王宮から逃げた私、隣国で最強魔導士に一途に愛される

タマ マコト

文字の大きさ
2 / 20

第2話 青白い閃光と冤罪の夜

しおりを挟む


 その日の大広間は、いつも以上にきらびやかだった。

 天井から吊るされた巨大なシャンデリアには、魔光石がいつもより多くはめ込まれていて、細かい光の粒が雨みたいに降り注いでいる。
 壁には各家の紋章旗がずらりと並び、床の大理石は、鏡のように人の姿と光を映していた。

 魔術実演会――年に一度、王宮に魔導師団や各家の魔術師が集まり、自慢の魔術を披露する日。
 表向きは「魔術技術の発展と交流のため」。
 実際は、貴族たちが自分の家の力とコネを見せつけ合う、格付けショーみたいなものだ。

「……なんで私もここにいるのかしら」

 壁際の席に座りながら、リリアは小さくため息をついた。

 視線を前に向ければ、壇上ではすでにひとりの魔術師が、炎を操る見事な術を披露している。
 赤い炎が空中で舞い、花の形になり、観客から拍手が起こる。

 周囲の貴族たちは、華やかな笑い声とともにワイングラスを傾けていた。
 ミーナは少し離れた侍女用の位置で、心配そうにこちらを見ている。

「お嬢様、顔が完全に“早く帰りたい”って書いてます」

 合間に近づいてきたミーナが、銀盆を持ちながら小声でささやく。

「帰れるならとっくに帰ってるわよ……。私なんて、ただ座ってるだけの飾りでしょう?」

「飾りも必要なんですよ、この人たちの世界では。ほら、“王太子殿下にはちゃんと婚約者がいますよ、安心してください”っていうアピール」

「言い方が生々しい」

 苦笑しながらも、リリアは胸のあたりを押さえる。
 今日のドレスは深い青。宝石みたいに光るシャンデリアの下では悪くないはずだ。
 失敗のしようがないはずの“座っているだけの役目”――だった。

「続いては、王宮魔導師団団長、グレゴール殿による高位魔術の実演でございます!」

 司会の声が響く。
 場の空気が一段階高揚し、歓声があちこちから上がった。

 リリアは心のどこかを切り離すようにして、半ば機械的に拍手を送る。

 その時だった。

「それと――特別企画として、本日はもうお一方、壇上にお上がりいただきます」

 司会の男が、妙に芝居がかった笑みを浮かべて、客席に視線を向けた。

「王太子殿下のご婚約者、リリア・エルネスト公爵令嬢にも、軽い魔術を披露していただきましょう!」

 一瞬で、空気が固まった。

「…………え?」

 自分の名前が呼ばれても、リリアの思考は数秒遅れてしか動かなかった。

 周囲から、ざわめきが広がる。

「まあ、王太子妃殿下候補の魔術、お目にかかれるなんて」

「どの程度の腕前かしらね」

 好奇と期待と、少しの意地悪な色が混ざった視線が、一斉にリリアに刺さった。

(聞いてない。そんな話、誰からも……)

 喉がきゅっと締め付けられる。
 息の仕方を一瞬忘れたみたいに、胸が痛んだ。

 隣の席から、レオンハルトが立ち上がる気配がする。
 彼は微笑みながら、こちらに手を差し出した。

「リリア。少しだけ、皆の期待に応えてくれるかい?」

「……殿下、私は、その……」

 声が震える。
 どうにか拒否しようとしても、言葉にならない。

 司会が、さらに煽るように続けた。

「ご安心ください、リリア様。簡単な魔術で結構です。光を灯す程度の、ほんのささやかなものを」

 たかが光。
 それくらいなら、子どもでもできる。

 ――王宮の人たちは、そう思っている。

「大丈夫だよ」

 耳元に、レオンハルトの声が落ちてくる。

「君の魔術は、“弱い”と言われるほど危険じゃない。暴走の心配はないさ」

 それは、励ましのつもりだったのかもしれない。
 けれど、リリアには、胸にナイフを押し当てられたみたいに感じられた。

(弱いから大丈夫、って……)

 それでも、断るという選択肢は、この場の空気には存在しない。

 リリアは立ち上がり、引きつった笑みを顔に張り付けた。

「……光を、一つだけ。よろしければ」

「おお、拍手を!」

 司会の声に応じて、会場に軽い拍手が広がる。
 その中を、リリアは静かに壇上へと歩いた。

 膝が少し震えていた。

     ◇

 壇上から見下ろす大広間は、普段の何倍も広く感じられた。

 シャンデリアの光。魔光石のつぶつぶした光。
 何十、何百という人の視線。
 その全部が、リリアの一挙手一投足に貼り付いている。

(落ち着いて。いつもの、あの小さな光。大丈夫、何度も練習してる)

 手のひらに、そっと意識を集中させる。

 光の魔術――手のひらの上に、小さな光球を生み出すだけの、初等魔術。
 リリアが王宮で許された、数少ない“安全だとみなされた魔術”だ。

「リリア様、どうぞ」

 司会が一歩下がる。

 リリアは前を向き、ゆっくりと両手を胸の前で組んだ。

 深呼吸。
 魔力の流れをイメージする。
 身体の奥、心臓の少し下のあたりから、温かいものが手のひらに降りてくる感覚。

(大丈夫。私は、これしかできないけど……これくらいなら、失敗したことなんて一度も――)

 その瞬間だった。

 何かが、ひっかかったような感覚があった。

 いつもの、素直な魔力の流れとは違う。
 足元の床から、逆流みたいな冷たい感触が駆け上がってくる。

(……え?)

 考えるより早く、魔力が勝手に膨れあがった。

「――っ!」

 手のひらから、制御不能な光が噴き出す。

 青白い閃光が、会場全体を飲み込んだ。

 シャンデリアの魔光石が一斉に悲鳴を上げるようにきしみ、
 壁に埋め込まれた魔光石が過剰反応を起こして、連鎖するように光を放つ。

 ぶわっと、空気の圧が変わった。
 熱くも冷たくもない、ただ鋭い“力”の波が、会場中を駆け抜ける。

「きゃあっ!」

「まぶしっ……!」

 悲鳴とざわめきが重なる。
 グラスが床に落ちる音。椅子が倒れる音。

 閃光の中で、リリアは立っているのがやっとだった。
 自分の中の魔力が、まるで誰かに掴まれて振り回されているみたいに暴れている。

(なに……これ……私、こんな……出してない……!)

「魔力暴走だ! 全員、魔力遮断障壁を張れ!」

 誰かの怒鳴り声が聞こえた。
 王宮魔導師団の団長、グレゴールのものだ。

 すぐに、別の魔力の波が上書きするように広がっていく。
 透明な壁のような感覚が何重にも張られ、閃光は徐々に収まっていった。

 光が完全に消えたとき、会場中に残ったのは、うっすらとした青い残光と、焦げた匂いだった。

 床には、割れたグラスとこぼれたワイン。
 壁の魔光石のいくつかは、ひびが入って淡く煙を上げている。

 幸い、誰かが大怪我をした様子はない。
 それでも、パニックになりかけた空気は、まだざわざわと揺れていた。

「お、おい、今のは……」

「誰の魔術だ?」

「まさか、あれが――」

 視線が、一斉に壇上へ向く。

 そこには、膝をつきながら、必死に呼吸を整えようとしているリリアの姿があった。

「……違う……私、こんなつもりじゃ……」

 声が震える。
 自分の手のひらは、微かに痺れていた。

 そこへ、誰かの叫び声が、やけにクリアに響いた。

「リリア様の魔術から始まりました! 私、見ていました!」

 その声が、空気に火をつけた。

「やはり……!」

「王太子殿下の婚約者が、魔力暴走……?」

「危険すぎるのでは……」

 ひそひそという音が、耳にまとわりつく。

「待ってください!」

 グレゴールが前に出て、手を上げる。

「まだ断定はできん! 魔力の流れを解析せねば――」

「でも、最初に光ったのは、確かにリリア様の手元でしたわ」

 甘い声が、その言葉を遮った。

 カトリーナだった。
 さっきまで観客席にいたはずの彼女が、いつの間にか前列に出ていた。

 彼女はわざとらしく心配そうな顔を作りながら、しかしよく通る声ではっきりと言う。

「以前から、“魔力の制御が苦手”だと、ご本人もおっしゃっていましたもの。ねえ、リリア様?」

 リリアの胸がぎゅっと掴まれた。

(言った。確かに、言った。
 “私は魔力の制御が得意ではないから、派手な魔法は使えない”って。
 でも、あれは……)

 自虐混じりの冗談として言った言葉。
 それを、こんな形で突きつけられるなんて、想像していなかった。

「わ、私は……確かに、制御は得意じゃないわ。でも、今のは――」

 必死に言い訳を探すように口を開こうとした、そのとき。

「リリア」

 レオンハルトの声が、会場に落ちた。

 彼は壇上に上がり、リリアのそばまで歩いてくる。

 その顔は、普段と同じように整っていて、微笑みも崩れていない。
 けれど、瞳の奥の色が読めない。

「殿下……! あれは、私の魔力じゃ――」

「落ち着いて」

 レオンハルトは静かに言う。

「まだ何も決まっていない。今は、感情的に弁明するよりも、きちんと調査を待つほうが得策だ」

 その言葉は正しい。
 正しいけれど――リリアが欲しかったのは、今この場での“正しさ”ではなかった。

(違うって言ってほしかった。
 “リリアじゃない”って、あなたの口から――)

「殿下。リリア様を、あのままには――」

 グレゴールが何か言いかけたが、その前に、別の男の声が割り込んだ。

「ひとまず、本日の会はここまでといたしましょう」

 王国宰相、オズワルド・カイン。
 灰色の髪をきっちり撫でつけ、冷静な目をした男が、前に出る。

「皆さま、本日はお足元の悪い中……いえ、途中でこのような事態となり、申し訳ありません。
 しかし、ご安心ください。王宮魔導師団が責任を持って原因を究明いたします」

 丁寧な口調で頭を下げながら、その視線はリリアをじっと射抜いていた。

「リリア嬢」

「……はい」

「あなたの魔力が今回の事象と関わっているかどうか、慎重に調査する必要があります。
 つきましては、調査が終わるまでの間、部屋で謹慎していただけますか」

 謹慎――それは、やんわりとした軟禁宣言だ。

「違うんです。私は、あんな魔力の出し方をした覚えはなくて――」

「分かっています。あなたの弁明も、しかるべき場でうかがいましょう」

 オズワルドは微笑んだ。
 その笑みには、慰めも、信頼も、何もなかった。

 ただ、「手続き通りに進めましょう」と言う役人の無機質さだけ。

「殿下も、それでよろしいですね?」

 レオンハルトは一瞬だけ黙り込み、それから小さく頷いた。

「……ああ。国としても、感情ではなく事実に基づいて判断する必要がある」

「殿下……!」

 リリアは彼を見上げる。

 助けを求めるように。
 何か一言、「彼女を信じる」と言ってほしくて。

 けれど彼は、その視線から目をそらした。

「リリア。疲れているだろう。今日はもう、部屋で休みなさい」

 優しげな声音。
 けれど、“信じている”という言葉は、その中にはなかった。

 足元がぐらりと揺れるような感覚。
 リリアは、崩れないように必死に姿勢を保ちながら、小さく頭を下げた。

「……承知しました」

     ◇

 部屋に戻されたリリアの扉は、内側からも外側からも、重く閉ざされた。

 鍵のかかる音が、やけに大きく響く。

「お嬢様!」

 ミーナが駆け寄り、リリアの肩を支える。
 さっきまでなんとか保っていた足の力が、一気に抜けた。

「ミーナ……私、やってないの。あんな魔力の暴走、本当に知らない。
 いつもの光を出そうとしただけで――」

「分かってます。お嬢様がわざとあんなことするわけないです。
 私だって、そばで見てて……なんか、変な気配、しました」

「変な……?」

「お嬢様の魔力の流れとは別に、床のほうから、なんというか……冷たいものが」

 やっぱり。
 あの瞬間、確かに感じた――足元からの逆流。

 誰かが仕掛けた、としか思えない。
 けれど今、それを言っても、きっと信じてもらえない。

「ミーナ。……外の様子は?」

「皆バタバタしてます。“暴走”だの“原因究明”だの。
 宰相様の命令で、しばらくお嬢様の部屋には私以外入れないようにって」

「それって、優しさじゃなくて、監視よね」

「ですね」

 ミーナは苦い顔をした。

「でも、私がいます。絶対に一人にはしませんから」

「……ありがとう」

 本当は、一人になりたい気持ちもあった。
 誰の視線も、声も、何もない場所に逃げ込みたい。
 布団をかぶって、全部なかったことにして眠ってしまいたい。

 でも、それをしたところで、現実は消えない。

「少し、休んだほうがいいです」

「ええ……」

 ベッドに腰を下ろし、靴を脱ぐ。
 ドレスのまま横になると、背中に沈み込む柔らかさがやけに冷たく感じられた。

「ミーナ」

「はい?」

「もし、私が……本当に、“ここにいてはいけない人間”なんだとしたら、どうしよう」

「そんなわけないじゃないですか」

 ミーナは即答した。

「ここにいていいかどうかを決めるのは、お嬢様自身です。
 王宮とか、宰相とか、そんなの関係ないです」

「でも……」

「でももヘチマもないです。……って言いたいですけど」

 言い淀み、ミーナは悔しそうに唇を噛んだ。

「現実問題として、権力はめちゃくちゃ関係してくるんですよね……くそ……」

「ミーナ、言葉」

「今くらい許してください」

 ふたりで、かすかに笑う。
 笑いながら、リリアの目にはじわりと涙がにじんだ。

「ミーナ」

「なんです?」

「……もし、私が本当に、ここからいなくならなきゃいけなくなったら、そのときは――」

「そのときはそのときです」

 ミーナは遮った。

「まだ起きてもいない最悪を、今から想像して体力削るのやめましょう。
 起きたら、そのときに全力で抗いましょう。ね?」

「……うん」

 返事をしながらも、不安は消えない。
 それでも、ミーナの言葉は確かに、今にも崩れそうな心をつなぎ止めてくれていた。

「じゃあ、外の様子をもう少し見てきます。何かあったらすぐ戻ってきますから」

「気をつけて」

 ミーナが部屋を出て行き、再び扉が閉まる。

 今度は鍵はかからなかった。
 けれど、見えない鎖が部屋の周りに巻きついている気がした。

     ◇

 夜になっても、眠気は来なかった。

 ベッドに横になったり、起き上がって部屋の中を歩き回ったり、窓の外を眺めたり。
 落ち着かない心が、身体までソワソワとさせる。

 いつの間にか、外はすっかり暗くなっていた。
 王宮の庭には魔術灯が点々と灯り、遠くで夜番の兵の足音が微かに響いている。

 扉の向こうから、かすかな声が聞こえたのは、そんなときだった。

「……聞いた? 今日の暴走」

「聞いた聞いた。こわ~い」

 侍女たちの、気の抜けた声。
 休憩中なのか、扉の近くで立ち話をしているらしい。

 リリアは思わず、息を潜める。

「やっぱりリリア様が原因なんでしょ?」

「みんなそう言ってるよ。“王太子妃になるには不安が大きすぎる”って」

「でもさ、替わりはいるんでしょ? 前から有力候補って噂の……ほら、北方の伯爵家の」

「ああ、あの方ね。魔力も血統も完璧~ってやつ。
 “最初からそっちにしとけばよかったのに”って皆言ってる」

「かわいそうだけどさ、王太子殿下も大変だよね。
 婚約者が暴走持ちなんて、イメージ最悪じゃない?」

「ねー。あたしだったら速攻で婚約解消してるわ」

 笑い声が、夜の廊下に軽く響く。

 リリアは、ベッドの縁をぎゅっと掴んだ。
 指先が白くなる。

(分かってる。噂話だって分かってる。
 でも……)

 胸の中に、針を一つずつ刺されていくみたいな痛み。
 “替えの婚約者候補”“最初からそっちにしとけばよかった”。
 一言ごとに、自分の存在が薄くなっていくようだった。

「……殿下は、どう思ってるのかしらね」

「そりゃあ……“国のために最善を選ぶ”ってタイプでしょ? 顔見れば分かる」

「確かに~」

 最後にまた笑い声がして、足音が遠ざかっていく。

 扉の向こうの気配が完全に消えるまで、リリアは動けなかった。

「…………」

 胸が痛いのか、頭が痛いのか、もう分からない。

 枕に顔を押しつけても、涙は出てこなかった。
 悲しいというより、ただただ、空っぽに近かった。

(“替え”がいる。
 私じゃなくてもいい。
 “王太子妃”という枠に、誰かがはまっていればいいだけ――)

 頭の中で、そんな言葉がぐるぐると回る。

 自分が特別でないことなんて、とっくに知っていた。
 公爵家の娘であること。婚約者が王太子であること。
 自分を形作っている要素は、ほとんど全部“外側”のものだ。

 それでも、心のどこかで信じたかった。

 ――レオンハルトにとっての私は、“枠”ではなく、“リリア”なんだと。

 その、薄氷みたいな願いが、今、音を立ててひび割れていく。

 耐えきれなくなって、リリアは立ち上がった。

 ふらふらとした足取りで、窓辺に向かう。
 夜風を少し入れたくて、窓の鍵を外し、少しだけ開けた。

 冷たい空気が、肌に触れる。

 庭の魔術灯が、点々と小さな光の島を作っていた。
 その間を、兵士たちの影がゆっくりと歩いていく。

 ふと――庭の一角で、違和感が光った。

「……え?」

 目を凝らす。

 噴水のそば。普段は夜に人が近づかない場所のはずだ。
 そこに、うっすらと浮かび上がるような光の模様が見える。

 魔光石の光とは違う。
 もっと冷たくて、青白くて、幾何学的な――魔術陣だ。

 大きさまでは分からない。
 けれど、あの模様の一部には、昼間感じた逆流のような、嫌な気配があった。

(なに、あれ……)

 目を凝らした瞬間、
 その光はふっと消えた。

 まるで、見られていることに気づいて、姿を隠したみたいに。

「気のせい……じゃない、よね」

 胸の奥で、寒気が走る。

 青白い光。暴走した魔力。
 噴水のそばに浮かんだ魔術陣。

 点と点が、まだ線にはなっていない。
 でも、直感だけが、しつこく警鐘を鳴らしていた。

(私、本当に……ただの失敗で、冤罪をかけられているだけじゃない。
 もっと、嫌な意図が――)

 そこまで考えて、リリアは首を振った。

 確証もない。
 今、ここで騒いでも、誰も信じてくれない。

「……もし、あれが本当に何かの仕掛けだったとしても」

 唇を噛んで、小さく呟く。

「今の私は、“魔力暴走を起こした王太子の婚約者”で、“謹慎中の容疑者”なのよね」

 悔しさが、喉の奥に詰まる。
 でも、その悔しささえ、まだちゃんと燃え上がれずにいる。

 ただ、じわじわと心が削られていく感覚だけが、確かだった。

 夜風がカーテンを揺らす。

 青白い閃光の残像は、まだまぶたの裏に貼り付いたまま――
 リリアの長い夜は、そこから始まった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

王女様は聖女様?おてんば姫の大冒険~ペットのドラゴンが迷子なので冒険者になって探しに行きます!~

しましまにゃんこ
ファンタジー
アリシア王国の第3王女ティアラ姫には誰にも言えない秘密があった。 それは自分が全属性の魔力を持ち、最強のチート能力を持っていた「建国の賢者アリシア」の生まれ変わりであること! 8才の誕生日を境に前世の記憶を取り戻したものの、500年後に転生したことを知って慌てる。なぜなら死の直前、パートナーのドラゴンに必ず生まれ変わって会いにいくと約束したから。 どこにいてもきっとわかる!と豪語したものの、肝心のドラゴンの気配を感じることができない。全属性の魔力は受け継いだものの、かつての力に比べて圧倒的に弱くなっていたのだ! 「500年……長い。いや、でも、ドラゴンだし。きっと生きてる、よね?待ってて。約束通りきっと会いにいくから!」  かつての力を取り戻しつつ、チートな魔法で大活躍!愛する家族と優しい婚約者候補、可愛い獣人たちに囲まれた穏やかで平和な日々。 しかし、かつての母国が各国に向けて宣戦布告したことにより、少しずつ世界の平和が脅かされていく。 「今度こそ、私が世界を救って見せる!」 失われたドラゴンと世界の破滅を防ぐため、ティアラ姫の冒険の旅が今、始まる!   剣と魔法が織りなすファンタジーの世界で、アリシア王国第3王女として生まれ変わったかつての賢者が巻き起こす、愛と成長と冒険の物語です。 イケメン王子たちとの甘い恋の行方もお見逃しなく。 小説家になろう、カクヨムさま他サイトでも投稿しています。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!

花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】 《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》  天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。  キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。  一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。  キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。  辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。  辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。  国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。  リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。 ※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作    

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

• 『社交界の華は、影に咲く毒。〜私を捨てた世界、すべてお返しいたします〜』

ヨォコ
ファンタジー
「その黄金の瞳……なんて気持ち悪いの。我が家に化け物は必要ないわ」 名門伯爵家の娘として生まれたエレーナ。しかし、彼女に宿った未知の能力を恐れた継母イザベラは、実父の留守中を狙い、幼い彼女を雪の降る町に捨て去った。 死を覚悟した彼女を拾ったのは、帝国の裏社会を支配する「皇帝の弟」ヴィンセント公爵。 彼はエレーナの力を「至宝」と呼び、彼女を公爵家の実の娘として迎え入れた。 それから数年。 エレーナは、二人の過保護な兄と、五人の精鋭部下に囲まれ、美しくも最強の工作員へと成長していた。 すべてを暴く『黄金の瞳』、すべてを操る『魅了』、そして伝説の師匠たちから授かった至高の淑女教育を武器に。 一方、継母イザベラは父を捨て、さらなる権力を手に入れるため、悪名高い侯爵の妻として社交界の頂点に君臨していた。 「お久しぶりです、お母様。……化け物と呼ばれた私からの、お返しを受け取ってくださいね」 捨てられた少女による、優雅で残酷な復讐劇。 今、その幕が上がる。

処理中です...