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第9話「ローズマリーの嫉妬と、歪んだ契約」
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ローズマリー・ローズの部屋は、いつも甘い香りで満ちている。
バラを模した香油。
上質な茶葉に混ぜたドライフルーツ。
窓辺に飾られた花瓶の生花。
けれど今夜だけは、いつもと違う匂いが混ざっていた。
――薬草と、薬品の匂い。
「……ここまでして、何をやろうとしているのかしらね、私」
呟きながらも、手は止まらなかった。
机の上には、広げられたノートが何冊も重ねて置かれている。
その中の一冊――ページの端が少しすり切れた、地味なノート。
ミント・フェンネルが、ローズ家で使っていた薬草メモを、こっそり写し取ったものだ。
草の名前。
効能。
組み合わせたときの反応。
“おばあちゃん曰く”と余白につけられた、丸っこい字の注意書き。
それを、ローズマリーは綺麗な字で、ひとつ残らず写し替えていた。
「……あの子の字って、本当に、田舎臭いわよね」
ページを指でなぞりながら、毒のような囁きが漏れる。
「でも、書いてある内容は――」
悔しいことに、筋が通っていた。
ただの“効能の暗記”ではない。
“体質の違いで、結果が変わった”という記録。
“この組み合わせは強すぎるから、子どもには使わない”といった、具体的な線引き。
そして、その脇に小さく書かれたメモ。
『患者さんは、お金も時間も限られてるから、効果と負担のバランスをいつも考えること』
「“患者さん”ね」
ローズマリーは、鼻で笑った。
「使用人の分際で、“患者”なんて。
主に仕える立場なら、生意気に自分で判断せず、主の意向に従えばいいのよ」
そう言葉にすると、少しだけ胸のざわめきが収まる。
……でも、ノートの中身は、嘘をついていなかった。
何度も試したのだ。
ミントの配合をもとに、ローズマリーなりに香りや見た目を整えた薬を、友人たちに“試作品”として飲ませてみたことがある。
効果は――確かに、出ていた。
「やっぱり、あの子は“素材”としては優秀だったのよ」
唇が歪む。
「素材は、優秀な者が手に入れて、加工して、表に出してあげるもの。
田舎の小屋なんかで、好き勝手に使っていいものじゃないわ」
だからこそ、今こうして自分の机の上で、ミントのメモは“ローズマリーの仕上げ”を待たされている。
ノートの横には、もう一本の細いノートが開かれていた。
そこには、クローブがささやいた“禁忌”の名が記されている。
『夜哭百合――ごく微量のエキス。
興奮・高揚、強い“覚醒感”を与える。
長期使用で内臓と血液を蝕む。
単体では毒。配合次第で、“すぐには気づかれない毒”』
「“すぐには気づかれない”」
その言葉を何度も、何度もなぞる。
クローブから渡された小さな瓶が、机の端で妖しく光っていた。
暗い紫色の液体が、蓋の内側に薄く張り付いている。
瓶を持ち上げるだけで、かすかな金属臭と、甘すぎる香りが鼻腔をくすぐった。
「殿下のための“特別な強壮薬”」
ローズマリーは、自分に言い聞かせるように口に出す。
「強壮薬。
王太子殿下の体調を支え、疲労をごまかし、日々の激務をこなしていただくための……“特別な薬”」
言葉だけなら、正しい。
問題は、その“特別”の中身だ。
夜哭百合。
禁じられた毒草のエキス。
それを、“ほんの少しだけ”混ぜる。
「……ねぇ、ミント」
ふいに、呟いていた。
「あなたなら、どうするのかしら」
ミントなら――きっと、こんなものには手を出さない。
“使わない”と決めるだろう。
だからこそ、ミントは田舎の小屋で、村人のために薬を作る生活を選んだ。
――王都ではなく。
「でも、私は違う」
ローズマリーは、瓶の蓋を静かに開けた。
細いガラス棒で、夜哭百合のエキスをほんの一滴すくう。
空気に触れた液体が、光を受けてわずかに黒みを帯びる。
それを、自分が調合した強壮薬のベースに、そっと落とす。
瞬間、ふわりと立ち上る香りが少し変化した。
もともとは清涼感のある香りだった。
そこに、ごく薄く、甘い、ねっとりとした匂いが混ざる。
「これが、“私だけが作れる薬”」
瞳が、ぞくりと震えた。
ミントのメモを土台にして。
ローズマリーの感性で整えた香りと見た目を足して。
そこに、クローブの用意した“禁忌のスパイス”をひとつまみ。
完璧なレシピだと、心のどこかが囁く。
「これは毒じゃないわ。“殿下のための薬”よ」
自分に言い聞かせるように混ぜ続ける。
「だって、殿下はこれを飲んだら、きっと楽になる。
“よく効く薬だ”って褒めてくださる。
仕事がこなせて、周囲も安心する。
それで――その先のことは、“激務の結果”として片付く」
口の中に、“激務”という言葉を転がしてみる。
(みんな、そう言うのよ。“激務”“無理をしすぎた”って)
なら、それでいいじゃない。
私だけが“真実”を知っていれば。
(私だけが、“本当に殿下を動かしていた薬”を知っている)
それは、途方もない優越感だった。
「……ふふ」
ローズマリーの唇が、自然に笑みの形になっていく。
「私がミントの上に立つ方法なんて、最初から決まっていたのね。
あの子が“田舎の奇跡薬師”と呼ばれている間に、“王都の運命を握る薬師”になればいい」
彼女の中で、何かが音を立てて折れた。
それが“倫理”なのか、“正常な恐怖心”なのか、自分でももう確かめない。
「契約しましょう、殿下」
誰もいない部屋の中で、ローズマリーはそっと言った。
「あなたの命と引き換えに、私とクローブ殿下の未来を」
◇
「兄上のための特別な薬?」
数日後。
クローブは、王太子セージの執務室を訪ねて、その箱を差し出した。
白い木箱には、ローズ家の紋章が刻まれている。
中には、細長い瓶が数本、丁寧に並べられていた。
「ローズ家の令嬢ローズマリーが、兄上のために調合したそうです。
“激務でお疲れの殿下のお役に立てれば”と」
「……ローズ家の?」
セージが少しだけ驚いた顔をする。
「夜会の件では迷惑をかけた、と。
“その埋め合わせになれば”とも言っていました」
「……真面目だね」
セージは、少しだけ寂しそうに笑った。
「一度失敗したからといって、そこまで気に病む必要はないのに」
「兄上の周りには、そう言ってくれる人ばかりだからでしょう」
クローブは、柔らかく肩をすくめる。
「彼女は、彼女なりに“自分の価値”を証明したいのです」
「……そうか」
セージは瓶を一本手に取り、光に透かしてみた。
澄んだ琥珀色。
底には、ほんの少しだけ銀色の粉が沈んでいる。
「綺麗な薬だ」
「見た目も香りも、貴族好みに調整されているそうですよ。
もちろん、宮廷薬師長にも事前に成分表を提出してあります。
“問題はないだろう”とのことでした」
「ホップがそう言うなら、ひとまず安心かな」
セージは、瓶の蓋を慎重に開けた。
ふわりと広がる香りは、確かに心地いい。
柑橘系のさわやかさと、ハーブの清涼感。
その奥に、ごく薄く、甘い香りが混じっている。
(――あ)
サフランは、その場にいながら僅かに眉をひそめた。
(今の……)
鼻をかすめた香りに、説明のつかない違和感を覚える。
だが、それは一瞬のことだった。
次の瞬間には、強壮剤特有の爽やかな匂いにかき消されている。
「いただこう」
セージは、躊躇なく一口含んだ。
舌の上に広がるのは、確かに“よくできた薬”の味だった。
苦味と甘味のバランスが取れていて、喉を通った後に、すっと呼吸が楽になる。
「……悪くない。いや、むしろ飲みやすいね」
セージの頬に、ほんの少しだけ赤みが戻る。
瞳の焦点がはっきりして、肩から余分な力が抜けたように見えた。
「“効いている”ようですね」
クローブは、にこりと微笑む。
「ローズ家に、礼を伝えておきましょう」
「そうだね。
ローズマリー嬢に、直接言いに行こう」
「それはきっと、彼女も喜ぶでしょう」
――そう言いつつ、クローブの心の中では別の言葉が渦巻いていた。
(“効いている”とも)
(“蝕み始めている”とも言えるが)
夜哭百合のエキスは、ほんの微量。
短期間では、誰もその毒性に気づかない。
むしろ、最初の数日は、「今までの薬より元気になる」と感じるだろう。
内臓が悲鳴を上げ始める頃には、すべては“蓄積した疲労”だと判断される。
(兄上が弱れば弱るほど)
クローブは、外側の穏やかな笑みを崩さないまま、内側で冷笑する。
(王家も、貴族も、民も、“次の王”を意識し始める)
“兄の影”だった男に、視線が集まり始める。
(そして、その隣には、“兄のために薬を尽くした令嬢薬師”が立つ)
ローズマリー。
嫉妬に歪みながらも、才能と野心を持った女。
(僕と彼女は、表向きは“善良な弟と献身的な薬師”。
裏側では、“王の死と誕生を握る契約者同士”)
それは、誰にも知られない歪んだ契約。
契約書も、魔法陣もない。
ただ、交わした視線と、共有した秘密だけが、それを確かにしている。
『夜哭百合のエキス……本当に、お持ちなのですか?』
『これは、僕には扱えない。薬師である君にしか扱えない代物だ』
あのときのローズマリーの瞳の色を、クローブははっきり覚えていた。
恐怖。
興奮。
渇望。
それらが混ざり合って、夜の湖面のように妖しく光っていたのを。
(あの瞳は、もう戻らないだろう)
戻すつもりもない。
「では、私はこれで失礼します、兄上」
「ああ、ありがとう。
この薬、しばらく続けてみるよ」
「ええ。そうなさってください」
クローブは、穏やかな笑みをたたえたまま部屋を出た。
扉が閉まる瞬間、視界の端に映った兄の横顔は、確かに少し血色を取り戻しているように見えた。
――それは、“毒が効き始めたサイン”でもあるということを、彼だけが知っている。
◇
セージの体調は、“表向き”には上向いていった。
「殿下、最近顔色がよろしいですね」
「ええ。新しい強壮薬がよく効いているようで」
「さすがローズ家、というところでしょうか」
そんな会話が、王城のあちこちで交わされる。
セージ自身も、確かに“楽になった”と感じていた。
朝の倦怠感は軽くなり、立ちくらみも減った。
仕事中に頭がぼんやりすることも少なくなった。
夜になると微熱が出ることは変わらないが、その代わり、熱に浮かされながらも“妙な冴え”を感じることが増えた。
「サフラン」
ある夜、セージはベッドの上で書類に目を通しながら呟いた。
「例の薬、悪くないよ。
強壮剤に“何か一工夫”してある感じがする」
「“何か”とは?」
「わからない。
ただ、身体だけじゃなくて、“気力”の方にも効いてる気がする」
セージの瞳は、どこか光を帯びていた。
熱のせいだけではない。
妙な高揚感。
やる気。
それらが、疲労と一緒に胸の中で渦巻いている。
(……嫌なバランスだ)
サフランは、心の中で呟いた。
「殿下。薬に頼りすぎないでください。
休めるときは、必ず休んでください」
「わかってるよ。
でも、今は休んでいる暇がない」
セージは、いつも通りの優しい笑みを浮かべる。
「それに、これで少しでも長く動けるなら、その間にできることをやっておきたいんだ。
“いつどうなるかわからない”って状態の方が、よほど怖いからね」
その“いつどうなるかわからない”状態を、加速させている薬を飲みながら。
(やはり、何かがおかしい)
サフランの中の違和感は、日に日に大きくなっていた。
脈は、相変わらず妙な揺らぎを見せる。
血の色も、時折“疲れ”だけでは説明できない鈍さを帯びる。
しかし、検査をしても、決定的な“毒”の反応は出ない。
夜哭百合――という単語が、サフランの頭の隅にかすめた瞬間もあった。
だが、禁忌の毒草は、王家の厳重な管理下にあるはずだ。
表向きは、“もうこの世に存在しない”ことになっている。
(……それでも)
ミントの言葉が、またよみがえる。
『“おかしい”って感覚は、大事にした方がいいと思ってます』
(おかしいものは、おかしい)
その感覚だけを頼りに、サフランは水面下で動き始めることになる――が、それはまだ少し先の話だ。
◇
一方その頃、王都の外――田舎の小さな村では。
「この前ね、いとこの子が王都で変な病気もらってきたんだけどさ」
「“王都の薬じゃ全然よくならなくて”、ってやつ?」
「そうそう、それ。
で、“田舎に異様に腕のいい薬師がいる”って聞いて、半信半疑で連れてったらさ――」
「治っちゃったの?」
「それがね、“完全に”じゃないけど、“生活ができるくらいには”って」
「なにそれ、すご」
グリーンノートの前の道端で、村人たちが立ち話をしている。
その話題の中心にいるのは、いつものように、店の扉を開けたり閉めたりしているミント・フェンネルだ。
「ミントちゃーん、また変な噂が増えてるわよ」
デイジーが、半ば楽しそうに店の中から顔を出す。
「“王都の薬が効かない病でも、あそこなら治るらしい”だってさ」
「やめてください、本当にやめてください、その言い方!」
ミントは、両手で頭を抱えた。
「“らしい”って、どの“らしい”ですか!? 私そんなすごいことしてないですよ!?
“生活できるくらいには”って、すごく現実的なラインですからね!?」
「でも、“生活できるくらいには”って、王都の薬じゃたどり着けなかったラインなんでしょ?」
「ぐ……」
言い返せない。
「いいじゃないの。“奇跡”なんて言葉は、勝手に一人歩きさせておけば。
ミントちゃんは、今まで通り“話を聞いて、薬を合わせて”あげればいいのよ」
「……はい」
そう言われると、少しだけ肩の力が抜ける。
田舎の小さな薬草店。
村人たちの笑い声と、ハーブの香り。
――この場所が、やがて王都と王家を巻き込む大騒ぎの“鍵”になることを、
ミントはまだ知らない。
王都では、禁忌の毒が静かに溶かされ、
田舎では、“人に合わせた薬”が静かに人を救っている。
ふたつの“薬”の線が、まだ遠く離れたまま、ゆっくりと――しかし確実に、互いに近づいていくのだった。
バラを模した香油。
上質な茶葉に混ぜたドライフルーツ。
窓辺に飾られた花瓶の生花。
けれど今夜だけは、いつもと違う匂いが混ざっていた。
――薬草と、薬品の匂い。
「……ここまでして、何をやろうとしているのかしらね、私」
呟きながらも、手は止まらなかった。
机の上には、広げられたノートが何冊も重ねて置かれている。
その中の一冊――ページの端が少しすり切れた、地味なノート。
ミント・フェンネルが、ローズ家で使っていた薬草メモを、こっそり写し取ったものだ。
草の名前。
効能。
組み合わせたときの反応。
“おばあちゃん曰く”と余白につけられた、丸っこい字の注意書き。
それを、ローズマリーは綺麗な字で、ひとつ残らず写し替えていた。
「……あの子の字って、本当に、田舎臭いわよね」
ページを指でなぞりながら、毒のような囁きが漏れる。
「でも、書いてある内容は――」
悔しいことに、筋が通っていた。
ただの“効能の暗記”ではない。
“体質の違いで、結果が変わった”という記録。
“この組み合わせは強すぎるから、子どもには使わない”といった、具体的な線引き。
そして、その脇に小さく書かれたメモ。
『患者さんは、お金も時間も限られてるから、効果と負担のバランスをいつも考えること』
「“患者さん”ね」
ローズマリーは、鼻で笑った。
「使用人の分際で、“患者”なんて。
主に仕える立場なら、生意気に自分で判断せず、主の意向に従えばいいのよ」
そう言葉にすると、少しだけ胸のざわめきが収まる。
……でも、ノートの中身は、嘘をついていなかった。
何度も試したのだ。
ミントの配合をもとに、ローズマリーなりに香りや見た目を整えた薬を、友人たちに“試作品”として飲ませてみたことがある。
効果は――確かに、出ていた。
「やっぱり、あの子は“素材”としては優秀だったのよ」
唇が歪む。
「素材は、優秀な者が手に入れて、加工して、表に出してあげるもの。
田舎の小屋なんかで、好き勝手に使っていいものじゃないわ」
だからこそ、今こうして自分の机の上で、ミントのメモは“ローズマリーの仕上げ”を待たされている。
ノートの横には、もう一本の細いノートが開かれていた。
そこには、クローブがささやいた“禁忌”の名が記されている。
『夜哭百合――ごく微量のエキス。
興奮・高揚、強い“覚醒感”を与える。
長期使用で内臓と血液を蝕む。
単体では毒。配合次第で、“すぐには気づかれない毒”』
「“すぐには気づかれない”」
その言葉を何度も、何度もなぞる。
クローブから渡された小さな瓶が、机の端で妖しく光っていた。
暗い紫色の液体が、蓋の内側に薄く張り付いている。
瓶を持ち上げるだけで、かすかな金属臭と、甘すぎる香りが鼻腔をくすぐった。
「殿下のための“特別な強壮薬”」
ローズマリーは、自分に言い聞かせるように口に出す。
「強壮薬。
王太子殿下の体調を支え、疲労をごまかし、日々の激務をこなしていただくための……“特別な薬”」
言葉だけなら、正しい。
問題は、その“特別”の中身だ。
夜哭百合。
禁じられた毒草のエキス。
それを、“ほんの少しだけ”混ぜる。
「……ねぇ、ミント」
ふいに、呟いていた。
「あなたなら、どうするのかしら」
ミントなら――きっと、こんなものには手を出さない。
“使わない”と決めるだろう。
だからこそ、ミントは田舎の小屋で、村人のために薬を作る生活を選んだ。
――王都ではなく。
「でも、私は違う」
ローズマリーは、瓶の蓋を静かに開けた。
細いガラス棒で、夜哭百合のエキスをほんの一滴すくう。
空気に触れた液体が、光を受けてわずかに黒みを帯びる。
それを、自分が調合した強壮薬のベースに、そっと落とす。
瞬間、ふわりと立ち上る香りが少し変化した。
もともとは清涼感のある香りだった。
そこに、ごく薄く、甘い、ねっとりとした匂いが混ざる。
「これが、“私だけが作れる薬”」
瞳が、ぞくりと震えた。
ミントのメモを土台にして。
ローズマリーの感性で整えた香りと見た目を足して。
そこに、クローブの用意した“禁忌のスパイス”をひとつまみ。
完璧なレシピだと、心のどこかが囁く。
「これは毒じゃないわ。“殿下のための薬”よ」
自分に言い聞かせるように混ぜ続ける。
「だって、殿下はこれを飲んだら、きっと楽になる。
“よく効く薬だ”って褒めてくださる。
仕事がこなせて、周囲も安心する。
それで――その先のことは、“激務の結果”として片付く」
口の中に、“激務”という言葉を転がしてみる。
(みんな、そう言うのよ。“激務”“無理をしすぎた”って)
なら、それでいいじゃない。
私だけが“真実”を知っていれば。
(私だけが、“本当に殿下を動かしていた薬”を知っている)
それは、途方もない優越感だった。
「……ふふ」
ローズマリーの唇が、自然に笑みの形になっていく。
「私がミントの上に立つ方法なんて、最初から決まっていたのね。
あの子が“田舎の奇跡薬師”と呼ばれている間に、“王都の運命を握る薬師”になればいい」
彼女の中で、何かが音を立てて折れた。
それが“倫理”なのか、“正常な恐怖心”なのか、自分でももう確かめない。
「契約しましょう、殿下」
誰もいない部屋の中で、ローズマリーはそっと言った。
「あなたの命と引き換えに、私とクローブ殿下の未来を」
◇
「兄上のための特別な薬?」
数日後。
クローブは、王太子セージの執務室を訪ねて、その箱を差し出した。
白い木箱には、ローズ家の紋章が刻まれている。
中には、細長い瓶が数本、丁寧に並べられていた。
「ローズ家の令嬢ローズマリーが、兄上のために調合したそうです。
“激務でお疲れの殿下のお役に立てれば”と」
「……ローズ家の?」
セージが少しだけ驚いた顔をする。
「夜会の件では迷惑をかけた、と。
“その埋め合わせになれば”とも言っていました」
「……真面目だね」
セージは、少しだけ寂しそうに笑った。
「一度失敗したからといって、そこまで気に病む必要はないのに」
「兄上の周りには、そう言ってくれる人ばかりだからでしょう」
クローブは、柔らかく肩をすくめる。
「彼女は、彼女なりに“自分の価値”を証明したいのです」
「……そうか」
セージは瓶を一本手に取り、光に透かしてみた。
澄んだ琥珀色。
底には、ほんの少しだけ銀色の粉が沈んでいる。
「綺麗な薬だ」
「見た目も香りも、貴族好みに調整されているそうですよ。
もちろん、宮廷薬師長にも事前に成分表を提出してあります。
“問題はないだろう”とのことでした」
「ホップがそう言うなら、ひとまず安心かな」
セージは、瓶の蓋を慎重に開けた。
ふわりと広がる香りは、確かに心地いい。
柑橘系のさわやかさと、ハーブの清涼感。
その奥に、ごく薄く、甘い香りが混じっている。
(――あ)
サフランは、その場にいながら僅かに眉をひそめた。
(今の……)
鼻をかすめた香りに、説明のつかない違和感を覚える。
だが、それは一瞬のことだった。
次の瞬間には、強壮剤特有の爽やかな匂いにかき消されている。
「いただこう」
セージは、躊躇なく一口含んだ。
舌の上に広がるのは、確かに“よくできた薬”の味だった。
苦味と甘味のバランスが取れていて、喉を通った後に、すっと呼吸が楽になる。
「……悪くない。いや、むしろ飲みやすいね」
セージの頬に、ほんの少しだけ赤みが戻る。
瞳の焦点がはっきりして、肩から余分な力が抜けたように見えた。
「“効いている”ようですね」
クローブは、にこりと微笑む。
「ローズ家に、礼を伝えておきましょう」
「そうだね。
ローズマリー嬢に、直接言いに行こう」
「それはきっと、彼女も喜ぶでしょう」
――そう言いつつ、クローブの心の中では別の言葉が渦巻いていた。
(“効いている”とも)
(“蝕み始めている”とも言えるが)
夜哭百合のエキスは、ほんの微量。
短期間では、誰もその毒性に気づかない。
むしろ、最初の数日は、「今までの薬より元気になる」と感じるだろう。
内臓が悲鳴を上げ始める頃には、すべては“蓄積した疲労”だと判断される。
(兄上が弱れば弱るほど)
クローブは、外側の穏やかな笑みを崩さないまま、内側で冷笑する。
(王家も、貴族も、民も、“次の王”を意識し始める)
“兄の影”だった男に、視線が集まり始める。
(そして、その隣には、“兄のために薬を尽くした令嬢薬師”が立つ)
ローズマリー。
嫉妬に歪みながらも、才能と野心を持った女。
(僕と彼女は、表向きは“善良な弟と献身的な薬師”。
裏側では、“王の死と誕生を握る契約者同士”)
それは、誰にも知られない歪んだ契約。
契約書も、魔法陣もない。
ただ、交わした視線と、共有した秘密だけが、それを確かにしている。
『夜哭百合のエキス……本当に、お持ちなのですか?』
『これは、僕には扱えない。薬師である君にしか扱えない代物だ』
あのときのローズマリーの瞳の色を、クローブははっきり覚えていた。
恐怖。
興奮。
渇望。
それらが混ざり合って、夜の湖面のように妖しく光っていたのを。
(あの瞳は、もう戻らないだろう)
戻すつもりもない。
「では、私はこれで失礼します、兄上」
「ああ、ありがとう。
この薬、しばらく続けてみるよ」
「ええ。そうなさってください」
クローブは、穏やかな笑みをたたえたまま部屋を出た。
扉が閉まる瞬間、視界の端に映った兄の横顔は、確かに少し血色を取り戻しているように見えた。
――それは、“毒が効き始めたサイン”でもあるということを、彼だけが知っている。
◇
セージの体調は、“表向き”には上向いていった。
「殿下、最近顔色がよろしいですね」
「ええ。新しい強壮薬がよく効いているようで」
「さすがローズ家、というところでしょうか」
そんな会話が、王城のあちこちで交わされる。
セージ自身も、確かに“楽になった”と感じていた。
朝の倦怠感は軽くなり、立ちくらみも減った。
仕事中に頭がぼんやりすることも少なくなった。
夜になると微熱が出ることは変わらないが、その代わり、熱に浮かされながらも“妙な冴え”を感じることが増えた。
「サフラン」
ある夜、セージはベッドの上で書類に目を通しながら呟いた。
「例の薬、悪くないよ。
強壮剤に“何か一工夫”してある感じがする」
「“何か”とは?」
「わからない。
ただ、身体だけじゃなくて、“気力”の方にも効いてる気がする」
セージの瞳は、どこか光を帯びていた。
熱のせいだけではない。
妙な高揚感。
やる気。
それらが、疲労と一緒に胸の中で渦巻いている。
(……嫌なバランスだ)
サフランは、心の中で呟いた。
「殿下。薬に頼りすぎないでください。
休めるときは、必ず休んでください」
「わかってるよ。
でも、今は休んでいる暇がない」
セージは、いつも通りの優しい笑みを浮かべる。
「それに、これで少しでも長く動けるなら、その間にできることをやっておきたいんだ。
“いつどうなるかわからない”って状態の方が、よほど怖いからね」
その“いつどうなるかわからない”状態を、加速させている薬を飲みながら。
(やはり、何かがおかしい)
サフランの中の違和感は、日に日に大きくなっていた。
脈は、相変わらず妙な揺らぎを見せる。
血の色も、時折“疲れ”だけでは説明できない鈍さを帯びる。
しかし、検査をしても、決定的な“毒”の反応は出ない。
夜哭百合――という単語が、サフランの頭の隅にかすめた瞬間もあった。
だが、禁忌の毒草は、王家の厳重な管理下にあるはずだ。
表向きは、“もうこの世に存在しない”ことになっている。
(……それでも)
ミントの言葉が、またよみがえる。
『“おかしい”って感覚は、大事にした方がいいと思ってます』
(おかしいものは、おかしい)
その感覚だけを頼りに、サフランは水面下で動き始めることになる――が、それはまだ少し先の話だ。
◇
一方その頃、王都の外――田舎の小さな村では。
「この前ね、いとこの子が王都で変な病気もらってきたんだけどさ」
「“王都の薬じゃ全然よくならなくて”、ってやつ?」
「そうそう、それ。
で、“田舎に異様に腕のいい薬師がいる”って聞いて、半信半疑で連れてったらさ――」
「治っちゃったの?」
「それがね、“完全に”じゃないけど、“生活ができるくらいには”って」
「なにそれ、すご」
グリーンノートの前の道端で、村人たちが立ち話をしている。
その話題の中心にいるのは、いつものように、店の扉を開けたり閉めたりしているミント・フェンネルだ。
「ミントちゃーん、また変な噂が増えてるわよ」
デイジーが、半ば楽しそうに店の中から顔を出す。
「“王都の薬が効かない病でも、あそこなら治るらしい”だってさ」
「やめてください、本当にやめてください、その言い方!」
ミントは、両手で頭を抱えた。
「“らしい”って、どの“らしい”ですか!? 私そんなすごいことしてないですよ!?
“生活できるくらいには”って、すごく現実的なラインですからね!?」
「でも、“生活できるくらいには”って、王都の薬じゃたどり着けなかったラインなんでしょ?」
「ぐ……」
言い返せない。
「いいじゃないの。“奇跡”なんて言葉は、勝手に一人歩きさせておけば。
ミントちゃんは、今まで通り“話を聞いて、薬を合わせて”あげればいいのよ」
「……はい」
そう言われると、少しだけ肩の力が抜ける。
田舎の小さな薬草店。
村人たちの笑い声と、ハーブの香り。
――この場所が、やがて王都と王家を巻き込む大騒ぎの“鍵”になることを、
ミントはまだ知らない。
王都では、禁忌の毒が静かに溶かされ、
田舎では、“人に合わせた薬”が静かに人を救っている。
ふたつの“薬”の線が、まだ遠く離れたまま、ゆっくりと――しかし確実に、互いに近づいていくのだった。
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【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
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そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
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これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
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ところが、三年の終わりが近づいたとき、アロルドは突然告白する。「この三年間で君しか見えなくなった。白い結婚の約束をなかったことにしてくれ」と。
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