の紅玉と似た模様――火の舌と円。
近づいた瞬間、紅玉が胸の下で“痛む”ほど強く打った。
台座の上の書物は薄い。表紙は黒革。端は擦り切れて、開かれることを遠慮せず生き延びた本の顔をしている。
私は指先で封蝋を撫でた。固い。けれど、中央に小さな欠けがある。そこに紅玉の角をそっと合わせ、熱を極小に起こす。
蝋が抵抗をやめ、音もなく割れた。
「開くぞ」
オブシディアンの声に頷き、私はそっと表紙を上げる。
紙は薄く、しかし強い。インクは最初の頁でまだ匂いを持っていた。
書は走り書きではない。ひとつひとつの字が、火箸で砂を撫でるみたいに丁寧で、冷たい激情に満ちている。
――『ルビアの書/火は血より古く、名より長く、幸福より速い』
最初の行で、口の中の水が消えた。
頁を捲る。
円、円、円。
重なり合い、ずれる円。それを縫う直線。
石の床に描くための記述。方角、間隔、素材、滴らせる血の量、息を合わせる拍。
“魂を炎で縛る陣”。
その陣は、祈りの形とよく似ていた。違いは、中心に空白がないこと。祈りは中心を空けて“上”に開く。縛りは中心を満たして“下”に閉じる。
「……読めるか?」
「読める。読めるように、書いてある」
「書き手は、お前に読ませたいんだ」
「ええ。私に、そして私みたいな誰かに」
私は指先で紙の縁を撫でる。そこに、爪の先ほどの焦げ跡が並んでいる。同じ手が何度も同じ場所を触り、火の粉が落ちて小さな火傷ができた痕。
この本は火で読まれてきた。本は覚えている。
「ここを見て」
私は一箇所を示した。陣の一番外側――“観衆の円”。
そこに記されているのは、陣が“見られているほど強くなる”という記述。
観客が多ければ多いほど、燃える。その火は中心の術者を噛み、同時に外側の“幸福”に噛みつく。
「……王都の婚礼」
私の口が無意識に言葉を落とした。
あの日の光、鐘、誰かの祝福の声。
全部、燃えやすい。
「ルビー」
「わかってる。まだ早い。――でも、道が見えた」
頁の余白に、走り書きの注釈があった。“陣を描く素材は、火を嫌うものが良い/嫌うほど、火は残る”。
嫌うもの。石灰、聖油、誓いの言葉、白。
私は笑ってしまう。
「祝祭の道具、全部、燃料だって」
「お前、笑ってる」
「面白いじゃない。彼らの“幸福”のために整えた舞台が、そのまま陣になる。……ねぇ、オブシディアン。私、本当に悪い女になれそう」
「称号は後で決めろ」
さらに頁を捲る。
“魂を炎で縛る”術式の核心。
魂の結び目に火を通し、幸福の糸だけを焼き切る。
糸は見えない。だから、見えるようにする――“見える化”のための段階が十と二。
人の顔に乗った幸福の油膜、声の高さの微細な偏り、呼吸の狭さ。
王都で散々見たものだ。
貴族の舞踏会、聖堂の説教、王太子の笑顔。
全部、薄い膜で塗られていた。
「できる」
自分の声が、思っていたより低かった。
火は私の腹で静かに頷き、紅玉は胸の中でひとつ灯を増やした。
「“幸福そのもの”を燃やせる。殿下の、聖女の、王都の」
言葉に、空気が凍った。
オブシディアンが一瞬だけ視線を寄越す。彼は私の顔を見て、何かを確認し、そして頷く代わりに、剣の柄を軽く叩いた。
「紙から離れろ。紙は燃える。頭に入れろ」
「了解」
私は書を閉じ、掌を表紙に置いた。
熱を、返す。
火は本に何も残させない。読んだ者だけが持ち出す。
封蝋の欠片がまた元の形に寄っていく。
そのとき、広間の奥で“砂を踏む音”がした。
息が、ひとつ、詰まる。
オブシディアンは松明の灯を手で隠し、影に流れた。
暗闇の中、複数の気配。二、三、四。
足音は軽くない。獣の慎重さがない。人だ。
先頭の息は短く、焦りが混じる。後ろの一人は喉の奥から湿った音を出している。森の毒に当たったか、酒か。
「ここか」「扉が開いてる」「誰かが入った形跡が――」
声が近づく。
私は本を台座の下に滑らせ、紅玉の灯を胸の内に押し戻した。
火は、黙る。
オブシディアンが私の耳元に口を寄せる。
「合図、三」
危険。
私は頷く。
曲がり角の石壁、足元に散った砂。
彼は砂に指で小さな印を描く。“曲がってすぐ”の罠。
私は天井の低い梁に手をかけ、体を引き上げる位置を取る。
足音。
角を回る影。
次の瞬間、オブシディアンの手が砂の印を払う――“今”。
私は梁からぶら下がり、先頭の男の頭上に重力を落とした。
肩に膝。
男の顎が鳴る。
オブシディアンの剣が無音で二人目の手首を断ち、短い悲鳴が広間の石に吸われた。
三人目が剣を抜く。遅い。
私は紅玉の熱を指先にだけ滲ませ、刃の縁に薄く火を載せる。
狙うのは目ではない。
幸福の油膜が一番薄いところ。
――喉ではなく、声の生まれる“下”。
刃がそこを掠めるだけで、男の声が途切れる。悲鳴にならず、息だけが漏れる。
石の床に倒れる音。血の匂いに古文書の匂いが混じる。
静まり返った。
「盗掘団だな」
オブシディアンが短く言う。
男たちの衣服の縫い方、腰の袋の位置、靴底の釘。王都の地下で見覚えがある。聖品を剥いで売る、聖なるものの掃除屋。
「ここも“王都の幸福”の一部」
「だな。綺麗ごとは金になる」
「じゃ、灰にする」
「待て。殺すのは簡単だ。使えるものを抜いてからでも遅くない」
彼は男の袋をあさり、鍵束、錆びた護符、短い鏡、油紙に包まれた銀貨を幾枚か取り出した。
私は倒れた先頭の男の首筋に指を当てる。脈は遅い。
紅玉が胸でうずく。火は喉の奥まで上がりたがっている。
――焼け、と囁く。
私は火に言う。
――黙って。今日は、紙を持ち出す日。演目は別の夜。
火は従う。
私の笑いは、喉の奥で舌を持ち上げるだけで、声にならない。
「オブシディアン。帰ろう」
「急げ。道を閉じる」
本を外套の内側に抱き、私たちは進んだ道を逆に辿る。
螺旋階段に足をかける前、私は広間を振り返った。
棚に眠る書、眠り続けるための暗さ。
“読むのは火だけ”という古い掟。
それでも、きっと誰かがまたここを開ける。
その誰かのために、私は台座の上に小さな石をひとつ置いた。黒曜石――オブシディアンから受け取った印。尖った角が一つ、わざと光に触れる角度。
「遺言?」
「道標」
上へ。
息が短くなる。肩に本の重さ。
祠の底まで戻ると、オブシディアンは石板を押し戻し、封を“逆に”かけた。外から見えない鍵。
地上の光が灰色に広がる。森の匂い。生きている匂い。
オブシディアンが短く言う。「動くぞ。追っ手が地上から回る」
「わかってる」
崖を駆け上がる。蔦、岩の窪み、指の皮。
足元で石が転がり、谷に落ちる音が尾を引いた。
森の陰へ逃げ込むと同時に、遠くで角笛の音がした。盗掘団の合図。
「三手に分かれる。俺は西、お前は北。合図は四回――逃げろ」
「了解。――後で」
「生きて後でだ」
私は頷き、北へ走る。
木々の間に風が通る。肩の本が肋骨を叩く。
胸の紅玉が熱を持ち、文字を焼き直す。
“魂を炎で縛る陣”。
“観衆の円”。
“幸福の油膜”。
全てが、私の中で組み上がっていく。
ただの理屈じゃない。呼吸と、歩幅と、心拍と、火とで、陣は既に回り始めている。
王都の礼拝堂――白い床、香の煙、祝詞。
婚礼の鐘――音の環、祝福の声、涙。
城下の広場――市場のざわめき、噂、期待。
全部、陣の素材だ。全部、燃えやすい。
走りながら、私は一度だけ口角を上げた。
森の影が、その笑いを見て背筋を冷やす。
自分でもわかる。
今の笑いは、もう“人間”のものじゃない。
火の笑い。
獣の笑い。
復讐の笑い。
「この力で、幸福そのものを燃やせる」
言葉は風に混ざって消えたが、火は聞いた。
紅玉が胸の中で小さく鳴り、呼吸がそれに合わせて整う。
枝が頬を撫で、泥が靴を掴み、遠くで笛が二度鳴る。別の方角。オブシディアンは生きている。
私は速度を落とさず、影の中を縫った。
日が傾き、森の密度がまた一段深くなる頃、私は合図を四回、低く鳴らす。
逃げろ。
返事は、闇の奥で二拍空いて、同じく四回。
私たちは別の道で、同じ方向へ逃げている。
夜になる前に、合流する。
焚火の灰を新しくし、頁を頭に焼き付け、退路を三つ確保し、王都の空に“穴”を開ける準備を始める。
それが、今夜の予定。
予定はいつだって壊れるけれど、壊れても火は残る。
火は、残るために生まれた。
その夜、合流地点の小さな窪地で、私は本を外套の内から取り出し、最後の頁をもう一度だけ見た。
“陣を終える術者は、必ずひとりで円から出よ。他者の手に頼るな。幸福は感染する”
私は静かに表紙を閉じ、紅玉を握る。
幸福は感染する。だから、私は隔離する。
王都丸ごと、火の隔離室に入れてやる。
そこから救い出すものは、私が選ぶ。
祈りではなく、選択で。
赦しではなく、刃で。
火が、笑った。
森が、黙った。
私は、歩いた。
復讐の円が、見えないまま、ゆっくり回り始めていた。
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