泣き虫王女、異世界で推し騎士に拾われて人生チート化しました

タマ マコト

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第10話:“異世界チート姫”の誕生

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朝のメルヴァは、水脈が喉を鳴らす音から始まった。
中央区の井戸の水位が昨夜から急落している――そんな噂が、露店の天幕を伝って走る。
魔導炉の心核が疲弊し、街路灯の脈がときどき途切れる。噴水は背伸びに失敗した子どもみたいに、途中で水を落とした。

「供給が不安定だ」
ノアが塔の陰に立って街路灯の基台を見上げる。灰色の瞳に映る光が、規則を欠いて点滅するのを確かめて、彼は短く息を吐いた。
「このままだと、夜の見張りが薄くなる。危険だ」

「原因は?」
「各家の小型炉の過負荷。中央炉の補助に回しているはずが、逆流している」
「逆流……システム全体が疲れているのね」

私は塔の根本、露出した配管の分配盤にしゃがみ込んだ。
心核の鼓動はある。けれど、拍がばらついている。外輪の流体に空気が入り、火素の変換層に焦げ跡が増えている――そんな“音”が、指先に伝わる。
背後で、街の人々の声が重なる。水は? 灯りは? 夜を越せる?
不安の周波数は、人の群れを一瞬で弱くする。

「ノア」
「ん」
「いったん止血して、そのあと、循環器ごと呼吸の仕方を変える」
「できるか」
「できるまでやる」

私は手帳を開き、昨日までに写した配管図に矢印を走らせる。
頭の中の回路と、ゲームで見た“エネルギーの嘘”が、ここでは“現実の真似”に変わる。
――永遠はない。でも、循環は作れる。
それが私の世界で学んだ、唯一の物理法則だった。

「街全体の魔力、いまは“使って捨てる”設計。これを、使ったあと“戻す”にする。戻す先は……」
私は視線を上げて、通りを見渡した。
人。車輪。風。鐘のひも。噴水。暖を取る炉。焼き菓子の煙突。
「――全部、リサイクルする」

「全部は無理だ」ノアが静かに言う。「だが、半分でも戻せれば夜は持つ」
「半分でいい。半分から始める」

私は露店の親父に声をかけた。
「銅板、古いの、ありますか。できれば薄いの」
「古銅なら裏で眠ってるぜ、姉ちゃん。冷やかしじゃねえよな?」
「冷やかしにしては、街の喉が渇きすぎてる」
親父は肩をすくめ、積まれた荷の下からくすんだ銅板を数枚引っ張り出した。
私は代金を置き、鍛冶屋には針金とリベットを注文し、織物屋からは麻布の切れ端を分けてもらう。
ノアは邪魔にならない距離で立ち、人の流れの死角を埋めるように配置につく。
ティグは布袋の中で尻尾をふにゃふにゃ動かしながら、時々「ここ危ない」と言わんばかりに私の手をつつく。

「何をする」
「“循環共鳴器(リゾネータ)”を作る」
言葉にしてみると、少しだけ笑ってしまう。現代の用語とこの世界の技術が喉の奥でしゅわしゅわ混ざって、甘い泡みたいに膨らむ。
「街の“動き”を拾う装置。踏む、押す、回る、揺れる――全部小さな圧と熱に変えて、火素の層に戻してやるの。人が歩けば灯りが点く。鐘が鳴れば噴水が息をする。息をするたび、街が生き返る」

「……分かるようで、分からない」
「分かればいい。分からないままでも、動けばもっといい」
「動いてから学ぶ、か」
「そう。生活のやり方」

私は銅板を丸め、薄い円盤をいくつも作った。
麻布で挟み、樹脂で固め、リベットで固定。
円盤と円盤の間に薄い苔を挟んで、圧の逃げ道――“苔ポケット”を作る。
「苔、また?」
「苔、最高。湿度を食べる。熱の機嫌をとる。かわいい」
ノアは短く笑ったように見えた。
「苔にかわいいと言うのはお前くらいだ」
「苔はかわいいよ。ほら」

私は最初の一枚を街路灯の基台に取り付け、足でそっと踏んだ。
円盤がわずかに沈み、布が息を吸い、苔がそれを受け止め、金属が震える。
その震えは導線を伝って火素層の前に届き、魔導炉の喉が――ほんの一拍だけ、深く鳴った。
街路灯の光が、ひとつ分、安定する。

「いける」
私は目を上げた。
「これを、要所に、何十枚も」

午前の残りと午後の全部を使って、私は“共鳴器”を繋いだ。
往来の石畳に、階段の踊り場に、井戸の踏み車に、屋台の押し棒に。
通る人の動きが、いつもの生活のリズムのまま、街の“心拍”に重なるように。
ノアは必要な部材を運び、危険な手を遠ざけ、時に私の指の関節の角度を直してくれた。
「そこは力を入れすぎる。圧は逃がせ」
「うん」
「指は踊れ。押すな、歌え」
「うん」

取り付けは終わった。
日が傾き、街路灯の光は橙から白に移るときの緊張に震え始める。
私は制御盤の前に立ち、深く息を吸った。
吸って、止めて、吐く。
「――点灯」

合図と同時に、鐘が一つ、時間を告げる。
路地から子どもが走り出る。噴水へ向かう彼らの足が石を打つたびに、薄い震えが網のように広がる。
屋台の親父が樽を押す。車輪が鳴る。押す力が円盤を沈ませ、苔が頷き、火素が点火する。
甘い匂いの風がすれ違い、肩と肩がぶつかり、それがまた小さな震えを生む。
――灯が、ついていく。
一本、また一本。
途切れがちだった街路灯が、まるで呼吸を思い出したみたいに順に点り、影の輪郭をやわらげて、夜の輪郭を整える。

「やった……!」

誰より先に私が叫んだ。
胸の奥で小太鼓が跳ねる。涙の予備軍が目の縁で列を作る。
「泣くな」と言われる前に、誰かが先に泣いた。
噴水の縁で、洗濯籠を抱えた女の人が口元を手で覆い、肩で泣いていた。
屋台の親父が空に向けて帽子を振る。
子どもたちが走り回り、「見て見て!」と足踏みをする。足踏みの分だけ、灯りは強くなる。
笑い声。歓声。拍手。
音が重なるたび、共鳴器が応える。街の呼吸は、もう乱れない。

「姉ちゃん!」
さっきの親父が、涙と笑いの混ざった顔で叫ぶ。
「やってくれたなあ! 夜が帰ってきた!」
「これからも点けっぱなしでいけるように、見回りは必要だけど……うん、帰ってきた」
「姫さんだ、姫さん!」
誰かが言って、別の誰かが拾う。
「奇跡の姫だ!」
「灯りの姫だ!」
「泣き虫姫!」
最後の声で私は思わず笑った。
「それ、褒め言葉でいいのかな」
「褒め言葉だ」ノアが短く言う。「灯りを戻した。泣いてもいい」

私は頷き、今度は少しだけ泣いた。
喜びの涙。守っている涙。
ティグが足元で尻尾をぽふぽふさせ、目尻を布で押さえる私の手の甲を鼻でつつく。

「姫様!」
いつの間にか人だかりの前に、写本院の書記が立っていた。外套の袖をまくり、声を張る。
「この者は、写本院照合の記録にある“哭星の雫”の適合者! 灯りの回復は彼女の功績による! 皆、彼女の設計に従い、器具を大切に扱え!」
歓声はさらに大きくなった。
私は一歩、半歩、後ずさる。背中にノアの鎧が触れ、そこで止まる。
――守られている。
人の熱は甘い。けれど、甘さは虫を呼ぶ。

「ノア」
「分かっている」

雑踏の外れで、違う質の視線が光った。
喧噪に混ざらない、静かな光。
袖口に銀糸の針を刺繍した外套――教団の者が、遠巻きにこちらを見ている。
「奇跡の姫」
「神の血を持つ少女」
そんな囁きが、風の縁に乗って運ばれていく。

「記録が、出回る」
ノアの声は低い。「照合盤の“部分保存”だけでは足りなかった。目撃談が、物語を作る」
「物語、好きだけど、今は怖い」
「怖いのは良い。怖い四、嬉しい六で進め」

私は深く息を吸った。
歓声の輪が少しずつ広がり、私たちは自然と中心から縁へ押し出される。
それでいい。中心に長くいてはいけない。灯りは距離で効く。

「姫さん!」
さっきの親父が、包みを差し出してきた。
「蜂蜜菓子だ! “灯りの層”みたいに何層にも重ねてある。礼だ、受け取ってくれ!」
「ありがとう」
私は包みを受け取り、ノアの袖を引いた。
「食べる?」
「舌が痛まない程度なら」
「痛まない。たぶん」

私たちは人波の端に座り、包みを開け、薄い生地の層に歯を立てた。
しゃく、という軽い音。甘さが舌に広がる。
ノアは目を細め、ほんの少しだけ口角を上げた。
それだけで、今日が終わってもいいと思えるくらいだった。
でも、今日は終わらない。終わらせない。

「共鳴器は、明日の朝一番に再調整する。負荷が集中した場所があるはず」
「俺が夜を見張る。お前は休め」
「休む。泣いたから、たぶん少し眠れる」
「浅くてもいい。起こす」

宿へ戻る道の途中、私はふと立ち止まった。
街路灯の基台に触れる。熱は穏やか、呼吸は深い。
「生きてる」
呟くと、背中でノアが言った。
「灯りは“おかえり”の実体だ。帰る場所が見える」
「うん。――ありがとう、ノア」
「礼は、明日の昼も言え」



夜、屋根の上でノアは月を見ていた。
私は毛布にくるまり、蜂蜜の手のひらの温度を思い出しながら、今日の出来事を手帳に書く。
共鳴器の配置。苔ポケットの位置。人の流れの“歌”。
書き終えて顔を上げると、屋根の縁に黒い影が座っていた。
「眠れないの?」
「眠る。浅く」
「うん」

私は屋根に上り、彼の隣に座った。
月は薄く、街の灯りは濃い。
遠くで鐘が二度鳴った。

「ノア」
「なんだ」
「今日、少しだけ、怖かった」
「知っている」
「でも、嬉しかったの方が勝った」
「比率は」
「怖い三、嬉しい七。さっきより上方修正」
「適切だ」

私は膝を抱え、月に向かって小さく舌を出した。
「“奇跡の姫”だって。似合う?」
「似合わない」
「即答」
「奇跡は一度だ。お前は“続ける”。それは奇跡ではない」
「続ける姫?」
「灯りの姫」
「泣き虫姫」
「それは誇れ」

私は笑い、首を小さく振った。
その時、屋根の下で誰かの影が動く音。
気配は薄い。けれど、意図は濃い。
ノアの指が屋根瓦を一度、軽く叩く。合図。
私は息を潜め、塀の上の鈴が鳴らないことを願った。

「神の血……」
遠くから、噂の尾が伸びる。
「哭星の雫を持つ少女」
「導の針を動かす鍵」
「手に入れろ」

風向きが変わる。
ノアが立ち上がる。
「来る」
「うん」

私の胸の琥珀は、弱い光で答えた。
灯りは戻った。街は息をする。
だから、守る番が来る。
“異世界チート姫”と呼ばれた夜の、翌朝から。

私は毛布を握りしめ、ゆっくりと立ち上がった。
怖いが三、嬉しいが七。
泣くのは、守るために。
笑うのは、進むために。

月が雲に隠れ、街の灯りがそれを補った。
屋根の縁で、ノアが振り返る。灰色の瞳に、昨日より少しだけ、熱がある。
甘さで守った記憶。怒りで守った今日。
次は、私の番だ。

「ただいま」
小さく、練習。
「おかえり」
低く、応答。

短い合言葉は、夜のふちを縫う糸になった。
“奇跡”は噂に任せる。私は“続ける”。
灯りを、呼吸を、約束を。
そして、どんな名で呼ばれても、私の本名は――リシェル。
泣き虫で、推しの騎士に拾われて、いま、街を灯した姫。
ここからは、狙われる側の歩き方を、覚えるだけだ。

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