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第5話 悪女の誕生
しおりを挟む朝は、思ったより静かだった。門前のメディア車のエンジン音も、鳥の鳴き声と同じくらいの音量に調律されていて、世界は私の都合を読まない。読まない世界に、今日はこちらから書きにいく。
鏡に向かって椅子を近づける。髪に触れると、夜の匂いがまだ少し残っていた。左手で束ね、右手でドレッサーの引き出しからハサミを取り出す。美容師用ではない、書類を切る普通のハサミ。冷たい金属が指に合図を送る。 「西園寺」 「はい」 「誰も入れないで」 「承知しました」 扉が閉まり、部屋の空気がひとつにまとまる。束ねた髪を、耳の下で掴む。刃をあてる。空気が薄くなり、呼吸が細くなる。切る理由はいらない。理由を書き足すのは、あとでいい。 ジョキ、と音がした。紙の分厚い束を切ったような、意外に重い音。髪の重さが手から離れ、肩に風が通る。鏡の中で、視界が軽くなる。前髪を整え、襟足をそろえる。完璧でなくていい。似合えばいい。似合う基準は、今日から自分が決める。
ドレッサーの上に落ちた髪束を、箱に入れてクローゼットの奥へ押し込む。過去は燃やすより、湿度のある場所にしまうほうが私には向いている。乾けば粉になる。粉になれば、風で飛ぶ。
クローゼットから黒のパンツスーツを出す。肩の線がまっすぐで、動きに余白がある。ヒールは五センチ、速く歩ける高さ。アクセサリーは外す。耳には何も足さない。何かを足さなくても、顔は成立する。そういう顔を今日選ぶ。
スマホを手に取る。通知は爆ぜ続け、画面は熱を持っている。私はロックを外し、SNSのアプリを開いた。プロフィールの肩書きを一文だけ変える。 『白崎家の長女』→『白崎莉桜』 指が止まらないうちに、テキストボックスを開く。言葉は短く、刃の長さは必要十分に。 『私は“悪女”として生きる。正しい女が報われないなら、私が世界を正す側に立つ』 もう一行、追加する。 『これからは、私が世界を裁く番よ』 送信。画面の白に、黒の文字が沈む。数秒遅れて、通知の波が反転する。賛同、罵倒、称賛、冷笑。熱が上がり、別の熱がぶつかり合う。遠くの海を眺めるみたいに、私はそれを見ている。溺れなければ、音は綺麗だ。
ノックが二回。「どうぞ」と言う前に、真白が顔を覗かせた。目のふちが赤い。ドアを閉める前に、私の髪を見て、息を呑む。 「……切ったんだ」 「うん」 「似合ってる」 「ありがとう」 真白は靴下のつま先でもじもじし、言葉を探した末に、短く言った。 「ごめん」 「それ、二回目」 「三回かも」 「回数を数えるのは好きじゃない」 彼女はうつむいて、微かに笑った。その笑いの弱さは、罪ではない。弱さを罪にする社会から、私は降りる。それが、今日の決定。
「どこに行くの」 「家を出る」 「え」 「しばらく戻らない」 「どうして」 「仕事をするから」 「どんな?」 「私自身の」 真白は目を見開き、それから小さく頷いた。彼女の手が私の袖口を一度だけ掴み、すぐに離れる。離れる練習をしている手つきだった。 「気をつけて」 「あなたも」 「ね、お姉ちゃん」 「なに」 「悪女って、怖い?」 「怖いのは、嘘をつくこと」 「じゃあ、お姉ちゃんは怖くない」 「そうだね」 扉が静かに閉まり、朝の光が床を移動する。スーツの襟を正し、手持ちの小さな黒いバッグを肩にかける。中身はカード、スマホ、最低限のコスメ、身分証、現金少し。軽い。軽さは行動の燃費をよくする。
廊下の曲がり角で西園寺が待っていた。目が一秒だけ見開き、すぐに戻る。 「お出かけで」 「はい」 「運転の手配を」 「不要。自分で行く」 「承知しました」 彼は一歩、私の前に出る。これから言うことが個人的な言葉であることを、年嵩の間で示す小さな所作。 「お気をつけて。……お嬢様」 「西園寺」 「はい」 「今朝から、私は“お嬢様”じゃない」 「なるほど」 彼の瞳に、一瞬だけ若い驚きが灯る。すぐ、それが敬意に変わった。 「では、莉桜様。お気をつけて」 「ありがとう」 私はその言い換えを、今日の最初の祝福として受け取る。
裏口から外へ出ると、空気の匂いが屋敷と違う。温度も違う。世界は容赦なく広い。広いほど、私には歩く余地がある。歩きながら、スマホにもう一つ投稿を重ねる。 『記者の皆さま。質問はDMでどうぞ。必要なら、私のほうから選んで答えます』 追われるより先に、選ぶ。受け身でいると、物語は他人に書かれる。書かれるくらいなら、書く側に回る。
タクシーを拾う。運転手はバックミラー越しに私の新しい髪を二度見し、すぐにプロの無表情へ戻る。 「行き先は」 「恵比寿。駅近くのコワーキングスペース」 「了解」 車が走り出す。窓の向こうで、街がいつもの速度で流れる。世界は私の個人的な事件に合わせて変速しない。いい傾向だ。私の速度は、私が決める。
コワーキングの受付で名前を書き、個室ブースを一日予約する。机は広く、椅子は背中に素直だ。壁は薄いが、考えを閉じ込めるには十分濃い。バッグからノートPCを取り出し、電源を入れる。画面に映る自分の新しい輪郭が、知らない人のように見えて、少し好きになる。
まず、捨てる作業から始める。家のアカウントへの管理権限から抜ける。広報用の共有クラウドからログアウト。白崎家の“看板”としての私が触れていた各種権限を、ひとつずつ手放す。指が覚えたパスワードの列を、指が消していく。鍵束が軽くなるたび、胸骨の裏に新しい空気が入る。
次に、集める作業。父の会社の公開資料、有価証券報告書、役員リスト、外注先の一覧、政治献金の額、関連団体との契約履歴。すべて公開情報だ。公開されているものは、見られて困らない、という意味ではない。ただ、見られても“罪”に問われにくい、というだけだ。 表計算を開き、列を作る。日付、金額、相手先、備考。相関の気配が見えるたび、色を塗る。色は私のための地図になる。目の焦点が合っていく。私の仕事が始まっている。
通知がまた跳ね上がった。DMが溢れる。中には、うわさ話の断片や、歪んだ同情や、取材依頼。羅列の中から、一通だけ拾う。差出人は、朝霧グループ社長室付——久遠蒼司。件名は短い。 『あなたの“間”』 本文はもっと短い。 『会話を五分、ください』 躊躇は三秒。三秒は礼儀の単位だ。私は返す。 『条件は一つ。私に貸しは作らないで』 返事はすぐだ。 『仕事です』 ビデオ会議のURLが届く。クリック。画面に彼が映る。背後は会議室らしい白。ネクタイは朝より少し緩んでいる。目は、相変わらず節電モードの光量。
「時間、もらう」 「こちらこそ」 「まず、礼」 「礼?」 「昨夜、立ってくれてありがとう」 「立つしかなかった」 「立てない人が多い」 彼は視線を少し下げて、こちらの髪を見た。驚きは出さない。プロは、変化を観察し、評価を保留する。 「似合う」 「ありがとう」 「さて、本題」 「どうぞ」 「あなたは、敵になるか味方になるか、まだ決めていない」 「正確に言えば、どちらにもならない」 「自分の側」 「うん」 彼は短く笑う。笑いは音にならず、画面の中で空気が軽くなるだけだ。 「あなたが公開情報から組み立てようとしている地図は、いずれ誰かの喉に刺さる」 「そのつもり」 「刺すなら、角度を間違えないほうがいい」 「助言?」 「仕事」 「見返りは?」 「ない。……と、言い切るのは嘘だ。見返りは、正確さだ」 「正確さ」 「あなたが間違った矛先で刃を振るえば、巻き込まれる人間が増える。正しい順番で切るなら、被害は最小で済む」 彼の目は静かで、冷たい。冷たさは嫌いではない。長持ちするから。 「順番、知ってる?」 「ある程度は」 「なら、教えて」 「無料で?」 「私の“間”を貸す」 「面白い支払いだ」 「使い道は、あなたが決める」 紙の音が遠くでして、彼が視線を横に滑らせる。誰かが部屋の外にいるのだろう。彼は戻ってきて、短く言った。 「今夜、一次資料を送る。裏はとってある。あなたが決めろ」 「決めるのは、いつでも私」 「それがいい」 通話が切れ、画面が黒に戻る。映るのは、切ったばかりの自分の髪、目の下のうっすらとした影、そして、目の奥の光。光は白ではない。まだ、色が決まっていない。未定の色は、自由の色だ。
昼過ぎ、コワーキングの共同スペースへ降りて、ブラックコーヒーを一杯。紙コップの縁で、下唇の皮が少し乾く。カウンターの端で、男女が小声で私の名前を言う。視線が一度だけ刺さり、すぐに滑っていった。ニュースサイトの見出しが、テーブルに置かれたタブレットの画面に並ぶ。 『白崎家長女“悪女宣言”』『婚約破棄の夜から一夜』『関係者は語る』 関係者、ね。関係という言葉は、便利な鍵穴だ。誰でも差し込める。鍵は、ときどき盗まれる。
個室に戻ると、父からの連絡が一件。西園寺経由で回ってきた声明文の草案。言葉は定型。温度は室温。私は開いて、閉じる。返信は一行だけ。 『私の名義では出しません』 送信。五分後に返事が来る。短い。 『了解した』 父の文体は、いつもこの速度だ。遅くもなく、早くもない。怒りも、嘆きも、文字に定着させない。定着しない感情は、あとで痛む。知っている。けれど、今日の私には、もう看病の余裕はない。
久遠からのメールが届く。添付は二つ。ひとつは外部コンサルの報告書の断片。もうひとつは、特定の外注先への異常な支払いパターンに関する内部メモ。どちらも、私が朝つくっていた表に差し込むと、色が一気に濃くなる。列と列が線になり、線が図になる。図の端に、私は知っている名前を見る。父の側近の一人——いや、元・側近。数ヶ月前に突然の退任。理由は健康上。健康は、たいてい便利な言い訳だ。
頭が冴える。指先が熱を持つ。私は手順を一枚のメモに書く。 一、公開情報で土台 二、一次資料で柱 三、本人の言葉で屋根 屋根がなければ、雨は入る。入った水は腐る。腐った家には誰も住めない。住めない家は更地にする。更地にすれば、次の図面が引ける。
メッセージがまた跳ねた。悠真から。さっきの未読の続き。 『君の投稿、見た。話がしたい』 私は五秒だけ迷って、返す。 『条件。録音する、公開もあり得る』 『構わない』 『場所はオンライン、時間は十分快』 『了解』 通話を繋ぐ。彼の顔が、画面の中に現れる。部屋は暗く、背後に絵画の影。ネクタイは外している。目の下に、疲れがある。人間の目だ、と思う。昨日の夜も、人間だったのだろう。人間として、最低のタイミングで最低の宣言をしただけだ。
「まず、謝る」 「順番は、次」 「……分かった。質問に答える」 「誰が、真白に“提案”した」 「提案?」 「あなたがマイクを取る前に、誰があなたの背中を押したか」 彼は一秒だけ黙り、ゆっくり首を振る。 「誰も。僕の判断だ」 「なら、判断の根拠は」 「恋愛感情」 「それは、事務処理に向かない語彙」 「僕は事務じゃない」 「あなたは会社の顔」 「分かってる」 「分かってたなら、なぜここでやったの」 「隠したくなかった」 「見てほしかった?」 「……そうだ」 「誰に」 彼は答えない。答えないことで答えている。私の胸に、冷たい笑いが少しだけ生まれる。笑いは音にしない。 「悠真」 「莉桜」 「私は、あなたの謝罪を受け取らない」 「知ってる」 「代わりに、あなたの“事実”を受け取る」 「出せる範囲で出す」 「出さなければ、あなたは私の“対象”になる」 「対象?」 「ええ。切る対象」 彼の喉がわずかに動く。恐怖ではない。覚悟の前の、小さな緊張だ。 「出す。必要なら、僕の父にも話す」 「あなたの父は賢い。賢い人間は、よく間違える」 「そうだな」 十分快で区切り、通話を切る。画面が暗くなって、部屋の空気に私の呼吸が戻る。深く吸って、長く吐く。呼吸の音は、戦う前の整列みたいに正確だ。
夕方、メディアからのDMに一通だけ返信する。古い付き合いの女性記者。正確さに対して対価を払うタイプの人間だ。電話を繋ぎ、要らない前置きは省く。 「夜会での婚約破棄は事実。理由は“別の人を選んだ”。名前は白崎真白。私はそれを否定しない。コメントは以上」 「あなたの『悪女宣言』は」 「宣言ではなく、告知」 「今後、どこから切る?」 「最初の一手は、公的記録」 「なるほど」 彼女はそれ以上、無粋な質問をしない。プロは、餌を持ち帰ってから料理する。私は電話を切り、ノートPCのタブを閉じる。空が藍色へ移行し、窓ガラスに自分の顔が薄く映る。短い髪の輪郭が、夜の線に似合う。
夜。コワーキングの受付は照明を落とし始め、床に小さな影が増える。私はブースを出て、外の風に触れる。初夏の匂い。繁華街の音。人の笑いが、遠くの波みたいに広がる。ひとりで立っている、という事実が、意外にも軽い。
タクシーに乗り、短い距離だけ移動して、小さなホテルにチェックインする。素っ気ない部屋。ベッド、机、白い壁。窓の外の看板が、青い光を時折投げ込む。荷物を机に置き、靴を脱ぐ。足の裏に、今日がのしかかる。立ちっぱなしの筋肉が文句を言いながら、すぐに黙る。
シャワー。熱い水が肩を打つ。水の重さの分だけ、考えが沈む。沈んで、底に積もる。拾い上げるのは、明日でいい。タオルで髪を拭くと、短い毛束がすぐに乾く。乾くのが早いのは、今の私には助かる。
ベッドに座り、スマホを手に取る。タイムラインは相変わらずの渦。私はそこからひとつ、投稿を拾い上げる。朝の投稿の続き。言葉は簡潔に。 『誤解だけ、訂正しておく。私は誰かから“奪って”いない。奪われたのは私、奪われた相手は私の妹。私がやるのは、奪い返しではない。ルールの書き換え』 送信。いいねの数が跳ね、罵倒も跳ねる。どちらも数でしかない。数は風向きを示すが、舵は切らない。舵を切るのは、私の手だ。
画面の明かりを伏せ、天井を見る。白い。白は光と喧嘩しない。けれど、今夜の白は私の味方だ。無色でいることの強さを、初めて理解する。色は選べる。選ぶまでは無色でいていい。無色のあいだに、刃を研げばいい。
着信が鳴った。表示は「非通知」。一度切れる。二度目。三度目。四度目で、私は取る。無言。向こうの呼吸だけが、薄く続く。切ろうとした瞬間、低い声が落ちた。 「……君は」 「どなた」 「敵か、味方か」 「どちらでもない」 「なら、取引はできる」 「内容次第」 「明日、正午。場所は——」 声の主は、会社名も名前も名乗らない。けれど、言葉の置き方で、私はだいたい見当をつける。父の古い友人筋。政治の匂いが薄く混ざる系統。私は返事を保留し、電話を切る。録音データが自動保存され、クラウドに飛ぶ。保険は先にかける。
机にノートを開く。今日の出来事を短い文に落とす。髪を切った。家を出た。宣言した。集め始めた。繋がり始めた。切れ目に風が通り、ページがめくれる。隣の部屋のテレビから笑い声。笑いの音は軽い。軽さを嫌ってはいけない。重いだけでは、前に進めない。
ベッドに横になる。天井の四角が目に馴染む。呼吸を数える。ひとつ、ふたつ、みっつ。数えるたび、心拍が静かに整う。整った心拍の上に、言葉がひとつだけ落ちてくる。 「私は、もう『守るだけ』ではない」 守るために、切る。切るために、立つ。立つために、笑わない。笑わない代わりに、選ぶ。選ぶたびに、私の世界は少しずつ輪郭を得る。輪郭ができれば、地図になる。地図があれば、迷わない。迷わないで進めば、必ずどこかへ着く。そこがたぶん、私の次の居場所。
目を閉じる。深い眠りは来ないだろう。でも、浅くても眠る。眠りは、刃を鈍らせずに維持するための冷蔵庫だ。朝になれば、また研げばいい。研ぐ手は、もう震えない。震えが必要な場面は、背中のどこかへ預けた。
——悪女の誕生は、派手な爆発ではなかった。静かなクリック音で、鍵が内側から外れただけだった。外れた扉の向こうで、風が待っている。私はその風を吸い込み、目を閉じた。冷たくて、透明な夜だった。どこにも属さない、私の夜だった。
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