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第19話「共鳴――王の選択と、兵器の願い」
しおりを挟む膠着、という言葉が、こんなにも息苦しいものだとは思わなかった。
ゴミ山の上で、リーナは膝に手をつきながら、遠くのざわめきを聞いていた。
包囲陣はまだ解かれていない。
兵士たちは距離を取りつつも、ぐるりとゴミ置き場を囲んだまま。
さっきまでの攻撃は止んでいるけど、その代わりに「いつでも再開できる」緊張だけが、ピンと張り詰めている。
結界の膜ごしに伝わる、人間たちの呼吸。
汗の匂い。
焦りと戸惑いと、“命令を待つ”沈黙。
それを、ゴミ山の中にいる捨てられたものたちが、じっと聞いている。
『外部攻撃、停止継続』
アイギスが、静かに報告する。
『包囲線の縮小は進行中。 一部の兵は城内に戻された』
(……それでも、ここからは退かないってことだよね)
『ああ。 “いつでも押しつぶせる”という意思表示だ』
アークレールの声は、冷静だった。
ネメシス・コアはずっと沈黙している。
防御障壁の維持に意識を割いているのか、その波は静かなまま。
「ふー……」
リーナは、大きく息を吐いた。
叫んだ喉がひりひりする。
魔力の消耗で、頭の奥がじんわりと重い。
「大丈夫かい、新入り」
斜面を少し下ったところで、マルタが手を振った。
モップを杖代わりに、相変わらずの姿勢で踏ん張っている。
「……正直、大丈夫じゃないです」
「だろうね」
マルタは、あっさり頷いた。
「でも、生きてる。 喋ってる。 立ってる。 それなら十分さ」
「ハードル低くないですか」
「低くしとかないと世界が回らないよ」
そんなやり取りをしていると――結界の外側が、ふっと揺れた。
何かが近づいてくる。
そして、それは「何か」じゃなくて「誰か」だと、すぐ分かった。
普通の兵士の足音じゃない。
重さが違う。
歩幅も、迷いも。
『王だ』
アークレールが、低く告げた。
『波長からして、レオナルド三世』
(王様が……一人で?)
リーナは、思わず結界の方へ身を乗り出した。
ゴミ山を取り囲む兵士たちが、自動的に道を開けていく。
その真ん中を、ゆっくりと一人の男が歩いてきた。
豪奢な礼装ではない。
戦場にも出られるような、動きやすい上着。
肩にかかるマントには王家の紋章。
金糸銀糸で飾り立てられた「王様」ではなく、歳を重ねた「一人の兵士」にしか見えない姿で、レオナルド三世は結界の際までやってきた。
兵士たちが、遠巻きにざわめく。
「陛下が、前線に……」
「危険すぎます!」
「せめて護衛を――」
「下がれ」
レオナルドは、一歩前に出たまま、後ろを見ずに言った。
「これは、“王”としてではなく、“レオナルド”としての足だ」
それ以上、誰も近づけなかった。
結界の膜越しに、王とリーナが向かい合う。
透明なガラス一枚分くらいの距離。
だけど、その一枚は世界より分厚く感じる。
レオナルドは、その“見えないガラス”に、そっと手を添えた。
「開けてくれ、リーナ・フィオレ」
低く、掠れた声。
「私は、君と直接話したい」
リーナの喉が、きゅっと縮んだ。
怖い。
ここを開けたら、何がどう転がるか分からない。
王が約束を守る保証なんてない。
開いた瞬間に拘束されて、地の底に連れていかれる可能性だってある。
(……どうする?)
リーナは、無意識に胸に手を当てた。
ネメシス・コアの波長が、そこで静かに震える。
『恐怖、感知』
「わざわざ言わなくていいよ……」
『だが、その恐怖は“逃走”を指向していない』
アークレールが、苦笑するように言った。
『あいつは一人で来た』
(うん)
『軍勢を連れてきたなら、迷わず弾き返せばいい。 だが、今結界を開けなければ――おそらく、もう二度とこんな形で話す機会は訪れん』
ネメシスが、ぽつりと言葉を挟む。
『我が記録においても、“最上位意思決定者が単身で禁忌兵装との対話に臨んだ例”は、極めて少ない』
(それ、割とすごいこと言ってない?)
『褒めている』
ネメシスの波が、かすかに柔らかく笑ったような気がした。
『今度は、信じてみよう』
「……今度は?」
『過去の文明は、“怖れ”に負けた。 我に向き合うことなく、命令だけを投げつけた』
ネメシスは、静かに続ける。
『だが、この王は、自らの足でここまで来た』
アークレールも、同じ意見らしい。
『信じて裏切られることもある。 だが、“最初から信じないで終わる”よりはマシだ』
(兵器のくせに、そういう時だけ人間臭いこと言うんだから)
リーナは、小さく笑った。
怖い。
怖いけど、逃げたくない。
「……分かりました」
リーナは、結界の内側から、膜にそっと手を触れた。
波長を広げる。
ネメシスの防御と、自分の魔力を一瞬だけ調整する。
「ここだけ、少しだけ開けます」
ゴミ山を包む壁の一部が、ふわりと薄くなる。
ほんの、人一人が通れるくらいの隙間。
そこから、レオナルドが中へ入ってきた。
兵士たちのざわめきが、遠くに追いやられる。
ゴミ山の匂いが、王の服にまとわりつく。
「……来てくれてありがとうございます」
リーナは、ぎこちなく頭を下げた。
「本当は、逃げるべきなんでしょうけど」
「逃げるべきなのは、余の方かもしれん」
レオナルドは、苦く笑った。
「王だの、陛下だのと呼ばれていれば、こういう場所には来ずに済む。 怖いものを見なくて済む」
ゴミ山を見回す。
金属片。
壊れた魔導器。
誰かの落とした記憶みたいなガラクタたち。
「だが――」
王は、足元の空き缶を軽く蹴った。
転がる音が、やけに響く。
「怖いものから逃げ続けてきた結果が、今の膠着だ」
その言い方には、自分自身への嫌悪が滲んでいた。
「……あの」
リーナは、おそるおそる口を開いた。
「王様、ちょっと、顔色悪いです」
「それは、歳だ」
「いや、なんか……もっと内側の」
レオナルドは、ふっと笑った。
ゴミ山の真ん中で、王がちょっと肩の力を抜いたみたいに見える瞬間。
「君は、“見たくないもの”を見てしまったのだろう?」
王の目が、リーナを見据えた。
「ネメシス・コアの記憶を。 古代文明の崩壊を」
「……はい」
胸の奥がずきんと痛む。
焼ける空。
折れた塔。
祈りと絶望が混ざって崩れ落ちていく光景。
「だったら、余もひとつくらい、“見たくないもの”を見せるべきだろう」
レオナルドは、ゴミの山から少しだけ離れた平らな場所に歩み出た。
ゴミ山の中で、一番“空”がよく見える場所。
リーナも、少し距離を取りながら向かい合う。
「これは、王としての話ではない。 レオナルドという“未熟な人間”の話だ」
少しだけ、風が吹いた。
王のマントが揺れる。
ゴミ山の埃が、朝の光の中でくるくる舞う。
「余は、若い頃、戦場に出た」
淡々とした口調。
「隣国との戦争だ。 今よりもずっと血なまぐさい、愚かしい争いだった」
リーナは、黙って耳を傾けた。
「その戦場で、余は一人の“敵国の少年兵”を見た」
少年兵。
その単語だけで、胸の奥がざわつく。
「痩せた体。 大きすぎる銃。 靴もろくに履いていない。 目だけが、異様に大人びていた」
レオナルドの視線が、遠くを見ている。
「彼は、震えながら銃をこちらに向けていた。 余に向けていたのか、余の横にいた兵に向けていたのかは分からない。 とにかく、“撃たなければ撃たれる”という状況だった」
リーナは、息を飲んだ。
戦場の理屈。
生きるために引き金を引かなければならない瞬間。
「そのとき、余は――“兵器に頼った”」
王の口元が、僅かに歪む。
「こちらの陣に配備されていた魔導兵器が、敵陣を自動照準で掃射した。 子どもも、大人も、区別なく」
鉄と火と雷の雨。
「余は、“引き金を引いたのは兵器だ”と、自分に言い聞かせた。 余は、“撃て”と命じただけだ。 “兵器がなければ、余の手が血で汚れた”と、そう言い訳した」
喉が、ぎゅっと鳴る。
「戦争は、結果として終わった。 兵器の力で、だ」
レオナルドは、両手を見つめた。
皺の刻まれた手。
王冠を支えてきた手。
剣を握ったことのある手。
「余はその“結果”だけを誇りにしてきた。 “あの戦争を終わらせた王”として」
ゆっくりと、首を横に振る。
「だが、その過程で土に埋もれた子どもたちのことからは――ずっと目をそらしてきた」
リーナの胸が痛くなる。
ネメシスの記憶の中にも、似た光景があったから。
「守るため」に作られた装置が、守れなかった子どもたち。
「君を初めて見た時」
レオナルドは、リーナに視線を戻した。
「ゴミ山の中で泥だらけになりながら、兵器たちの話を聞いていた君を見た時――」
一瞬、言葉が途切れる。
「余は、あの少年兵たちを思い出した。 “兵器の向こう側にいる人間”を、見ずに済ませたあの戦場を」
だから、君を封じたかった――。
その言葉は、声にならなかった。
でも、リーナには分かった。
封印したかったのは、彼女だけじゃない。
王自身の「見たくない記憶」も、まとめて地の底に押し込めたかった。
「君を封じることは」
レオナルドは、正直に口にした。
「痛みから目をそらすための、安易な選択だろう」
風が、静かに吹き抜ける。
「だが、君を自由にすれば、新たな悲劇を生むかもしれない」
それもまた、揺るぎない現実。
ネメシス・コアの出力。
リーナの波長。
兵器たちの記憶。
どれも、扱いを間違えれば、戦争の火種になる。
「余は、ずっとその恐怖の間で揺れていた。 封じるか、利用するか、その二択の間で」
グラツィオとヴァルトの議論。
諸侯たちの意見。
周辺諸国の動き。
全部が、「封印か管理か」の二元論だった。
「君の叫びを聞くまではな」
レオナルドの目が、一瞬だけ柔らかく揺れた。
『こんな思いを、誰かにまたさせたくない……!』
さっきゴミ山から響いたリーナの叫び。
「あれは、“兵器としての叫び”ではなかった」
王は、断言した。
「“兵器を、兵器のまま放置した結果の痛み”を、君は引き受けていた」
リーナは、指先をぎゅっと握った。
胸の奥で、ネメシスの波が静かに震える。
兵器たちの記憶。
守れなかったことへの悔い。
その全部を、彼女は“聞き手”として受け止めてきた。
「君は、ネメシスを完全に制御できるか?」
レオナルドが、真正面から問う。
逃げ場のない問い。
「……できません」
リーナは、嘘をつかなかった。
「怖いです。 あの力は、今でも正直、怖い。 ネメシスの出力に引きずられて、自分でも気づかないうちに何かを焼き尽くしちゃうんじゃないかって」
声が震える。
「でも、だからって――“知らないふり”は、もうできません」
ネメシスの記憶を見た。
兵器たちの後悔を聞いた。
それを、「なかったこと」にするのは、あまりにも酷い。
「ネメシスは、守るために作られて、守れなくて、それをずっと悔やんでる」
リーナは、胸に手を当てた。
「アークレールも、フロウリアも、セレスティアも、アイギスも、“もう誰も殺したくない”って言ってます」
『……ああ』
アークレールが、小さく応える。
『それは、本音だ』
「だから――」
リーナは、レオナルド王を見る。
「兵器に全部押しつけるんじゃなくて、人間が、『選ぶ』ことを、しなきゃいけないと思うんです」
封印か、利用か。
0か100か。
そのどちらかを押しつけて、「兵器がやった」「あの子が決めた」と言うのは、もう終わりにしなきゃいけない。
「怖いからって、決める役だけ兵器に投げて、“結果だけ”見て誇るのは、もうやめませんか」
胸が、焼けるように痛い。
言いながら、自分にも突き刺さってくる言葉。
「ネメシスは、“守る”って命令と“滅ぼす”って結果の間で壊れたんです。 次は、壊れる前に――一緒に考えないといけないと思ってます」
「一緒に?」
「はい」
リーナは、ぎゅっと拳を握った。
「ネメシスに命令するだけじゃなくて。 兵器をただの道具として扱うんじゃなくて。 “どうするか”を、ちゃんと話し合って、それでも決めきれないところを、最後に“人間が”決める」
ネメシス・コアの波が、静かに揺れた。
『最終決定権を、我ではなく、人間側に残す――ということか』
(うん)
『非効率だ』
(知ってる)
『だが、壊れないためには、それが必要なのだと理解している』
ネメシスの声は、どこか遠い。
古代文明の最後の日。
研究室で震えながら祈りを託した科学者たちの影が、リーナの意識の端にふっと浮かぶ。
彼らは、「守ってくれ」と願いながらも、「どう守るか」を任せすぎた。
その結果、ネメシスに全部を押しつけてしまった。
今、リーナの言葉を通して、その「押しつけ」が少しだけほどけていく。
まるで、長い長い時間、凍りついていた糸が、少しだけ溶けるみたいに。
『……彼らは、喜ぶだろう』
ネメシスが、ぽつりと言った。
『自分たちの“失敗”を、次の時代が“やり直そうとしている”のだから』
リーナは、胸の奥が熱くなるのを感じた。
古代文明の科学者たちの影が、薄れていく。
その薄れ方は、「消える」じゃなくて、「解放される」に近い。
閉じ込めていた後悔が、少しだけ空にほどけていく。
「……君は」
レオナルドが、ゆっくりと口を開いた。
「余より、よほど“王”らしいことを言うな」
「え、いやいやいや」
リーナは、手を振った。
「私、掃除婦ですけど!?」
「王もまた、“掃除”の仕事だ」
レオナルドは、ふっと笑う。
「捨てられた責任。 見たくない現実。 押しつけられた歴史。 それらを、誰かが片付けないと、世界はすぐに腐る」
ゴミ山を見回す。
「君は、文字通り“ゴミ山”から始めてしまったが」
「始めさせられたんですけどね!」
「結果として、それが一番正直な場所だったのだろう」
レオナルドは、静かに頷いた。
「……決めねばなるまいな」
その声に、空気がわずかに震える。
王が、決断の前に息を整える音。
リーナは、ごくりと唾を飲み込んだ。
「リーナ・フィオレ」
レオナルドは、真っ直ぐに彼女を見た。
「君を“国家管理の兵器”としてではなく、“文明継承者(レガシー・ベアラー)”として正式に認めよう」
言葉が、ゴミ山の上に落ちる。
以前も、その名は使われていた。
でも、それは恐怖と方便でひしゃげた“呼び名”に過ぎなかった。
今、王の口から出たそれは――“役職”ではなく、“立場”としての宣言だ。
「それは――」
レオナルドは、続ける。
「君が、古代文明の記憶を受け取り、兵器たちの願いを聞き、この国と世界のこれからを一緒に考える者だ、という意味だ」
兵器ではない。
神でもない。
ただ、“間に立つ者”。
「ただし」
王の目が、少しだけ厳しくなる。
「君の力の使い道は、君一人では決めさせない」
リーナは、思わず瞬きをした。
「……え?」
「それを君一人に任せるのは、また同じ過ちだ」
レオナルドは、ゆっくりと首を振った。
「“全部君に決めさせて”、あとで“あれは彼女がやったことだ”と言うのは、卑怯者のすることだ」
その言い方は、自分自身への罵倒でもある。
「だから――君の力の使い道は、君と、余と、軍と、工房と、民と……“我々全員”で協議して決める」
レオナルドの声が、ゴミ山の奥にまで届く。
「それが、“新しいこの国のあり方”だ」
静寂が落ちた。
風の音と、遠くで鳴る城の鐘の響きだけが聞こえる。
リーナの胸が、苦しいほどに高鳴っていた。
「……それって」
かすれる声で問う。
「面倒くさいですよね、絶対」
「間違いなく、面倒だ」
王は、あっさり認めた。
「君がネメシスに“全部任せない”と言ったように――余も、“君に全部任せない”という面倒を選ぶ」
その言葉は、ネメシス・コアにも届いた。
『記録更新』
地の底から、低い声。
『“兵器を利用する王”ではなく、“兵器と共に考える王”の存在を確認』
(何その記録の分類)
『新たなフラグだ』
(ゲームみたいに言わないで)
アークレールも、小さく笑った。
『これで、“選ばされるだけの兵器”という役割から、少しは解放されるかもしれん』
フロウリアが、翼を揺らす。
『空を飛ぶ理由が、“爆撃のため”だけじゃなくなるなら、やっと空が好きだと言える』
セレスティアが、護符の奥で光る。
『癒やすことが、“消耗品を延命させるため”ではなく、“生きたい人を支えるため”になるなら』
アイギスが、静かにレンズを回す。
『見ることが、“標的を探すため”ではなく、“選択の結果を見届けるため”になるなら』
兵器たちの波が、ゆっくりと共鳴していく。
ネメシス・コアの波長が、その中心で柔らかく震えた。
『願わくば――』
それは、祈りのような声音だった。
『次の文明は、“守る”と“滅ぼす”を、命令一行で済ませない世界であってほしい』
リーナの胸が、熱くなる。
「……はい」
目尻に涙が滲む。
「そのために、私も、王様も、みんなも……いっぱい喧嘩して、いっぱい話し合って、いっぱい失敗して」
「結果として、少しでもマシな選択ができれば良い」
レオナルドが、言葉を継いだ。
「完璧な選択は、どう足掻いても存在せん。 だが、“誰か一人に押しつけた選択”より、“皆で悩んだ選択”の方が、まだ救いがある」
その言葉に、リーナは笑った。
涙でぐしゃぐしゃになりながら、でも、確かに笑っていた。
「王様って、大変ですね」
「文明継承者もな」
レオナルドもまた、微笑む。
「掃除婦まで兼任しているのだから、なおさらだ」
「そこは誇りたいところなんですけど」
「余も、“ゴミ山から決まった国の新しい在り方”と後世に語られたなら、多少は誇れるかもしれんな」
二人の笑い声が、ゴミ山の上にささやかに響く。
その笑い声に、マルタが遠くでため息をついた。
「やれやれ。 王様と新入りが同じ顔で笑ってたら、そりゃ世界も変わるわけだ」
ぼやきながらも、その顔はどこか誇らしげだ。
◇
ゴミ山を包んでいた防御障壁が、少しだけ薄くなった。
完全に解くわけじゃない。
でも、「戦うための壁」から「話すための壁」に、役割を変え始める。
兵士たちは戸惑い、工房はざわめき、諸侯たちは顔色を変えるだろう。
周辺諸国は警戒を強め、ガルディアスのシグルは、別の策を練るに違いない。
でも――その全部を含めて。
リーナ・フィオレは、ネメシス・コアと兵器たちと王と一緒に、“面倒くさい未来”を選んだ。
それはきっと、決して平坦じゃない。
だからこそ、彼女は笑いながら、ゴミ山の奥へと視線を向ける。
「さ、掃除もしなきゃ」
「この状況でまず掃除が出てくる文明継承者は、世界広しと言えどお前だけだろうな」
「ネメシスに誇ってもいいですよ?」
『誇っていいのか、それは』
ゴミ山に、笑いと、兵器たちの微かな共鳴が満ちていく。
“拾われなかった者たち”の叫びが、少しずつ、“拾ってくれる者たち”の願いへと変わっていく。
王の選択と、兵器の願いと、掃除婦の決意が重なったその場所で。
世界はまだ揺れていたけれど――
確かに、何かが「次」へと動き始めていた。
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